Scene:15 成功報酬の行方(1)
アルスヴィッドからも軍医を含む医療衛生班が降り立ち、まるで野戦病院のように、オレイハルコン鉱山敷地に日差しを遮るテントがいくつも設置された中で、モルグズ族の負傷者の治療が懸命に行われていた。
一方、少し離れた場所に建っていた鉱山プラント跡には、レンドル大佐がいた。
跪いて、その残骸を手に取ってみたが、軽く手で握ると、ボロボロになってしまい、手からこぼれ落ちてしまった。
「ありえない。いかなる兵器や技術をもってしても、強化軽量コンクリートを一瞬のうちに、ここまで細かくすることなど不可能だ」
再び、残骸を手に取ろうとしていたレンドル大佐にシャミルが声を掛けた。
「こんにちは、レンドルさん。お久しぶりです」
シャミルの側にはキャミルもいた。
「ああ、これは、確か、……シャミルさんでしたな。キャミル少佐と姉妹だという」
レンドル大佐は、立ち上がり、シャミルにいつものシニカルな笑顔を見せた。
「はい。アルダウでお顔は拝見させていただきましたが、こうやってお話するのは初めてですね」
「そうですな。いや、それにしても美しい。キャミル少佐と姉妹だということも分かりますな」
「そんなに褒めても何も出ません」
「はははは、そうですか」
「レンドルさんは、惑星軍情報部の方なのですよね?」
「キャミル少佐から、お聞きになられたのかな?」
「はい。どんなお仕事をされているのでしょうか?」
「色んなことをしております。国家機密から安くて美味い飯屋の情報まで、何でも扱っておりますよ」
「ご飯屋さんの情報は、ぜひ教えていただきたいですね」
「はははははは、苦労して収集した情報ですからなあ」
「部下の諜報員さんもたくさんいらっしゃるのですか?」
「そうですな」
「この惑星ブラギンにもたくさんの部下の方を送り込まれているのでしょうね?」
「ええ」
「何をされるために?」
「同じ連邦軍のキャミル少佐にすらお話ししていないのです。残念ながら、シャミルさんにお話できることはありません」
「そうですか。それは残念です」
シャミルはベルトのポーチから小さな機械を取り出すと、それを顔に近づけた。
レンドル大佐は、驚いたように左手首を隠すように握った。
「レンドルさん。部下の方から連絡が入っているのではないのですか? ご遠慮なさらず応答してください」
「……」
「少なくとも、ノアト部族に潜入していたゼロオさんは、あなたの部下ですね?」
「……」
「オレイハルコン鉱山に爆弾を投げつけたのは?」
「さあ、知りませんね」
「おとぼけが上手いんですね」
「おとぼけと言われても、知らないことは知らないのですからな」
「そうですか」
「こちらも質問させていただきたいのですが?」
「何でしょう」
「これを破壊したのは、あなたかな?」
レンドル大佐は鉱山プラントの残骸を指差した。
「知りません」
「知らない?」
「ええ、だって、私は何もしていませんし、何かをしたという記憶もありません」
「なるほど。……キャミル少佐。私は一足先にアルスヴィッドに戻っています」
レンドル大佐は、シャミルに会釈をすると、アルスヴィッドの方に向かって歩いて行った。
「シャミル。その手に持っているのは?」
「これは、私が一緒に旅をしてきたノアト部族に潜入していたゼロオさんという人が持っていたものです。今、プリセットされていた宛先に発信してみたのです」
「なるほど。レンドル大佐の情報端末がそれを受信していたのだな」
「はい」
「しかし、今回の一連の出来事はいったい何だったのだろう?」
「……キャミル。レンドルさんはキャミルに何を指示したのですか? あっ、話すことができればで良いですけど」
「ただ見ていろと言われただけだ」
「見ていろ?」
「ああ、モニターに記録されているかと気にしていたが」
「……キャミル、これから私が考えていることを話しますから、もし、キャミルが話せることがあれば教えてください」
「えっ?」
「もう少しで、つながりそうなんです」
「……分かった」




