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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-07 砂に埋もれた自由への鍵
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Scene:15 成功報酬の行方(2)

「最初の鍵は、機密文書格納用保護箱シークレットドキュメントボックスです。ヒルデタント商会の機密文書だと言っていましたけど、そんなものであれば、キャミルが来るようなことも、アングルボーザがそれを探すこともなかったはずです」

「うん。……その機密文書格納用保護箱シークレットドキュメントボックスに収められていたのは、グローイ共和国の反アングルボーザ派から連邦に向けた文書だったらしい。だから、その文書がアングルボーザやその息が掛かった政府役人に知られると非常にまずいものだったようだ」

「やっぱり、そうですか」

 その後、シャミルは、いくつかキャミルに質問をし、キャミルも自分が話せることをシャミルに伝えた。

「何となくですけど、分かりました」

「本当か?」

「はい。レンドルさんは、というより連邦政府は、この惑星ブラギンに介入する口実が欲しかったのです」

「口実?」

「そうです。その究極の目的は、アングルボーザをたたくことですけど、表立って戦争を仕掛けることなんてできません。だから、圧力をかけようとしたのです」

「圧力を?」

「連邦がグローイ共和国を非難できる材料。それは銀河協約第三項該当種族であるモルグズ族に接触していることです」

「しかし、グローイ共和国は銀河協約を締結している訳ではないから、連邦としても遺憾いかんを表しているだけで、実力を行使したり、実質的な圧力を掛けることまではできなかったようだ」

「ええ、グローイ族は確かに、モルグズ族の住む惑星ブラギンに土足でどかどかと踏み込んで来ている訳ですが、ただ、それだけです。グローイ族がモルグズ族を虐待ぎゃくたいしているとか、圧政で苦しめている事実はない訳ですから。そこで連邦は考えたのです。無いのなら作ってしまえと」

「えっ? どういう意味だ?」

機密文書格納用保護箱シークレットドキュメントボックスには、おそらく、モルグズ族の解放を求める要望書と、グローイ族がモルグズ族を虐待ぎゃくたいしている虚偽きょぎの映像とかが収められていたのでしょう」

虚偽きょぎの?」

「ええ、その映像を連邦で流して、グローイ族はこんなにもモルグズ族を虐待ぎゃくたいしていますというイメージを連邦市民に植え付けようとしたのではないでしょうか。連邦でグローイ共和国に対して強硬に介入かいにゅうすべきだという世論が巻き起こる程度には」

しいたげられたる種族であるモルグズ族の勇気ある者が命を懸けて、グローイ族の悪行を暴露するような書面と映像を、惑星ブラギンに取引に来た連邦の商人に密かに託したという筋書きだな」

「はい。連邦のマスコミは、銀河協約第三項該当種族のモルグズ族には接触できませんから、その文書や映像の真偽を確かめることはできませんからね」

「なるほど。しかし、その計画をたまたまメルザが台無しにしてしまったということだな」

「ええ、そして、惑星ブラギンに捨てられた、その文書なり映像なりをアングルボーザに知られてしまうと、それに関与した反アングルボーザ派は全員が国家転覆罪に問われかねない。連邦に渡らなかったその文書は、それだけやっかいな物になってしまったのです」

「だから、どうしても、機密文書格納用保護箱シークレットドキュメントボックスを回収しなければいけなかったんだな」

「はい。どんな文書かも明らかにできないので、ヒルデタント商会の機密文書だと偽って、回収を進めようとしたのでしょう」

「すると、機密文書格納用保護箱シークレットドキュメントボックスが見つからなかったとして、スタートした新しい計画とは?」

「その虐待ぎゃくたいシーンを実際に行わせることです」

「何だと!」

「今、私達の目の前で起きたことです。連邦軍人であるキャミル少佐を始めとするアルスヴィッドの乗組員全員の目の前で、グローイ族が丸腰のモルグズ族に発砲したのです」

「モニターの記録映像とともに、グローイ族がモルグズ族を虐待ぎゃくたいしている動かぬ証拠となった訳か?」

「はい。正義感の強いキャミルが連邦に帰って、この悲惨な場面を声高こわだかに叫べば、連邦の世論は、グローイ共和国征伐論(せいばつろん)が一気に沸き上がるでしょうね」

「私はそのために利用されたのか?」

「キャミル。落ち込むことはありませんよ。方法は酷かったですが、少なくともモルグズ族の置かれた状況が連邦に明らかになったことは確かです。少なくとも、グローイ族をこの惑星ブラギンから追い出して、モルグズ族だけが平和に暮らす世界に戻すこともできると思います」

