王都 立つ鳥は跡を濁したまま
「今日は狼族の王はいらっしゃらないのですね」
見るからに落胆するコーデリアを宥め、さり気なく持ち上げて機嫌をとる。
「シュウはどうしても蔑ろにできない筋からの依頼で街を離れています。彼の足は人族の何倍も速い、すぐに戻ってくるでしょう」
「そうでしたわね、狼族は風のように駆けるとありました。次の約束では駆ける狼族の王を見たいわ」
本来ヒューマンスキルはコウメイの方が圧倒的に上だ。だがコーデリアを懐柔しなくてはならないのはコウメイではなくアキラだ。顔面に笑みを貼り付け、コウメイを手本にコーデリアの相手を務めるアキラは、日々神経をすり減らしていた。
「シャーリーンは魔術に長けた妖精ですの、魔術を駆使してシンジとケイオール様をお助けするのですよ。実はわたくしも少しばかり魔術を嗜んでおります。今日はわたくしの活躍をお見せしますわ」
意気揚々と森に入ったコーデリアは、角ウサギを相手に勇ましく風の魔術を放った。
「風の刃よ、我が意のままに切り刻め!」
小さな風刃が二つコーデリアの手から飛び出し、逃げ遅れた角ウサギの尾を切り落とした。
「わあ、コーデリア様の魔術、凄いですね」
「魔術を同時に二つも放てるなんて、難しいのでしょう?」
コズエとサツキが王女様を褒めて注目をそらしている間に、ヒロとアキラが手早く角ウサギを屠り、コウメイが昼食のスープを作っている。ピクニックシートに落ち着いたコーデリアは、持参した弁当を食しながらコズエと読書談義に花を咲かせていた。
「コーデリア様はシンジとシャーリーンが結ばれる結末を望んでるんですね」
「だってシンジはとても美しくて優しくて強い方ですもの、愛を囁かれたいと思うのは当然でしょう」
頬を染めうっとりとしているコーデリアを眺めながら、あれ、とコズエは内心で首を傾げた。借りて読んだ『帰還を望む流れ人と森の聖女』の主人公は、ごくごく平凡な高校生で、異世界でさまざまな経験をしてたくましく男らしく成長したが、美しいという形容はなかったはずだ。
「……コズエちゃん、見て」
「あー、なるほど」
コーデリアの視線は鍋のそばでコウメイと話をしているアキラに向けられていた。彼女の中ではシンジのイメージがアキラにすり替わり定着しているらしい。ケイオールもシュウのビジュアルで脳内妄想しているのだろう。小説本編の描写によればシンジとアキラの間に一致するのは髪の色と瞳の色くらいだ。
「熱いので気をつけてください」
「まあ、これが角ウサギ肉のスープですのね」
作中に主人公たちが食べていたというスープをアキラに手渡され、コーデリアはうっとりと見つめながら器を受け取った。
「お兄ちゃん王都にきてからモテモテなのよね……」
ナモルタタルでもアレ・テタルでもコウメイの方が女性受けは良かったのに、王都では何故かアキラの方が注目されている。ギルドの女性職員はアキラがカウンター列に並ぶだけでそわそわし、直前には髪の乱れを直してにっこりと微笑む。市場への買い出しにアキラを連れて行くと、野菜を売る農夫の妻も、卵売りの少女も機嫌よくおまけをつけてくれるし、食材店の女主人はさり気なくアキラの肩や腰をセクハラしている。
「護衛の人たちも半分くらいはお姫様じゃなくてお兄ちゃんを見てるんだもの」
あの目は観察や警戒するものではない、とサツキは断言した。さすが妹、よく観察している。
その日シュウを欠いた状態でなんとか接待ピクニックを終わらせ貸家に戻ると、サツキはコウメイを捕まえて意見を求めた。
「どうしてなんだと思います?」
「いや、知らねぇよ」
「だって見た目はナモルタタルも王都も変わってないんですよ」
「確かに、アキラさんが美形なのは最初からでした。突然王都でモテはじめたというのは不思議です」
ヒロが同意するとコウメイは呆れ顔になった。
「そりゃ人間に見えるからだろ」
「ああ、そういうことか。ほらアリエルが言ってたじゃない、アキラさんはウサギ獣人だから観賞用で結婚相手にはならないって」
