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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-07 砂に埋もれた自由への鍵
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Scene:03 緊急指令(1)

 キャミルは、第七十七師団の司令本部があるフェンサリルに呼び戻されていた。

 アルスヴィッドをメインベースに停泊させて、フェンサリルに宿舎がある乗組員達には、緊急招集までの一時帰宅を許すと、キャミルは指示に従って、一人で司令本部に向かった。

 第七十七師団長であるロバートソン少将の部屋のドアをノックして、中に入ったキャミルは、少将の執務机の前にある応接セットのソファに見覚えのある男性が座っていることに気がついたが、それを顔に出さずに、出頭しゅっとうを報告した。

「キャミル少佐、ただいま出頭しゅっとういたしました!」

「うむ。ごくろう」

 テラ族の黒人であるロバートソン少将は、執務机に座ったまま、うれしそうにうなづいた。

「久しぶりですな、キャミル少佐」

 惑星軍情報部所属のヒエリ・レンドル大佐は、ソファから立ち上がり、人なつっこい笑顔を見せながら、その場でラフな敬礼を返した。

「……アルダウの件以来ですね」

 キャミルが少し言いよどんだのは、つい先日、時間をさかのぼって、若き日のレンドル大佐を見ていたからだ。

「いつもいつも急な呼出で済まんな」

 ロバートソン少将も、優秀な部下であるキャミルを可愛がり、そして信頼しており、重要な任務をいくつも命じていた。

「いえ、緊急招集(しょうしゅう)があれば駆けつけるのが軍人のつとめなれば」

「相変わらず真面目まじめですなあ、キャミル少佐は」

 少しあきれ気味にレンドル大佐が話した。

「レンドル大佐。君が不真面目ふまじめすぎるのではないのかね?」

「おやおや、後ろから撃たれるとは思いませんでしたな」

「はははは。キャミル少佐もそこに座りたまえ」

 ロバートソン少将は、キャミルにソファに座るように勧めると、自らも執務机から応接セットに移動して、キャミルに向かい合うように、レンドル大佐の隣に座った。

「今日、君に来てもらったのは他でもない。君には、これからグローイ共和国に行ってもらう」

「グローイ共和国に?」

「そうだ。アルスヴィッドに国防長官をお乗せして行ってもらうことになる」

「アルスヴィッドでですか?」

「そうだ」

 キャミルも政府要人(ようじん)の護衛という任務は初めてであったが、通常、連邦政府の要人が外国に行く時には、要人の威厳いげんを保つとか、連邦の力を誇示こじするとかいう理由で、宇宙軍でも最強最大であるコスモス級戦艦がその役目をになうことがほとんどである。

 国防長官といえば、最高執政官府のメンバーである最高レベルの要人ようじんであり、コスモス級に次ぐ大きさと戦闘力を有しているとはいえ、ギャラクシー級戦艦であるアルスヴィッドでは役不足やくぶそくではないかと思われた。

「実は、緊急にグローイ共和国の国防担当高官(こうかん)と会談をしなければならない事態になってな」

「グローイ共和国とは国交が樹立されていないため、ホットラインが結ばれていないんです。もちろん、一般回線はありますが、盗聴のおそれを払拭ふっしょくできませんからな」

「したがって、じかに出向く必要があるのだが、そのような時に、コスモス級戦艦が配備されている黄道十二艦隊は出払ってしまっているのだ。第四「双子座」艦隊旗艦のジェミニを緊急に帰還させるつもりなのだが、往路おうろには間に合いそうにない」

「それでアルスヴィッドが?」

「そうだ。まあ、遊撃艦隊ならではということで、たまたま予定がいていたからということだ」

 黄道十二師団は、どれも銀河協約第二項該当種族との全面戦争中であることは、キャミルも理解していた。しかし、アルスヴィッドも遊んでいた訳ではなく、命ぜられていた海賊討伐(とうばつ)を中断して、フェンサリルに帰って来ていたのだ。

「分かりました。命令を受けたからには、長官を、無事、グローイ共和国までお送りいたします」

「うむ。頼むぞ」

「しかし、国交のないグローイ共和国と至急会談をしなければならない案件とは、一体、何なのでしょうか?」

「まあ、マスコミには、国交樹立に向けた予備会談と発表をする予定にしている」

「ジェミニの帰還を待たずにですか?」

「実際は、それほどの緊急案件ということだ」

 ロバートソン少将は、大きく息をき出すと、再び、話し出した。

「実はな、海賊メルザが、グローイ共和国領空内で略奪りゃくだつ行為を働き、いつもどおり、乗員を皆殺しにした」

「メルザが!」

「ああ、襲われた船は、連邦のヒルデタント商会の貨物船だ」

 銀河の海原を跋扈ばっこする海賊達には国境など関係無く、連邦の海賊達が外国籍の船を外国空域で襲うことも日常茶飯事にちじょうさはんじのことであった。

 ましてや今回は、連邦の商人の船が、たまたま、グローイ共和国の領空内で襲われただけであり、そのことと国防長官の来訪らいほうとは、まったくつながらなかった。


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