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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー05 機械人形の国のアリス
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Scene:03 惑星ハーナル上空(1)

 キャミルは、アルスヴィッド艦橋かんきょうの艦長席に座って、目の前のモニターに映し出されている惑星ハーナルを、ただ見つめていることしかできなかった。

 と言うのも、商人が優先利用権を有しているが、まだ移住者がいない惑星は、そもそも連邦軍として保護すべき連邦市民がいないのであるから、その惑星に降り立つべき緊急の理由がない以上、連邦軍の艦船は、その商人の許可なく、その惑星に降り立つことはできないからだ。

 そして、連邦軍の艦船に未探査の惑星に着陸されると、その惑星探査に宇宙軍の助けを借りたものとみなされ、その惑星の独占利用期間が半減させられてしまうことから、惑星ハーナルのような未探査の惑星については、差し迫った危険が明らかにならないうちには、商人も着陸許可を出すことはほとんど無かった。

 ヴァルプニール通信システムに着信があった。キャミルが待ち望んでいた相手からの連絡であった。しかし、その内容は通信士の落胆らくたんしたような顔つきを見れば、聞かずとも明らかだった。

「残念ながら許可できないということです。具体的な危険は見つかっていないし、現在、その危険の確認を探検家にさせているところであるからということだそうです」

 通信士が申し訳なさそうな顔を艦長席の方に向けて言った。

 キャミルは、惑星ハーナルの優先利用権を持つ商人に着陸の許可を申請していたが、あっさりと断られてしまったのだ。

「今現在、シャミルが依頼を受けて探査をしている。しかし、そのシャミルからの音信が不通になっているんだぞ。なぜ許可しない?」

 キャミルはひとごとのように愚痴ぐちった。

「また次の探検家を派遣するつもりでしょうな。その受け手がなければ、初めて軍に調査を頼むことを考えるでしょう」

「探検家は消耗品ではないぞ!」

 マサムネの冷静な分析に、シャミルのことが心配で居ても立ってもいられないキャミルは思わず言い返してしまった。

「……すまん、マサムネ。君に怒っても仕方がなかったな」

「艦長のお気持ちは分かります」

 マサムネもいつものポーカーフェイスで答えた。

「艦長」

 もう一人の副官であるビクトーレがニコニコと笑いながら振り向いた。

「シャミルさんのことだ。心配いらないですよ」

 まったく根拠のないなぐさめの言葉だったが、ビクトーレの性格がにじみ出ていることを感じ取ったキャミルは、それだけで少し心がやわららいだ気がした。

 士官学校の卒業生は、通常、卒業とともに、少尉に任官されるが、キャミルはその成績が過去に例を見ないほど抜群に優秀だったとして、特例的に中尉に任官された。その後も、大きな戦功を立て続けに上げ、わずか一年で二階級昇進して、少佐に任じられると同時に、アルスヴィッド艦長を命ぜられた。ギャラクシー級戦艦の艦長は、最低でも大佐でないとなれないポストで、抜擢ばってき人事なのは明らかだった。

 既にアルスヴィッドの副艦長であったマサムネとビクトーレの二人も、最初は、十代の少女であるキャミルを上司としていただくことに反発を覚えた。二人とも士官学校を出てはいたが、世渡りがうまいわけではなく、たたき上げの軍人として戦いの日々をくぐり抜けてきたマサムネとビクトーレにとって、ある意味、屈辱でもあった。

 しかし、キャミルは、戦艦の指揮でも白兵戦でも先頭に立って戦闘に身を投じ、また剣の腕前も、それまで負けることを知らなかったマサムネの剣をはじき飛ばした最初で最後の軍人であった。

 そんなキャミルの人となりに触れていくに従って、マサムネとビクトーレはキャミルにれ込んでいき、今ではキャミル以外の上司の下では働きたくないと、第七十七師団司令のロバートソン少将に直訴じきそしているほどであった。

 その昔、テラで「日本」と呼ばれた地区で、「オサダ流剣術」という伝統的な刀剣術とうけんじゅつ伝承でんしょうしている家系の生まれであるマサムネは、日本刀と呼ばれる刀剣をコレクトしており、女性には興味がないのではないかという噂が飛び交っているほどの超真面目人間で、謹厳実直きんげんじっちょくかつストイックな性格をしていた。しかし、自らに厳しいその態度により、いつでも命を差し出す覚悟がないとつとまらない白兵部隊の兵士達からの絶対的信頼を得ていた。

 一方、スクルド族のビクトーレは、妻子持ちであったが、時々、浮気をしているのではないかという噂もあり、夫婦喧嘩もレクレーションだと言い張るほどの軽い男であったが、その憎めないキャラで、アルスヴィッドの艦橋に時折張り詰める緊張感をいつもほぐしていた。

 この二人にとって、自分の娘と言ってもそれほどおかしくない年代のキャミルは、もはや、絶対不可侵ぜったいふかしんで、かつ、命に替えても守るべき女神のような存在になっていた。


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