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新しい人生のはじめ方~無特典で異世界転移させられました~  作者: HAL
第4部 それぞれの選択

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港町 エンダン5


 エンダン三日目の朝。

 漁師たちに叩き起こされることもなく二の鐘すぎまでぐっすりと寝た六人は、刺身にした残りのサハギン肉とハギの実を煮込んだリゾット風の朝食をとってから浜辺に向かう。

 コズエの用意した水着とパーカーを着た集団は港町では少しばかり目立っていた。ハーフパンツ姿の男たちは漁師たちと大して変わらないが、やはり水着姿の女の子は目立った。


「そんなに露出してないのになぁ」

「パーカーも着てるのにね」


 こちらの世界での倫理規定がよくわからないため、水着のデザインでコズエは随分と苦労した。真夏でも全身を覆い隠す冒険者スタイルは参考にならないし、街の女性たちの夏の服装はデコルテや二の腕をさらけ出してはいたが、足については隠し気味に思えた。


「街の女の子のスカート丈が膝くらいなんですよ。ズボンでも膝辺りまで長くて、ショートパンツとか腿丈って見かけなかったから。水着だけど足は出さないようにって膝うえまでスカートつけたんですよ」


 女子二人の水着は一見したところリゾートワンピースのようなデザインだ。上衣の肩紐は幅があり脇も浅めで肌の露出は少ない。胸の下で布を切り替えしており、膝の少し上までスカートが伸びている。日本で見ればシンプルなごく普通のワンピースなのだが。


「パーカーは脱がないようにしなさい。俺たちの誰かと必ず行動すること、二人だけは駄目だ」


 漁師たちの視線から守るように立ち位置を変えたアキラが二人にしっかりと釘を刺す。男四人でコズエとサツキを囲むようにして移動し、浜辺へとやってきた。


「おおー、見事に昆布だらけだな」


 前日に取り除いたはずの砂浜は、たった一晩の間におばけ海草で埋め尽くされていた。


「コズエちゃんとサツキちゃんはチェリ海草の回収、俺とアキとでそのほかの海草を集めるから、ヒロとシュウで集積場への運搬を頼めるか?」

「りょーかい」


 早速浜辺の掃除に取りかかった。


   +


「宝探しみたいで楽しいね」

「チェリ海草はお宝だよ、ホント」


 ブブスル草に隠れるように張り付いているチェリ海草を集め、それらを詰め込んだスライム布の袋は大きく膨らんでいる。まだまだたくさんあるお宝を持ち帰るのには水を含んだままでは重すぎた。


「チェリ海草は干したほうがいいな」

「二人は洗浄と干しの作業をしてくれ。俺たちが集めて持ってくるから」


 日除けテントにするつもりで持ってきていたスライム布を砂浜に広げ、サツキの水魔法で出した水でチェリ海草を洗っては干してゆく。


「水洗いすると色が落ちるんだ?」

「固まる成分はお湯にしか溶けないから大丈夫よ」


 色の抜けた枯れ枝のような海草が次々とスライム布に広げられていく。日差しが強いので乾くのも早そうだった。


「牛乳寒天、フルーツ寒天」

「黒蜜寒天に芋羊羹♪」


 まるで鼻歌のように寒天デザートの名前を繰り返しては作業を進めている二人。日差しは強いし作業は細かく面倒だが、美味しいデザートを思い浮かべていると苦にはならなかった。


「コーヒー寒天を頼む」


 チェリ海草の束を抱えたアキラが寒天デザートに割り込んだ。


「いいですね、コーヒー寒天ゼリー」

「コレ豆茶はコウメイが持っているから、ぶんどって作ってくれ」


 アレ・テタルで購入してきたコレ豆茶は主にコウメイとアキラの二人が愛飲していた。日本で飲まれていたコーヒーよりも苦味とクセが強くコズエたちは苦手にしていたが、寒天を使ってゼリーに仕上げれば美味しくなりそうだとサツキが断言した。


「新鮮な生乳があれば、クリームも作って添えられます」

「王都で生乳はちょっとお高いですよね」

「それくらい、ゴブリンでもオークでも討伐すればいいことだ」


 生活のために獲物を狩るのでも十分だが、嗜好品のために稼ぐという理由付けがあるのも悪くはない。張り合いがあったほうが討伐にも気合が入るというものだ。

 コウメイとアキラが集めたおばけ海草をヒロとシュウが運んでゆく。集積場と砂浜を何往復した頃だろうか、砂浜へと戻るヒロとシュウを鬼気迫る顔のドリスが追い抜いていった。


