表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/64

第47話 黒船来航(ジェラシー・モード)


「――全艦、停止! 主砲、『愛の威嚇射撃ラブ・サリュート』用意!」


江戸湾の波を割り、その漆黒の巨体を現したのは、ガレリア帝国の技術と王国の予算、そして王妃の「執念」を結集して建造された超弩級戦艦『キング・フレデリック号(実質ヒルダー号)』だった。

甲板の先端で、風にプラチナブロンドをなびかせているのは、この世で最も美しく、そして現在、最も機嫌の悪い女性。


王妃ヒルデガルド様である。


「撃てぇぇぇーーッ!!」


ドォォォォン!!

戦艦の巨砲が火を噴いた。

しかし、飛び出したのは砲弾ではない。

無数の薔薇の花びらと、「レティ、会いたかったわ!」「浮気は許さない!」と書かれた垂れ幕だった。


江戸の町人たちは空を見上げ、口をポカンと開けている。

「なんだあれは……」

「新型の黒船か?」

「いや、あれは『痴話喧嘩』の規模がデカすぎるだけだ」


          ◇


「……あらあら」


日本橋のパレードカーの上で、私は扇で額を押さえた。


「困りましたわ。……まさか、本当に軍艦でいらっしゃるなんて」


「レティ……あの女、何者だ?」

隣で将軍ヨシノちゃんが、私の袖をギュッと掴んで震えている。

「あの船から感じる『圧』……余の覇気など赤子同然ではないか」


「ええ。彼女は私の国の王妃様。……そして、世界で一番、寂しがり屋のライオンですわ」


私は御者台のカツ海舟に指示を出した。


「カツ様、港へ急いで。……早く抱きしめて差し上げないと、次は『拗ねて国交断絶砲』が飛んできますわよ」


          ◇


港に到着すると、ちょうどヒルデガルド様がタラップを降りてくるところだった。

彼女は、戦場に赴くような凛々しいドレス姿だが、その目は私を見つけた瞬間、涙で潤んだ。


「レティ!!」


彼女は王族の品位もかなぐり捨て、全速力で駆けてきた。

近衛兵たちが慌てて道を空ける。


「ヒルデガルド様!」


私が両手を広げると、彼女は勢いよく私の胸に飛び込んできた。

ドスン!という衝撃。

愛の重み(物理)。


「……遅い! 遅いわよ! 手紙が三日も来ないなんて、私が干からびて死ぬのを待っていたの!?」


「まあ、ごめんなさい。……江戸の改革が忙しくて」

「国なんてどうでもいいわ! 私のメンタルヘルスのほうが重要案件よ!」


彼女は私の胸に顔を埋め、深々と私の匂いを吸い込んだ。

「……んぅ……補給完了。……でも、まだ足りないわ」


そこへ、背後から小さな咳払いが聞こえた。


「……そなた、余の『母上レティ』から離れよ」


ヒルデガルド様が顔を上げ、私の後ろに隠れているヨシノちゃんを睨みつけた。


「……あら? 誰かしら、この生意気な小娘は」

「小娘ではない! 余は日の本将軍、トクガワ・ヨシノである! そしてレティは、余の『甘やかし担当』なのだ!」


ヨシノちゃんが精一杯背伸びをして主張する。

その姿は、母親を取り合う子供そのものだ。


ヒルデガルド様の目がスッと細まった。

氷の女王モード、起動。


「……ふーん。貴女が、レティを独占していた元凶ね」


ヒルデガルド様が立ち上がり、ヨシノちゃんを見下ろした。

身長差三十センチ。大人の色気と貫禄の差は歴然。


「いいこと? お嬢ちゃん。レティは私の『精神安定剤ライフライン』なの。ぽっと出の将軍ごときが、私の所有権を侵害しないでくださる?」


「な、なんだと……! ここは余の国ぞ! 不法入国で捕らえるぞ!」

「おやりなさい。……我が戦艦の『嫉妬ビーム』で、江戸城をピンク色に塗り替えてあげるわ」


バチバチバチ!

