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新しい人生のはじめ方~無特典で異世界転移させられました~  作者: HAL
第3部 幸せは自分次第

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61/197

魔術都市アレ・テタル 禍根の残滓

丁度いい区切りが作れなくて、長いです。



 街の一等地に建つ魔法使いギルドの塔。

 アキラが「魔力を奪われる」と警戒する場所に、サツキとヒロは魔石の入った重い袋を持ち、覚悟を決めて警戒しながら訪れたのだが。


「リフォームでもしたのか?」

「ロビーに階段なんてありませんでしたよね?」


 あまりにも変わった内部の様子に、二人はキョロキョロと内装を見回した。案内カウンターにいる黒ローブの女性が、二人の反応を「またか」と言った様子で見ている。

 前回訪れたときには、案内カウンターと無造作に置かれた待合の椅子と、奥の壁に不自然に並んだ扉しかなかったギルドロビーには、上階へと上がる階段が出来上がっていた。前回は物音一つ聞こえなかったのに、自分達以外の来訪者のざわめきが二階からロビーにまで伝わって来ている。


「魔石の買い取りをお願いします」

「階段を上がって二階、手前の扉をお入りください」


 右手の壁伝いに新しく設置された階段をゆっくりと上った。二階には売店ができており、数人の冒険者が商品を検分していたし、一人は精算カウンター越しに店員と話をしている。


「ずいぶん変わったんだな」

「全く別のギルドに来てしまったような感じがしますね」


 二階にあったのはオープンな広い売り場面積の売店と、三階への階段、査定部屋への扉だ。

 ヒロが恐る恐るに扉を開けた。分類された魔石の並ぶ棚と、灰色のローブの魔術師が二人。ここは前回と変わりはないようだ。


「魔石の買い取りですね?」

「割り増し買取証明書です」

「かなりの量ですね。少し時間がかかりますよ」


 ヒロがカウンターに置いた魔石の袋を見て、査定魔術師は申し訳なさそうに隅の椅子をすすめた。柔らかい布を敷いた浅い箱に魔石を出し、二人がかりで一つ一つ手作業で仕分けていく。その間にも新たに買取を希望する冒険者がやってきて、空いている椅子に座って順番を待っている。


「お待たせしました。査定が終わりましたのでこちらへどうぞ」


 割増証とあわせて明細の書かれた板紙を返された。かなり詳細な明細の数行を読んだサツキは以前と査定方法が変わっていることに気づいた。


「同じ大きさなのに、値段が違うんですか?」

「はい、先週より査定基準が少し変更になりました。以前は魔石の大きさだけで値付けしておりましたが、品薄な属性の魔石は少し高く買取るようになりました」

「時価ってヤツか」

「次回からは魔石の大きさではなく、色で分別して持ち込んでいただけると助かります」


 どうやらサイズよりも属性と品質の確認に時間がかかったらしい。二人は明細を持って部屋を出て売店の精算カウンターに向かった。


「赤い魔石は他のものより高いみたいですね、紫が一番安いのかな?」

「見てみろ、壁に本日の在庫ってのがあるぞ」


 明細を見てそれぞれの単価を計算しているサツキに、ヒロが精算カウンターの後ろの壁に張り出されている板紙を示した。


「赤の魔石の在庫が一番少なくて、青と緑の在庫が多いのか」

「紫は在庫もそんなに無いようですけど、安いということは需要が無いということでしょうか」


 ヒロたちは魔石の属性を目当てに狩りをしたことはない。魔石は狩りの副産物だ。最近大量に討伐した小鬼から得られた魔石の色は様々だったような気がする。そもそも魔石の取り出しは精神的に疲弊する作業でしかない。この死体からは取り出した、という確認の流れ作業になってしまうのも仕方ない。


