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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-07 砂に埋もれた自由への鍵
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Scene:01 女狼の狂気(1)

若干残酷なシーンが出てきますので、苦手な方はお気をつけください。

 銀河連邦は、知れている銀河系の各ヒューマノイド国家の中では、既に超大国の地位を築き上げており、いくつかの周辺ヒューマノイド国家も吸収合併に向けた動きを見せてはいたが、繁栄のためとはいえ、自分達の国を無くすという選択をすることは、国民感情からもおいそれと成り立つものではなかった。

 また、銀河連邦と国境空域を接するいくつかのヒューマノイド国家も、一律いちりつ、友好的という訳ではなく、中立的あるいは敵対的な態度を取る国家も少なからず存在していた。

 そんな隣接国家の一つ、グローイ共和国は、連邦との国交はまだ樹立されていなかったが、政治的には中立的な立場を採っており、民間レベルでは、銀河連邦との交易は盛んに行われていた。

 そのグローイ共和国の惑星ブラギン上空を、巨大な卵のような形の宇宙船が漆黒しっこくの空間を航行していた。そして、そのまわりには、葉巻型の戦闘艦が三隻併走していた。

 銀河連邦では屈指くっしの鉱物商であるヒルデタント商会の貨物船と、その護衛艦隊であった。

 貨物船は、惑星ブラギンで買い付けたオレイハルコン鉱石を満載して、商会の本社がある銀河連邦の惑星ノルナゲストに向かっていた。

 スレイプニール航行システムに欠かすことのできないオレイハルコン鉱石は、産出量が少なく高値で取引されており、闇の取引ルートを持っている海賊達にとっては格好の獲物であり、それだけねらわれることが多いことから、今回も民間護衛船を三隻付けての航行であった。

 貨物船の艦橋かんきょうでは、船長以下六名のスタッフが詰めていたが、護衛艦隊も付いていることから、緊張感をどこかに置き忘れてきているような間延びした空気が漂っていた。

 突然、護衛艦隊の司令から貨物船に連絡が入った。

「未確認船が急速接近中! 当方からの問い掛けに返答なし! 警戒されたい!」

 船内に警報が鳴らされたが、貨物船の艦橋かんきょうには、その効果はあまり無かったようだった。

 海賊船は、ほとんどが一隻のみであり、艦隊で行動する海賊はほとんどいなかった。艦隊で獲物を仕留めてもそれだけ分け前が少なくなることから、海賊達も丸腰の商船を一隻の海賊船で襲うことがほとんどであった。

 今回のように、三隻もの護衛船に守られていれば、近づいて来ているのが海賊船であったとしても、最終的には襲って来ないか、襲って来ても返り討ちにできると踏んでいた。

 不審船は、相当なスピードでヒルデタント商会の輸送艦隊に近づいて来ており、かなりの高速船であることは間違いなかった。

「拡大モニター限界に到達! 映し出します!」

 貨物船の艦橋モニターに不審船が映し出された。想像していたものよりも大型の黒い船体で、かなりの数の砲門を装備していることが確認できた。

「何だ、あの船は? あんな攻撃艦は見たことがないぞ」

 貨物船の老船長が驚くのも無理はなかった。

 護衛艦隊の戦闘艦よりも大型で、強力な攻撃能力を有していると思われる船は初めてだった。

「止まれ! 船籍情報を明らかにせずにこれ以上接近すれば敵対行為とみなす! これは警告である!」

 護衛艦隊から不審船に警告が発せられたが、その警告を無視するように、スピードを落とすことなく、不審船は近づいて来た。

「警告に従わないと認め、航海安全保障法三十五条の規定により攻撃を開始する!」

 正規軍と違い、民間護衛船が武力を行使するには厳格な定めがされており、その手続を踏まずに他船を攻撃すると犯罪になる。今回も、警告を発した上で攻撃を宣告するという正規の手続に乗っ取ったものであった。

 護衛艦隊からレーザービームが発射されたが、不審船は船体を揺らして、難なくそれをかわした。

 十分に近づいて来た不審船からレーザービームが発射されると、複数のレーザービームが護衛船一隻を貫き、大爆発を起こして撃沈されてしまった。不審船が搭載しているレーザー砲は、軍の攻撃艦にも匹敵するほどの強力な破壊力を持っているようだ。

 残った二隻の護衛艦が立て続けにレーザー砲撃をしたが、不審船は、まるでその弾道があらかじめ分かっているかのように、最小限の動きでレーザービームをかわすと、護衛艦二隻もあっと言う間に撃沈してしまった。

 不審船は、最後に貨物船のエンジン部分を撃ち抜き、航行不能にすると、一旦いったん停船し、貨物船にゆっくりと近づいて来て、接弦せつげんした。

 不審船から伸びてきた乗り込みチューブが、貨物船の搭乗ゲートに密着すると、チューブを通って、武器をたずさえた兵士らしき人影がすばやく貨物船に乗り込んで来ていた。

 その人数を見た老船長は、全面降伏を決めた。

 しばらくすると、三人の女性を先頭にして、兵士達が貨物船の艦橋かんきょうに入って来た。

「船長は誰だい?」

 もっとも前に立っていた、少しウェーブが掛かった紫色の長い髪で、スタイルの良い女性が訊いた。

「私だ。全面降伏する。船員全員の身柄みがらの保証を要求する」

「要求? ふふふふ。お前達は生き延びるほどの価値がある人間なのかい?」

「当たり前だ! 船乗りの正当な権利だ!」

 老船長もこれまで様々な修羅場しゅらばをくぐり抜けてきているのであろう。毅然きぜんとした態度を崩すことはなかった。

「立派な態度だね。でもね、あんたは私が探し求めている奴じゃないんだよ。私にとって無用な奴なのさ」

 そう言うと、女性は湾曲わんきょくした太刀たちを抜き、老船長に突き付けた。

「お前達の目当ては、この船の積み荷であろう? 我々を手に掛けたところで、どんなメリットがある? 罪が重くなるだけだぞ」

「罪なら、もう背負いきれないほど背負っているさ。これは、私の復讐なのさ」

 女性が躊躇無ちゅうちょな太刀たちを持った腕を伸ばすと、太刀たちは老船長の体を貫いた。

「お、……お前達は?」

 苦痛に顔をしかめながらも、老船長は取り乱すことはなかった。

「最後まで立派な態度だね。その態度に敬意を払って教えてあげるよ。私達は女狼めろうさ」

「女狼……。海賊メルザか?」

「ああ、そうだよ。あの世で自慢すると良いさ。女狼メルザ様、直々(じきじき)に殺されたとね」

 その言葉を聞くと、力尽きたかのように、老船長はそのまま床に崩れた。


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