港町 エンダン2
「腹減ったな」
「朝が早かったですからね」
王都出発が二の鐘、感覚的には午前六時前後だった。馬車が港町に着くのは昼前くらいだと聞いていたため、携帯食や弁当の類は持ってきていなかった。
「昼飯食える店はあるんだろ?」
「飯屋はあっちの繁華街の方にあるけど、先にギルドで荷物下ろそうぜ」
そう言ってシュウは五人をギルド出張所の建物に案内した。
大きく開け放たれた扉から中に入ると、出入口の近くには長いすが並んで置かれていた。どうやら乗り合い馬車の待合所としても使われているらしく、数人が腰をかけている。左手奥には事務机が二つ並んで置かれており、片方には丸顔のふくよかな女性が座っていた。
「いらっしゃい、シェラストラルからきた冒険者でしょう。連絡はきているわ、早速たまってる依頼を片付けてちょうだい」
勢いよく立ち上がりシュウをスルーしてずんずんと近寄ってきた。手にした板紙の束をこれ見よがしに振りながらアキラに詰め寄る。
「これが漁協組合からの依頼で」
「あの、ちょっと」
「こっちは麗しの夢亭からの依頼よ」
「すみませんが」
「これとこれは個人からの依頼で急ぎではないけど随分長く待たせているのよ、できるだけ早めに終わらせてちょうだいね」
「こっちの話し聞けよオバサンがっ」
噛みつかんばかりにアキラに迫り、こちらの声を無視する女性にキレかけたコウメイから暴言が飛び出したが、即座に板紙の束が顔面に打ち付けられていた。
「何しやがるっ」
「礼儀を知らないクソガキを躾けただけよ」
痛む顔面に手をやって呻くコウメイに向けられた視線も、アキラの一言も冷たい。
「今のはコウメイが悪い」
「ですね」
どんな年齢であって女性に「オバサン」は禁句だ。お姉さん、あるいは少し年上のお姉さん、ぐらいのニュアンスの適当な言葉を選ばなかったコウメイが一発殴られるのも仕方のないことだ。
彼女は怒気を残したまま、パンパンと板紙の束を手で叩きながら六人の冒険者をじっくりと観察した。
「色男にクソガキと若造、小娘と、おやシュウじゃないか、ひさしぶり」
何度も港町を訪れたことのあるシュウとは顔なじみなはずの彼女は、たった今気づいたとでもいうように笑顔を見せた。
「ちわっす、ドリスさん。この獣耳が見えてないって、老眼が進んだんじゃね―の?」
「あんたにも躾けが必要だね」
ドリスは素早くシュウの尻をパシ、パシと板紙で叩いた。
「滅多にない色男を見ないでどうする、あんたを見る視力がもったいないじゃないか」
「ひでー」
「酷くないよ。さて依頼だけどね」
「ちょっと待ってくれ。俺たち着いたばかりなんだ、先に昼飯食わせてくれよ」
ふくよかではあるが背が低く見た目は可愛らしいのに、ドリスは性格も口調も覇気も男勝りで荒っぽい。獣人であるシュウを様々な意味で特別扱いをしなかった珍しい人物で、初めてエンダンの依頼を片付けにきた時から懇意にしていた。
「そういやそろそろ飯時だね。いいだろう、じっくり説明したいから飯が終わったらここに戻ってくるんだよ、逃げるんじゃないよ」
「逃げねーって」
ドリスは机の引き出しから取り出した鍵をぽいっと投げ渡した。
「荷物は部屋に入れといておくれ、ここの階段を上がって突き当りが男部屋で、一つ手前が女部屋だよ」
「あの、ここに台所はありますか? 洗い場は?」
恐る恐るにサツキが「使わせてもらいたいと」尋ねた。
「洗い場はこっち、台所はその隣だが、最近使ってないから埃かぶってるよ。それでもいいなら自由に使ってくれていいよ」
階段下の扉を開けて案内された。どちらも狭いが一応の設備は整っているようだった。
「ああ、そうだ。しばらく前から輝魚亭は休業してる、飯を食うなら麗しの夢亭にしな」
+++
