Scene:04 ヒルデタント商会
惑星ノルナゲストのヒルデタント商会本店。
その大会議室に多くの探検家達が集まっていた。
「うひょ~! こりゃ、五十人どころじゃねえぞ。軽く五百人はいるな」
「誰だって、あの報酬額を聞けば、食らいついてくるにゃあ」
時間ぎりぎりに説明会会場に入ったシャミル達は、教室のようにテーブルが並べられた会場の一番後ろのテーブルに並んで座った。
間もなく、前方のステージに設置された演台に、銀色の髪に白い肌、少しとんがり気味の耳を持つ、恰幅の良い年配の男性が立った。
「当商会の呼び掛けに応じて、御参集くださいました皆様方に感謝を申し上げます。私は、当商会の総務部長をしております、マインシスと申します」
マインシスは、深々と礼をしてから、再び話し始めた。
「告知メールでもお知らせしたとおり、今回の依頼は、落とし物の捜索です。しかし、場所が外国の惑星であるため、軍や警察にお願いすることができなかったことから、皆様方のお力をお借りすることといたしました」
マインシスがステージの袖の方を向いてうなづくと、会場が暗くなり、演台の背後のスクリーンに宇宙空間から撮影された惑星の姿が映し出された。
「これが惑星ブラギンです。居住は可能なのですが、いかんせん平均気温が高く、また降水量も少ないことから、惑星のほとんどの地域で砂漠化が進み、グローイ族が居住しているのは、ごく限られた地域に限られています。それでも、グローイ族が入植を始めたのは、この惑星ブラギンに大規模なオレイハルコン鉱脈があったからです。今回、被害にあった当商会の輸送船も惑星ブラギンからオレイハルコン鉱石を積み込んで来るところでした」
スクリーンの映像が惑星ブラギンの平面地図に変わった。
「今回の目的物が落下したのは、この範囲内と思われます」
地図上に大きな赤い円が示された。下部に示された縮尺から、直径一万キロほどと思われ、そのほとんどは砂漠だった。
「目的物は、落下途中までヴァルプニールGPS信号を発信していたのですが、大気圏に突入して間もなくして、信号が途切れてしまったのです。したがって、このような大雑把な範囲でお示しすることしかできないのです」
また、スクリーンの映像が変わり、一緒に映っていた人間の大きさから、一辺が三十センチほどの大きさであることが分かる、軽金属製のボックスが映った。
「これが今回の目的物である機密文書格納用保護箱です。ボックスそのものは大気圏内に落下しただけでは壊れることはありませんので、先ほど見ていただいた広大な砂漠地帯のどこかに、この小さなボックスが落ちているはずなのです」
会場からため息が漏れた。
砂漠であれば砂に埋まっている可能性もあり、捜索は相当困難であることが予想された。
「唯一の希望として、この機密文書格納用保護箱には、ヴァルプニールGPS発信器の他に、シグナル弱電波の発信器が搭載されており、半径一キロ以内であれば、その電波がキャッチできる可能性があります。まずは、この広大な砂漠を視認で探索するしかないのですが、その電波がキャッチできれば、発見する可能性は大きく高まります」
しかし、半径一キロ以内にまで絞り込まないと意味が無いということは、それほど労力が軽減されるとは思われなかった。
「報酬につきましては、メールでお知らせのとおりです。グローイ共和国からは、見つかるまでの滞在期限をもらっています。もちろん、途中でリタイヤされることも自由です」
マインシスは会場を見渡した。
「私どもは一旦、この会場から退出いたします。その間に、このプロジェクトへの参加希望を取り止める方は、自由にこの会場から退出なさってください。十分後、会場に残られた方が、この依頼を受けられたものとさせていただきます」
そう言うと、マインシスはステージの袖に下がった。そして、それと同時に、会場の灯りが点き、それまで閉められていた会場の入口が開かれた。
会場にいた大多数の者が、席を立ち、会場から出て行った。
捜索範囲のあまりの広さに、労力に見合わないと見切りを付けたのだろう。
「船長、どうする?」
カーラが、隣に座っているシャミルの顔をのぞき込むようにしながら訊いた。
「どうするって、カーラは受けるつもりだったのでしょう?」
「そうだが、この捜索範囲じゃ、割に合わないかもしれないぞ」
「でも、途中で放り投げることもできるんだから、とりあえず、やってみるってことも良いんじゃないかにゃあ」
「でも、船長の性格的には、やり始めたら、やり遂げるまで止めたって言わないと思うしなあ」
「私の性格が問題なんですかあ?」
「でも、いったん、やり始めたら、途中で止めたくないだろ?」
「まあ、それはそう……ですけど」
「ほらっ! やるならやるって、腹をくくって始めるしかないぜ」
「う~ん、じゃあ、やっぱり、止めておくかにゃあ?」
「しかし、この報酬は捨てがたいぜ。成功すれば、二千万ヴァラナートだからな」
「貧乏探検家から、一気に金持ち探検家だにゃあ」
「私は、報酬のことはどうでも良いのです」
「船長ならそう言うと思ったぜ。どうせ、船長の関心事は、外国の惑星に行くことだろ」
「まあ、そうですけど……って、カーラ! 人の心を読みすぎです!」
「船長の考えていることは、すぐ分かるよ」
「分かりやすいもんにゃあ」
「え~っ」
突然、会場のドアが閉められた。ほぼ同時に、マインシスが再び登壇した。
「ありゃあ、もう十分も経ったのかにゃあ?」
シャミルが周りを見渡してみると、会場に残っていたのは、明らかに五十人を切っており、くじ引きをする必要はないと一目で分かった。
「皆さん、当商会の依頼を受けて頂きまして、どうもありがとうございます」
マインシスの嬉しそうな声が会場に響いた。




