Scene:02 惑星ハーナルからの刺客(4)
「フェンリスヴォルフ号の修理は、一日もあれば終わるはずだ。しかし、修理が終わって飛び立ったとしても、宇宙空間に出る前に、また、さっきの戦闘機の編隊が襲って来ることは、ほぼ確実だろう。あれだけの数の戦闘機が相手じゃ、さすがのフェンリスヴォルフ号もこの惑星から脱出できることはままならないだろうね」
「メルザさん。私もそう思います。何かしらの対策を打った上ではないと、この惑星から抜け出すのは無理だと思います」
「そうだね。それで、シャミルさんは早速、その『何かしらの対策』って奴を思いついたのかい?」
「残念ながら、まだ……。ただ、……」
「ただ?」
「この惑星から脱出するためには、心外ですが、メルザさんと力を合わせる必要があると言うことだけは確実でしょう」
「そうだね。私は、シャミルさんと一緒に行動できるのはうれしいけどね。それじゃあ、この惑星から脱出するために、協力を約束し合おうじゃないか」
メルザは、シャミルに近づくと、右手を差し出してきた。
「この惑星を脱出するまでは」
シャミルもその右手で、メルザの右手をしっかりと握った。
シャミルはすぐにその手を離したが、メルザは少し名残惜しそうに自分の右手を自分の頬に当てた。
「シャミルさんの手は小さくて暖かいねえ。ずっと手をつないでいてあげたいよ」
「私は一人で立てますし、一人で歩けます」
「つれないねえ」
メルザは本当に残念そうにシャミルを見つめたが、すぐに海賊のボスの顔つきに戻った。
「さて、まずは何をするかねえ?」
「まず、相手のことを知りたいですね。そもそも、あの戦闘機がどういう相手なのかもよく分かりませんし」
「そうだね。これまでこの惑星に降り立った探検家達が行方不明になった原因は、あいつらなんだろうけど、誰が、何の目的で、あんなに大量の戦闘機を所持しているのかが、まったく分からないね」
「どうにかして調べられないでしょうか?」
シャミルの問いにカーラが駄目出しをした。
「でも、船長。相手のことを調べるって言ってもどうするんだい? 空を飛べないとなると、行動範囲は限られてしまうぞ」
「そうですね」
「フェンリスヴォルフ号に、小型のエアカーを二台搭載しているよ。奪った戦利品をアジトまで運ぶためのものだが、とりあえず一台に四人は乗れる。使うんなら一台貸すよ」
「ほう、海賊メルザのアジトがどこなのか、知りたいな」
カーラが皮肉ぽく言ったが、メルザは冷笑を返しただけだった。
「シャミルさん。どうする? とりあえず、地上からこの周辺を洗ってみるかい?」
「そうですね。ここにずっと居たとしても事態が打開できる訳でもないですから。それではお借りします」
「そうしよう。それと緊急の時以外は通信をしないことだ。だから、時間を決めて、ここにまた戻るようにしよう。私達とシャミルさん達とで、それぞれ別の方向を調べてみるかい?」
「そうですね。危険への対応を考えたなら、一緒に行動する方が良いですけど、五里霧中の今の状態では、できるだけ広い範囲を探索した方が良いでしょう」
「よし。決まりだね。一応、緊急の時のために、シャミルさんの通信端末と通話ができるようにセットしとくれよ」
メルザが、手首に情報端末をはめこんでいる左腕をシャミルの方に差し出した。
シャミルも左腕を伸ばして、自分の情報端末をメルザの情報端末と合わせた。
「まさか、海賊さんと通信コードナンバーの交換をすることになるとは思いませんでした」
「これで、ここから無事脱出したら、いつでもシャミルさんにラブコールができるねえ」
「たぶん、お返事はしないと思います」
「ふふふふ。シャミルさんから、そんなにはっきりと突き放されるようなことを言われちゃうと、何かゾクゾクしちゃうね。私もひょっとしたら、マゾっ気があるのかもしれないねえ」
「し、知りません!」
メルザのセクシャル攻撃に、さすがのシャミルも少し照れてしまった。
「ふふふふ。……よし、これでOKだよ。ああ、そうだ。ラブコールと言えば、キャミルさんには知らせているのかい?」
「メルザさんがこの空域にいることは伝えましたら、きっと来ているはずです。でも、もう連絡できなくなりました」
「そうだね」
「でも、キャミルも私がこの惑星の探査に行くということは知っていますから、私から連絡がなければ、キャミルもここに来てくれるかも知れません」
「ギャラクシー級戦艦であれば、あんな戦闘機ごときイチコロなんだろうけどね」
「……はい」
その時、また、戦闘機達が飛んで来ている音がした。
シャミル達が空を見上げてみると、まもなく、戦闘機達の大編隊が上空を飛び去って行った。
「まだ、アタイ達を探しているのか?」
「いいえ、私達を探しているというよりは、上空に向かっているみたいですね」
シャミルが言ったとおり、戦闘機達は尾翼を見せながら、その姿も、キーンと言う飛行音も次第に小さくなっていった。
戦闘機の大編隊が飛び去った後、今度は低く唸るような音が聞こえた。
間もなく、樹木の間から漏れていた木漏れ日すら遮られて、シャミル達の立っている場所がすっぽりと大きな影の中に入った。
見上げると、巨大な飛行物体が空を覆っていた。
「何だい、ありゃあ?」
「連邦艦隊の戦艦よりもかなり大きいですね」
「奴ら、戦闘機だけじゃなくて、あんなにでかい船まで持ってやがったのか!」
「まるで、この惑星は、……一つの国のようですね」
戦艦らしき船影も次第に小さくなっていった。どうやら戦闘機達の後を追って、上空に向かっているようであった。