「アキラさんならどの魔物からどんな属性の魔石が取れるのか、記録している気がするな」

「お兄ちゃんならメモしてると思います。コウメイさんも大雑把なところは把握してるかもしれませんよ」


 あの二人なら平然として魔物の血に汚れた魔石をその場で検証くらいしていそうだ。どれくらい経験を積めばタフになれるのだろうかとヒロは目を細めた。


 魔石を売却して得た約三万九千ダルを持って二人は魔法使いギルドの建物を出た。自動ドアを出て階段を降り、ギルドの建物を振り返る。踏み込む前のあの緊張感は何だったのかという程に拍子抜けだった。


「凄く、普通になってましたよね?」


 案内や査定の魔術師たちは以前とは比べ物にならない程フレンドリーだったし、不自然な数の扉も当然の間隔と枚数に減っていた。訪れるたびに覚悟の必要なほどの隔絶感は全くなかった。


「コズエが知ったらガッカリするだろうな」

「そうですね、お兄ちゃんの魔術の本を見て『読めないっ』て悔しがってるくらいだから」


 換金した大金をギルドのパーティー口座に入れるために、二人は冒険者ギルドに向かっていた。人通りも多く賑やかな一等地にある魔法使いギルドから、東門に近い冒険者ギルドまでは距離がある。


「大金持って歩いてると、通行人全員が怪しく見えるな」


 ずっしりと重い小金貨の入った袋など持ち歩きたくないが、ギルド間の送金は出来ないと言われてしまえば諦めるしかなかった。


「冒険者から強盗しようとする人はいないと思いますよ」


 ヒロもサツキも武器をこれ見よがしに身につけている。剣よりも体術の方が得意なヒロだが、腰に剣を下げているだけでも牽制になる。

 大通りを進むと、露店市の立ち並ぶ広場に出る。近隣農家の作物や工芸品、旅の個人商人の店や軽食販売の屋台、魔道具の店まで出ている。露店の魔道具店ではいったいどんな品物が売られているのだろうかと、二人は露店の店先を冷やかしながら通り抜ける。

 広場を冒険者ギルド方面に抜けたところからは東町のエリアに入る。アレ・テタルの街の豊かさを象徴するかのように、裏通りまで含めすべての道が石敷きの整備がされている。


「きゃっ」

「おい、危ないだろ!」

「すみませーんっ」


 後ろから駆けてきた子供達の集団が横を追い抜きざま、サツキの肩に一人の少年が衝突した。勢いのまま転びそうになったところをヒロが助け起こす。少年は振り向きもせず声だけを残して走り去った。


「大丈夫か?」


 崩れ落ちそうになる身体を支えたヒロは、サツキが立っていられないほどぐったりとしている様子に驚いた。


「サツキさん?」

「……」


 慌てて道の端に寄り、サツキの身体を調べた。後ろからナイフで刺された、というようなこともなく、傷らしい傷は見当たらない。あえて言うなら左腕に擦り傷があるくらいだが。

