今日も世界は――甘く、綺麗だ。
あれから、もう五年が経った。
何度も手放そうとした。こんな関係は、健全ではないと。
だがその度にリシェルは囁くのだ。
「ルークがいればいいの」
「離れちゃいやだよ?」
「ずっと、ずっといっしょ。だいすき」
その甘い声は、俺の理性を確実に壊していく。
結局——俺はリシェルを愛してしまった。
彼女をここに縛り、閉ざされた世界のまま。
唯一、俺だけがずっとそばにいるのだから依存するのは、当然だと思う。
彼女の依存はいつしか俺の生きる理由となり、俺自身もその鎖から逃れられなくなった。
「ルーク、だいすき」
いつものように、リシェルは甘えるように身を寄せ、俺の胸に顔を埋める。
息が混ざり合い、温もりが肌に伝わる。
俺はそっと唇を重ねた。
彼女の唇は小さく、柔らかく、甘く——
その一瞬で、胸の奥まで電流が走るようだった。
「……ん」
吐息が混じり、彼女の指先が俺の服をぎゅっと掴む。
その小さな仕草ひとつさえ、もう俺を離さない。
俺とリシェルは、もう引き返すことのできない関係になっていた。
リシェルの世界は結局閉ざされたまま。俺しかいない。
......最低なのはわかっている。
彼女も他の世界を知りたがる様子はない。
それでも「幸せだ」と言い切る。
だいすき、しあわせって曇りのない笑顔で言ってのける。
「ルークと、ずっとこうしていたいの……」
その声は甘くて、苦しくて。
縛っているのは、縛られているのは、どちらなのだろうか。
俺の世界も、いつの間にかリシェルだけになっていた。
それを寂しいとは思わない。
怖いとも思わない。
ただ、甘くて、息苦しくて、どうしようもなく満たされている。
彼女の指先が服を掴むたび、
「ここにいていい」と言われている気がしてしまうのだ。
——逃げられない。
いや、もう逃げる気なんてない。
この関係は、正しくなんてないのかもしれない。
けれど、確かなことは一つだけある。
俺たちは今——幸せだ。
「リシェル。ずっと一緒だ」
「絶対にだよ?もう、ルークがいないと死んじゃう」
「......愛してる」
「わたしも......っ」
深く、深く口づけあう。
(......ああ、甘い)
俺の世界は、リシェルだけ。
唇が触れ合うたび、肌が触れ合うたび、
甘さと焦れったさが入り混じる。
胸の奥まで満たされ、けれど同時に息苦しい。
彼女の指先はまるで鎖のように俺を縛る。
離れられない。いや、離れるつもりももうない。
ずっとこのまま、ふたりで同じ世界に閉じ込められたままで。
互いの温もりに酔いしれていたい。
それがどんなに幸せなことだろう。
今日も世界は――甘く、綺麗だ。




