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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-08 仮想現実の国盗り物語
174/234

Scene:04 初めてのお使い(1)

 城の近くに秀吉の屋敷はあった。

 街中の民家よりも格段に大きな庭付きの家であった。

「殿がお待ちだ。謁見えっけんはいられよ」

 紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルが大きな門の前に立つと、やりを持って立っていた門番のほうから話し掛けてきた。

「私達の殿様が待ってくれているらしい。行こう」

「はい」

 小姓こしょうらしき少年に案内されて、部屋の奥が一段高くなっている板のに通されると、薄く丸い座布団が二つ置かれていた。

「あ、あそこにじかに座るのか?」

「この頃の日本には、椅子に座るという風習は無かったようですから、そうなのでしょう。でも、どうやって座るのでしょう?」

「えっと 、確か、マサムネがやっていた座り方があったぞ」

 伽魅琉キャミルは、見よう見まねで憶えていた胡座あぐらをかいた。

 紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルを見ながら胡座あぐらをかいてみた。

紗魅琉シャミル! その服でその座り方はまずいんじゃないか?」

「えっ、そうですか?」

「そうだ! もう一つ座り方があった」

 伽魅琉キャミルが正座をすると、紗魅琉シャミルもそれにならった。

「こうですか? でも、どっちも座りづらいです」

「慣れないとそうだな。最初の座り方は、座禅ざぜんをする時の座り方だそうだ」

座禅ざぜん?」

「マサムネがよくやっているんだが、精神集中をするための瞑想めいそうのようなものらしい」

「へえ~、それじゃあ、この座り方は?」

「これは、剣の練習をする前に、マサムネがよく座っている座り方だ」

「これは、ちょっと足がつらいですね」

「うん、ちょっとしびれてきたんだが」

「殿のお出まし~」

 突然、小姓こしょうが大きな声を出すと、きらびやかな着物を着た、背の低い武将が部屋に入って来て、一段いちだん高くなっている所に敷かれた、綺麗でふかふかの座布団に胡座あぐらをかいて座った。

紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルか! 大儀たいぎである! 木下藤吉郎秀吉じゃ!」

 甲高かんだかい声を出した男は、ネズミのような顔をしていたが、それが愛嬌あいきょうを感じさせた。

「二人に評定ひょうていを申し渡す! 二万(がん)をもって、今月末までに、鉄砲を百丁入手してくるのじゃ!」

「は、はあ?」

「うむ! 良い知らせを待っておるぞ!」

 それだけ言うと、秀吉はとっとと部屋から出て行ってしまった。

「これが軍資金でござる」

 部屋の隅に控えていた小姓こしょうが千両箱を差し出すと、小姓こしょうもとっとと部屋から出て行ってしまい、部屋の中には、紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルだけが残った。

「えらくドライな主従関係だな」

「そうですね」

「それより、……痛てて」

 伽魅琉キャミルが我慢できないように足を崩した。

「私は、この時代の日本に生まれなくて良かったよ」

「足がしびれちゃいました?」

「ああ、紗魅琉シャミルは平気なのか?」

 紗魅琉シャミルは涼しい顔をして正座を続けていた。

「はい、意外と大丈夫ですよ。逆に、何だか姿勢が良くなる気がして、気分も引き締まります」

「そ、そうか」

「……伽魅琉キャミル

「うん?」

「えへへへ」

 紗魅琉シャミル悪戯いたずらっ子の顔つきになって、伽魅琉キャミルの足の裏をつんつんとつついた。

「や、止めろぉ!」


 紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルは、秀吉の屋敷から出た。

 伽魅琉キャミルは、千両箱を小脇に抱えていた。

伽魅琉キャミル、とりあえず、その箱を仕舞しまったらどうですか?」

「どこへ?」

「メニューからコンテナを選んで、その中に入れると、データとして保管している状態になるそうですよ」

 伽魅琉キャミルがコンテナ画面を開くと、何も入っていない四つの枠が表示され、その一つに千両箱を入れるように持って行くと、千両箱は伽魅琉キャミルの手元から消え、枠の中に入っているように表示された。