出張所二階の雑魚寝部屋に荷物を置き、コウメイらはシュウの案内で繁華街に向かった。港町の繁華街と言っても、二つしかない飲食店の一つは休業中で、もうひとつは夜がメインの酒場だ。
「……雰囲気が、あれですね」
「あれって?」
「きれいなお姉さんがお酒ついでくれるっぽい」
店構えを正面から見た女の子二人の会話だ。
「コズエちゃん、鋭い」
シュウは苦笑いしながら踏み込むのを躊躇う二人に説明した。
「夜は漁師や兵士らが酒を飲みに来る酒場だが、昼間は普通の飯屋なんだぜ。俺がエンダンにいる間は、朝と夜は輝魚亭で、昼は麗しの夢亭で食うことが多いな」
きれいなお姉さんに会いたければ暗くなってから来ればいいとは、女の子二人の前で流石に口にしなかった。
麗しの夢亭の扉を開け踏み込むと、ぷうん、と酒の臭いがした。
「っと、危ねぇ」
コウメイは足を引っ掛けそうになった物体を見て絶句した。足元に転がっていたのは中年男だ。店内を見てみれば、日焼けした男達がたむろしている。転がる酒瓶、赤い顔で笑っている男、テーブルに突っ伏して寝ている男。
立ち止まったコウメイの後ろから店内を覗き込んだアキラは不快そうに顔を歪めた。
「酒臭いにもほどがあるぞ」
「昼間は飯屋って言ってなかったか?」
「そのはずなんだけど」
前に食いに来た時は、近くに駐屯する兵士や漁師たちが健全に飯を食っていたとシュウは眉をしかめた。
「おお、狼じゃねぇか、久しぶりだな」
厨房から出てきたエプロン姿の男が、コウメイらの足元に転がる男を足で寄せて通り道を作った。
「入れよ、飯だろ?」
「チャック、ここはいつから昼間に酒を出すようになったんだ?」
「出してねぇよ、こいつらが勝手に持ち込んでやがるんだ」
テーブルで酔いつぶれているのは町の漁師たちだ。チラリと見ただけだがシュウの知り合いの漁師も何人かいる。漁師の朝は早く、漁を終えるのは昼前になる。その日の水揚げを市場で契約商人に売り終わるのが昼下がりの七の鐘の頃だ。今頃は漁港の市場で取り引きに忙しいはずの漁師たちが何故飲んだくれているのか。
「こいつらのおかげで昼の客がさっぱり入らねぇ」
元漁師である料理人は昔の仲間を入店拒否にできなかったらしい。それでも腹に据えかねていたのか店にやってきた久しぶりのシュウのために、「遠慮なく座ってくれ」と酔いつぶれた男達を床に蹴り落としてテーブルを空けた。
「べっぴんさんを三人も連れて、シュウも隅に置けねぇな」
シュウの連れを改めて確認したチャックは、ニヤっと笑い口笛を吹いた。
「置かなくていいんだよ。昼の飯を六人分、大至急で」
返答に困ったシュウはとりあえず真っ先に椅子に腰をおろした。
シュウと料理人とのやり取りを聞いて笑いを堪えプルプル震えている者が一人、どう反応していいか困っている者が二人、同意して頷く者が一人、目を細め冷たく見据える者が一人。全員がテーブルに着くと、ほどなく料理が運ばれてきた。
「昼の飯だ」
テーブルに置かれたのは角ウサギ肉と根菜の煮込み料理だった。
「港が近いのに、魚料理じゃないんですね」
美味しそうな煮込み料理だが、銀色に輝く海を見たばかりで新鮮な魚料理を期待していたコズエは不思議そうに料理人を覗った。
「そこで飲んだくれてる連中を見りゃわかるだろ。魚がねぇんだよ。奴ら漁に出られなくなってんだ」
だから飲んだくれてるんだけどな、とチャックは溜息をついた。
「お魚がいなくなったんですか?」
「船を出せなくなってるって意味だ。シュウが町に来たって事は、ギルドで止まってる依頼を片付けてくれるんだよな?」
「いや、俺らは魚料理を食いにきただけなんだよ。こいつらは内陸出身で、海を見たいって言うから案内したんだ」
「新鮮なお魚料理を楽しみにしてきたんですけど」
