Scene:09 砂漠の民(1)
次の日。
この日、一番最初に指名されたシャミルは、割り当て地域の全域が砂漠である落下予想範囲の中心部の区域を選んだ。
アルヴァック号は、機密文書格納用保護箱から発信されているかも知れないシグナル信号をキャッチしようと、低空を、時速百キロほどの低速で飛んでいた。
「この景色を見てると、うんざりしてくるな」
「探し始めて、まだ二時間しか経ってないですよ」
「それはそうだが、その二時間の間、ずっと同じ景色なんだぜ」
「のんびり飛んでいるから、余計にそう感じるにゃあ」
捜索を始めて二時間、アルヴァック号の四方を映しだしている艦橋モニターには、同じような景色しか映ってなかった。
「見つかる気がしねえ」
「何ですか? 一番乗り気だったのに」
カーラの愚痴にシャミルが苦笑していると、索敵係が声を上げた。
「船長! 前方モニターに人影らしき姿が映っています」
小さな影でしかなかったが、砂漠のど真ん中を、歩いている五十人ほどの集団が前方モニターに映し出されていた。
「拡大できますか?」
モニターの画像が少し拡大されると、ラクダによく似た動物を連れた老若男女の集団のようであった。
「何だ、あいつら?」
「隊商のように見えますね。あれが、砂漠の先住種族モルグズ族でしょうか?」
「船長! あれは?」
索敵係が指差した艦橋モニターには、その隊商の後方約五キロの地点に、突然、砂が盛り上がってできた、巨大な砂の山が映し出されていた。そして、その砂が滑り落ちると、中から体長二十メートルほどの巨大なゴキブリのような生物が現れた。
「何だ、ありゃあ?」
惑星探査で、多くの新種生物の発見も重ねてきていたシャミル達であったが、今、モニターに映し出されているほど巨大な昆虫のような生物は初めてで、カーラも思わず素っ頓狂な声を上げてしまったようだ。
長く細い紐のように見える触角が頭部から二本伸びていて、しばらく、その二本の触角を、鞭のように揺らしていたが、隊商がいる方向に縦長の体をゆっくりと向けると、六本の節足をバラバラに動かしながら、意外と素早い動きで隊商に近づいて行った。
しかし、隊商の位置からだと、間に高い砂丘があって、巨大ゴキブリが近づいて来ていることに気がついてないと思われ、隊商は、進む速度を上げることなく、のんびりと歩を進めていた。
「おい! やばいんじゃないか?」
もし、あの巨大ゴキブリがヒューマノイドに危害を加える生物であれば、隊商に危険が迫っていることになり、カーラの心配ももっともであった。
「エンジンブースト〇・〇一! あの集団の手前上空で止まります!」
アルヴァック号は微加速を掛けた。アルヴァック号がフルパワーで加速してしまうと、あっと言う間に、隊商や巨大ゴキブリを通り過ぎてしまうからだ。
アルヴァック号が近づいて行っている間に、隊商も巨大ゴキブリに気がついたようで、一斉に巨大ゴキブリと反対側に向けて走り出した。
「どうやら、あの生物は危険な存在のようです! カーラ! レーザー砲撃を!」
「了解!」
カーラが、自分の席にセットされている砲撃コンソールで素早く照準を合わせ、トリガーを引くと、アルヴァック号の前方に搭載されている二基のレーザー砲からレーザービームが発射され、見事、巨大ゴキブリに命中した。
胴体を撃ち抜かれた巨大ゴキブリは、全身を紫色の炎に包まれながら、節足を折って倒れ、そのまま動かなくなった。
海賊船相手には威力不足を否めないアルヴァック号のレーザー砲であるが、生身の生物相手には強力な武器であった。
シャミルの指示でアルヴァック号は、その巨大ゴキブリの近くに着陸した。
シャミルが外に出た時には、巨大ゴキブリの体から出ていた炎はほとんど消えていた。
「くせえ~」
辺りには、カーラが思わず嘆くほどの悪臭が漂っていた。
巨大ゴキブリそのものの臭いに、焼け焦げた臭いがブレンドされて、酷い臭いになってしまったようだ。
しかし、シャミルは、そんな強烈な臭いを気にすることもなく、巨大ゴキブリを興味深げに眺めていた。生物学を専修していた訳ではないが、未知の物全般にわたって、シャミルの興味の対象であった。
「目らしき器官が見当たらないのは、きっと、砂の中で棲息しているからでしょう。あの触角が視覚聴覚などを司る感覚器官のような気がします。そして、この楕円形の体型は、砂の中を進むのに適しているようです」
「あの頭の下にあるのが口なのかにゃあ?」
「そのようですね?」




