魔法使いギルド・ナナクシャール出張所
火の始末を済ませた六人は、覚悟を決めてギルド出張所に戻った。ロビーの片隅にまとめてあった荷物に鍋や五徳や器をしまいこみ、カウンターテーブルの向こう側で細い目を更に細くして笑みを浮かべているアレックスの前に進み出た。
「おいでやす、ここがナナクシャール島やで」
「はあ、どうも」
「あの、入島手続きをお願いしてもいいですか」
「せっかちやなぁ、そない急いだかて説明は昼近うまでかかるんや、端っこに置いとる椅子持ってきて腰掛けとき」
壁沿いに無造作に並べられている丸椅子をカウンターの前に並べて座った六人は、アレックスに求められそれぞれの冒険者証を出した。それらを一つ一つ確かめたアレックスは首を傾げ、コウメイたちの顔を順番に見た後、アキラで視線をとめて言った。
「魔術師おらんの? この島は魔法使いギルド所有なんやで、パーティーに一人はギルド員おらんと困るんやけど」
「……どうぞ」
渋い表情のアキラがミシェルに貰った身分証明を手渡した。ミシェルに「そのうち役に立つ」と渡されていたものだ。
「そうそうこれや。ええとアキラ、人族、魔法使いギルド所属、階級は白か。登録つい最近やのにもう白なんか、優秀なんやな」
アキラは登録した覚えのない魔法使いギルドにいつの間にやら所属させられていた。
「なあ、アキ。この島でなら魔法使っても大丈夫なんじゃねぇか?」
アレックスに聞こえないように耳元で小さく言われて、アキラは考えこんだ。大陸では魔法を使う冒険者は殆ど居らず、またエルフであることを隠し目立ちたくない一心で魔力を隠してきた。人族の魔術師として身分が証明されているのなら、堂々と魔法を使っても問題は起きにくい。少なくともナナクシャール島にいる間は堂々と魔術師っぽく立ち回っても問題はなさそうだ。
「魔術師の階級で白というのは凄いんですか?」
「せやな、学校卒業してギルドに登録したらまずは黒からはじまんねん」
コズエの質問にふむふむと頷いたアレックスは、もったいぶるように魔術師のローブの色について説明を始めた。
「主席卒業やっても最下位やってもはじまりは黒からやねん。そんで昇進には師匠の推薦もろて試験受けなあかんのやけど、黒から灰色にあがる平均はだいたい三年や。アキラは登録日が三の月やのに、灰色越えて白やろ、前ギルド長以来のスピード昇格やで」
登録した覚えもなければ試験を受けた覚えもないし、ましてやアキラに師匠はいない。この話題を続けるのは危険だとサツキがコズエの背中をつついた。
「ほな島で生活するための決まりごと説明するで。言うとくけどこの島、普通の場所やあらへん。大陸のゆるい魔物狩りとおんなじ気分でおったら初日で死ぬんは確実や。よう聞いといてぇな」
アレックスはカウンターに地図を広げた。
「これがナナクシャール島の全貌や」
六人はトンと指差された場所に注目する。
「港がここで、ギルドがここやな。そんで町はここ」
「島は大きいのに、人のいる範囲はすごく狭いんですね」
歪んだ楕円を縦にしたような島の、最北にある港が現在地。海岸沿いの東に町があるが、島の面積のごくごく一部でしかない。島の大部分は森だ。
「それには理由があんねん。見たらわかる思うけど、あの外灯、魔物の侵入を防ぐ役割あってな。それで囲うた範囲は港と町だけや。この島で安全圏はここだけやからよお覚えとき」
「囲われた外には魔物が居るんですか?」
「せや、溢れかえっとる。ここの魔物は大陸で冒険者が狩っとるような軟弱な魔物とちゃうで。そのうち町に居る奴らが顔見せよる思うけど、どいつもこいつも脳筋狂戦士ばっかやで。そーいう奴しか生き残れん森やいう事だけは覚えとき。囲いの外にうっかり出てしもうても誰も救援には向かわんで」
「冒険者なんて自助自立が大原則だろ」
「それが分かっとるんならええんや。ほなこれに署名してくれへんか」
