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新しい人生のはじめ方~無特典で異世界転移させられました~  作者: HAL
第4部 それぞれの選択

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王都 王都の森の冒険者たち1



 白狼亭の朝食は、蒸した角ウサギ肉とパンに味の薄い野菜のスープが定番だ。二の鐘の前に食堂に集まった六人は、一番広いテーブルについて朝食をとりながら一日のスケジュールを打ち合わせていた。


「つか、朝がはえーよ」

「俺らはいつもこんなものだぞ」

「夜が長いんですから、明るくなったら動かないと時間がもったいないじゃないですか」


 欠伸をこらえるシュウは「老人か」とひっそり呟いた。

 実際のところ、こちらの世界の人々の生活は、空が明るくなると同時に動き始め、暗くなると一日を終える。ランプやロウソクは人々の生活に取り入れられていたが、主に宵の頃に残した仕事を片付けるための灯りとして使われているだけだ。白狼亭の客室にはランプは備え付けられているが、油は一回八十ダルが必要になる。日本で生活していた頃のように夜遅くまで部屋を明るく保つために使うには、ランプオイルもロウソクも贅沢品だろう。


「東の狩場は森、西の狩場は平原でしたよね」

「先にギルドで買取の相場表を見ていこう。効率よく稼ぎたいからな」

「なあシュウはどっちをメインの狩場にしてたんだ?」

「俺は森だな。一人でやってると、平原みてーな場所は逃げ隠れが難しいからな」


 複数の魔獣や魔物を相手にしなければならない場合に、森の木々や倒木はうまく使えば盾の役割を果たしてくれる。


「俺らと同じだな。安全マージンを取ろうとしたらどうしても森の狩りが中心になるんだよな」


 おかげで長剣が使いづらいとコウメイは苦笑いだ。使い方次第ではあるが、基本的に障害物の多い場所に振り回さなければならない長剣のような武器は向かない。


「今日は東の森の植生の確認と、余裕があれば何か狩るということでいいか?」

「OKです」

「問題ありません」


 露店市もまだ半分ほどしか店を開いていない早朝に、六人は東門から森へと向かった。今日はシュウの案内で森の入り口から手ごろな狩場を確認して回る予定だ。


「随分と森が近いんだな」

「ほとんど距離がないじゃないか。危険じゃねぇのか?」


 東門を出ると視界の先に森が見えていた。感覚的には十分ほども歩けばたどり着けそうなほどの近さだ。これほど街に近いと何かの拍子に魔物が襲ってくるのではないかと心配になる。


「この辺はあまり凶暴な魔物は湧かねーらしくて、初心者がうろうろしてる。たまに魔獣と間違って同士討ちがおきてるみてーだから注意しろよ」

「初心者に不意打ちされるのは嫌ですね」

「薬草採取に夢中になってる連中は回避だな」


 驚かせた挙句に矢を射られて負傷するなんて事態は避けたい。

 とりあえず初心者向けの森からだと、シュウは歩いて森に向うことにした。


「ここから北の山に近いあたりは魔鹿と凶鳥が多いな。南に下るとオークが増える。オーク狩りの連中は東門から出てる町駅馬車に乗って、もっと南の方から森に入る」


 王都と森と村、そして港町を結んだ町駅馬車は一日二便が出ている。南の森の出口にある乗り場で最終馬車に乗れば確実に閉門までに街に入れるため、いつも冒険者達を溢れるほど乗せているらしい。