「なるほど。こう言うところはゲームだな。しかし、……鉄砲を入手して来いと言われてもなあ。どうすれば良いんだ?」

伽魅琉キャミル。これは大勢の人が参加している仮想現実大規模多人数ヴァーチャルリアリティマッシブリーマルチオンラインゲームですよ。経験者がいっぱいいるはずです」

「なるほど! プレイヤー同士が助け合いながらプレイできるのが、仮想現実大規模多人数ヴァーチャルリアリティマッシブリーマルチオンラインゲームだったな」

「はい。とりあえず、さっきの街に戻って、色々と訊いてみましょう」


 紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルは街に戻った。

 地図画面を確認してみると、尾張にも複数の街があり、ここは清洲きよすという街だった。

 先ほど同様、街には大勢の人が行き来していた。

 紗魅琉シャミル達が何人かの人物のステータス画面を確認してみると、町人風の人物のほとんどはノンプレイヤーキャラクターであったが、侍姿の人物はほとんどがプレイヤーだった。

「『サムライ・オンライン』と銘打めいうっているだけあって、みんな、侍になっているんだな」

「私のような服装の人も少しはいますよ」

 忍者装束(しょうぞく)の人物もぽつぽついたが、ほとんどは男性であった。

 セクシーな装束しょうぞくももちろんであるが、プレイヤーのアバターは、プレイヤーの実際の外見を再現しているということで、通りを歩く男性プレイヤーみんなが紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルに見とれていた。

「何か男性が多いですね」

「と言うか女性がいないな」

「どうしましょう? 誰に訊きますか?」

「そうだなあ」

 普段の仕事では、見ず知らずの男性に声を掛けることに何ら躊躇ちゅうちょすることはない紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルであったが、初めての仮想現実ヴァーチャルリアルティの世界で躊躇ためらわれてしまったのだ。

「あの~」

 後ろから呼び掛けられた紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルが振り向くと、そこには、侍姿の女性プレイヤーが二人、立っていた。

「こんにちは!」

「こんにちは」

 お辞儀じぎをしながら挨拶をした女性プレイヤーに、紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルも挨拶を返した。