ナモルタタルでの女子会での会話を思い出したコズエが手を叩いた。
「獣人族と人族は寿命が大きく違うから、本気の恋愛はできないって。魔武具のおかげで今のアキラさんは美人な人族だもん、女の子が本気で狙ってくるのは仕方ないかもね」
こちらの女性はみな狩人だ。最高の獲物を狙い、あらゆる手を使ってしとめにかかってくる。
「暗闇に引っ張り込まれて襲われねぇように忠告した方がいいのかねぇ」
「ええっ、コウメイさんそんな経験あるんですか?」
「こっちの世界の女の子ってすげぇ肉食なんだぜ、下手に捕まったら何されるかわからねぇ。ヒロに教わった護身体術で振り払ってダッシュで逃げた」
「……一体何の話をしてるんだ」
「アキが王女様を誑しこんでるって話だよ。アキもなかなかやるよな」
「コウメイの真似をしているだけだ」
人が神経をすり減らしながら王女の相手をしているというのに、と恨みのこもった目でコウメイを睨みつけた。
「まあまあ、ほら、風呂上りの一杯」
アキラは差し出されたコレ豆茶のカップを受け取り、くいっと思い切りよく飲み干したのだった。
+++
シュウが王都に戻ってきたのは出発した翌日の早朝だった。北東門が開くと同時に街に入り、コウメイたちの朝食に混じった。
「たった二日で帰ってきたんですか」
「いや実質一日だろ、獣人の脚力ありえねぇ」
呆れながらもシュウを労って朝食を大盛りにしてやるコウメイだった。魔猪肉の塩漬けを厚めに切ってフライパンでこんがりと焼き、卵二個をサニーサイドアップで仕上げて重ね、蒸かした丸芋をざっくりと崩して豆と和えた物を添える。
「で、アレ・テタルはどうだったんだ」
「結論から言うと、魔武具は作れるが、めちゃくちゃ金がかかるのと材料がないって言われた」
半熟の黄身をフォークで崩しながらシュウはミシェルとの交渉結果を説明した。
「幻影の魔術は常に魔力を供給しないといけねーから、魔力無しの俺に効果のある魔武具を作ろうとすると、魔力供給源になる密度の濃い魔石ってのが必要になるんだってさ。特殊なところでしか取れないらしいから、自分で探して持って来いって言われた」
「特殊な魔石ってどんなのなんでしょうね」
「その辺は宿の親父さんが知ってるから聞けってさ。それと値段もすげー金額だった」
「十万ダルくらいか?」
「……三十万ダル」
「うわぁ」
「アキラと親父さんの紹介状があってこの値段だ」
「それはちょっと手が出ないですね」
「いや俺は諦めてねーよ。金は貯めればいいんだし、特殊な魔石は手に入れればいいんだよ。ミシェルさんは金がなきゃ代わりに虹魔石を百個で作るって約束してくれた。そんなに遠い場所じゃないって言ってたしな」
「じゃあ逃亡先は隣国じゃなくて、その魔石の採取できる場所に変更でいいか? 魔石が取れるってことは、鉱山か魔物の巣窟かのどっちかだろうけどな」
詳しいことはネイトに聞けという事なので、その日のシュウは宿に戻って昼まで仮眠を取り、昼飯後にコウメイたちが合流して白狼亭の主人に話を聞くことになった。
+
朝食後に手近な森に狩りに出かけて魔猪を一頭屠ったコウメイたちは、その肉を手土産に白狼亭へやってきた。六の鐘が鳴り昼食客が引けた後のテーブル席を広々と占領する。昼の営業時間最後の客と言うことで店内にコウメイたちの他の客はいない。用心のため奥まったテーブルで食事をとりながらネイトに話を聞いた。
「虹魔石をとってこいってことは、ナナクシャール島だな」
「ナナクシャール島?」
「エンダンの港から半日の距離にある外洋の島だ」
コウメイは地図を思い出そうとするが、ナナクシャール島という記載を見た覚えがなかった。
「地図に乗ってない島だ、政治的な理由でな」
「……また面倒そうな」
「実際面倒な場所だが、一時的に身を隠すなら面白い場所だぞ」
ネイトはニヤリと笑ってコウメイたちのカップに水を注いだ。
「その島なら貴族も追ってこられない。何せ魔法使いギルドが所有管理する島だ、いくら王族でも魔法使いギルドの管轄に無断で踏み込みはしないだろうさ」
