私には、まだ難しいや
今日は、ルークのお休みの日。
外は雲ひとつない青空で、太陽の光が心地いい。
「ねぇルーク! 今日は晴れてるし、ブランが来てくれると思うよ!」
「……そうか。それは、楽しみだな」
そう言うルークの声はどこか硬くて、笑顔もぎこちない。
「ほんとに? 本当に楽しみ?」
「ああ、もちろん」
そう言いながらも、ルークの視線はどこか泳いでいた。
私が首をかしげたその時、窓の方から小さな音がする。
「あ……! きっとブランだよ!」
私は嬉しくなってルークの手を取る。
一緒に窓辺へ駆け寄ると、いつもの白い影がそこにいた。
「やっぱり、ブランだ! ねぇ、見てルーク! ブランだよ!」
けれど、ルークはぴたりと動きを止めた。
「……え?」
「ルーク? どうしたの? 急に止まって」
「いや、その……は?」
ルークは顔を手で覆った。
耳まで真っ赤になっている。
「ルーク!? 熱でもあるの!?」
私は慌てて彼のおでこに手を当てた。
ほんのり温かいけれど、熱はなさそうだ。
「うーん、やっぱり熱じゃないみたい……」
「……違うんだ、リシェル。その、あれだ……」
「ん?」
「ブランって……猫、なのか?」
「うん、そうだよ?」
私がにこっと答えると、ルークはその場に力が抜けたようにしゃがみ込んだ。
「ええ!? ルークやっぱり具合悪いの!?」
心配して覗き込むと、彼は顔を覆ったまま、バツが悪そうに呟いた。
「……人間の、男だと思ってたんだよ」
「えぇぇぇぇ!?!?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
まさかルークがそんな勘違いをしていたなんて。
あれ、でも待って......?
けど少し前に、ルークは――。
「リシェルが知らない誰かと会って、仲良くなって……そのまま、俺のもとを離れてしまうんじゃないかって……」
こう言っていた。
「ルーク……もしかして、ブランが人間だったら、私がその人と行っちゃうと思ったの?」
「......ああ」
少し間を置いて、ルークは小さく頷く。まだ顔を手で覆ったまま。
「猫ならいいの?」
「もう、やめてくれ......リシェル」
「......??」
両手の隙間から覗いた顔は、真っ赤。
耳まで染まっていて、息まで熱を帯びていた。
(人間はダメで、猫ならいいの……?)
なんでだろう。“しっと”って、難しい感情なのかな。
私にはまだよくわからないや。
――いつか、ルークの気持ちがわかるようになるのかな。
一方その頃、窓辺のブランは、静かに二人を見つめていた。
(へぇ……ルークが、そんな顔をするんだ)
金の瞳が、いたずらに細められる。
(――面白いじゃないか)
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