期待のこもった視線のチャックと酔いつぶれた漁師たちを見比べたコズエに、料理人は肩をすくめた。
「あんた達が依頼を片付けてくれりゃ、あいつらも船が出せるんだがな。ついでにウチが出してる依頼も片付くし、魚料理も出せるようになる」
「ついでって?」
「今エンダンが困ってる物事の原因は、だいたい繋がってんだ」
勝手に酒盛りをしている漁師たちを放置し、チャックは三本足の丸椅子を持ってきてテーブルの脇に腰掛け、食事中のシュウらに愚痴った。
「港の海底におばけ海草が大繁殖してんだよ。それこそ漁場までびっしりと。魚にとっちゃいい隠れ家なんだが、漁師には厄介な相手でな。漁船の舵や櫂がおばけ海草に絡めとられて動けなくなるわ、そのまま沖に流されるわ、船がまともに出せなくなってんだよ」
漁獲が無くなったため、しばらくは干物魚でやり繰りして営業していた輝魚亭だが、店名にもある「輝魚」どころか他の鮮魚も手に入らなくなってしまったため、営業休止に追い込まれているのだという。
「おばけ海草って、見た目はどんなのなんだ?」
チャックの愚痴に興味を持ったらしいコウメイが食事の手を止めた。
「薄っぺらい草みてぇなヤツだよ。海底から生えてんだがツルツル滑って引き抜くのが難しいんだ。普通の海草はこんくらいの長さまでしか成長しねぇんだが、おばけ海草は俺の背丈よりもでっかくなるからな」
胸の前で両手を開いて作った長さはおよそ五十センチと言ったところか。そしてチャックの身長はシュウにも負けていない。
「土色したおばけ海草の大量繁殖のおかけで海面は真っ黒だ」
「そのおばけ海草ってのを刈り取ればいいんじゃねぇの?」
「魚の住処になる環境は、海の魔物の住処にもなっちまってる事が問題なんだよ」
漁師たちは適度な時期におばけ海草を刈っているのだが、今年は海草の成長速度が速く、いつもの刈りとり時期の前に大繁殖してしまった。慌て刈りとろうと潜ったのだが、海草の中に住んでいたのは魚だけではなかった。大繁殖したおばけ海草の林に一角魚や砂鮫やサハギンらも巣を作っていたのだ。
「水中で海の魔物に勝てるわけがねぇ。船の上から銛でしとめようとしたんだが難しくってよ。それ以来魔物が漁場に近づいてくる漁師の船を襲うようになったんだ。一角で船底に穴を開けられたり、乗りあがってくるサハギンと争って怪我したりしてな」
「海の男って冒険者並に頑強で強いじゃねーか」
「数が多いんだよ、数が。船に乗ってる漁師が全員魔物と互角に戦えるわけじゃねぇんだ」
漁協組合も黙って見ていたわけではない。腕に覚えのある漁師を集め魔物退治を試みたが、負傷者を多く出して失敗に終わった。魔物相手なら専門家に頼むしかないと冒険者ギルドへ依頼を出したらしいのだが、港町まで足を伸ばして依頼を受けるパーティーはいなかった、と言うことらしい。
「じゃあ漁協が出してる依頼ってのは海の魔物討伐か」
「海草の除去も手伝って欲しいそうだぜ」
「そんで麗しの夢亭の依頼内容はなんなんだ?」
「そいつら」
チャックはくいっと顎で転がっている漁師たちを示した。
「昼は片手間にやってるとはいえあれじゃあ営業妨害だからな、外にたたき出す用心棒を雇いたかったんだよ」
なるほど、漁師らが海に出られるようになれば問題は根本から解決する。
「頼んだぜ、シュウ。そっちの兄さんたちとべっぴんさんたちも、な!」
+++
昼食後にギルド出張所に戻ったコウメイたちは、ドリスに最優先の依頼を押し付けられ漁港にやってきていた。
「俺ら、魚食いにきたんだよな?」
「お魚を食べるためにも依頼を片付けるしかないですよ」