「えーと、そんなところに逃げ込んじゃって大丈夫なんですか?」
「ミシェルが許可したんだから問題は無い」
「許可なんて貰ったっけ」
「虹魔石とってこいって言われたんだろう。それで俺に繋げってことは、渡しの船を出せって事だからな」
ナナクシャール島は港町エンダンから船で渡る。昔の伝手もあり船の手配を頼まれているうちに、ネイトはナナクシャール島への渡船の管理をするようになっていた。シュウたちが旅船で移動すると知ったとき、ナナクシャール島を経由した方がより安全だろうと思い提案するつもりだったのだ。
「それにミシェルの手紙にアキラが島に渡る資格証を持っていると書いてあったぞ。島ではそれがないと討伐許可がおりねぇからな」
「……資格証?」
考え込むように目を伏せたアキラの表情が次第に剣呑なものに変わっていった。
「心当たりあるのか?」
「以前、そのうち役に立つだろうから持って行けと渡された物がある」
どうやらアキラにとって役に立つではなく、ミシェルにとって役に立つ、という意味だったらしい。苦々しく吐き捨てるようにそう言ったアキラを、ミシェルを良く知るネイトは哀れむように見たのだった。
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憲兵による街の巡回の頻度が増した。
地方領主や他国からの来賓は旅船でエンダンの港に着き、そこから馬車で真っ直ぐに北上し、南門から街に入る。貴族街や王城へと向かうために必ず通る南北の大通り沿いは、憲兵達によって徹底的に掃除された。テント広場からは食い詰め冒険者たちが一掃され、国花であるグラオリユの花で飾られた。通りに塵を捨てる者には普段より厳しい刑罰がかけられ、通りに面した家々は統一した様式で飾り立てる事が義務付けられる。
祭りが近づくにつれ人々たちの表情はどんどんと陽気に明るくなってゆく。旅の劇団がクレムシュタル建国の物語を演じて披露し、大道芸人が街のあちこちで人々を楽しませている。普段は売れない高級品が飛ぶように売れ、各地から珍しい食材が集まり、冒険者達は王宮からの注文に応じて森で肉を狩る。
祭りを控え、街全体が浮き足立っていた。
「しばらくは務めがあり、ご一緒できないのです」
別れ際、至極残念そうにコーデリアは二人に謝罪した。
「謝る必要はありません。コーデリア様はおじい様のお店の手伝いがあるのでしょう? 建国祭の期間は何処の店も賓客が訪れるため忙しいと聞いています」
「そ、そうなのです」
国賓対応のため王族総出で社交に忙しくなった、とは言えずアキラの話にあわせてコーデリアは悲しげに目を伏せた。建国祭が終わり、賓客が全て帰るまでは市井に降りる事はかなわない。王女にとって寂しい日々が始まるのだ。
「建国祭が終わりましたらお会いできますわね」
その日を楽しみにしております、とコーデリアは頬を染め、護衛たちと共に帰っていった。
「あの王女様、アキとデートしてる気になってねぇか?」
「お仕事だってこと忘れてますよね」
「しかも相思相愛だと思い込んでるように見えます」
「どうなんだ、アキ」
「俺に幼女趣味はない」
コーデリア王女、十二歳、この世界では成人した女性である。
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ギルドではオーク肉の買い取り価格が跳ね上がっていた。王都ではオーク肉が特産になっているらしく、王城での晩餐でのもてなしや、貴族達の宿ではオーク肉の料理が並べられた。需要に供給が追いつかないらしく、冒険者達に急ぎ狩るようにと圧力がかかっている。
「久しぶりに狩りらしい狩りをした気がする」
護衛という名の接待任務で身体が鈍っていたというヒロは、オークとの戦いを存分に楽しんだようだった。
「今日屠ったオークなんですけど、この白いのも買い取ってもらえるんでしょうか」
オーク狩りで冒険者密度の高い森を奥へ進み、そこでたまたま遭遇したオークを三体屠ったコウメイたちだが、そのうちの一体の色が違っていた。
