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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー06 時空を超えた再会
141/234

Scene:07 黒い狼(3)

「な、何だ?」

 さすがのガンドールも呆気あっけに取られていた一瞬を突いて、キャミルが目にも止まらぬ速さでガンドールに突進をした。それは青と赤の光がガンドールに襲い掛かったようだった。

「うおおぉ!」

 キャミルが雄叫おたけびを上げながら袈裟懸けさがけにエペ・クレールを打ち込むと、危険を察知さっちしたのか、ガンドールはデリング博士を放り投げ、両手で持った太刀たちでキャミルの一撃を受け止めた。しかし、ガンドールは、まるで巨大なハンマーでたたかれた球のように後ろ向きに吹っ飛んで行き、ピラミッド状建造物に背中を打ち付けて止まった。

 キャミルは、攻撃の手を休めることはなかった。そのピラミッド状建造物に貼り付いているようになっているガンドールに突進して、その腹部を剣で突き刺そうとした。しかし、ガンドールも咄嗟とっさのところで右に飛び退き、エペ・クレールはピラミッド状建造物の石の壁にぶつかっただけであった。

 さきほどの衝撃がまだ残っているようで、少し頭を振って目の焦点しょうてんを合わそうとしたガンドールに、キャミルがエペ・クレールを打ち込むと、太刀たちでその一撃を防いだガンドールは、また、三十メートルほど後ろに吹っ飛んで、遺跡の回廊かいろうに背中をたたき付けて崩れ落ちた。

 うめき声を上げながらも、すぐに立ち上がったガンドールは、今度は、ひざまづき、目を閉じて身動きしないシャミルに向かって突進した。キャミルの圧倒的な力はシャミルが与えているものと判断したようだ。

 しかし、キャミルもすぐにシャミルの元に駆け寄り、横からすべり込むようシャミルの前に立ちはだかると、ガンドールがシャミルに対して振り下ろした太刀たちをエペ・クレールで受け止めた。

 その後、キャミルとガンドールは、力を込めてお互いの剣と太刀たちを押し合った。体格的に、ガンドールの怪力にはかなわないはずのキャミルが押し勝っていた。キャミルと太刀たちを押し合っている格好のまま、ガンドールは靴底をすべらせるように、じりじりと後ろに押されていた。

 キャミルが、一旦いったん、エペ・クレールを後ろに引いた後、満身まんしんの力を込めて横に払うとガンドールの腹部にヒットしたが、見えないバリアにはばまれ、エペ・クレールはガンドールの体には届かなかった。しかし、その衝撃まではくい止めることができなかったようで、ガンドールは、また遺跡の半分の距離を吹っ飛んで行き、ピラミッド状建造物の壁に打ち付けられた。

 そのまま地面まで崩れ落ちたガンドールの顔は、初めて化け物を見たかのように、恐怖と困惑こんわくに満ちていた。

「貴様らの力は一体? 剣とナイフが二つそろっているからなのか? それとも貴様らが元々、持っている力なのか?」

 キャミルは怒りの眼差まなざしで見つめながら、ガンドールに近づいて行った。

「知るかっ! 今、私は貴様を倒すことしか考えていない! 切りきざむことができないというのであれば、打ちのめすのみ!」

 ピラミッド状建造物を背もたれのようにして立ち上がったガンドールが、後ろを振り返ると、また、ピラミッド状建造物に大きく穴が開いた。

 すぐに、キャミルが突進して行ったが、ガンドールがその穴から中に倒れ込むように入ると、消えてしまったかのように穴は塞がってしまった。

 キャミルがその箇所かしょを押しても引いても、そしてエペ・クレールを打ち込んでも、ビクともしなかった。

「シャミル!」

 キャミルの呼び掛けで、シャミルが目を覚ますようにして立ち上がると、小走りにキャミルの方に近づいて来た。

「この中に奴は逃げた! しかし、入口が塞がってしまって中に入れない」

「それでは、二人で協力してやってみましょう」

「よし!」

 シャミルとキャミルは、それぞれ両手でエペ・クレールを持って構えた。二人が意識を集中させると、エペ・クレールは青白く輝く光の剣と化した。

 二人は息を合わせて、エペ・クレールをピラミッド状建造物に振り下ろすと、無数の青白い火花が飛び散り、爆発したかのようにあたりを照らした。

 しかし、建造物には傷一つ付かなかった。

「駄目か。くそっ!」

「キャミル。ガンドールは、とりあえず中に閉じ込められている状態です。まずは、デリングさんを病院に連れて行きましょう!」

「あっ、そうだな」

 デリング博士の元に駆け寄ろうとした二人は、横たわっていたはずのデリング博士がおらず、その代わりに一人の男性が立っていることに気がついた。走って近づいて行った二人は、それが誰か分かると、思わず立ち止まった。