コウメイに向けて差し出されたのは、羊皮紙だった。誓約書とあり、島に滞在するにあたって何が起きても自己責任、ギルドに対し一切の苦情異議申し立て補償の請求をしません、という内容だ。署名欄とその横には血判を押す場所、そして最後には遺書の欄まである。
「遺書……書く人いるんですか」
「家族持ちの奴らはたいてい書いとるで」
コウメイたちは特に遺言を残す相手も居ない。せいぜいが仲間に対して一言書くくらいだろうが、死ぬつもりはないし、死んだとしても行動を共にしているときだろうから書く必要もない。
「羊皮紙という事は、魔術契約書か」
「せやで。この島で何が起きても文句いわへんちゅう誓約を魔術で縛るんや。それくらいせぇへんと家族やら仲間やらがいちいち文句言いくさってうるさいねん」
「この場合の『何が起きても』は、生死にかかわる何事においても、という意味か」
「この島に入る言うんは死の覚悟が必要やいう事や。それに署名したら、請けた依頼を達成せんと島からは逃れられん。どないする?」
署名する前ならすぐに船を呼んで帰れるぞ、と。
「俺ら、何か依頼を引き請けてたか?」
「何言うてんのや、ギルド長から伝達きとるで。虹魔石百個の発注請けたんやろ」
「え、あれって依頼だったのか?」
三十万ダルが無理なら虹魔石百個、だったはずだ。シュウがそう説明すると細目がキラリと光ったように見えた。
「この島で現金稼ごう思うても無理やで。なんせ魔物の討伐報酬はゼロやし?」
「は?」
「討伐報酬が出ないんですか?」
それは初耳だと会計担当のコズエが思わず立ち上がっていた。討伐報酬がなければ素材の売却だけで生活費を稼がなくてはならないのだ、かなり厳しいことになる。
「そもそも魔物退治して報酬が貰えるようになったんは、国や領主が領地の安全確保のために討伐を推奨したからやで。この島の所有は国でも領主でもあらへんのや、そこの魔物に国が討伐報酬出すわけあらへんやろ」
「ギルドが出せばいいんじゃないですか?」
「別に魔物を討伐せなアカンわけやないしな」
結界で生活圏を守っているので安全目的のために魔物を討伐する必要はない。
「ギルドが欲しいんは魔石や、ゴブリンの耳なんかいらんねん」
「それじゃこの島で魔物討伐して得られるのは、魔石の売却代金だけ?」
「一応食える魔物の肉は町の飲み屋が買い取ってくれるで。いうてもこの島の住人は五十人くらいしか居らんし、大量に魔物肉持ち込まれても店は買わん思うで」
コズエたちは第一に討伐報酬、第二に素材売却、魔石の換金はおまけのような稼ぎ方をしてきた。しかしここでは全くの逆だ。やっていけるのかな、と呟いたコズエの心配はサツキやヒロも同様に感じはじめていた。
「魔石って、いくらで買い取ってもらえるんですか?」
「よそと違うてウチは魔力量次第や。クズ魔石でも魔力含有量が高かったら色をつけるよって、大陸の連中みたいに捨ててくるんはおすすめせぇへんで」
確実に金になるのが魔石だけなら例えクズ魔石でも捨てるわけにはゆかない。もともとコズエたちはクズ魔石も全て回収し、簡易冷蔵庫に使ったりと自分たちで贅沢に消費してきた。だがこの島ではクズ魔石の利用すら節約しなければならないだろう。
「そんなに不安そうな顔せんでもええよ。何せこの島の魔物は大陸よりも強いんや、鍛えるには絶好の場所やで。それに強い魔物の魔石にはたっぷり魔力が含まれとる。大陸よりはええ値段をつけるよって心配あらへん」
不安げなコズエたちを安心させようとしてかアレックスが微笑んだが、胡散臭さが増した薄ら笑いにしか見えず、不安が増しただけだった。
「虹魔石を持ってる魔物について教えてもらえるのか?」
「分かってれば楽なんやけどな、狙って得られるんなら高値で買い取ったりせぇへんよ」
ちょっと待っててな、とアレックスはカウンター奥の部屋に入り小さな箱を持ってきた。
「見本を見せとくわ。これが虹魔石や」
小さな箱を開け、黒い布をめくって見せた。そこにはさまざまな色の混じった魔石があった。青に緑に赤、橙、紫と黄と白。サイズはクズ魔石ほどの小さなものだが、ありとあらゆる色が輝いている。