二人の間に火花が散る。

周囲のカツ海舟や新撰組、そして私の娘たちが「ひえぇ……」と遠巻きにしている。


「あの……お二人とも」

私が仲裁に入ろうとした時、戦艦からもう一人の人物が降りてきた。


「……おやめください、ヒルデガルド様。大人気ないですよ」


その声に、日本の侍たちが一斉に振り返った。


「そ、その声は……!?」

「まさか……!」


現れたのは、猫耳フード付きのパーカーを着て、手にはタピオカミルクティーを持った、完全に「原宿系」に進化したキサラギ・サエだった。


「サ、サエ殿ーーッ!?」


クロガネ大使(靴下は見つかったらしい)が駆け寄る。

「ど、どうしたのですかその格好は! あんなに厳格だった貴女が……!」


サエはストローをくわえたまま、アンニュイに微笑んだ。


「……ああ、大使。お久しぶりです。……これですか? 王国のトレンドですけど」

「そ、そんな……! 仕事は!? 国の未来は!?」


「未来? ……まあ、なんとかなるんじゃないですか? それより、ここのタピオカ、モチモチで美味しいですよ」


サエの変貌ぶりに、大使は白目を剥いて倒れた。

かつての「鉄の女」は、ヒルデガルド様の英才教育(という名の連れ回し)により、見事な「ゆるふわ女子」へと転生していたのだ。


「サエ、貴女からも言ってやって。……この将軍ちゃんに、年功序列を」

ヒルデガルド様がサエに同意を求める。


しかし、サエはヨシノちゃんを見て、目を輝かせた。


「わあ……可愛い。将軍様、その着物、超イケてますね」

「む? ……そ、そうか? えへへ」

「あ、和解した」


レンがツッコミを入れる。

サエの「ギャル化」したコミュニケーション能力が、王妃と将軍の壁を溶かしていく。


「……はぁ」


私はため息をつき、そして微笑んだ。

喧嘩するほど仲が良い、とはよく言ったもの。

私はヒルデガルド様とヨシノちゃん、二人の手を取った。


「お二人とも。……私の腕は二本ありますわ」


「え?」

「む?」


「ですから……」


私は二人を同時に抱き寄せた。

右腕に氷の王妃。

左腕に幼き将軍。

両手にとトラブルメーカー


「二人まとめて、甘やかして差し上げます。……これで文句はなくって?」


二人は顔を見合わせ、そして私の胸に同時に顔を埋めた。


「……まあ、いいわ。レティの匂いがするから」

「……うむ。余は心が広いからな。半分こしてやろう」


「解決ですね」

ソフィアちゃんがパチンと指を鳴らす。


「さあ、カツ様! 宴の準備ですわ!」

私が宣言する。


「王妃来航記念、および将軍の『女の子デビュー』祝い!

江戸城大広間で、史上最大の『パジャマパーティー』を開催します!

スキヤキ! スシ! そしてパンケーキ!

今夜は無礼講よ!」


「うおおおおぉぉぉ!!」

港に集まった侍たち、帝国兵、そして王国の近衛兵たちが歓声を上げる。


こうして。

嫉妬に燃える黒船は、平和の象徴へと変わり。

東西のトップレディたちが顔を揃える、歴史的な一夜が幕を開けた。


「……ねえレティ。あとで私の部屋に来てね。……たっぷり『不在の罰』を与えてあげるから」

ヒルデガルド様が耳元で囁く。

「レティ! 余と寝るのだ! 怖い話を聞かせてやる!」

ヨシノちゃんが反対の耳で叫ぶ。


やれやれ。

私の「全肯定」の旅は、どうやらまだまだ終わりそうにない。

でも、この重みこそが……私の幸せなのだろう。


江戸の夕日が、私たちを優しく、甘く照らしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