 そこには、ジョセフが、呆然ぼうぜんとした表情で立っていた。

 ゆっくりと近づいて来たシャミルとキャミルに、ジョセフが声を掛けた。

「お前達は?」

 昨日、会って挨拶も交わしたのに、ジョセフはそのことをすっかりと忘れてしまっているかのようだった。

「……父上」

 思わずつぶやいたシャミルの一言で、ジョセフの顔つきが変わった。

「……感じる。それにその剣とナイフ……。コト・クレールとエペ・クレールだな」

 ジョセフは数歩、シャミル達に近づいて、シャミルとキャミルの顔をまじまじと見渡した。

「シャミル、……そして、キャミルだな? その姿は、……未来から来たのか?」

「はい。……父上。私達は昨日、パリ地区で父上とお会いしました。お忘れですか?」

「昨日、パリで私と会った? 確かに、私は昨日、パリにいたが、お前達と会った記憶はない。いや、断言できる。会ってはいない」

 シャミルとキャミルも混乱してしまった。

 しかし、今は、デリング博士を一刻いっこくも早く治療する必要があった。

「それより、ここにデリングさんがいませんでしたか?」

「デリング? テラ大学のデリング博士のことか?」

「父上もご存じだったのですね?」

「もちろんだ。デリング博士なら、先ほど管理事務所にいたぞ」

「えっ? 怪我けがとかされているようではなかったですか?」

「いや、相変あいかわらず元気そうだったが」

 シャミルとキャミルは、何が何やら分からなくなってしまった。そんな二人の表情を見たジョセフがおだやかな顔をして問い掛けてきた。

「何か、不思議なことでも起きたのか?」

「海賊ガンドールがデリング博士を傷付けて、博士がこの場所に倒れていたはずなのです。でも、気がつくと、デリング博士はいなくて、父上が立っていたのです」

 ジョセフは、右手をほほにやって、うつむき加減で思案をしていたが、すぐにシャミル達の方を向いた。

「どうやら、私が知っている現実と、お前達の経験した現実とは違っているようだな」

「えっ?」

「海賊ガンドールの船は、今朝には、テラ空域から出て行っているところが宇宙軍の警備艦隊により確認されている。つまり、今、ガンドールはテラにはいないはずだ」

「そ、そんな。……ガンドールは、確かにあの三角柱の中に逃げ込んだのです」

「ガンドールがあの中に!」

「はい」

「……その後、何か変わったことは起きなかったかね?」

「その後は、二人で力を合わせてエペ・クレールを打ち込んだのですが、びくともしませんでした。それ以外にも何もしていませんし、何も起きていません」

「……おそらく、その時に、お前達がいる時空間が入れ替わったのだろう」

「時空間が入れ替わった?」

「そうだ。ガンドールはテラにおらず、デリング博士は管理事務所で油を売っているこの時空間に」

 まったく、そんな兆候に気づかなかったシャミルとキャミルは、事態を理解するのに少し時間が掛かった。

「でも、デリング博士が無事だったのですから良かったです」

 シャミルのほっとした顔にキャミルがうなづいた。

「でも、父上は、どうしてここに?」

「私も飛ばされて来たのだよ。ついさっきまでパリにいたはずなのだが、気がつくと、ここにいた」

「父上も」

「ああ、そうだ。お前達はいつから?」

 シャミルは、昨日、タイムスリップをしてからのことを簡潔に説明した。

「なるほど。昨日、私と会った後、ここに来て、キャミルがガンドールに傷付けられる時空間、そしてガンドールを追いつめた時空間、そして、今いるこの時空間と、次々に移動したようだな」

「どうして、そんなことに?」

「私も時空理論の専門家ではないが、考えられることを言ってみよう」


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