 顔を覗き込むとサツキの瞳が動き、何かをヒロに訴えている。


「声は出せないのか? 呼吸は?」

「……う、」


 サツキの視線がヒロの背後に向けられている。


「っ!」


 反射的に拳をかまえ、振り向きざま殴りつけた。

 殴りかかろうとしていた腕を叩きつけ、サツキを背に庇い襲撃者と対峙した。

 冒険者崩れの男が二人。

 一人はヒロに殴られた腕を大げさなほどにさすっていた。その手首には細い鉄の輪がはめられている。


「酷ぇな、俺らその女の子を心配して声かけようとしただけだぞ」


 他の通行人への牽制のためか、わざとらしいふざけたセリフを吐きながら二人はヒロに殺気を向けた。


「声かける前に殴り掛かっておいて、ふざけるな」


 男たちの指には、太くゴツゴツとした鉄の指輪がいくつもはめられている。作られた拳は立派な凶器だ。

 通行人たちは争いごとから目を逸らし、足早に通り過ぎてゆく。

 ヒロは助けへの期待を切り捨てた。

 殴りかかってくる男の腕を捕らえ、関節技をかける。筋を切るつもりでかけた技は、強引に外された。かなりの痛みを伴っていたはずなのに、腐っても冒険者だ、手強い。


「ちくしょうめっ」


 もう一人はヒロの手を警戒し蹴りを放つ。

 動けないサツキを庇った状態では、立ち位置を変えることは出来ない。

 踵の直撃を堪え、そのまま押し返した。

 よろめいた隙に襟首をつかんで引き寄せ、絞める。


「ぐお、ぉ」


 男の首を絞めたまま、もう一人からの攻撃の盾代わりに使う。


「くそっ!」

「ぐ、ぐぅ……」


 絞めに抗う男が落ちた。

 だらりと力を失った重い身体を、もう一人の男へと投げつける。


「サツキさんっ」


 ヒロたちを襲ったのは三人ではなかった。

 もう一人の男が忍び寄り、ヒロが二人を相手している隙にサツキを裏路地へと引きずり込んでいた。


「も、もももも、もう少しだっ」


 とても冒険者崩れとは思えないひ弱な男だ。

 女の子一人を抱え上げる力も無い男は、サツキの腕と服を掴んで石畳を引きずっていた。


「待て!」

「ひいぃっ」


 ヒロが睨みつけると引きつった悲鳴を上げたが、ひ弱な男は掴んだサツキの腕を放さない。

 仲間の身体を投げ捨てた男が、追わせまいとヒロの足を払った。

 転ぶもなれた受け身の動作でダメージを最小限にとどめる。

 ヒロは跳ね起き、そのまま反撃に転じた。


「……ヒ、さん」


 子供にぶつかられた直後に動けなくなったサツキは、時間経過と共に感覚を取り戻していた。石畳を引きずられる痛みを感じ、ぼんやりとしていた感覚が蘇り、ヒロの形相をとらえて意識が鮮明になった。


「……水、っ!」

「ぐ、ううーぅっ」


 搾り出した魔力で水を作り、自分を引きずる男の呼吸器を塞いだ。

 突然鼻と口に水を押し付けられた男がもがき、サツキの身体は石畳へと落とされた。


「サツキさん!」

「だい、じょうぶ、れす。痺れてる、らけな……で」


 喉を掻き毟り、這い蹲って酸素を求める男を蹴ったヒロは、転がった男の身体の向こうに光る模様を見た。

 魔術陣、だ。


「こいつ、魔術師か」

「ヒロ、さん。逃げ、ましょ」


 腕の力で何とか身体を起こしたサツキだが、痺れの残る足で立つ事はできそうにない。


「警備隊の詰所の場所が分からない。ギルドへ逃げ込むぞ」


 サツキを抱き上げたヒロは、転がる襲撃者を飛び越え、表通りに向け走り出した。


   +++


「浩明だったのか!」

「お前、片岡か?」


 三C八番、片岡秀斗。

 コウメイの同級生のサッカー部のレギュラーで、そういえば体育委員だった。ゲーマーでもある片岡とは、たまに情報交換をする付き合いだった。

 馬の合わないクラスメイトや、元カノの友人の小川でなくて助かったと安堵はしたが、それよりも目の前に立つ同級生の変貌に、コウメイは言葉を失っていた。


「獣人かよ」


 ゲーマーらしいといえば、らしい選択だ。

 コウメイよりも五、六センチほど背の低かったはずのクラスメイトは、視線がほぼ同じ高さになっていたし、スポーツ選手らしく鍛えられた身体だったが、それ以上に発達した筋肉で服が窮屈そうに見える。そして何よりの変化は、黒髪から伸びた耳だ。


「それ、犬か?」

「狼だよ、狼。俺は狼獣人なのっ」


 耳の先は銀色、生え際に近くなるに連れて髪と同じ色のケモ耳。

 ただでさえもの珍しい獣人と親しげにする姿はギルド中の興味を集めていた。二人の一挙一動に集まる視線。衆人環視の中では落ち着いて話もできない。二人は場所を変えようとギルドから出たのだった。