「キラキラしてて、きれい」
「オパールみたいね」
女の子二人はうっとりと見惚れているが、アキラは虹魔石を見た瞬間から顔を強張らせ、距離を取るように身体を反らせた。
「どうした、アキ?」
「こんなのを手に持ってて、平気なんですか」
「へえ、この魔力を感じ取れるいうんは、やっぱり優秀なんやなぁ」
アキラは虹魔石から目を逸らした。見ているだけなのに虹魔石の発する魔力が、ちくちくと刺さるように痛く感じられるのだ。非難するようにアレックスを睨むと、彼は肩をすくめて仕方ないのだと言った。
「この島で何年も虹魔石扱うとったら嫌でも慣れるんや」
アレックスは虹魔石を布で包んで箱の蓋を閉め、奥の部屋に納めて戻ってきた。
「虹魔石っちゅうんは特定の魔物が持っとるわけやない、オークキングが普通の大魔石しか持ってへんのに、ただのゴブリンが虹魔石持っとる場合もある」
「それってほとんど運頼りじゃないですか」
「せやな。けどだいたいの基準はあるで。虹魔石持っとる個体は、恐ろしいくらい強い」
「……どれくらい?」
「それは自分らで確かめんとな。感覚的なもんやし、ワシのものさしとあんたらのものさしは違うよって。まあ参考までに教えとくと、クズ魔石くらいの大きさでも虹魔石やったら最低でも二百ダルで買い取っとるで」
クズ魔石は主に魔猪や角ウサギのような魔獣から得られ、冒険者ギルドでの買い取り価格は十個まとめて五十ダル程度だった。田舎のギルドでは一個からでも買い取ってもらえたが、規模の大きな街のギルドでは一定数をまとめないと買取してもらえなかったり、クズ魔石自体を買い取らないというギルドもあった。
「クズ魔石で二百ダルって、凄い」
「それだけ魔力の質が良うて含有量が多いっちゅうことや」
「つまりクズ魔石レベルの魔獣ですら相応に強いということか」
本格的に島で討伐を始める前に、すこし慣らしが必要そうだとコウメイは考え込むように地図を凝視した。
「まあ、あんたらは他の冒険者よりは楽に探せるやろな。ほんで誓約書の署名、どないするん?」
六枚の羊皮紙をコウメイたちの目の前に掲げたアレックスはひらひらと挑発するように振った。
「俺は残るぜ。三十万ダル分を稼いで魔武具を作りてーんだ」
羊皮紙を一枚奪い取ったシュウは手早く署名して血判を押した。羊皮紙に血が触れると、血判の位置から広がるように青白い光が走り、紙面に魔術陣が描かれた。
「ほい、契約成立と」
アレックスがシュウの誓約書を指で弾くと、魔術陣が羊皮紙からはじき出されシュウの左手の甲に張り付いた。刺青でも入れたかのように、皮膚に青いインクで模様が描かれている。
「何だこれ」
「外灯の向こうに進むんにはその魔術陣が必要やねん。誓約なしで討伐に行こうとしても弾かれて入れへんで」
つまり外灯を模した結界は、魔物たちから身を守るためだけではなく、戦う資格のない者を閉じ込めるための物でもあった。
「テーマパークの再入場スタンプみたいですね」
「もっとこうカッコイイ表現が良かったなー」
「契約の紋章、とか?」
「呪いが解けるまでこの刻印は消えないのだ、なんつー感じ?」
「患ってんなぁ」
サツキの素直な感想に不満を持ったゲーマー三人は楽しそうに魔術陣で遊んでいた。
シュウに続いてコウメイが羊皮紙を取ると、コズエやヒロも次々と羊皮紙を手に取り署名をしていった。
「ここまで来たんだ、じっくり腰を据えて稼ぐのもいいか」
「どうせ王都には帰れませんしね」
「ここなら鍛えられそうです」
アキラが羊皮紙に手を伸ばさないのを見てサツキは不安げに兄を見上げた。
「お兄ちゃん?」
「……安全マージンは今まで以上に取るぞ」
「当たり前だ。俺はまだ死ぬ気はねぇ」
「それなら、いい」
コウメイの言質をとったアキラも羊皮紙に署名し血判を押し、サツキも兄に倣い、全員の手の甲に魔術陣が無事に刻み込まれた。
