Scene:03 惑星ハーナル上空(2)
「そうだな。ビクトーレの言うとおり、シャミルのことだから、そのうち、飄々と通信してくるかもしれないな」
キャミル自身も、少し穏やかに顔つきになっているのが分かった。
「しかし、このままでは埒があかない。どうにかして、あの惑星に着陸できないものか」
キャミルが腕組みをして、しばらく思案をしていると、索敵担当が声を上げた。
「二十−三十三−六十七に飛行物体! 複数個います! こちらに接近中!」
「何! この未探査空域に艦隊が? ……船籍情報を尋ねろ!」
通信士がヴァルプニール通信システムを使って、その艦隊に船籍情報について問い掛けたが返答はなかった。
そうしているうちにも、その艦隊はどんどんと近づいて来て、モニター撮影の限界内に到達した。
アルスヴィッドの艦橋モニターに映し出されたのは、巨大な輸送船らしき卵形の船一隻と、その周りに張り付くように進んでいる立方体の戦闘艦五隻の艦隊であった。
「商船とその護衛船団のようですな。しかし、どこに向かっているのでしょうか?」
マサムネの疑問はもっともだった。この空域から先は連邦の領域外であるばかりではなく、まだ誰も足を踏み入れたことのない未探査空域が広がっているのであるから、連邦の商船が向かうべき場所はないはずだからだ。
「そうだな。それに護衛船団の戦闘艦は、……かなりの攻撃力を有しているようだ。よく許可されたな」
銀河連邦においては、軍事力の所持は原則、連邦軍にのみ認められており、例外として、各連邦構成国の警察、許可を受けた探検家や護衛業者が一定範囲の武器や戦闘艦を所持することが許されていた。
例えば、アルヴァック号に最小限のレーザー砲が搭載されていることや、シャミルやカーラが剣などを持ち歩けるのも、どんな危険が待っているのか分からない場所に出向かなければならない探検家にとって、自己防衛のために必要であるとの理由で認められているのである。
商人達も許可さえ取れば、自らの商船を武装させることもできるが、いかに安い費用で大量の商品を運搬するかが至上命令である商人にとって、自らの商船を武装させて、そのための要員を常に確保しておくことはコスト的に見合わないことが多く、危険な空域を通る時のみ、民間護衛業者の戦闘艦に護衛を依頼することがほとんどであった。
そして、本来的にはその存在が許されない海賊船は、武器の調達や整備が大っぴらに出来る訳ではないので、連邦艦隊の戦闘艦ほどの攻撃力を持つ船はほとんど無く、当然、それに対する護衛業者の護衛艦も、それに見合うだけの攻撃力があれば足りることから、戦艦、巡洋艦そして駆逐艦といった連邦艦隊の戦闘艦のレベルを超える攻撃能力を持つ民間護衛艦の製造や運行が許可されることは通常なかった。
しかし、今、アルスヴィッドの艦橋モニターに映っている五隻の戦闘艦は全長が千メートルほどで、連邦宇宙軍の軽駆逐艦ほどの大きさがあり、搭載されている砲門からも、それと同等以上の攻撃力を有していることが明らかだった。
「いえ、あんな戦闘艦が許可される訳がありません。返答がないことからも違法な戦闘艦であることは明らかでしょう」
ビクトーレがキャミルの問いに答えた。
「確かに。もう一度、警告とともに船籍情報を問い合わせろ!」
「こちら連邦宇宙軍第七十七師団所属戦艦アルスヴィッド! 警告する! 当艦は軍事行動中である! 貴艦隊の船籍情報を報告されたい! 報告無き時は敵対行為とみなす! 繰り返し警告する! 貴艦隊の船籍情報を報告されたい! 報告無き時は敵対行為とみなす!」
通信士が再度、問い合わせたが、まったく回答はなかった。
「艦長、どうしますか?」
「打って出ますか?」
副官席のマサムネとビクトーレがキャミルの方を振り向きながら訊いた。
「奴らは進路も変えずに、真っ直ぐこの惑星ハーナルに向かって来ているようだ。奴らの目的地がこの惑星なのかどうかを見極めてからでも遅くはなかろう。ならば、ここで待つ。しかし、進路を変えたようなら、直ちに追撃する」
「了解!」
しかし、護送船団は向きを変えることなく、惑星ハーナルに近づいて来て、まもなくアルスヴィッドの射程範囲内に入ろうとしていた。
「再度、警告をしろ!」
通信士が再度、警告とともに船籍情報の報告を求めたが、返答はなく、代わりに戦闘艦からレーザー砲が撃ち込まれてきた。