「狩った獲物を優先して積み込むから、人間の方は馬車にしがみついてぶら下がってるような感じだぜ」

「ラッシュ時の満員電車みたいですね」

「振り落とされたらどうするんでしょうか」

「走って追いかけるしかねーよ。門限までに着かなきゃならねーから馬車はスピード上げるし、落ちた奴のために止まったりしねーよ」


 疾走する馬車と同じスピードで走れるわけがない。冒険者達は疲れきった身体に鞭打ちながら死に物狂いで馬車にしがみつくのだ。


「角ウサギに魔猪とか銀狼とか、あとは双尾狐あたりは森のどこにでも現れるぜ」

「熊さんもですか?」

「ムーン・ベアは初心者の居るあたりからずっと進んだ森の奥だな。山に突き当たるかあたらねーかってくらいの場所で目撃情報が多いな」

「蜂蜜の採取もそのあたりでしょうか?」


 サツキはムーン・ベアよりも蜂蜜のほうが気になっていた。蜂の巣の採取ができれば、蜂蜜を使ったお菓子を沢山作ろうと記憶にあるレシピをおさらいしている。


「南の入り口あたりから森をかなり奥へ進んでいった所に湖がある。そのあたりは暴れ魔馬が水のみ場にしてるな。頭蹴られたら一発で終わりだから不用意に近づくなよ」

「……馬刺しはまだ食ってねぇな」

「醤油と生姜があれば狩ってもいいと思うが」

「馬肉は煮込んでも美味いだろうな」


 そのうち機会があれば狩りにいこうぜ、とコウメイは食いたい獲物リストに魔馬を書き込んだ。


「……おまえらの狩りは胃袋直通なんだな?」

「シュウは違うのか?」

「食い扶持稼ぐのが目的なのは同じだけど、うんまあ、それでいいよ」


 気の抜ける会話をしている間に森の入り口に着いた。まだ早い時間のせいか、六人の他に冒険者の気配はない。


「薬草は種類は多いが採りつくされているようだな」


 人の足跡が多く残る浅い森を観察したアキラが眉間にシワを寄せた。そこかしこにある摘み取られた痕跡を見てため息をつく。初心者らしいといえばそうなのだが、目に付く場所にある薬草を全て摘み取ってしまっていて、薬草の再生が期待できない状態だ。


「奥まで進めば薬草もまだ残ってると思うけど、初心者は身を守れねーから難しいだろうな」

「じゃあ狩りのついでに薬草の採取も積極的にしていこう」

「あんまり大量に納品して相場を動かすなよ。初心者が食えなくなったらかわいそうだ」


 シュウに釘を刺されたアキラは、仕方なく小遣い稼ぎレベルにとどめることを約束した。


   +++


「これで二匹目、と」


 シュウがしとめた双尾狐を掴んで見学していたコズエらに掲げて見せた。


「逃げる狐に走って追いついて捕まえ、そのまま短刀でグサリ」

「俺らにはできねぇ狩りだな」

「足の速さも獣並みに強化されているのか」


 普段どういう狩りをしているのか、参考にと見せてもらったのがこれだった。シュウは優れた聴覚で獲物の存在をとらえ、気づかれないように近づき、逃げ出す前に捕まえて問答無用で一撃というパターンがほとんどだった。


「凄いですね。ソロで稼げてるの納得です」

「俺からすりゃコズエちゃんらの狩りの方がすげーと思うけどな」


 そう言ってシュウはコウメイの長剣やコズエの槍を見た。


「森だと使いにくい武器でそれだけ狩れりゃ上等だろ」


 コウメイとサツキが解体している魔猪は三頭目だ。二人が魔法で水を出せるのにもびっくりしたが、樹木に囲まれた地形で不自由なく長剣を振り回すコウメイの器用さは驚くしかない。


「俺だったら絶対に木にぶつけてるぜ」

「これでも獲物と回りを確認してから武器を使ってるって。狐みたいな小さな相手に長剣は向かねぇけど、魔猪なら振り下ろす角度と位置を決めて狙えば一撃で終わるしな」


 コズエも同じだ、仲間が追い込む獲物にタイミングを合わせて一突きするのだ。障害物の多い場所で槍や長剣は使いづらいが、仲間との協力があるからこそ今の武器で狩りができている。


「やっぱりソロとパーティーじゃ狩りも随分違うんだな」

「学ぶところは多いな」


 アキラは久しぶりに自動弓を手にシュウの狩りを真似て双尾狐を追った。シュウのように気配を殺して近づき、気づかれる寸前に矢を射る。


「大物の獲物と違って狐は矢一本で終わるから楽でいい」

「魔猪には何本も必要だし、牛にはほとんど効かなかったものね」


 兄と同じく弓使いのサツキも、大物相手の戦闘では致命傷を与えられないジレンマを抱えていたようだ。角ウサギのような小型の魔獣でゴブリンほどの報酬を得られる双尾狐はありがたい獲物だ。