入島手続きはこれで完了だ。
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「ほな町の簡単な説明しとくで」
島の地図を引っ込め、代わりにアレックスが取り出したのは広めの板紙だ。記されているのは港とギルド、そして一本道の先にある複数の家々の並びだった。
「ナナクシャールの町の正式な住人はワシらギルド職員を含めて八人や。ギルド職員が四人、飲み屋二人、鍛冶屋と大工が一人ずつ」
「五十人くらい住んでるんじゃないんですか?」
「残りは全部冒険者や。ギルドの依頼で島におるんが半分、残りは腕を磨くためやったり、虹魔石で一攫千金を狙うとったり、あんたらみたいにほとぼり冷ますために島に籠もっとるんも居る。治安維持のための人員はおらんさかい、女の子二人はよう気いつけといてな」
後ろ暗いところがあって島に隠れている冒険者達には隙を見せられないし、まともな冒険者達でも魔物との戦いで興奮した男達は色々と危険だ。町中での行動や住まいについては可能な限りの安全対策をとる必要がありそうだ。
「冒険者達の滞在は宿屋なのか?」
「島に宿屋はあらへんよ。そんかわり空き家はいくつかあるし、そん中から好きなん選んで住んだらええ」
板紙に記されている町の簡易地図には、飲み屋に鍛冶屋、大工の家といった記載と共に、×印の入っている家がいくつかあった。
「×入れとるところは居住人のおるところや。空き家はこことここと、こっちやな」
「この中で台所の設備が充実しているのはどれだ?」
「部屋数がいくつあるか分かりますか?」
「井戸は町に一つなのか? 各家にはないのか?」
「ああもー、いっぺんに言わんといてぇな。この地図貸すさかい勝手に家見てええで。どこも鍵なんかかかっとらんし」
「物騒ですね」
「住む家決めたら鍵渡すわ。空き家の管理もギルドの仕事やし、ワシとグレンで定期的に見回りしていつでも使えるようになっとるはずや」
空き家は五つ、鍛冶屋の隣と大工の隣がそれぞれ空いている。あとは町のはずれに並んだ三軒が未入居だった。町は狭い、全部内覧してもそれほど時間はかからないだろう。地図を見ていたコウメイは家よりも気になることをアレックスに尋ねた。
「町にある店は飲み屋と鍛冶屋と大工だけなのか? 食材店は?」
「そないなもんあらへんで」
「マジか。じゃあ飯はどうしてんだ?」
「島におるんはたいてい金華亭で喰うとるで。朝は自前で何とかしとるけど、昼と夜は飲み屋や」
島でも当然自炊を考えていたコウメイは食材の調達で躓いた。肉は自分たちで狩ればいいし、野菜もアキラに野草を調達してもらえば何とかなる。だがパンだけは森で調達はできない。買えなければ自分たちで作るが、その材料のハギ粉が手に入らないのではどうしようもない。
「時間かかるし料金も割増になるんやけど、必要なものがあるんやったら取り寄せたらええわ。次の補給船は五日後やけど、注文するか?」
島で必要な物資はギルドに集約しまとめて注文しているらしい。コウメイは早速ハギ粉とイモ類に基本の調味料とスパイスを取り寄せるように頼んだ。
「おーい、魔石の買い取り頼むぜ」
カウンターを占領していたコウメイたちの後ろから野太い声がした。草と土に汚れた衣服に傷の入った胸鎧、籠手には血が滲んでいるがあれは自分の血かそれとも魔物の物か。そんな男達の集団がニヤニヤと笑いながらコウメイたちを見ていた。
「新入りか。獣人はともかく、そんな細っこい奴らに入島許可を出したのか? 長持ちしねぇぞ」
リーダー格らしき男が六人の頭越しに汚れたズタ袋をアレックスの前に置いた。ゴトリと袋の中で石がぶつかり合うような音が聞こえる。
「まだ説明の途中なんや、そっちで待っといてくれるか」
「誓約書は書かせ終わってんだろ、もう終わったようなもんだ。アレックスの査定は細かくて時間かかるんだ、待ってたら昼飯までに終わらないだろ」