   +


 人目を避けて選んだのは、片岡が泊まっている宿屋の食堂だった。元冒険者だという料理人の親父は、現役時代に獣人に何度か会ったことがあるらしく、狼獣人の片岡が滞在していても放っておいてくれるらしい。


「居心地いいんだよ、ここ」

「だろうな」


 昼の定食を食べながら二人は無事に転移したことと、再会の今日まで生き延びたことを喜び合った。


「つうか、おせーよ浩明は。アレ・テタルまで来てんのに全然動かねーし」

「片岡こそ、銀板の赤い印にはいつ気づいたんだ?」

「冬の終わりぐらいだなー。この世界でスマホなんて持っててもしゃあねーだろって思ってたから、雪で閉じ込められるまで触りもしなかったしな」


 暇にあかして色々触っていたら赤い印を見つけた。それは動いていて、春になると自分の所在地の方角へ向かって移動している。そこでこの赤印が同じ転移者を示していると確信した。自分のスマホに表示されているのだから、間違いなく知ってる奴だと思い王都で待っていたのだと片岡は言った。


「こっちも色々都合があるんだよ。今はパーティーで動いてるから、好き勝手できねぇし」

「パーティーか、一緒に転移した(飛ばされた)ヤツと組んでんの?」

「まあ、そうだな。片岡はソロか?」

「最初の一ヶ月くらいは転移した奴と組んでたんだけど、なかなか合わねー事も多くてさ。最低限の金を貯めたところで解散した」


 そういえば片岡の行動エリアはコウメイの通っていた塾近辺ではないはずだ。なぜ転移事故に遭遇したのかと尋ねた。


「俺、サッカーで脚痛めてただろ。検査結果を聞きにいってた国立病院からの帰りのバスで、信号待ちしてるときにすっげー爆発に巻き込まれた。浩明は?」

「塾行く前にコンビニで飲み物と菓子買ってたら、コンビニが爆発した」


 そこから先は二人とも同じだ。謎の声を聞き、ポップアップウインドウを操作し、気づけばこの世界。


「よくまあ獣人なんて選択したな」

「そりゃするだろー。選択肢があるってことは、それなりに人種人口がいて、多人種族が馴染んで暮らしてる世界だと思うだろうが」


 ところが人族以外は稀少人種族。エルフほどではないが、獣人族も十数年に一度のレア種族だった。


「狼獣人の補正が効いてるせいか、身長は伸びたし、筋トレの成果も出やすいし、力も強くなってた。冒険者やるには苦労はなかったんだがなぁ」


 物珍しさから向けられるぶしつけな視線に慣れるのにかなりの時間がかかったらしい。精神的な疲労をやり過ごし開き直れるようになったのは、割りと最近のことだと片岡は苦笑した。


「ほとんど持ち金がなかったからさ、すぐに冒険者登録して、初日から角ウサギ相手に血みどろになってたぜ」


 転移直後の片岡の財布に入っていたのは、たったの五十ダル。これでは街によっては宿代にもならない。


「何処に放り出された?」

「王都の真ん中。整備された公園にある池にドボン」


 アレ・テタルもそこそこの物価だが、王都はもっと高い。しかも王都の宿屋には他の町にあるような雑魚寝で泊まれる格安の宿は無い。


「一緒に転移した奴のことを考えると、野宿の選択は最初からなかったから仕方ねーけど」

「俺らよりマシだな。人里まで丸二日の距離の森の中だ。リアル・サバイバルは二度としたくねぇよ」


 転移した時のコウメイらはそこそこの金を保持していたが、いくら金がたくさんあっても、サービスを提供している場所にいなければ意味がない。


「それからずっと王都なのか?」

「ああ。街の連中も獣人を見慣れてきて、煩わしい視線も減ってずいぶん気が楽になったしな」


 昼定食は魔猪肉の串焼きと茹で潰した芋、クズ野菜を煮込んだスープと黒パン。二人は旺盛な食欲でそれらを平らげた。食器が片付けられ、昼の営業を終えた食堂の片隅をそのまま借りて話を続けた。

