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【完結済】感情を知らぬ王女と、彼女を愛しすぎた魔導師  作者: ゆにみ
魔導師の場合

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4/21

今日も世界は――甘く、綺麗だ。

 あれから、もう五年が経った。

 何度も手放そうとした。こんな関係は、健全ではないと。


 だがその度にリシェルは囁くのだ。



 「ルークがいればいいの」

 「離れちゃいやだよ?」

 「ずっと、ずっといっしょ。だいすき」


 その甘い声は、俺の理性を確実に壊していく。

 結局——俺はリシェルを愛してしまった。


 彼女をここに縛り、閉ざされた世界のまま。

 唯一、俺だけがずっとそばにいるのだから依存するのは、当然だと思う。


 彼女の依存はいつしか俺の生きる理由となり、俺自身もその鎖から逃れられなくなった。



 「ルーク、だいすき」


 

 いつものように、リシェルは甘えるように身を寄せ、俺の胸に顔を埋める。

 息が混ざり合い、温もりが肌に伝わる。


 俺はそっと唇を重ねた。



 彼女の唇は小さく、柔らかく、甘く——

 その一瞬で、胸の奥まで電流が走るようだった。



 「……ん」



 吐息が混じり、彼女の指先が俺の服をぎゅっと掴む。

 その小さな仕草ひとつさえ、もう俺を離さない。



 俺とリシェルは、もう引き返すことのできない関係になっていた。



 リシェルの世界は結局閉ざされたまま。俺しかいない。

 ......最低なのはわかっている。


 

 彼女も他の世界を知りたがる様子はない。

 それでも「幸せだ」と言い切る。

 だいすき、しあわせって曇りのない笑顔で言ってのける。



 「ルークと、ずっとこうしていたいの……」



 その声は甘くて、苦しくて。

 縛っているのは、縛られているのは、どちらなのだろうか。


 俺の世界も、いつの間にかリシェルだけになっていた。


 それを寂しいとは思わない。

 怖いとも思わない。

 ただ、甘くて、息苦しくて、どうしようもなく満たされている。


 彼女の指先が服を掴むたび、

 「ここにいていい」と言われている気がしてしまうのだ。


 ——逃げられない。

 いや、もう逃げる気なんてない。



 この関係は、正しくなんてないのかもしれない。


 けれど、確かなことは一つだけある。



 俺たちは今——幸せだ。

 


 「リシェル。ずっと一緒だ」


 「絶対にだよ?もう、ルークがいないと死んじゃう」


 「......愛してる」


 「わたしも......っ」



 深く、深く口づけあう。



 (......ああ、甘い)



 俺の世界は、リシェルだけ。



 唇が触れ合うたび、肌が触れ合うたび、

 甘さと焦れったさが入り混じる。

 胸の奥まで満たされ、けれど同時に息苦しい。

 彼女の指先はまるで鎖のように俺を縛る。

 

 

 離れられない。いや、離れるつもりももうない。



 ずっとこのまま、ふたりで同じ世界に閉じ込められたままで。

 互いの温もりに酔いしれていたい。



 それがどんなに幸せなことだろう。




 今日も世界は――甘く、綺麗だ。

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