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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー05 機械人形の国のアリス
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Scene:08 二百年前の亡霊(2)

「シャミル!」

 その声ですぐに目を開けたシャミルは、大広間の入口に立っているキャミルとメルザを見た。

 アリスも突然現れた二人を注視ちゅうしし、シャミルを突き刺そうとしたロボット兵士の動きも止まった。

「キャミル!」

 思わず叫んだシャミルにアリスが訊いた。

「あの赤い髪の人もシャミルちゃんの知り合い?」

「ええ、姉妹よ」

「姉妹?」

「そう、彼女と私には同じ血が流れているの」

「血? 血って何?」

「同じ運命を背負って生きるあかしよ」

「……よく分からない。でもシャミルちゃんを私の友達にする邪魔はさせない」

 キャミルが、アリス達がいる玉座ぎょくざに向けて突進をすると、大広間にいたロボット兵士達が一斉に襲い掛かって来た。

「キャミルさん! ここは私が引き受けたよ! 早くシャミルさんの元に!」

「分かった!」

 キャミルに襲い掛かって来るロボット兵士をメルザが次から次になぎ倒していくと、一瞬、ロボット兵士達の群れの中に一筋の隙間すきまができ、シャミルを見通せるようになった。

「シャミルちゃん、早くアリスと一緒になって」

 キャミルとメルザの存在が見えていないかのように、アリスが再びシャミルに言うと、それまで止まっていたロボット兵士のスイッチが入ったように、再びその剣でシャミルを突き刺そうとした。

 ――その時!

 軌跡を残しながら飛んで来た青い光がアリスの胸に突き刺さった!

 キャミルが咄嗟とっさのところで投げつけたエペ・クレールがアリスの胸をそのまま貫通して光のを描きながらキャミルの手元に戻っていった。

 アリスはシャミルの方を見ながら、ゆっくりと崩れるように倒れた。

 シャミルを剣で突き刺そうとしたロボット兵士を始め、大広間の中にいるロボット兵士全員の動きが止まった。ステージの後ろでは、予想だにしていなかったこの事態の打開策をはじき出そうとしているようで、大臣がスクリーンに次々に幾何学模様きかがくもようを表示させていたが、結論はでなかったようだ。

「アリスちゃん!」

 シャミルは、倒れたアリスに走り寄ってひざまづき、アリスの上半身を抱き上げた。

「アリスちゃん! アリスちゃん!」

 シャミルの必死の叫びに、アリスの目が弱々しく開いた。

「……シャミルちゃん。もっと、シャミルちゃんと遊びたかったの」

「うん。……ま、また鬼ごっこをしようか?」

「私、鬼ごっこ……大好き」

「うん。分かってる。分かってるから……」

「……今度は、シャミルちゃんが……鬼だよ。シャ……ミ……ル……………ちゃ………………」

 アリスの目は焦点しょうてんが定まらない位置で止まり、ただのガラス玉のような色になった。

「アリスちゃん!」

 シャミルは動かなくなったアリスの体を抱きしめて、とどめなく涙を流した。

「アリスちゃん! ……アリスちゃん」

「シャミル」

 キャミルがシャミルのそばに近寄り、ひざまづいて、シャミルに話し掛けた。

「許してくれ。シャミル。……こうするしかなかったんだ。アリスを……生かしておく訳にはいかなったんだ」

「……分かってます。キャミルを責めている訳ではありません。アリスちゃんを生み出したサリド博士のことを怒ってます」

「……シャミル」

「自分のなぐさめのためだけに、アリスちゃんを作って、自分が死んだ後、アリスちゃんがどんなにさびしい想いをするのか考えなかったのでしょうか? 親なら、自分が死んだ後も、ちゃんと子供がさびしい想いをしないように考えるべきです。永遠の命なんて……残酷です」

