Scene:09 グロッティ・ロースト
その約一か月後。
サリド商会は実体のない商会だということが判明したため、連邦の司法当局から解散命令が出され、サリド商会に帰属していた特許や各財産権は競売にかけられた。
惑星ハーナルの優先利用権は、シャミルの頼みを二つ返事で引き受けたハシムが取得した。そして、シャミルの意向を汲んで、今後、五年間は惑星開発を先延ばしすることを約束してくれた。
アリスは、その家の近くに埋葬された。その家来達は連邦軍により没収され、破壊された。また、アリスの家も破壊される予定だったが、優先利用権を取得したハシムが軍当局に嘆願をして、歴史的なサリド事件の遺跡として、そのまま残すことが許された。ハシムも、将来はそこを観光名所として売り出す腹づもりがあったようだ。
――そして、時計を再び、事件の翌日に戻して。
シャミルとキャミル、そしてそれぞれの副官は、惑星ピクルの繁華街にある食堂にいた。
「そのグロッティ・ローストというのが本当に美味しかったので、ぜひ、キャミルにも食べてもらいたいって思って」
六人掛けのテーブルにシャミルとキャミル、そして二人のそれぞれの副官達が座って、グロッティ・ローストのできあがりを待っていた。カーラとサーニャは、キャミルがどんな反応をするか楽しみのようで、にやけた顔で座っていた。
シャミルとキャミルの情報端末が同時に反応した。二人が揃って画面を見てみると、メルザからのメールだった。
『今回も残念ながらリンドブルムアイズにたどり着くヒントを見つけることができなかったけど、シャミルさんの側にいることができて楽しかったよ。キャミルさんとの決着はそのうちに着けさせてもらうからね。また会いたいね』
「くそ! いつか捕まえてみせるぞ!」
キャミルが悔しがったが、シャミルは違った思いを抱いていた。
「キャミル」
「うん?」
「キャミルは、メルザさんが近くにいて、どうでした?」
「どうでした……とは?」
「メルザさんが極悪非道の海賊だということも分かっているのですけど、メルザさんが近くにいても、何と言うか、……私は嫌な気分にならないんです」
「私には、よく分からないが……」
「メルザさんも父上の側にいた方ですから、私達と何らかのつながりがある人なのかも知れませんね」
「だが、海賊だ。私はいつかメルザを捕らえなければいけないんだ!」
「そうですね」
キャミルは、まだ、シャミルほどメルザと濃密な接触をしていないことから、シャミルのメルザに対する感覚が分からないのかもしれなかった。
シャミルは、また連邦宇宙軍士官の顔つきになっているキャミルを見て、少し虐めたくなった。
「ところで、キャミルは、虫は好きですか?」
「何だ、突然? ……まあ、そうだな。あまり飼いたいとも思わないが」
「シャミルさん、おそらく、艦長の唯一の弱点だと思いますよ」
ビクトーレが笑いながら声を潜めて言った。
「ビ、ビクトーレ! そ、そんな弱点と言われるほどのことはないぞ!」
そう言いながらも、キャミルは顔は明らかにびびっていた。
「怖がっているキャミルの顔も見てみたいですもの。絶対、可愛いと思うから」
「おい! 可愛いというのはよせ!」
「だって、可愛いんだもん」
「だから、私は戦艦の艦長をしていて……」
そこにちょうど、店主が前回と同じくドームカバーをかぶせた大皿を運んで来て、テーブルの上に置いた。
「キャミル! そのドームカバーをはずしてみてください」
「これか?」
キャミルの小さな悲鳴が響いた。




