この日、私は――恋を知った
結局その日は、ルークの様子はずっとどこかおかしかった。
夜がすっかり更けて、寝る時間になっても、胸の奥に小さな不安が残っていた。
ルークと私は、いつものように同じベッドで眠る。
この小さな家にはベッドがひとつしかない。
だから、夜になると自然と同じ布団に潜り込むのが日課だった。
いつもなら、ルークが優しく私を抱きしめてくれる。
おやすみの“ぎゅっ”――それが私の安心の合図。
その温もりに包まれると、私は朝までぐっすり眠れる。
……いつもなら。
でも、その夜は違った。
抱きしめられた瞬間、心臓が突然早く動き出す。
いつもと同じ腕の温もりなのに――どうして?
どくん、どくん、どくん。
息がうまくできない。
胸の奥で、感じたことのない熱がじわじわと広がっていく。
まるで知らない誰かの心臓が、自分の中で暴れているみたい。
驚いて顔を上げると、息が止まった。
ルークと、目が合ってしまったのだ。
その瞬間、全身が熱くなる。
頬が燃えるように熱くて、指先までじんじんする。
(えっ……わたし、どうしちゃったの……?)
ルークが心配そうに私を覗き込んだ。
「リシェル、どうしたんだ?」
「な、なんでもないっ……!」
声が裏返る。恥ずかしくて、目を合わせられない。
今まで何度もこうして抱きしめられてきたのに――
どうして今日は、こんなにも胸が苦しいの?
だけど、嫌じゃない。
苦しいのに、逃げたいなんて思わない。
むしろ、もっとこの腕の中にいたいと思ってしまう。
(どうして、こんな気持ちになるんだろう……?)
ふと、前に読んだ絵本のことを思い出す。
お姫様と王子様が見つめ合って、心が通じ合う物語。
そのときは、お姫様と王子様の気持ちはよくわからなかった。
ただ、しあわせそうだなって、それだけだった。
でも今なら、少しわかる気がする。
胸の奥で響く、この音の意味が。
その時、ルークの指先が、そっと私の背を撫でた。
びくり、と身体が震える。
胸の奥で何かが弾けて、全身が甘く痺れた。
(なんで……ルークのことで、こんなに……)
ああ、もしかして――
(これが......恋?)
静かな夜の中、自分の鼓動だけがやけに大きく響く。
落ち着かせたくて、ルークの胸に顔を埋めた。
大好きな匂いが鼻いっぱいに広がる。
(あったかい......)
苦しいのに......安心する。ううん――しあわせ。
私の世界は、もうルークがいないと動かない。
ルークに抱きしめられたこの日、私は――恋を知った。
リシェルたんかわいいです