「……」

 メルザも二人のそばにやって来た。

「こいつらはもう動作不能になっちまったのかい?」

 メルザがシャミルに剣を突き付けたままの格好で固まっているロボット兵士の頭を自分の剣でコツコツとたたきながら言った。

「このロボット達にとって、アリスちゃんがすべてだったのです。そのアリスちゃんの信号を感じ取れなくなって、混乱状態におちいり、フリーズしてしまったのでしょう」

 そこにカーラとサーニャがやって来た。

「船長!」

 カーラとサーニャが一目散いちもくさんにステージに駆け上がってきたが、シャミルの悲しげな顔つきに足が止まった。

「船長! 大丈夫かい?」

「ええ、私は大丈夫です。……カーラ」

「おう?」

「この後ろの壁全体は大きなコンピュータなんです。これがロボット達に新しい命令を出す前に停止させてください」

「わ、分かった」

 カーラは太刀たちを大きく振りかぶって「大臣」に打ち込んだ。太刀たちがめり込んだ箇所からは火花が飛び散り、スクリーンは不規則に点滅した後、暗くなり、動作音も消えた。

「終わりました。二百年近く前の事件が」

 ひざまづいてアリスを抱えたままのシャミルがぽつりとつぶやいた。

「どういうことなんだ、シャミル?」

 シャミルは、アリスが約二百年前に起きたサリド事件の首謀者サリド博士のサイボーグ化された娘であったことや、連邦軍の出動で鎮圧された惑星リリスから抜け出して、この惑星ハーナルまでやって来たことについて話した。

「二百年前の出来事がまだ終息していなかったとは……。しかし、シャミル。この惑星の優先利用権を持っている商会も、サリド商会と言って、実際に、ハシムから合金を仕入れて、この惑星に運び込もうとしていたのも同じ商会だったんだ。どうやら、その商会は特許パテント使用料が収益のほとんどだったらしい」

「そのサリド商会というのは、大臣が実質的に経営していた商会なのでしょう。大臣はロボット兵士などを製造するのに、色々と研究開発もしていたはずで、その技術力をもって、ダミー会社のサリド商会で特許を取り、莫大ばくだいな利益を得ていたのでしょう。それと、たぶん色んな製品の製造もしていたのでしょうね。少なくとも人件費はまったく掛かりませんから、そこからの収益も莫大ばくだいだったと思います」

「その収益で、どんどんと資材を買い入れて、ロボットや戦艦を造っていたんだな」

「そう言えば、アタイらが受けた、この惑星探査の依頼主もサリド商会だったぞ」

 カーラが思い出したことに、キャミルも疑問をていした。

「そのようだな。しかし、こうやって侵入者は徹底的に攻撃するのに、なぜ、その侵入者となる探検家に探査依頼を出していたのだ?」

「アリスちゃんにとって、すべては遊びだったんです」

「遊び?」

「ええ、それほど強力な武装をしていない探検家を誘い込んで、戦闘機で撃墜するのは、アリスちゃんの鬼ごっこだったんです」

「おいおい。そんな危険な遊び方をされたらかなわないぞ」

「ここのロボット達は自律的思考回路を持っているようですが、その行動パターンとしてROMに焼き込まれているのは、アリスちゃんへの絶対的忠誠心です。アリスちゃんが『家来』と言ったロボット達は、アリスちゃんが一番喜びそうなことを自分の頭で考えて、それを実行していたのです。そして、それに統一的な指示を出していたのが『大臣』と呼ばれていた、後ろにあるコンピュータだったのです」

「趣味が悪いぜ」

「だって、ここには道徳や倫理を教えるヒューマノイドがいないのですから」

「しかし、どうしてシャミルだけを、アリスは友達だと決めたんだろう?」

「裏表のないシャミルさんの清らかな心を感じ取ったんだろうね。嘘どころか建前たてまえを取りつくろうこともしないシャミルさんの心が、唯一、理解できたんだろう」

 それまで黙って話を聞いていたメルザがキャミルの疑問に答えた。

 自分もそう思っていたが、他人のメルザにシャミルのことを正しく答えられて、少し腹を立てたキャミルは、メルザが海賊だったことを思い出した。


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