「あんたたち、何やってんの!!」

「ドリスさん?」

「年若い女の子二人にこんな破廉恥な服を着せて、どういうつもり!!」


 自分のエプロンを取り外しコズエとサツキの足を隠すように被せてから、ドリスはコウメイとアキラに怒鳴りつけていた。


「人前で脚を出すなんて、膝を露わにするなんて、この子達が娼婦と間違えられてもいいってのかバカどもがっ」

「し、娼婦、なのか?」

「膝上スカートで……」


 休漁の漁師たちがじろじろと見ているのはそういうことだったのかとコウメイは眉間にシワを寄せ、アキラは額を押さえて目を閉じた。


「ほら、こっちきなさい」


 ドリスはコズエとサツキの手を掴み引きずるようにして出張所に向かった。


「いくらパーティー仲間から強要されても、嫌なものは嫌って言わなきゃ駄目だよ」

「強要されてませんからっ」

「あの、私たちの故郷では海辺で泳ぐときはこういう格好なんです」


 むしろもっと布は少なく際どいのだが、それは言ってはいけないだろう。

 疑うように二人の顔を見ていたドリスは、嘘ではないと読み取り大きな溜息をついた。


「だったらここら辺の常識を教えといてあげるよ。知らないで男どもに襲われても、その格好じゃ言い訳もできないからね」


 出張所二階のコズエたちが寝起きしている部屋に入ると、ドリスは二人の衣服から薄手のズボンを選び出して押し付けた。


「花街の館で商売している娼婦は別だが、街に立って客を探す娼婦たちは、肩を出し膝上の短いスカート姿でいる。女を安く買いたい男たちは、肩と膝を出した女を目印にしているんだ。あんたたちは上着で肩を隠しているが、その膝はだめだね」


 買春目的の男に声をかけられ、違うと否定してもその気になった男に抵抗するのは難しい。商売女にも客を選ぶ権利はあるが、欲望に高ぶった男は否を受け入れようとしないし、抵抗するために武器を抜いてしまえば「娼婦と疑われる姿でいた」というだけで正当防衛に持っていくことも難しくなる。窮屈だとは思うが、女の細腕では男に抵抗しきれないのは事実だ、不幸なことにならないようしっかり用心しなさいとドリスのお説教が続いた。


「膝を出しちゃだめと言うことは、膝さえ出てなければ大丈夫なんですよね?」


 コズエは薄地のズボンを膝下ギリギリのところまで捲り上げて見せた。せっかく海にきたのだ、せめて足くらいは海水に浸かって遊びたい。


「まあそれくらいなら大丈夫だよ。けど膝を出すんじゃないよ、いいね?」

「はいっ」

「わかりました」


 ドリスのお墨付きを貰った二人は、制服にジャージのズボンを履いたようなスタイルで階下に降りた。


「ドリスさん、よかったらコレ、食べてください」


 台所に寄ってタライと予備のスライム布を持ったコズエたちは、机に座ったドリスに小さな陶器の椀を渡した。


「なんだいこれは?」

「昨日私が作ったお菓子です。プリンって言うんですけど」

「ぷりん? 聞いたことないねぇ」

「私たちの故郷でよく食べられているお菓子なんです。こちらの人には珍しい食感なので、好き嫌いが分かれるんですけど」

「甘くて美味しいんですよ。私は大好き」

「ふうん、あんた達の故郷か。昼飯の後にでも味見させてもらうよ」


 そう言ってドリスはにこやかに手を振った。


   +


 コズエとサツキがドリスからお説教を受けている間に浜辺の掃除は随分と進んでいた。浜に戻ると、残り少ないおばけ海草をコウメイが拾い集め、アキラがチェリ海草を探し出しては干していた。ヒロがちょうど集積場から戻ってきたところで、シュウは昼食を調達に輝魚亭へ買出しに出ていた。


「おかえり、ドリスさんから情報収集はできたか?」

「ただいまです。色々聞いてきましたからお昼ごはんの時にでも説明しますよ」


 二人が戻ってきたことで作業効率も上がり、シュウが昼飯を持って戻ってくる頃にはあらかたの清掃作業は終わっていた。予備のスライム布をテントのように張って日影を作り、そこで涼みながら昼食だ。


「サーモンとサバのサンドイッチだ」


 もちろんサハギン鮭とサハギン鯖である。それぞれの肉を香草でソテーし、ピリ菜と一緒にパンに挟んだ簡単なサンドイッチだ。サツキの水魔法で水筒に冷たい水を補充し、サンドイッチを食べながら、ドリスに教えてもらったこちらの良俗基準を皆に説明していった。