「あの暗号、よく考えたな」


「俺だってすぐ分かったか?」

「他人の出席番号なんて覚えてねぇよ。まあ、体育委員ってトコで片岡だったかなぁって」


 コウメイに褒められ片岡は得意げに笑った。


「赤い印はアレ・テタルに留まったまま動かねーし。あー、浩明電池切れ放置してただろ。あれ見てすれ違ったらまずいって慌ててやってきたんだよ。どうやって探しゃいいか悩んでたら、ギルドの掲示板にパーティーメンバー募集の張り紙あっただろ。あれ見て『探し人』を貼ればいけそうだと思ってさ」


 転移者にしか分からない暗号的なものを考えて、あれになった。


「あの暗号で釣れたのは、やっぱり転移者だったか?」


 片岡は張り紙を見て会った転移者のことを簡単に説明した。コンビニで働いていたというフリーターの青年と、信号待ちの車の運転席にいたというサラリーマン、歩行者だった女子大生とコンビニの客だった高校生、ビルに事務所を構えていた会社の営業社員。全員がアレ・テタル周辺の村や森に転移したらしい。


「全員が転移者で冒険者だった」


 冒険者ギルドに探し人の掲示をしたのだから、釣れるのも当然冒険者だ。


「けど他にも転移してる日本人がいるようなニュアンスの事言ってる奴がいたんだよなー」


 冒険者登録をせずに暮らしている転移者も居るということだろう。どのくらいの数が居るのかわからないが、アレ・テタル付近に飛ばされた転移者は多いということだろう。


「全員で何人くらいいるんだろうな、転移者。片岡が会った人たち同士のつながりはあんのか?」

「どうだろうなー。一応、紹介はしておいた。アレ・テタルの定住連中で一度集まるみたいな話してたな」


 郷友会でも結成するのだろうか。異世界に放り込まれた者同士、寄り添いたいという気持ちは分からないではない。


「なあ、浩明のパーティーメンバー、紹介してくれるんだろ?」

「……一応、先に話を通してからになるが」


 コズエあたりは片岡のケモ耳をみて狂喜乱舞しそうだが、アキラは眉間にシワを寄せて難しい顔をしそうだ。


「なんだよ、俺は危険人物じゃねーだろ」

「そういう意味じゃねぇよ……片岡は俺のパーティーメンバーに会って、どうしたいんだ?」


 コウメイの問いかけの意味が分からず片岡のケモ耳がぴくぴくと動いた。


「はじめまして、こんにちは、さよなら、で終わるならいいんだよ。けど俺らは王都に定住するつもりは無いんだぜ。転移者の元クラスメイトって表面的な紹介でいいなら簡単だけどな」


