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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー06 時空を超えた再会
135/234

Scene:05 バルハラ遺跡再び(2)

「おじいちゃ~ん」

 疑惑の眼差まなざしでシャミル達を見つめていた男性は、幼い女の子の一声で、途端とたん目尻めじりを下げた。

 可愛い声がした方を振り向くと、緑色の髪をツインテールにした、五歳くらいの小さな女の子が少し息を切らして立っていた。

「そろそろご飯の時間だよ。アリシア、お腹空なかすいた!」

「おう、もうそんな時間か。あっと言う間に時間が経ってしまうのう。それじゃあ、今日はこれくらいにしておこうかの」

 そう言うと、男性は近くの地面に置いてあったショルダーバックを肩に掛けると、女の子に近寄って行き、その手を引いて、シャミル達のことなどすっかりと忘れたかのように歩き出した。

 既に日は沈みかけており、夕焼け空もすぐに暗くなると思われた。

「シャミル。今日はもう暗くなってしまう。あたりには街灯も無いようだし、闇雲やみくもにこのあたりを彷徨うろついていても仕方がないだろう」

「そうですね。今日はどこかで泊まって、明日、朝早くまた来ましょうか?」

「そうだな。そうしよう」

 シャミルが何気なにげなく男性が見ていたピラミッド状建造物の基礎部分を見ると、大きな虫眼鏡むしめがねがそのまま置いてあるのに気がついた。シャミルはすぐにそれを取り上げて、去りゆく男性の背中に大きな声で呼び掛けた。

「あの~、これ、忘れ物ではありませんか?」

 振り返った男性は、すぐにショルダーバックの中を探っていたが、すぐにシャミルの方に近づいて来た。

「おお、すまん、すまん」

 シャミルが男性に虫眼鏡むしめがねを手渡すと、その男性を追い掛けて来て、男性の背中から恥ずかしげにシャミルを見つめている女の子と目が合った。

「こんにちは」

 シャミルがにっこりと微笑んで、女の子に声を掛けると、女の子もすぐに安心したように男性の背中から出て来た。

「こんにちは!」

 女の子の元気な声が遺跡の中に響いた。

「元気な声だね」

 女の子はうれしそうに微笑んだ。

「……アリシア。このお姉ちゃんは怖くはないのかい?」

 男性が不思議そうに女の子に訊いた。

「うん。すごく優しそうで、アリシア、大好き!」

 男性はシャミルの顔をしみじみと見つめた。

「お前さん方、何者じゃ?」

「はい?」

「アリシアは、この田舎いなかでずっとわしと二人暮らしなんで、人見知りが激しくての。あんな元気な声でアリシアが挨拶をしたのは初めて見た」

「そ、そうなんですか」

 まさか、そんなことで驚かれるとは思ってもいなかったシャミルは、苦笑するしかなかった。

「あ、あの、すみません。私達、宿を予約していなくて、これから探したいのですが、この近くに旅館はありませんか?」

「旅館かね。ここは一応観光地とは銘打めいうっておるが、わざわざこの遺跡を見るためだけに来る者はほとんどいないからの。バルハラの街中に小さな宿屋が一つあったと思うが」

「そうですか。分かりました。どうも失礼しました」

「これから若い娘二人でバルハラまで行くのかね? バルハラの旅館も小さな宿だから予約で埋まっているかも知れんぞ」

「ああ、そうですね。その旅館の電話番号まではご存じではないですよね?」

「さすがにそこまでは知らんな」

「ネットで番号検索をしてみよう」

「そうですね」

 しかし、シャミルもキャミルもその情報端末はネットにつなげることができなかった。本人認証ができなかったからだ。情報端末は、時計とプリペイド機能が使えるだけになっていた。

「お前さん方、情報端末も使えんのに、宿の予約もせずに来たのか? どんだけ行き当たりばったりなんじゃ」

「……すみません」

 思わず謝ってしまったシャミルとキャミルだった。

「家まで帰ると、検索できるぞい。一緒に来るか? すぐそこじゃが」

「よろしいですか? それではご厚意に甘えさせていただきます」

「ついて来なされ」

 そう言うと、男性は女の子の手を引いて、ゆっくりと歩き出した。シャミルとキャミルもすぐその後を追った。

「お孫さんですか?」

 シャミルが訊いた。

「そうじゃよ。毎日、遺跡の調査をしているわしに、飯時めしどきを知らせてくれる天使じゃ」

 男性はつないでいた手をいったん離して、女の子の頭をでた。

「アリシアちゃんって言うの?」

 シャミルは背をかがめながら、女の子に話し掛けた。

「うん!」

 女の子も元気に返事をした。

「可愛い名前だね」

「ありがとう。お姉ちゃんは?」

「私は、……シャミルと言うの」

 一瞬、本名を名乗って良いか迷ったが、パーソナルネームだけであれば、問題はないだろうと本名を名乗った。

「シャミルお姉ちゃんね」

「そう。こっちは私の姉妹のキャミルだよ」

「こんばんは。キャミルお姉ちゃん」

「こんばんは」

 キャミルもおだやかな顔でアリシアに返事をした。

「そう言えば、お爺様じいさまのお名前を、まだうかがっていませんでした」

 シャミルが男性に訊くと、男性はむすっとした顔をした。

「誰がジジイじゃ! わしはまだまだ現役の教員じゃぞ!」

「い、いえ。アリシアちゃんのお爺様じいさまという意味です」

「あ、ああ、そう言う意味かの。わしは、サミュエル・デリングじゃ」

「デリングさんですか。教員というと?」

「テラ大学で考古学の教授をしておる」

「大学の先生なんですか?」

「その驚きようは、どういう意味かな?」

「い、いえ、特に意味はありません」

 確かに考古学者のような服装をしていたが、風貌ふうぼうからは隠居いんきょ老人が趣味で遺跡を調査しているかのようにしか思えなかったシャミル達であった。

 デリング博士の自宅は、遺跡の入口から、アリシアの足でも三分ほどの場所にあった。

 煉瓦れんが作りの古ぼけた二階建ての家に入ると、シャミルがデリング博士の書斎しょざいにあったPCを借りて、バルハラの街にある宿屋の電話番号を検索して確認をしてみたが、既に満室だった。

「バルハラの街から百キロ離れたキールという街まで行くとホテルがあるそうなのですが」

 シャミルがデリング博士のPCを借りて検索をした結果がそれであった。

「エア・タクシーで百キロはつらいな」

「そうですね。一時間近く掛かってしまうし、お金も掛かります」

「そうだな」

「お前さん方、何なら、うちに泊まるか?」

 困っていたシャミル達を見かねたのか、デリング博士が声を掛けてくれた。

「えっ、でも……」

「娘の部屋がいておるから、寝る場所はあるぞ」

「本当によろしいのですか?」

「アリシアも喜ぶじゃろう。どうじゃ?」

「お姉ちゃん達、うちに泊まってくれるの?」

 アリシアがうれしそうに訊いてきた。

「泊まって良い?」

「泊まって! 絶対泊まって!」

「キャミル、それじゃ、お世話になりましょうか?」

「そうだな」

「それではお世話になります」

 シャミルとキャミルはそろってデリング博士に頭を下げた。

「やったー!」

 無邪気むじゃきに喜ぶアリシアに思わず眼を細めるシャミルとキャミルであった。


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