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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー06 時空を超えた再会
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Scene:09 お揃いのワンピース

 シャミルとキャミルは再び、パリに帰って来た。

 シャミルの実家の応接間で、シャミルの母親は、遺跡に出掛ける前と変わらず、キャリアウーマンを絵に描いたような容姿ようしで、シャミルとキャミルの前に座っていた。

「バルハラはどうでした?」

「はい。お父上に会えました!」

「えっ?」

「あっ! ……のような気がしました」

「ふふふ、そうですか」

「母上。母上は、父上の顔は憶えていらっしゃるのですか?」

「当たり前です」

「茶色の髪をオールバックにした、背に高いイケメンだったんですよね?」

「シャミルもまだ憶えているの?」

「いえ、バルハラで色々と情報収集をしましたから」

「まあ、ふふふふ。……でも、キャミルさんも少しはお父上のことが分かって、良かったですね」

「は、はい」

 その時、テーブルの上に置かれている家庭内通信機の呼び出し音が鳴った。母親がそのスイッチを押して音を止めると、ソファから立ち上がった。

「キャミルさん、ごめんなさい。ちょっと店に出なければいけなくなりました。すぐに帰って来ますから、その間、シャミルをいじっててください」

「は、はあ」

 母親が応接間から出て行くと、隣に座っていたシャミルは満面まんめんの笑みを浮かべて、キャミルに向かって、両手を広げてみせた。

「キャミル! どうぞ!」

「何が『どうぞ』なんだ?」

「え~、せっかく母上が許してくれたのにぃ」

「そ、それより、ここに帰り着く間に、アルスヴィッドに連絡をして、軍の海賊情報データベースを検索してもらったんだ」

「海賊情報を?」

「そうだ」

 キャミルは自分の情報端末を見ながら話した。

「ドミニク・ガンドール。三年ほど前まで『黒い狼』と呼ばれていた大海賊だ。襲った商船の乗組員を皆殺しにして金目かねめの物を強奪ごうだつする極悪非道ごくあくひどうの奴で、こいつの犠牲者は二百人以上にのぼっているそうだ」

「確かに、あの狂気の目は、人殺しなど何とも思ってないようでしたね。でも、三年ほど前までって?」

「ああ、三年前に、宇宙軍の海賊討伐によりち取られ、死亡している」

「そうなのですか? その時には、エキュ・クレールを持ってなかったのでしょうか?」

「いや、どのようにしてち取られたのかは分からないが、エキュ・クレールはバリアのような働きをするだけで、不死身にさせる訳ではないから、宇宙軍の圧倒的戦闘力の前には、エキュ・クレールだって無力だったのかもしれないな」

「すると、エキュ・クレールはどこに?」

「当然と言えば当然だが、海賊情報データベースには、そこまでは掲載されていない」

「そうですか。もしかしたら、軍が没収しているかもですね?」

「ああ、その可能性はあるな。あるいはガラクタとして捨てられたか。もしくは……」

「他にありそうなところがあるのですか?」

「実は、一つ気になる情報があるんだ」

「何ですか?」

「そのガンドール配下の海賊達の多くは、ガンドールとともにとららえられたんだが、一部は逃げおおせたらしい。その中に、メルザがいるんだ」

「メルザさんがガンドールの配下だったと?」

「そう言うことのようだ。襲った船の乗組員を皆殺しにするところはガンドールと同じだ。そして『狼』と名乗っている」

「まさか、メルザさんがエキュ・クレールを?」

「その可能性は捨てきれない。ただ、以前、メルザに会った時、メルザはエキュ・クレールを取り出さなかったし、ガンドールと戦った時に感じたほどの、激しいエペ・クレールの震えもなかった。おそらく、メルザは、エキュ・クレールを持っていないんじゃないかと思う」

「そうですね。でも、探すべきものが一つ明確になっただけでも大きな進歩です」

「そうだな」

 シャミルは、海賊のことを話すキャミルが、また宇宙軍士官の顔になっているのを見て、思わず、キャミルの腕に自分の腕をからめた。

「な、何だ?」

「キャミル」

「うん?」

「父上、素敵でしたね」

「そ、そうか?」

「背が高くて、ハンサムで、落ち着いていて……。母上が好きになったのも分かります」

「そうか?」

「はい。キャミルのお母上だって、父上のことが大好きだったに違いありませんよ」

「……」

「キャミルのことだって、ちゃんと愛しているって言ってましたね」

「……そ、そうだな」

 シャミルはキャミルの腕を固く抱きしめて、キャミルのほほに自分のほほをくっつけた。

「な、何だ!」

「ふふふふ。キャミル。私は、必ずリンドブルムアイズを見つけます。父上のためにも、キャミルのためにも、そしてキャミルのお母上のためにも」

「私の母のためにも?」

「ええ、それがキャミルのお母上のご供養くようにもなると思うのです。私の大好きなキャミルを生んでくれたんですもの」

「……シャミル」

 キャミルがシャミルの方を向くと、すぐ近くにシャミルの顔があった。

 しかし、シャミルはすぐに顔をそむけた。

「シャミル?」

「ごめんなさい。……キャミルの目を見て、また、あの白い空間に飛ばされてしまうのがこわくて……。キャミルのいない時空間に飛ばされてしまうのは嫌です!」

 少し間合いを取って、キャミルはシャミルの方に少し体を向けて、その両肩を両手で抱いた。

「シャミル。さっきまでいた時空間で約束しただろう。私は、シャミルを一人にすることなんて絶対にしない! シャミルを置いて、いなくなったりしない!」

「……うん」

 シャミルはキャミルを正面から抱きしめた。

「お、おい! そ、そんなに抱きめなくとも、いなくならないと言っただろう!」

「へへへへ。離れないもん!」

「そ、そんなにくっつかれると汗をいてしまうじゃないか!」

「汗……。そうだ!」

 シャミルは忘れ物を想い出して、キャミルから離れた。

「そうでした。この服もずっと着たきりでしたね」

 シャミルとキャミルは、「過去で」買ったおそろいの服のままだった。

「ああ、そうだな。軍服に着替えるか」

「その必要はありませんよ」

「えっ?」

 ソファから立ち上がったシャミルは、応接間の隅に置いてあった、これまた「過去で」買った、自分のリュックを持って、ソファに戻って来た。

「実は……」

 シャミルは、リュックからオレンジ色のミニたけのワンピースを取り出すと両手で広げてみせた。

「そ、それは?」

「へへへ、買わなかったって言ったけど、実は買ってたんです。だって、こんな可愛いワンピースを着たキャミルを見てみたかったんですもの」

「えっ! そ、それは私のか?」

「もちろん、そうですよ! そして……」

 シャミルは自慢げに色違いのワンピースを取り出した。

「おそろいでーす!」

「わ、私は、そんな短いスカートはかないぞ!」

「え~、そんなぁ~。せっかく買って来たのにぃ」

 シャミルの上目遣うわめづかいは女性相手でも破壊力抜群であった。

「わ、分かった。それじゃあ、部屋着にさせてもらうよ」

「だ~め! これから、このワンピースを着て、一緒にお出掛けしましょう!」


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