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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー06 時空を超えた再会
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Scene:03 タイムスリップ(1)

 シャミルとキャミルの目の前には、「シモンズ骨董店こっとうてん」があった。

「ど、どうなっているんだ? 夢か?」

 戸惑とまどっているキャミルのほほが突然、つねられた。

「痛い! シャミル!」

「夢じゃないみたいですね」

「自分のほっぺたでやれ!」

「えへへ、ごめんなさい。でも、夢じゃないと言うことになると、一瞬のうちに、バルハラ遺跡から私の家まで空間移動をして来たということになりますね」

「ああ、そうなるな」

 シャミルは「シモンズ骨董店こっとうてん」の入口を見つめながら、何か違和感いわかんを覚えていた。店自体は何も変わったところはなかったが、何かが違っていた。

「キャミル。とりあえず家に帰りましょう」

「そうだな。しかし、こんな時間に帰ったら、シャミルの母上もびっくりされるだろうな」

 今の時間は、バルハラ遺跡にいた時間とほぼ同じ午後二時。バルハラ遺跡に寄らず、空港からとんぼ返りで帰って来れば、帰れなくはない時間帯だ。

「きっと、この時間帯だと、母上は店にいるはずです。お店に入りましょう」

 シャミルとキャミルは通りを横切って、シモンズ骨董店こっとうてんに入った。

「いらっしゃいませ」

 聞き慣れた母親の声がシャミル達を出迎えてくれた。自分達を客と勘違いしたのだろう。

 骨董店こっとうてんと言っても、高級で良質な品をそろえていることで有名なシモンズ骨董店こっとうてんの店内には、美術品と言って良い品物が所狭ところせましと陳列ちんれつされていた。

 その店の奥まった所にあるカウンターの中にいた母親が立ち上がった。

「何か、お探しですか?」

 シャミルとキャミルは店の入口で固まってしまった。そこにいたのはまぎれもなく母親だと分かったが、雰囲気が全然、違っていた。

 プラチナブロンドの長い髪をアップにしておらず、シャミルと同じようにらしたままで、眼鏡めがね常日頃つねひごろ掛けている物よりも丸っこく、少し垢抜あかぬけていない感じがした。そして、元々若いマリアンヌであったが、今、目の前にいるマリアンヌは、シャミルと同じくらいの年代の娘に見えた。そして、何となくお腹が大きくなっているように見えた。

「は、母上?」

 シャミルは思わずつぶやくように話し掛けた。

「はい? お母様とお待ち合わせでも?」

 呆然ぼうぜんとしているシャミルの横にいたキャミルが慌てて弁明をした。

「い、いえ、彼女のひとごとです。気にしないでください」

「そ、そうですか? あなたは軍の士官さんですか? まだお若いようですが」

「は、はい。あ、あの、ここはシモンズ骨董店こっとうてんですよね?」

「そうですよ」

「あ、あなたは、その、……マリアンヌさんですか?」

「はい。私の名前をよくご存じですね?」

「あっ、いや、美人だと、このあたりでは評判の方ですから」

「……それで何のご用でしょうか?」

 自分の名前を知っていた、骨董品こっとうひんにはえんがなさそうな若い二人に、マリアンヌの疑惑の眼差まなざしがそそがれた。

「い、いえ、また今度、出直してきます!」

 キャミルは、相変あいかわらず呆然ぼうぜんとしていたシャミルの手を引っ張って、店から出た。

 通りの反対側の歩道まで来ると、キャミルはシャミルの両肩を揺すって声を掛けた。

「シャミル! しっかりしろ! まあ、気持ちは分かるが……」

「キャミル、今の一体? 母上に一体、何があったのでしょう?」

「いや、シャミルの母上に何かがあったのではなく、我々の方に何かがあったんだろう」

 キャミルは自分の左腕にはめている情報端末を操作してカレンダーを確認した。

「やっぱり……。シャミル、これを見てみろ」

 シャミルは、自分の顔の前に差し出されたキャミルの情報端末の画面を見た。

「銀河暦三百三十四年六月六日午後二時十六分……。三百三十四年!」

「ああ、私達が生まれた年の六月だ」

 シャミルも自分の情報端末を確認してみたが、結果は同じだった。

「まさか、空間だけではなく、時間まで移動したということでしょうか?」

「この結果を見ると、そう考えざるを得ない。今、店にいたのは、シャミルを産む前の母上だったんだ」

 シャミルとキャミルは、銀河暦三百三十四年七月七日生まれであり、まだ母親のお腹の中にいる時期であった。

「タイムスリップ……。でも、どうして?」

「バルハラ遺跡で聞こえた声のせいとしか……」

「そうですね」

 事態を理解したシャミルの頭脳は、すぐに冷静さを取り戻した。

「でも、いつまでもこの時間にいる訳にはいきません。私達がこの時間で何かをするたびに歴史が変わってしまいかねません。早く元の時間に戻らなければ」

「でも、どうやって?」

「もう一度、バルハラ遺跡に行くことしか考えつきません」

「そうだな。しかし、定期便の切符チケットは買えるのか?」

「あっ、どうでしょうか?」

 シャミルは、自分の情報端末からバルハラ行きの定期飛行便の切符チケットの手配をしてみた。しかし、支払い不可能というメッセージが出て実行できなかった。

「私の口座が存在していないんです」

「考えてみれば当然だな。我々はまだこの世に生まれていないんだからな」

「……母上に事情を話して、お金を貸してもらいましょうか?」

「いや、そもそも我々の話を理解してもらうことが無理だと思うし、お母上を混乱させてしまうことになる」

「そうですね。もう一度、母上の前に出て行って、私はあなたの娘ですって言って、信じてもらえる自信はありません」

「それに、できるだけこの時代の人達との接触を避けるようにしないと、さっきシャミルが言ったように、私達がいた未来が変わってしまうおそれもある」

「……キャミル。とりあえず、どこかに座って、ゆっくりと考えましょう」

「そうだな」

「こっちにカフェがあったはずです。私が生まれる前からあったと思いますけど」


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