海の魔物の討伐は初めてだ。コウメイとヒロは船に乗りあがってきた魔物を屠り蹴落とすことに専念し、アキラとサツキは弓矢で、コズエは槍で、シュウは漁師に銛を借りて海上から戦うと打ち合わせた。漁協の漁師に出してもらった船はそれほど大きくないため、二艘に分かれて魔物が多く住んでいる漁場へと向かう。
「なあ、後ろからついてきてるあの船は何なんだ?」
コウメイたちの乗った船の後を何艘かの漁船がついてきていた。コウメイに問われた船頭はニカっと笑って後続の船に手を振った。
「ありゃおばけ海草の刈り取りと、おめえらの釣り上げた魔物を回収する船だ」
「もしかして素材が取れるのか」
「角はそれなりに値がつくが、食うんだよ。サハギンは普通の魚よりも美味い」
「食えるのか」
しかも美味いと断言する漁師の言葉を聞いて、断然コウメイにやる気がわいてきた。
「何色が釣れるかわからねぇが、俺は青サハギンが好物だ」
「サハギンに色わけがあるのか?」
「赤と青と白、たまに虹が引っかかるな」
一角魚の角は加工素材になるし身はバター焼きにすると美味い。砂鮫は食用にはならないが飼料に加工できるので捨てるのは勿体無い。サハギンに至っては極上の食材であり、輝魚亭のメイン食材として是非とも手に入れたいと店主自ら回収船に乗り込んでいるらしかった。ちなみに虹色のサハギンを輝魚とも呼ぶ。
「おばけ海草に住み着いてんのは赤と青って聞いてるぜ」
赤サハギンは煮込み料理、青サハギンは焼き物、白と虹サハギンは蒸し料理がおすすめだと船頭が料理法まで詳しく説明したため、コウメイの目が輝いている。
「そろそろだ、よーく海を見張っとけよ」
船がスピードを落とし、黒い海面にキラキラと鱗のようなものが見えた。
ドン!
「おわっ」
「穴が開いたぞっ」
シュウの足元の船底から白く鋭い角が生えた。
「一角魚だ、角を折れ」
コウメイの剣が角を折った。
船頭は穴から吹き出す海水に慌てることなく、壺から取り出した粘土で一角魚のあけた穴を塞いで海水を船外へとすくい出してゆく。
「あんたらの仕事は魔物退治だ、船の方はこっちに任せとけ」
激しく揺れる船で何とか足場を作り、アキラが海中に向け矢を放つが、水の抵抗が邪魔で魔物にまで届かない。サハギンは海面近くまで浮かび上がると、船を掴もうと手を伸ばした。
「まんま魚じゃねぇかよっ」
「違和感だらけだ」
「水掻きつき手足が不自然だよなー」
コウメイは船縁に手をかけたサハギンを斬りつけ、蹴り落とした。
「鰹だな」
よくよく見ればサハギンにも個性がある。
「こっちは鮭か?」
「これって鯛だよな?」
生息海域の異なる魚が同じ場所で漁れるのはおかしいのだが、魔物ならアリなのだろうか。
シュウは漁師から借りた銛で船に手を掛けようとする鮪サハギンを突いて引きはがし、コウメイは反対側で船縁を掴む鮭サハギンの手を容赦なく切断しては蹴り飛ばした。
アキラの矢がそろそろ尽きそうだった。コウメイはサハギンから奪い取った槍を投げ渡す。
「そこか」
おばけ海草の影に見え隠れする鱗に向けて槍を投げた。
海中の魔物の武器は水の抵抗をものともせず砂鮫を貫いた。
矢や漁師の銛よりも殺傷力の強い有効な武器を発見したアキラは、コウメイにサハギンの槍を集めるように言った。
「シュウ、サハギンの槍を使ってみろ」
「なんでだ」
「水の抵抗が起きないようだ。お前の力なら水中のサハギンも一撃でやれる」
足元に転がっているサハギンの槍を手に取ったシュウは、船縁から身を乗り出し海中の魔物に向け槍を突き出した。
「おおっ、こりゃいい」
波や海水の抵抗が全く感じられなかった。陸上で槍を突き出しているのとさして変わらない感覚だ。
槍の強奪はコウメイに任せ、二人はサハギンの槍で海中を突き、払い、斬り続けた。
コズエたちにもサハギンの武器を使うようにと伝え、船上からの討伐は続く。