「あれ白オークで、値段高い奴だぞ」
「そうなんですか?」
「普通のオーク肉より霜降りで旨味があるから、結構な値段で引き取ってもらえるはずだぜ」
ちなみに赤オーク肉は引き締まった歯ごたえが楽しめる肉だ。
「そういう肉なら自分で料理してみてぇな」
「ネイトさんにお土産に持っていきたいですよね」
「ギルドに卸すのやめておきましょうか」
コウメイたちを監視する人員が減ったようだ。全員の監視を諦め、今はアキラとシュウにだけ尾行がついている。二人が別行動で監視の目を引きつけている間に、コウメイたちは各自の私物を荷造りし白狼亭に運び込んだ。
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「サハギン肉か、懐かしいな」
白狼亭のメニューにサハギン料理が登場した。王都と言えばオーク肉だが、サハギン料理も有名だ。地方領主が領地へ戻る際に購入してゆく物資の中に必ず入っているのがサハギン肉だ。オークは領地の森でも狩れる可能性はあるが、サハギンに関してはほぼエンダンの漁獲から買い求めるしか入手ルートはない。
「お前たちに貰った白オーク肉と交換で入手した。香草焼きだ」
「いいバター使ってるじゃねぇか」
「祭りの前で食材も手に入れやすくなっているからな」
「鮭と鰤ですね。美味しい」
「塩焼きにして白米で食べたい」
「お味噌汁つきだと尚いいですよね」
「米と味噌だよなぁ」
今のところ米も味噌も醤油も発見できていない。大豆に似た豆はあるのだが、肝心の麹が手に入らないため手作りもできていない。素人には黴と菌の判別はできないし、抽出も無理だと諦めた。日本食のハードルは想像以上に高かった。
「荷物は先に港へ届けておいた。船は二日後の早朝だ」
「マサカズさんが馬車出してくれるってさ」
夕刻に街を出て深夜にエンダンで休息をとり、早朝にナナクシャール行きの船に乗り込む。エンダンでの取り次ぎはドリスだ。
「そうだ、親父さんにもう一つ頼みごとがあるんだ」
コウメイは懐から取り出した封書をネイトに渡した。羊皮紙を畳んで蜜蝋で封をしてあった。
「俺らがここを出たら、それギルドに提出してくれねぇかな」
板紙ではなくあえて羊皮紙に書き記し封をする。内容を察したネイトは面白がるように鼻を鳴らした。
「そういうことか」
「お手数をおかけします」
「よろしくお願いします」
+
建国祭二日前。
飾り立てられた街は近隣の村や町から集まった人々で溢れかえっていた。広場では大道芸人が芸と技を披露し、屋台ではオーク肉料理を提供する店と魚料理を提供する店が競うように客を集め、昼間から酒を飲んで騒ぐ連中が憲兵に拘束されている。
「みんなオシャレしてますね」
「あ、あの髪飾り、かわいいっ」
「やっぱ都会の女の子はセンスいいなぁ」
老いも若きも着飾って祭りを楽しんでいた。街中に溢れかえる人のせいで、監視が対象を見失う事も増えてきた。尾行が消えたなと気づくと、アキラは足を止めて店の商品を眺めながら監視が追いつくのを待ち、こちらを発見し安堵する監視員を確認すると移動を再開する。
「相当に人員不足のようだ」
「今日は一人か。交代もいないようじゃ、明日は楽勝だな」
コウメイはいつもより賑わう市場で調味料を買いだめしていた。今回の移動は「夜逃げ」なので、持てる荷物は限られてくる。自分にとって何を優先するのかを見極めると、コウメイは調味料、アキラは今までに収集した薬草と本、コズエは他では入手できない布や糸の素材、サツキはドライフルーツやチェリ海草といったお菓子に使う乾燥食材、ヒロは工具と自分の作った木製食器類、それらを背負子で担げる程度にまとめて荷造りはほとんど完了していた。
「あの、なんだか人がぶつかって来ている気がしませんか?」
対向する人が避けようとする自分にわざとぶつかってきているようだとヒロが困惑していた。
「スリやひったくり目的なんでしょうか」