「木下様ご家中の方ですよね? 私達もそうなんです」

 二人組の女性プレイヤーは嬉しそうだった。

「私は、小夏こなつと言います」

 伽魅琉キャミルと同じくらいの身長で、細く切れ長の目と長い黒髪のテラ族の東洋系の顔立ちをした女の子が、落ち着いた感じで挨拶をした。

「私は、小梅こうめでーす!」

 紗魅琉シャミルよりもかなり背が低く、青い髪をツーサイドアップにしている、白い肌の女の子が元気いっぱいに挨拶をした。

「私は、紗魅琉シャミルと言います。こっちは、伽魅琉キャミルです」

 紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルは、そろって頭を下げた。

「何か困ってるみたいだったので、声を掛けさせてもらったんですけど」

「ありがとうございます。二人とも、今、始めたばかりなので、何をしたら良いのかも分からなくて……」

「どんなことですか?」

「木下様から『二万(がん)をもって、今月末までに、鉄砲を百丁入手してくるのじゃ!』って言われたんですけど、実際、どうすれば良いのか分からなくて」

 紗魅琉シャミルが秀吉の口ぶりを真似まねて訊くと、小梅が笑いながら答えた。

「鉄砲は、堺という街に行けば、手に入るよ!」

「堺?」 

「うん! 堺にいるプレイヤーの商人から買うか、ノンプレイヤーキャラクターの南蛮商人から買うか、プレイヤーの鍛冶屋に作ってもらうかのどれかだね」

 小梅は、既にタメ口になっていた。

「分かりました。じゃあ、伽魅琉キャミル、堺の街に行きましょう」

「そうだな。……って、堺の街まで、どうやって行くんだ?」

「私達もこれから行くつもりだから一緒に行く?」

 小梅が首をかしげながら訊いた。

「本当ですか! ぜひ、お願いします!」

 紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルは、また、そろって頭を下げた。

「任せなさい! 小夏ちゃんも良いよね?」

「もう! 何でも決めてから、私に訊くんだから!」

 しかし、小夏も怒っているというよりはあきれているようだった。

「てへっ! それじゃあ、早速、行こう!」

 紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルは、小夏と小梅と並んで歩き出した。

「お二人は、リアルでもお友達同士なんですか?」

 ゲーム内の関係とリアルの関係が気になった紗魅琉シャミルが訊いた。

「いいえ。普段は、それぞれが遠く離れた惑星の学校に行っているんです。小梅ちゃんとは、この中で知り合いました」

 小夏がおしとやかに言うと、小梅が付け足した。

「ほらっ、この中って、女の子が少ないじゃない。一人でいると、何か嫌らしい目をした野郎どもが寄って来るから、すぐに小夏ちゃんとパーティを組んだんだよねぇ」

 紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルも、一人で悩んでいたら、即、声を掛けられていただろう。

「お二人とも学生さんなんですね?」

 アバターのステータス画面でも実年齢のデータが表示されることはないので、本当かどうかを確認することができないが、実際の容姿が反映されているはずの二人のアバターを見る限り、学生と言われてもおかしくはなかった。

紗魅琉シャミルちゃんと伽魅琉キャミルちゃんも学生さんなんですか?」

「そうですよー!」

 調子良く紗魅琉シャミルが答えた。

 実際の年齢からいうと、女子高生に違いはないのであるから、大嘘という訳ではなかった。

「私も、これからお二人を、『小夏ちゃん』と『小梅ちゃん』って呼んで良いですか?」

「もちろんだよぉ」

 リアルでも、カーラやサーニャといつも馬鹿話をしている紗魅琉シャミルは、あっという間に、小夏達と本当の女子高生の友達のようになっていた。

 一方、普段は、男性が圧倒的に多い軍という巨大組織で、上司や部下という人間関係の中で生きている伽魅琉キャミルは、同年代と思われる女の子から「ちゃん」付けで呼ばれたことが面映おもはゆい一方でうれしくなってしまったが、紗魅琉シャミルのように、くだけた話し方は、いきなりにはできずに、キャピキャピと話す三人の後ろから微笑みながらついて行った。

 四人は街のはずれにある馬屋にやって来た。

「馬に乗って行くのですか?」

「って言うか、馬屋が他の街に移動する時の出入り口なの」

「お二人は、早籠券ワープチケットはお持ちですか?」

 小夏が、紗魅琉シャミル達に訊いた。

「何ですか、それ?」

「街から街への移動時間を一瞬に短縮することができるアイテムですよ」

「持ってないです。それは、どうすれば手に入るのですか?」

現金リアルマネーで運営から買うこともができますよ。他には、殿様の命令を実行するとご褒美でくれる時もあるし、モンスターを倒した時に手に入ることもありますよ」

「それが無いと移動できないんですか?」

「移動はできるけど、早籠券ワープチケットが無いと、目的の街に着くまで、少し時間が掛かるんですよ」

「どうしましょう?」

「せっかくだから、おつき合いしますよ。みんな一緒に通常移動しましょう。小梅ちゃんも良い?」

「たまには良いかあ」

 小夏の提案に小梅が同意した。

 四人が馬屋に中に入ると、中にはノンプレイヤーキャラクターである馬屋の主人がいた。

「どこまで行くんだい?」

 馬屋の主人がそう言うと、紗魅琉シャミル達の前に日本地図の画面が出て来た。

「堺はここですよ」

 清洲きよすから西の、少し離れた所に、堺はあった。

「堺の場所のボタンを押してみて」

 紗魅琉シャミルがそのボタンを押した。

早籠券ワープチケットを使うと早く着けるぜ。どうする?」

 表示されたメニューの「いいえ」ボタンを押した。

「そうかい。それじゃあ、気をつけて行ってきな!」

 次の瞬間には、四人は見渡す限りの草原に立っていた。


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