「それと男娼さんは口紅つけてるそうなので、気をつけてくださいね」

「それはどーいう意味で気をつけろ、なんだ?」

「罰ゲームに化粧するとかは危険ですよってことです」

「しねぇよ」


   +++


 昼食後に少し作業しただけで砂浜からはおばけ海草が一掃された。


「これで依頼は完了ですね」

「この町についてから仕事ばかりしていたような気がする」

「仕事しかしてねぇよ」


 到着直後から漁船に乗ってサハギン討伐に出たし、翌朝も暗いうちから引っ張り出されて討伐だ。ゆっくりできるかと思えば浜の掃除が押し付けられた。


「報酬も何も確認してなかったなぁ」

「依頼の達成証も受け取ってないじゃん」


 早めに受け取るものを受け取って逃げ出さないといつまでも拘束されかねないと零したコウメイに全員が同意見だった。


「お魚は堪能しましたし、海水浴もままならないならもう十分かな」

「魚醤は手に入れたし、昆布もモノになりそうだし」

「チェリ海草の乾燥が終われば大丈夫です」


 強い日差しと乾いた空気に、干したブブスル海草もチェリ海草もカラカラに乾いている。今朝干しはじめたものですら水分が抜けて完成品に近い状態だ。つい先ほど干したものも、夜までには乾ききるだろう。


「じゃあ明日の朝の便で街に戻るか」


 王都向けの駅馬車の始発は出張所のすぐそばだ。今夜中に荷造りしておけば、早朝の出発に遅れることもないだろう。

 食後に海風をうけながらうとうととしていると、波を見ていたコウメイがぼそりと呟いた。


「……塾の夏季集中講座で遊んでなかったんだよな」

「受験一色の夏だったからな」

「あー、俺プールには行ったけど、海は行けなかったんだよな」


 打ち寄せる波を見ていると、過ぎ去った高三の夏が思い出され、どうしても胸が騒ぐのを押さえられない。


「ちょっと泳いでくるな」

「俺も行ってくるぜ」


 パーカーを脱ぎ捨てたクラスメイト二人が波打ち際へダッシュした。


「ヒロくんも泳いできたら?」

「コズエたちは留守番になるけど、いいのか?」

「波打ち際でちょっと遊ぶくらいならこの格好でも大丈夫だし、行きたそうな顔してるよ」


 水着で泳げない幼馴染達に遠慮していたヒロだが、目の前に広がる貸切りビーチの誘惑には抗いきれていない。そわそわと視線が泳いでいたのを見たコズエはヒロをテントから追い出した。


「お兄ちゃんは……寝てる」

「アキラさんって本当によく寝るよね」

「日本にいた時はこんなに寝てなかったと思うんだけどなぁ」


 お兄ちゃんも泳いできたらどうかと声をかけようとしたのに、アキラはテントで作った日影に横になり、気持ち良さそうに目を閉じている。おしゃべりで安眠を妨害するのは良くないだろうと、二人は波打ち際へと移動した。


「まだ六月にもなってないのに、かなり暑いよね」

「王都のあたりは大陸の南にあるらしいし、冬も暖かい地方かもしれないね」


 海の水は冷たく気持ち良かった。


「真夏になったらどれくらい暑いんだろうね」

「日本の夏よりは過ごしやすいといいなぁ」


 パシャリ、バシャバシャ、バシャン!

 波に足を入れ、勢いよく蹴り上げ、ジャンプして大きく潮を跳ねさせる。


「やったわね、コズエちゃんっ」


 えいっと両手ですくいあげた海水を投げつけるサツキ。

 二人ともパーカーやズボンが濡れることなど気にもせず、波打ち際ではしゃいでいた。


「女の子がキャッキャしてんのって、可愛いよなぁ」


 ひと泳ぎして日陰に戻り手ぬぐいで水気を拭きながら言ったコウメイの背中に、寝ていたアキラの蹴りが入った。


「痛ぇって」

「今なんて言った?」

「いやいや、俺はサツキちゃんを性的にどうこうって言ったわけじゃねぇからな?」


 シスコンにジト目で凝視され、コウメイは蹴りが届かない位置へ逃げた。


「ほら、アキも泳いできたらどうだ?」

「……見世物になるつもりはない」

「見世物?」


 身体を起こしたアキラが指差した方向には、ドリスをはじめとした町の女たちがニヤニヤしながらこちらを眺めていた。数人は沖で競泳のごとく泳いでいるヒロとシュウに向いており、残りの視線は期待するようにコウメイとアキラに向けられていた。