「おー、女の子が二人もいるじゃねぇか。悪いことは言わないから危ない事はやめておけよ」
「お前らセコイ失敗して逃げてきた口か? そんなひょろい仲間じゃ頼りにならないだろ、俺たちのパーティーに来いよ、歓迎するぜ」
「俺たちで可愛がってやるからよ、なぁ?」
鼻の下を伸ばした男達の一人が伸ばしてきた手を、コズエはパシッと叩き返した。
「あいてっ」
「汚い手を向けないでよね」
「ああ?」
風呂に入る習慣の薄い世界だが、それでもまともな神経の人々は身体や衣服の汚れを落とす。割り込んできた男達は身奇麗にするという努力を全くしていない。爪にも関節のシワも汚れが染み込んでいたし、肌の色がわからなくなるくらいに垢じみていて、手の甲にあるはずの魔術陣も見えなくなっている。身体だけではない、汗染みや垢染みで服には所々に地図風の模様があるし、はっきり言って臭い。コズエは鼻をつまみたいのを堪えていた。
「汚いって言ってるのよ。新入り馬鹿にする暇があるなら海に飛び込んで全身洗う位すればいいのよ」
「なんだと、この女」
「喧嘩売ってんのか」
「先に喧嘩売ったのはそっちでしょ」
掴みかからんとする男との間にヒロが素早く割り込んだ。コウメイに引っ張られたコズエは二歩ほど後ろにさがり、サツキに押さえつけられるようにしがみつかれた。
「こういう時にイキがってる奴の台詞って、だいたい自己紹介なんだよなぁ」
「セコイ失敗して逃げてきた、というやつか」
「そうそう、自分が通った道だから他の奴も当然そうだろうって思い込むなんざ、頭悪いとしか思えねぇよ」
火をつけたのはコズエだが、油を注いだのはコウメイとアキラだった。限界集落ともいえる小さなコミュニティで最初から舐められているようでは狩場の争奪もままならないし、町でも快適に過ごす事はできない。売られた喧嘩は安く買って有利な立場に立っておくべきだと、コウメイは臭い男たちとの間合いをはかった。
「きさまらぁ」
自分から焚き木を積んだ喧嘩だというのに、垢男は顔を真っ赤にして唸り腰の剣に手をかけた。
「ぶっ殺してやる!」
「まてっ」
「やめろ」
仲間たちが止めるのも聞かず、垢男が剣を抜いた。
男の攻撃を受けようと柄を握ったコウメイの手は、上から重ねられたアキラの手で止められた。
「うぎゃああぁぁぁー」
剣を振り上げた垢男の手が燃えていた。
「なんだ?」
突然の炎にぽかんと口を開けて見入っているコウメイに、アキラが短く説明した。
「手の甲の魔術陣、あれから火が出たんだ。結界の中で武器を使おうとするとああなる」
「アキ、あれの内容読めてたのか?」
「一応、な」
「ほほお、さすがギルド長のお墨付きや。焼入れの一瞬でそこまで読み取ったんか」
アレックスがパンパンと手を叩くと垢男の手を包んでいた火が消えた。
「殺しあうんはあんたらの勝手やけど、町での殺生沙汰はあかんて説明しとったやろ。ギルドとしては魔石の回収もでけんような無駄な戦闘は避けてもらえると助かるんやけど、どうしてもやるなら森の中でやってくれへんか」
カウンターに置かれた袋を手に取り、彼らのリーダー格に向ってアレックスが威圧のこもった笑顔を向けた。
「新入りへの説明終わったらすぐ査定するんや、その辺に座って待っとき」
リーダーは引きつった笑みを返して素直に引き下がった。垢男は仲間に支えられるようにして建物を出て行った。利き手に負った火傷の治療に向うのだろう。
「不気味なモノを刻まれたな」
手の甲に描かれた魔術陣を見ながらアキラが嫌そうに眉をしかめた。少ないギルド職員で島の治安を保つためだとしても、見えない鎖でつながれたような感覚は好きになれなかった。
「この島出る時にちゃんと消すんやから、そない心配せんでもええって。それよか後ろが詰まっとるんや、残りの説明するから集中せぇ」
アレックスは島での生活と魔物討伐についての最低限のルールを手早く説明し、これ以上の騒ぎが起きないようにとコウメイたちをギルド事務所から追い出したのだった。