「ヒロ、ぶつかってくる相手は男と女、どっちが多い?」
「……女性ですね」
そんな会話をしている今まさに、正面から数人の少女たちが歩いてきていた。このままでは正面衝突だと道を譲ったが、少女達は三人に向かってきた。
「きゃっ」
「すみません」
「いたぁぃ」
ぶつかった少女達は申し訳なさそうにしつつも笑顔だった。ヒロの胸に飛び込んだ形でぶつかった少女はそっと手を添えて上目遣いで見あげているし、アキラの肩に衝突した少女は胸を押し付けるようにして腕に掴まっていたし、コウメイと正面衝突した少女はしっかりと背中にまで手を回して抱きついている。
「俺たちは大丈夫。君たちはケガない?」
「ええ大丈夫です。あの、お詫びに甘いものでもいかがですか?」
「あちらに新作甘味の屋台が出ているんですよ」
「お詫びにご馳走させてくださいっ」
「ごめんね、俺たち甘いもの苦手なんだ」
さらりと返して少女の腕から抜け出たコウメイは、アキラとヒロを救い出し、急いでいるのでゴメンねと少女達を置き去りにした。
「下手なナンパだな」
「まだ成人して数年なんだろうし、可愛いじゃねぇか」
「……痴漢される気持ちが分かりました」
胸を撫で回されたヒロは、ぐったりとして溜息をついたのだった。
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「指名依頼があります」
街を出た後はいつ補給できるかも分からない。簡単に入手できない錬金製の治療薬などは多めに補充をしておきたいとギルドに寄ったコウメイたちは、ラッセルに呼び止められた。
「また彼女ですか」
「いや、コーデリア様の依頼は十日後だ。今日の依頼はエンダンの漁師からのものだ」
王都の料理屋からサハギンの注文が入ったが漁師達だけでは釣り上げるのが難しい。先日のように協力をして欲しい、というものだった。
「今年はオーク肉よりもサハギンの方が内陸部の領主様たちには喜ばれているようで、土産に欲しいという声もあがっていて品薄ぎみなんですよ」
もともとサハギンは、スタンピードがない時期は運よく漁師が釣り上げた際に、王侯貴族と金持ちの口に少し入るという程度の流通だった。それが今年はエンダンからサハギンの在庫が計画的に王都に出荷されているため、貴族だけでなく庶民の口にも入る機会ができた。サハギンの味を知った者たちは少々値が高くとも買い求めるし、建国祭に集まった地方の人々も、その味を知ると高額な魔道具を買い求めてまでサハギン肉を土産にと希望する者が後を絶たなくなっていた。
「祭りが終わるまでにサハギンをできるだけ多く釣れ、か」
王都脱出を計画しているコウメイたちにはうってつけの指名依頼だ。このタイミングは白狼亭の主人が手配した可能性があるな。そう思いながらも表情には出さず、コウメイは素直に指名依頼を請けたのだった。
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建国祭の本祭当日の朝、王族がそろって街に降り、国民の前で初代国王の偉業を語り、祖先への感謝を述べて祈ることから始まる。
祭り自体は三日程続き、三日目の夜に初日と同じ場所で神に祈りを捧げて祭りは終わる。
祭りの前日から王族が祈りをささげる場の周辺は厳重に警備され、限られた騎士団員以外の出入りは制限される。街に配置される憲兵は増員され、騎士団も総出で警備に当たっていた。
とある冒険者達の監視業務を与えられていた見習い騎士団員は、その日東門にてエンダン行きの町馬車に乗った六人を見送った後、その場を離れた。彼に与えられていた任務は六人がエンダンに向け移動をはじめたことを確認するところまでだった。
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建国祭の最終日。
王都シェラストラルの冒険者ギルドに、とあるパーティーの解散届けが提出された。
第4部の本編はこれで終了です。
人物まとめと閑話は次の更新で。




