Scene:03 惑星ハーナル上空(5)
悔やみかけていたキャミルの頭に、一つの名前が浮かんだ。
「マサムネ。この惑星ハーナルの優先利用権を持っている商会は何と言った?」
「確か、…………サリド商会!」
「自らが優先利用権を有する惑星に、強力な戦闘力を持つ護衛艦を付けて物資を運び入れているということか? だが、そうだとすると、なぜ探検家達に探査を依頼しているんだ?」
「物資を運び入れるところを邪魔されたくないくせに、自ら探検家を呼んでおいて、行方不明にさせている。……意味不明ですな」
「とにかく、アルスヴィッドに戻ろう。この人型機械人形も持って行く。調べると何か分かるかも知れない」
「了解。撤収! この野郎を運び出せ!」
三人の兵士が、固まったままの人型機械人形の頭と胴体と足先を持ち上げた時、アルスヴィッドにいるビクトーレから連絡があった。
「惑星ハーナルから飛行物体多数が急速接近中! すぐに帰還してください!」
「急げ! 敵が来ているぞ! マサムネ、先頭を行け!」
「しかし……」
「早く行け!」
「はっ! みんな、急げ!」
マサムネが先頭となって、人型機械人形を抱えた兵士を含め十名の兵士達が小走りに搭乗ゲートまで戻り、乗り込みチューブを通ってアルスヴィッドに戻ろうとした。
キャミルは自らしんがりを務めて、一番、最後に乗り込みチューブに入った。
しかし、既に戦闘機の大編隊がアルスヴィッドに迫って来た。キャミル達の肉眼で見えるほど高速で近づいて来た戦闘機達はアルスヴィッドの周りを蠅のように飛び回りながら、ミサイルやビーム砲を浴びせてきた。
ビクトーレの指示で、アルスヴィッドの艦載機もスクランブル発進して、アルスヴィッドの周りで戦闘機同士の空中戦が繰り広げられていた。
輸送船と接舷しており、まだキャミル達が帰還していないアルスヴィッドは身動きが出来ない状態であった。敵戦闘機の攻撃で損傷することはなかったが、着弾するたびに大きく船体が揺れ、乗り込みチューブ内のキャミル達も足元を取られ、なかなかアルスヴィッドまで到達できなかった。
先頭のマサムネがなんとかアルスヴィッドの搭乗ゲートまで到達した後、人型機械人形を抱えた兵士を含め、兵士達が全員、搭乗ゲート内に戻った。
最後にキャミルがゲート内に移ろうとした時、敵戦闘機の放ったビーム砲が乗り込みチューブを直撃して、チューブが真ん中で切断され、大きく揺れると、まだチューブ内にいたキャミルがチューブの外の宇宙空間に放り出されてしまった。しかし、大きく揺れたことが幸いして、キャミルは遠くに放り投げられることなく、全身をゆっくりと回転させながら、アルスヴィッドから徐々に遠ざかっていた。
「チューブを切り離せ!」
百戦錬磨のマサムネは冷静だった。
すぐにチューブを搭乗ゲートから切り離させ、宇宙服の腰に命綱を付け、その先端を部下に渡すと、躊躇無く、ゲートの床を蹴って、宇宙空間に飛び出した。そして、背負った反重力グライダーに補助として付いている推進バーナーを噴射させて、すぐ近くで戦闘機同士の空中戦が繰り広げられている中で、マサムネは宇宙空間を泳ぐようにしてキャミルに向かった。
一方のキャミルも冷静であった。推進バーナーをこまめに噴射させて、回転を止めると、アルスヴィッドの方向にゆっくりと向かいだした。
もう少しでマサムネの伸ばした手を握るところまで近づいたキャミルに敵戦闘機が迫って来た。しかし、味方の艦載機がその後ろから敵戦闘機を砲撃すると、敵戦闘機は爆発して大破した。
その爆風でキャミルとマサムネは飛ばされそうになったが、すんでのところでマサムネがキャミルの手を握ることが出来た。
マサムネが合図をすると、搭乗ゲートにいた兵士達が全員でマサムネの命綱を引っ張り、キャミルとマサムネを搭乗ゲートまで引っ張り上げることに成功した。
すぐに搭乗ゲートの外壁を締めて、密閉室に空気を満たしてから、内壁のドアを開けると、宇宙服のヘルメットを脱いだキャミルがマサムネに礼を言った。
「マサムネ、ありがとう。お陰で助かった」
「いえ、艦長であろうと、部下であろうと、私は同じ行動を取りました」
マサムネなりの照れもあったと思われるが、マサムネは表情を変えなかった。そして、その言葉は真実でもあった。
「そうだな。よし! 至急、艦橋に戻る!」
キャミルとマサムネが艦橋に戻ると、ビクトーレがほっとしたような顔をして、二人を出迎えた。
「艦長。ご無事で何よりです」
「うむ。敵機は?」
「おおむね百機はいるかと」
「そんな大編隊がどこから?」
「惑星ハーナルから飛んで来ました」
「やはり、そうか。……戦況は?」
「まあ、牛が蠅にたかられているような状況で、損害は出ていませんが、とにかく鬱陶しいですな。艦載機と砲撃手達には良い訓練になるでしょう」
戦闘機ごときの攻撃ではびくともしないギャラクシー級戦艦のアルスヴィッドのレーザー砲撃と味方の艦載機の攻撃で敵戦闘機はみるみると撃墜されており、キャミルも安堵しかけたその時、索敵係の声が艦橋に響いた。
「新たな飛行物体をキャッチしました! 今度はかなり大物のようです!」
「大物とは?」
「レーダーの反響範囲から言うと、……当艦の五倍の大きさがある模様!」
「何! そんな大きさの船は連邦艦隊にも存在しないぞ!」
連邦艦隊でも最大の戦艦は、黄道十二師団の旗艦として配備されているコスモス級戦艦だが、それでもギャラクシー級戦艦であるアルスヴィッドの一.五倍程度である。
想像を絶した巨艦がアルスヴィッドに迫って来ていた。