魔物の回収にあたる漁師達は、漁船の間に網を張り、海流に流される魔物の死体を絡め取っては引き上げていった。
「大漁だな!」
「久しぶりに美味い酒が飲めるぜ」
「おら、もういっちょ引き上げるぞー」
槍の刺さったサハギンや一角魚が山積みされた船を見てコズエたちは微妙な表情で顔を見合わせていた。
「シュールな光景ですね……」
「手足がなきゃ漁師の船に見えるんだが」
「あれ、本当に美味しいのかな?」
漁船の縁からだらりと垂れている水掻きつきの足や手を見ていると、メインの身体が鮪や鯛であっても食欲はわきそうになかった。
闇雲におばけ海草に槍を突き刺していたが、そろそろ手ごたえがなくなってきた。この付近の魔物はあらかた屠ったか、逃げ出してしまったかしたようだ。
「兄ちゃん達、上から警戒しててくれよ。魔物を見つけたら頼むぜ」
おばけ海草を刈るため、潜水服を着た数人の漁師が刃物を手に潜っていく。海草を根元から刈り切るのではなく、船の操行に支障のない長さでザクザクと刈っているようだった。コウメイらは潜水作業中の漁師達を守るべく警戒を続けた。
漁場のおばけ海草をあらかた刈り終えたのは八の鐘の鳴る少し前だった。魚の住処は残しつつ、魔物の隠れられない長さに海草は刈りそろえられた。船着場とその周辺の作業は明日に持ち越しだ。
+
コウメイたちを乗せた漁船は船着場まで戻ってきた。サハギンらを水揚げする船は漁港につけられ、漁師ら総出で血抜きと解体作業にかかるそうだ。
「しまった、おばけ海草を拾い忘れた!」
船から下りた途端にそう叫んだコウメイの声に漁師らは奇妙なものを見る目を向けた。
「あんな焚き付けぐらいにしか使えないものをわざわざ拾うのか?」
「……もしかしてアレ、食えねぇのか?」
「食い物のわけねぇだろ」
「この辺じゃ誰も食わねぇよ」
硬いしヌメヌメして気持ち悪いし食えるわけがないだろうと漁師たちは笑った。
「毒はねぇんだろ?」
「食ったことねぇから分からんね」
漁師たちはみな否定するが、コウメイの目にはおばけ海草は昆布にしか見えなかった。天日干しで乾燥させればいい出汁が取れそうに思えるし、加熱すれば食べられそうに思える。本当に食べられないのかどうか、試す価値はあるだろう。
「明日、十枚くらい貰うぜ。かまわねぇだろ」
「変わった奴だな。いるなら勝手に拾ってくれ」
それでは遠慮なく貰うことにしよう。試しに乾燥させて出汁を取れるように加工したい。生のまま細かく刻んで炒め物にしてみてもいい。幸い毒消薬も回復薬も持ってきている、試す価値はあるだろう。
コウメイはおばけ海草を手持ちの調味料でどう料理するか考えるのだった。
+
漁港の解体所で鮭と鮪の切り身を分けてもらったコズエたちは、ギルド出張所の台所で簡単な夕食を作った。
「サーモンの蒸し焼きと、ツナと芋のサラダだ」
薄くスライスした黒パンとミント水も添えられている。
「手足が生えてたとは思えないくらい美味しそうです」
「切り身の状態は普通のお魚でしたもんね」
「シュウはサハギン食ったことあるか?」
「鯛サハギンなら。スープで食ったが、普通の魚より美味かった」
湯気をたてる蒸し焼きの香りがたまらない。
「「「「「「いただきますっ」」」」」」
魔物肉が家畜肉より美味いのと同じで、サハギンもやはり美味かった。シェラストラルの料理店で食べた魚よりも、旨味が強く魚の個性がハッキリしていた。
「鯖サハギンと鰹サハギンも試してみてぇな」
「明日の討伐に期待しましょうよ」
「昆布もゲットしなきゃならねぇしな」
「昆布出汁とれるといいですね」
その夜、麗しの夢亭では漁師たちが飲み騒ぎ、酌婦らが上機嫌で酒を注いでまわり、久しぶりの活気に湧いたのだった。




