Scene:02 バルハラ遺跡(1)
シャミルとキャミルは、バルハラという街に行くため、昔、テラで「北欧」と呼ばれていた地域に向かった。
惑星内飛行客船の定期便に乗り、三十分ほどで近くの空港に着くと、レンタル・エアカーをキャミルが運転をして、バルハラという街に向かった。
バルハラという街は、石造りの建物と石畳の通りが残る小さな田舎街だった。
路上の駐車スペースにエアカーを停めたシャミルとキャミルは、しばらく街をぶらついてみたが、通りにはほとんど人はいなかった。
開拓惑星への移住が勧められ、住宅地が潤沢に供給されるようになると、先祖伝来の土地にしがみついて住み続ける必要性が薄くなってきた人々は、同じ惑星の中でも、快適な温帯地域に集中して住むようになり、熱帯や寒帯の地域は、ほとんどの惑星において過疎化が進行しており、惑星テラも例外ではなかった。
シャミルとキャミルは、小さなカフェを見つけると、中に入った。中には客はおらず、初老のマスターが、シャミルとキャミルの座ったテーブルにお冷やを持って来た。
「いらっしゃい」
「こんにちは」
シャミルがいつもどおり笑顔で挨拶をすると、不愛想なマスターも少し強面を崩した。
「こんな田舎の街に何の用だい?」
マスターは軍服姿のキャミルを見ながら訊いてきた。
「あっ、今は休暇中で、私的な旅行です」
「そうなのかい?」
何か面倒なことでも起こるのではないかと心配していたようで、マスターはほっとした表情を浮かべて、シャミル達が注文したコーヒーを作るため、カウンターに戻った。
しばらくして、コーヒーを持って来たマスターにシャミルが訊いた。
「この街は、私達の父親の生まれた街なんですけど、ジョセフ・パレ・クルスという名前に聞き覚えはありませんか?」
「ああ、知ってるよ。あんたら、ジョセフの娘さんだったのかい?」
「は、はい」
すんなりと父親を知っていると言われて、シャミルもキャミルも少し驚いてしまった。
「ジョセフは飛び級で高校を卒業して、アスガルドの学校も首席で卒業した天才だったから、この小さな街では神童と呼ばれて有名人だったからね」
「まるでシャミルじゃないか。あっ、いや、逆だ。シャミルが父親と同じ経歴を歩んできたということだな」
「そ、そうですね」
キャミルから小さな声で言われて、何だか少し照れてしまったシャミルは、マスターに続けて質問をした。
「私達の父親の家はご存じですか?」
「もちろん知っているが、もう無いよ」
「えっ?」
「ジョセフは軍に入ってから、もうこの街には帰って来なかったし、その後すぐに両親も引き取ったようで、誰も住まなくなった実家は取り壊されてしまって、今は公園になっているはずだ」
「あの、マスター、すみません。今、『ジョセフは軍に入った』とおっしゃいましたか?」
「ああ、第二士官学校を首席で卒業して惑星軍の士官になったと聞いているが……、自分達の父親のことを知らないのかい?」
アスガルドの学校とは、惑星軍の幹部養成大学である第二士官学校のことだったようだ。しかし、父親が軍人だったという話は、母親からも聞いたことはない二人は、戸惑ってしまった。
「父上は探検家をしていたはずなんです」
「そうなのかい? まあ、儂も軍に入った後のことは知らないから、退役して探検家になったのかもしれないのう」
「そうですか。……どうも、ありがとうございました」
「ごゆっくり」
マスターがカウンターに戻ると、キャミルがシャミルに訊いてきた。
「どういうことなんだ? メルザが言っていたことも嘘だったのか?」
海賊メルザは、ジョセフと一緒に探検家をしていたと言っていた。
「いえ、海賊が言うことを信じるのは変かもしれませんが、メルザさんが嘘を言っていたようには思えません」
「軍人でありながら、探検家をしていたとでも言うのか?」
「……分かりません。とりあえず、父上の実家があったという場所まで行ってみましょう」




