Scene:02 惑星ハーナルからの刺客(2)
四方からやって来ていた戦闘機達が既に上昇を始めており、進行方向である上空から迫る戦闘機達と併せて、アルヴァック号は全方位から囲まれてしまった。
しかし、このような危機的状況に陥った時にも、冷静に打開策の指示をすることができるのが、全乗組員から信頼されているシャミルだった。
「相手の数は多いですが、スピードはアルヴァック号より劣っています。この速度差を生かして正面突破をします! 全員、対ショック防御を!」
艦橋スタッフ全員がそれぞれの椅子に深く座り直ると、自動でシートベルトが体を固定した。
「〇三−四十五−二十に転進! 相手の間をすり抜けます!」
アルヴァック号は最初に探知された二機が上昇して来ている方向に機首を下げた。一番、数が少ない戦闘機と遭遇して、そのまま、すり抜けようという作戦だ。
艦橋の前面モニターに真正面から迫って来る戦闘機二機が映し出された。
「こちらは連邦公認探査船アルヴァック号です。何ら敵対するものではありません。そのまま通過します」
ヴァルプニール通信システムで、再度、シャミルが通告したが、前方から迫り来る二機からは、返事はおろか警告すらもなく、いきなりビーム砲が放たれた。
ビームはすんでのところでアルヴァック号の近くを通り抜けていった。
「カーラ! こちらも砲撃を!」
「了解!」
アルヴァック号にもビーム砲が搭載されているが、戦闘機二機の相手をするには威力不足であった。しかし、当たれば儲けもので、そうでなくとも、敵を攪乱することはできるはずである。
カーラが狙いを付けてビーム砲を放ったが、最大速度はアルヴァック号に負けている戦闘機達も相当な運動能力を持っているようで、素早く機体を揺らして、そのビームをかわした。
「〇三−四十七−十九に微転進!」
肉眼でも相手機が見える距離にまで近づいてから、シャミルは少しだけ舵を切るように指示をした。それまで艦橋モニター上で真正面に並んで見えていた戦闘機達が少し画面の端に寄るように見えた瞬間、アルヴァック号はその二機の戦闘機達とすれ違った。
「ざまあみやがれ!」
映るモニターが後方モニターに変わった敵機二機を見ながら、カーラが雄叫びを上げた。
しかし、その二機は、急速旋回をすると、アルヴァック号を再び追尾しだした。
「何て角度で旋回しやがるんだ! あれじゃあ、中のパイロットはぺちゃんこだぞ!」
カーラの言うとおり、二機の戦闘機達が取った旋回半径だと、ものすごいGが掛かってパイロットの命が危ないレベルだった。しかし、戦闘機二機は、そのようなことはまったく感じさせずに追尾を続けて来た。
「無人機かもしれませんね」
「しかし、無人機だとすれば、頭が良すぎだ」
どこかで遠隔操作をしているとしたら、操縦が正確すぎるし、仮に戦闘機が自分で考えて飛行しているとしたら、その計算速度はかなり高性能のコンピュータ並みであった。
「後方の相手機は飛行範囲を広げつつ追って来ています!」
「広げる?」
包囲網を突破された場合、最短距離を追って来るのが常識であるはずなのに、追って来ている戦闘機達は、まるでアルヴァック号を包み込むように追って来ており、シャミルは相手の考えが読めなかった。しかし、すぐにその疑問は氷解した。
「前方から新たな飛行物体! その数、…………約百個!」
索敵係の悲鳴に似た声が響く。
「百個だあ!」
カーラの叫びが艦橋スタッフ全員が襲われた衝撃を代弁していた。
「かなりの広範囲に編隊を広げてきています」
「どうする、船長?」
アルヴァック号は再び戦闘機の群れに囲まれてしまった。それも合計で百六十機以上という大編隊である。
さすがのシャミルも顔色を失っていた。まさか空母搭載機並みの数の戦闘機に襲われるとは思ってもいなかったからだ。
シャミルがその対応策を考えつく前に、また索敵係が叫んだ。
「上空から更に一個の飛行物体! かなりの速度で近づいて来ています!」
「上からもか!」
「上からの飛行物体だけ異様に速度が速いです! エネルギー照射を探知! 上からの飛行物体がレーザー砲撃を行った模様!」
しかし、そのレーザービームはアルヴァック号には届かなかった。
「戦闘機を攻撃しているようです! 上から迫って来ていた戦闘機の船影がいくつか消滅しました!」
しばらくすると、アルヴァック号の艦橋で上空を映しているモニターに黒い点が見えて来た。そしてそれは、見る見る大きくなって、シャミルも見覚えのある黒い流線型の宇宙船の姿を形作っていった。
「船長、あれは?」
「……フェンリスヴォルフ号。……メルザさんですね」
「こんな時に!」
間もなく、ヴァルプニール通信システムに、記憶も新しい声が聞こえてきた。
「シャミルさん! 一番、敵包囲網が薄い方面を突破するよ!」
「メルザさん。……助けていただけるのですか?」
「シャミルさんとは、また一緒にお茶したいからね。さあ、フェンリスヴォルフ号についといで!」
シャミルは、メルザが伝えてきた方向に転進するように指示を出した。
フェンリスヴォルフ号は、上空からアルヴァック号に追いつくと、地表面に対して水平方向に進路を変えた。アルヴァック号もフェンリスヴォルフ号に追尾するように舵を切った。
前方から十機ほどの敵機が迫って来た。
フェンリスヴォルフ号からビーム砲が放たれた。アルヴァック号よりもかなり大型でビーム砲も数多く搭載しているフェンリスヴォルフ号の攻撃力は、連邦宇宙軍の軽駆逐艦程度の強力なものであった。
真正面の敵機五機をあっという間に撃破したフェンリスヴォルフ号とすぐ後ろに追尾していたアルヴァック号は、そこに開いた包囲網の穴を通って、敵機をやり過ごした。
しかし、まだ百五十機以上の戦闘機が徐々に包囲網を狭めてきており、次の一団がフェンリスヴォルフ号とアルヴァック号に襲い掛かって来た。