「……のぞき?」


 コウメイがパーカーを着ると、女達からチッという舌打ちが聞こえてきた。町の漁師たちで男の半裸など見慣れているだろうに、物好きな女性たちだ。


「今晩はここでバーベキューにするか」

「そろそろ野菜が食べたい」

「じゃあ食材店に買出しだな。肉と野菜は串焼きにして、魚はフライパンでソテーだな」


 二人はコズエたちに伝言を残し、材料調達に向かったのだった。


   +++


 明日の朝の馬車で帰るとコウメイが伝えると、ドリスは残念そうに溜息をついた。


「じゃあ依頼完了の証明書を作っとかないとね。あんた達のおかげで港町も助かったよ」

「久しぶりにサハギン肉が食べられて嬉しかったわ」

「今晩麗しの夢亭にいらっしゃいな、サービスするわよ」


 ドリスが引き連れていた女たちは町の飲み屋で働く酌婦たちだったようだ。コウメイとアキラに媚を売っているが、二人は気づかないフリをして完全スルーしている。


「夕飯は仲間と浜でバーベキューなので」

「あら、それじゃあお酒を差し入れするわよ」

「じゃあ私はお魚にするわ。サハギン肉はどれがいいかしら。焼くなら鮭かしらね」

「私はパンを持っていくわね」


 盛り上がる酌婦たちにドリスが口を挟んだ。


「あんたたち仕事はどうするのさ」

「港の飲んだくれは見飽きてるのよ。せっかく若くてキレイなのが来たのにもういなくなっちゃうんでしょ。最後に楽しいことくらい期待したいじゃない」


 何を期待しているんだかとドリスが肩をすくめた。若いのとキレイなのは作り笑顔が引きつっているし、身体も逃げ腰なのがバレバレだ。


「店主に許可貰ってからにしなさい、迷惑かけて嫌われたくないでしょ」

「はぁい」

「休みをぶんどってくるわ」


 酌婦たちを追い返したドリスは、心配するなと笑った。


「漁が再開されて漁師達が金を持ってるんだ、久しぶりに大繁盛している麗しの夢亭で酌婦不在は許されないよ。安心しな」


 そう言って二人を見送ったドリスは、残務処理に戻ることにした。ギルド出張所では報酬の直接支払いはしないが、できるだけ色をつけるように報告書には書いておこう。


   +++


 酌婦たちは雇い主から許可が出なかったのか、砂浜に押しかけてくることはなかった。その代わりにドリスが酒を差し入れてきたが、匂いをかいだだけで酔っ払いそうな強い酒だった。


「コレ飲んだら明日起きれねーよ」

「サツキは駄目だ」

「コズエも飲まないほうがいい」


 コウメイとアキラは水で割って少しだけ味見をしたが、一杯で十分だとそれ以上杯を重ねることはなかった。

 魔猪肉と野菜の串焼きは、魚醤を使ったタレで旨味が増し好評だった。サーモンは表面を炙るだけにして植物油と香辛料で味を調えた。野菜野菜とうるさいアキラのために、コウメイは魔猪肉の切れ端を入れた野菜炒めを作っている。


「明日の馬車は二の鐘出発だそうです」

「寝過ごすなよアキ」

「部屋の掃除は特にしなくていいそうです。毛布だけ畳んでおいて欲しいって」

「朝飯はどーする?」

「作ってる暇ねぇし、食ってる時間もねぇからな。今から串焼肉のサンドイッチ作っとく。馬車で食おうぜ」


 サツキがパンに切れ目を入れ、コウメイが間に肉と野菜を挟んでゆく。スライム布で包むのはコズエの担当だ。


「短かったけど、すっごく忙しかったですね」

「遊びにエンダンまで来たのは初めてだったけど、楽しかったぜ」

「仕事もさせられたけどな」

「海の討伐って難しかったです」


 普段は森でばかり狩りをしている五人には新鮮なことばかりだった。新しく食材の発見もあり、楽しみが増えたのも嬉しいことだ。


「帰ったら寒天で美味しいデザート作りますね」

「黒蜜心太を頼むな」

「牛乳寒天っ」

「フルーツ寒天を」

「コーヒー寒天ゼリー」

「白玉団子っぽいやつを何とかして作るか」


 明日を移動日とし、明後日は休養日にすると全員一致で決まったのだった。


3話くらいで終わるつもりが、5話になってしまいました。

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