Scene:06 惑星ブラギン(2)
メグスラ郊外の広場にアルヴァック号を停泊させたシャミルと二人の副官は、歩いて、メグスラの街に入った。
街の中心に、椰子に似た樹木が囲むように生い茂っている大きなオアシスがあり、その周囲に、茶色っぽい石を積み上げた低層の建物が並ぶ街が広がっていた。
砂漠から、細かな砂が飛んで来ているのか、街全体が、少し霞んでいるように見えた。
強い日差しの通りには人の姿は少なく、商店の店頭から伸ばされたオーニングが作る日陰に置かれたテーブルに座っている人が何人か確認できただけであった。
白い肌、茶色の髪、青い瞳の、テラ族の白人にうり二つのヒューマノイドであるグローイ族の人々は一様に、長くゆったりとしたローブのような服をまとっていた。
シャミル達が、食堂らしき商店に入り、質素なテーブルにつくと、店の女将らしき体格の良い年配の女性が出て来た。
「いらっしゃい」
「こんにちは」
「あんた達は銀河連邦の人だね?」
「はい。そうです」
連邦の探検家達が、この惑星ブラギンで大々的に捜し物をすることは、住民達にも周知されているようだ。
「サブラの香草焼きはありますか?」
「ああ、あるよ」
「それで良いですか?」
シャミルは、一応、カーラとサーニャに訊いた。
「良いですかって、メニューも見ずに注文するなんて、最初からそれを食べるつもりで来たんだろう?」
「そ、そんなことはないですよ。ほ、ほらっ、ここにメニューがありますよ」
シャミルが自分の手元に置かれていたメニューを、隣に座ったカーラに渡すと、カーラとサーニャはペラペラとメニューをめくった。
「何にするかな? サーニャ、どうする?」
「そうだにゃあ、……おっ、これ、美味しそうだにゃあ」
「な、何ですか?」
「いやいや、こっちの方も美味そうだぜ」
「おお、本当だにゃあ!」
「あ、あの、サブラの香草焼きも美味しそうじゃないですか?」
「いやあ、砂漠の街で、こんなに美味そうな食べ物があるなんて思ってもなかったぜ。女将! この店のお勧め料理は何だい?」
「そうだねえ……」
「サブラの香草焼きもお勧めですよねっ! そうですよねっ!」
「もちろんだよ」
シャミルの必死の様子に、女将も笑いをかみ殺しながら言った。
「ほらほら~、サブラの香草焼きもお勧めなんですって! それにしましょう!」
「分かったよ。じゃあ、それを三人前だ!」
カーラもニヤニヤとしながら女将に注文をした。
「毎度あり」
女将が店の奥に引っ込んだのを見計らって、カーラが訊いた。
「ところで船長。サブラって何だい?」
「この惑星の海で棲息する両生類ですよ」
「か、蛙かよっ?」
香草に包まれて丸焼きにされた蛙の姿そのままのサブラを堪能したシャミル達は、店を出る前に女将に訊いた。
「女将さん。最近、隕石か流れ星のように、空から何かが降って来たことはなかったですか?」
「さあね。……ちょっと前に、グローイから来た人からも色々と訊かれたけど、全然、分からないねえ」
「グローイから来た人? 警察とか軍とかですか?」
「いいや、そんなきっちりとしたところの人じゃなくて、何やら怪しげな連中だったけどねえ」
「そうですか。……どうもご馳走様でした。サブラ、美味しかったです」
「毎度どうも。あんたらもしばらくこの星にいるんだろう? また、来ておくれよ」
そんなに話をした訳ではないが、早速、シャミルは気に入られたようだ。
「はい。また寄らせていただきます」
アルヴァック号に残って整備をしてくれている航行スタッフへのお土産も買ったシャミル達は、アルヴァック号に向けて歩き出した。
「何だろうね、怪しげな連中って?」
「カーラが一足先に来てたのかにゃあ?」
「おい! 怪しい連中って、アタイかよ!」
「きっと、グローイ族だとは思いますけど、ヒルデタント商会以外にも機密文書格納用保護箱を捜しているということは、……私達が捜そうとしている物は、けっこう物騒な物かもしれませんね」
独り言のように呟いたシャミルに、カーラが突っ込む。
「ヒルデタント商会の機密データって言っていただろう?」
「ええ。でも、外国の商人の機密データを、この国の人が必要とするでしょうか?」
「それもそうだな」
「そのグローイの人は、その文書が何かしらの利用価値があると判断して捜しているはずですね」
「先に探し出して、強請か何かにでも使おうかと思っているとか?」
「ええ、そう言う内容の文書なのでしょう」
「ヒルデタント商会は、人に知られるとやばい商売でもやってるのかねえ?」
「分かりません。……とにかく、私達は依頼内容を忠実に実行しましょう」