「今日は腕ならしと様子見のつもりだったし、そろそろ戻るか」

「狐は解体せずに持ち込むのか?」

「ああ、解体を習いたいからな。狐は毛皮に値がついてんだろ? 下手に解体して買取り額が下がったら嫌だしな」

「狐はそんなに重くねーだろ、わざわざ解体しなくてもいいんじゃねーか?」

「そりゃ一匹二匹なら、な。いくら重くない獲物とはいえ、何匹もいたらかさばるだろ」


 今日の成果、双尾狐はシュウが二匹にアキラとサツキが一匹ずつ、全員で狩った魔猪が三頭だ。

 スライム布に包んだ肉はコウメイとヒロが、魔猪の皮はアキラが背負い、双尾狐はまとめてシュウが背中にぶら下げた。

 街に向かって足をすすめながら、アキラは薬草を見つけるたびにコズエやサツキに指示を出してゆく。


「コズエちゃん、その木に絡み付いている蔦の先の方を落としてくれ。実を採取したい」

「上の方のブドウみたいなやつですね?」


 コズエの槍が樹木に絡み付いている蔦ごと実を引きずりおろした。


「薬草ですか?」

「麻痺薬の材料になるチル蔦の実だ。昨日見た薬草の買取り額で一番値段が高かった」

「じゃあもっと採取しますか?」

「この株じゃなくて、向こうの木に絡み付いてるのを半分くらい採ってくれ」


 よくよく見てみればこのあたりの樹木は蔦の絡み付いているものが多く、その半数がチル蔦だとアキラが言った。


「初心者はここまで入ってくるのは難しいだろうな」

「このあたりは魔猪が出ますからね、角ウサギでいっぱいいっぱいの時期は危ないと思います」


 自分達が角ウサギ相手に苦戦していた時期を思い出したのか、コズエは懐かしそうに目を細めた。

 ほとんどギルドに納品されていない薬草を選んで採取しながら森の外へと向かう。初心者と思われるいくつかのグループと遭遇したが、誤射される前に声をかけて魔物ではないと示した。どの冒険者達も幼い子供達ばかりだったのには驚いた。十歳前後に見える子供達が数人で森を探索しており、手には角ウサギや薬草が下げられていた。


「初心者って、子供達ばかりなんですね」

「大丈夫なのかなぁ」


 森の出口で昼食を食べながら、コズエたちは目にした新人冒険者達を心配していた。見るからに慣れていない様子で森にずんずんと入っていく様は危なっかしくてならない。


「まだ小学生くらいなのに冒険者なんだね」

「こっちの世界の成人は十二歳だからな、就職前の資金稼ぎなんだろうぜ」


 シュウの口からさらりとこぼれた言葉に五人は首をかしげた。


「就職にお金がかかるの?」

「そうらしいぜ。職人になるには誰かの下で修行しなきゃならねーだろ。親方から支度金貰える奴はいいけど、そうじゃない奴は道具や服を自分で用意しなきゃなんねーらしい。冒険者は危険はあるが手っ取り早く稼ぐには丁度いいからな」

「弟子に支度金を払えないような親方についてまともな修行できんのかよ?」

「親方が見込んでスカウトした弟子には支度金が出るらしいけど、自分から弟子にしてくれって来た奴にまで金を出すほど余裕はねーんだと思うぜ。商人に雇われたり職人の弟子に入るのにも紹介やら推薦状ってのが必要らしいし」


 だいたいは親が紹介したり推薦したりして知り合いの店や職人に弟子入りするが、親が紹介する伝手の無い職種に就きたいと子供が願っていたり、親の居ない子供達は紹介なしでどこかに弟子入りすることになる。紹介がなければ支度金は支給されないため、成人前後から冒険者をして金をため、一年遅れて目当ての職人に弟子入りするのが普通だという。


「私たちそういう事をほとんど聞いたことなかったです」

「よく調べてんだなシュウは」

「俺からしたら半年以上一つの街に腰を据えてたくせにそんなこともしらねーのかって不思議なんだけどな。ソロでやってると伝手や情報は一つでも多く必要だから色々調べまくったぜ。獣人についても知りてーことあったけど、こっちはほとんどわからねーままだ」


 獣人族の里を一度は訪ねてみたいと考えているシュウだが、今の時点では手がかり一つ得られていない。


「そろそろ行くか」


 ダラダラと喋りながらの昼食を終え、六人は東門に向かって歩き始めた。


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