「そうだな。そうしないと、今回、犠牲となった者に申し訳がない」

「はい」

「それと、……シャミル?」

「はい?」

「レンドル大佐には知らないと言っていたが、あれはやっぱり、シャミルがやったのか?」

 キャミルは鉱山プラントの瓦礫がれきの山を指差した。

「本当に、私も分からないのです」

「そうなのか」

「はい。それより、キャミルは感じませんか?」

「えっ、何を?」

「テラのバルハラ遺跡で感じたような感覚を」

「……感じる。バルハラ遺跡の時よりもずっと弱くて、今まで分からなかったが、何かが話し掛けてきているような感覚がある」

 シャミルは遠くに見えているフリーズキャルヴを指差した。

「あのフリーズキャルヴにはモルグズ族の神様がいるそうですよ。ひょっとしたら、その神様が話し掛けてきているのかもしれませんね」

「近くに行ってみようか?」

「……いえ、止めましょう。だって、あそこにいる神様はモルグズ族の神様で、私達の神様ではないのですから」

「私達の神様? どういう意味だ、シャミル?」

「あっ、……よく分かりません。でも、何て言うか、……そんな『思い』が伝わってきたのです」

 漠然ばくぜんとしたシャミルの台詞セリフが、なぜか理解できたキャミルであった。


「船長! 探したぜ! どこに行ったのかと思ったら、キャミルと、また、いちゃいちゃしてたのか?」

 振り返ると、カーラとサーニャが近づいて来ていた。

「あっ! そうだ! せっかく、キャミルと二人きりだったのに、いちゃいちゃすることを忘れてました!」

「何を言っているんだ! 私もそろそろアルスヴィッドに戻らなければいけないからな」

「え~、もうちょっと一緒にいてくださいよぉ!」

「駄目だ」

「キャミル~」

 キャミルに追いすがるようについて行くシャミルにカーラが訊いた。

「それより船長! ヒルデタント商会に、捜し物は見つかったって報告をそろそろしても良いんじゃないか?」

「えっ? 機密文書格納用保護箱シークレットドキュメントボックスを見つけたのか?」

 キャミルも思わず立ち止まった。

「はい」

 シャミルは、キャミルに返事をした後、ニコニコしながら、カーラとサーニャを見た。

「そうですね。どうやら一件落着したみたいですから、報告しましょうか」

「ひゃっはー! 成功報酬二千万ヴァラナートだぜ!」

「にゃははは! 笑いが止まらないにゃあ!」

「あっ、成功報酬の受領は辞退しますから」

「えっ?」

「ど、どういう意味だにゃあ?」

 思いも寄らないシャミルの台詞せりふに、カーラとサーニャは固まってしまった。

「だから、私達は成功報酬を受け取る資格が無いということです」

「そ、それじゃあ、成功報酬は?」

「二千万ヴァラナートはモルグズ族の方々に贈呈します」

「えっ? どうして?」

機密文書格納用保護箱シークレットドキュメントボックスを見つけたのは、私達ではありません」

「そ、それはそうだが……」

「見つけたのはノラルちゃんです。ノラルちゃんが受け取るべきです」

「し、しかし、モルグズ族にとって、連邦のお金なんて紙屑かみくずも同然だろ?」

「ええ、だから、そのお金でモルグズ族の皆さんのためになることをして差し上げたいのです」

「ためになることって?」

「二千万ヴァラナートは確かに大金ですが、モルグズ族の皆さん全員の住環境を整えることができるほどではありません。それに、そもそも、砂漠に生まれ、砂漠で死んでいくというモルグズ族の皆さんに定住を促すことはおこがましいことですし、銀河協約第三項の精神からもやるべきではありません」

「だろ? モルグズ族はそっとしてあげるのが良いんだよ」

「でも、砂漠で住んでいく上で、除去できる危険は取り除いてあげたいのです。私が思っているのは、ノラルちゃんから両親を奪った、あの食人昆虫のタングリスニの除去です。連邦内の専門の業者を雇って、少なくともモルグズ族が生活をしている砂漠から、タングリスニを除去することは可能だと思います。もちろん、この惑星ブラギンの生態系に重大な影響を与えることが無いようにですけど」

「その費用に使うってことかい?」

「はい」

「そ、そんな~」

 崩れ落ちるカーラとサーニャであった。

「キャミルは、どう思いますか?」

「話はよく分からないが、シャミルがそれで良いというのなら良いんだろう。私も昆虫に襲われるのは嫌だからな」

「うふふふふ、駆除される前に、キャミルも見ておきますか?」

「え、遠慮しておくよ」


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