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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー05 機械人形の国のアリス
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Scene:02 惑星ハーナルからの刺客(1)

 この宇宙において、惑星は、銀河の大海原おおうなばらに浮かぶ一粒ひとつぶの砂ほどの存在でしかない。

 連邦の領空内であっても、惑星間定期航路のルート上の空域以外の広大な空間に何があるのかなど、すべてが判明しているはずもなく、重力異常ポイント、時空の割れ目、計算外の軌道を猛スピードで進む小天体などの他にも、未知の現象が起きる可能性が無数にあった。そして、未知の空域や辺境空域であれば、その危険性が更に高まる上に、海賊に襲われる危険性も高くなるのである。そんな空域を航行することが多い惑星探査は、常に危険と隣り合わせなのである。

 シャミルは、メルザの忠告に従って、自分達が今いる空域に、指名手配の賞金首メルザがいることを、そして、惑星ハーナルに関する噂の数々をキャミルに伝えた。

 連絡を受けたキャミルは、担当空域を持たない遊撃艦隊である宇宙軍第七十七師団所属のギャラクシー級戦艦アルスヴィッドを率いて、この空域にやって来ることを約束してくれた。

 もっとも、連邦艦隊の戦艦が、差し迫った危険がないにもかかわらず、民間探査船であるアルヴァック号の護衛をすることはできないのであるから、シャミルは、キャミルの到着を待つことなく、惑星ハーナルに向かった。

 アルヴァック号の艦橋かんきょうモニターには、青く輝く宝石のような惑星ハーナルが大きく映し出されていた。緑色の大陸と青い大洋が占める割合が、テラやアスガルドと言った理想的な居住可能惑星と同様に、最適な比率であることが見て取れた。

 アルヴァック号は、いつもの手順どおり、惑星ハーナルの上空を周回しながら、その簡単な地図を作製した後、その地図を艦橋かんきょうモニターに映し出して、着陸地点を検討した。

「赤外線観測で、ここに若干じゃっかん、熱の発生源が認められますけど、火山などがあたりにあるようでもないですね。この周辺に行ってみましょう」

 アルヴァック号は、南半球にある大陸の大きな河川の河口付近に広がる広大な草原に向けて大気圏内を飛んで行った。

 目標の地点に間もなく到着しようかという時、索敵さくてき係の声がアルヴァック号の艦橋に響いた。

「レーダーに反応! 二十三−四十五−八十九に飛行物体二個! 当船に近づいて来ています!」

「やっぱり出て来やがったか。しかし、一体、何者なんだ?」

「二十五−九十−四十五に反転! 速度維持! 正面からのコンタクトを避けてから、映像を確認します!」

 シャミルの指示で、アルヴァック号は反転して、向かって来る飛行物体に背を向けたが、相手が艦橋かんきょうモニターの撮影範囲に入ってくるまで、あえて速度を上げなかった。

「拡大モニター限界到達! 映し出します!」

 次第にアルヴァック号との距離を詰めてきた飛行物体が艦橋かんきょうモニターに映し出された。

 映し出された飛行物体は、連邦宇宙軍の小型戦闘機に似た形状であったが、少なくとも連邦軍の戦闘機ではないし、シャミル達が知っているどの型の戦闘機でもなかった。また、その小型戦闘機にはコクピットらしき箇所かしょが無く、見ようによってはミサイルのようにも見えた。

「見たことがない機体だな」

「そうですね。それに思ったほど速度も速くないようですね」

 アルヴァック号は、その持てる出力からはかなりセーブして飛行しているが、追って来ている小型戦闘機は一気に距離を詰めるほどの速度は出ないようだった。

「ヴァルプニール通信をオンにしてください」

 通信士が通信システムをオンにすると、シャミルが小型戦闘機達に話し掛けた。

「こちらは銀河連邦公認探査船アルヴァック号。この惑星の探査に来ている者であり、何ら危害を加える意思はありません。そちらの所属を教えてください」

 しばらく待ったが返信はなかった。

「シカトかよ。どうする船長?」

 戦闘機は、全長四十メートルのアルヴァック号のほぼ半分、二十メートルほどの長さを有して、ミサイル、ビーム砲といった武器を満載していることが確認できた。探検航海に特化して、極力、搭載武器を少なくしているアルヴァック号よりも攻撃力が高いことは明らかだった。

「あの戦闘機達は、かなりの戦闘能力を有しているみたいです。戦ってかなうとは思えません。振り切って逃げましょう」

 シャミルが速度アップの指示を出そうとした時、再び索敵さくてき係の声が艦橋に響いた。

「二十五−八十九−四十五からも飛行物体四個! 速度から同じ飛行物体と思われます。当船に近づいて来ています」

 挟み撃ちのように、アルヴァック号の進行方向からも、同じ戦闘機と思われる飛行物体がアルヴァック号に向かって来ていた。

 シャミルが迷うことなく指示を出す。

「七十八−九十−四十に転進!」

 面舵おもかじを切って、アルヴァック号はほぼ直角に右方向に曲がった。すると、また索敵さくてき係が声を上げた。

「七十七−九十−三十五からも飛行物体! こちらも同じ飛行物体と思われます。こ、こちらは……十個!」

「何だと!」

 転進先の方向からも戦闘機達が迫って来ていた。

「七十七−〇四−三十五に反転!」

 アルヴァック号はまたUターンをして、唯一、飛行物体が来ていない方向に向いた。しかし、それも無駄なことであった。

「七十七−〇六−三十からも飛行物体! こちらからは、に、二十個!」

「大編隊じゃねえか!」

 アルヴァック号は戦闘機達に取り囲まれてしまっていた。

「上に逃げます! 〇〇−〇三−九十に転進!」

 アルヴァック号は機首を上空に向けた。ここは一旦、宇宙空間に逃げる方が良策りょうさくと、シャミルは咄嗟とっさに判断をした。

「取り囲んだ飛行物体も高度を上げてきています!」

 四方からアルヴァック号に迫って来ていた戦闘機達がアルヴァック号を追って、高度を上げてきていた。しかし、アルヴァック号の速度をもってすれば逃げ切れるはずだ。

「前方からも飛行物体! さ、三十個!」

「上からもだって! どっから出てきたんだ?」

 カーラが驚くのも無理はなかった。宇宙空間から戦闘機が飛んで来るなんて誰が想像するだろうか。しかし、シャミルの頭脳は冷静に分析をした。

「おそらく最初の二機と四機はおとりだったのでしょう。その戦闘機達に気を取られている間に、三十機が回り込んで上昇していたのです」

「最初から包囲するつもりだったということか?」

「ええ、まんまと網の中に引っ掛かってしまいましたね」


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