 コウメイは慎重に言葉を選んで言った。


「紹介して、ちょこっと雑談して、それで終わりじゃ片岡は満足しねぇだろ?」

「あたりめーだ。折角合流できたんだぜ、仲間に入れてくれねーのかよ」

「リーダーは俺じゃねぇんだよ。パーティーに加わる前提で紹介してもいいけど、決めるのは他の四人だからな」

「だったら浩明がそっち抜けりゃいい、俺と組もうぜ」


 見ず知らずの他人と共に転移しパーティーを結成しているのなら、クラスメイトと合流したからという理由で抜けても問題にはならないと片岡はコウメイを誘った。


「王都は山と森と海があって稼ぎやすいし、食い物も美味い。暮らしやすいと思うぜ」

「今のパーティー抜けるつもりはねぇし、定住もしねぇよ」


 やけに王都への定住にこだわる片岡を、コウメイは冷めた目で見た。


「片岡って俺よりプレイ時間長いゲーマーだったよな。転移前に獣人を選択するくらいだし、てっきりこの世界を放浪して満喫してそうなのに、変わったな」


 コウメイの指摘が刺さったのか、片岡は気まずそうに目を伏せた。


「色々あったんだよ。どうせ将来はどこかに定住することになるんだ、今から王都に定住でもいいじゃねーか」

「俺はしばらく定住する気はねぇよ」

「しばらくって、どのくらいだ」

「同行者が諦めるまで、だな。あちこち移動すると思う」


 今度は片岡が怪しむようにコウメイを見た。


「放浪趣味のメンバーに付き合うのかよ。独立独歩かつ安定志向の浩明にしては珍しい」

「こっちも色々あるんだ、満足するまで放浪するしかねぇって諦めてるよ」


 互いにこの世界で色々経験している。考えや行動が高校生だった頃から変わるのも当然だろうと、目の前のクラスメイトの変貌を飲み込んだ。


「王都に留まりたいなら俺達じゃなくてアレ・テタルで知り合った転移者とパーティー組んだほうがいいんじゃねぇか?」

「無理だろうなー。フリーターさんはこっちの冒険者のパーティーに馴染んでたし、サラリーマンは農家の入り婿になってスローライフやってるし」


 高校生と営業社員もそれぞれに転移した人たちと行動しているようだ。女子大生だけがソロで冒険者をしていたが、どうやらワケアリらしく片岡と組もうとする意思はなさそうだった。


「思うようにならねーなぁ」


 片岡は溜息をついて肩を落とした。自覚していた以上に人恋しさが募っていたようだ、と。


「ウチのメンバーは、あの暗号見て盛り上がってたし、会いたいって言うに決まってるからそのうちに、な」


 片岡は悪い奴じゃない。少なくとも日本にいた頃の片岡は気のいいお調子者で、フェアプレイの精神が強いスポーツマンだった。根本が変わっていないのなら、コズエたちに紹介しても問題はない。さてどういう風に紹介しようかと考えたコウメイは、片岡に訂正し忘れている事を思い出した。


「俺はこっちではコウメイだから、そう呼んでくれ」

「浩明じゃねーんだ? 音読み?」

「そう。俺は塾友と一緒に転移したからな、塾の方で呼ばれてたのがそのままだ。冒険者登録もコウメイだから」


 冒険者証は身分証明書でもある。それに記載されているものとは違う名前で呼ばれるのは、街やギルドに「犯罪隠蔽のために名を変えた」と警戒されてしまう。


「コウメイ、コウメイ、と。りょーかい。俺はシュウで登録してるから」

「秀斗のシュウか。わかった」


 食堂の片隅で話しこんでいる間に七の鐘を聞き逃し、そろそろ八の鐘が鳴りそうな時刻になっていた。コウメイがギルドに戻り二階のカフェでコレ豆茶の豆を一袋買って帰るつもりだと知ると、シュウも宿を出てギルドへと向かうと言った。


「あの探し人の掲示を取り下げとく。浩じゃなかったコウメイを見つけるのが目的だったわけだからな」


 郷友会の主催をするつもりは無いとぼやくシュウと並んで歩き、ギルド二階のカフェの事や、普段の狩りや魔物討伐についての情報交換をしながらギルドに向かった。


   +++


 閉門の迫る時間帯のギルドは査定や換金に訪れる者が増える。報酬を手にして機嫌の良い冒険者達の声で賑やかなのはいつもの風景だ。

 今日のギルドも騒がしい。だがそれは、一日の疲れをぼやいたり、手にした報酬を喜ぶような騒がしさではなかった。

 張り詰めた糸のような、ピンとした緊張に支配されている。


「何かあったのか?」

「警備兵が多い……行方不明事件の手がかりでも見つかったのかもな」


 忙しく立ち動く警備兵を横目に見ながら階段へと向かうコウメイを、マシューの切羽詰った声が呼び止めた。


「コウメイさんっ、丁度良かったですっ」


 マシューは対応中の冒険者を放置してカウンターから身を乗り出していた。


「今すぐブレナンさんの所へ行ってください。サツキさんとヒロさんもいますから」

「何かあったのか?」

「詳しいことはブレナン主任に聞いて下さい」

「悪いがシュウ、また連絡する」

「お、おお」


 マシューの様子からただごとではない焦りを感じたコウメイは進む先を面会室へと変えた。ノックして返事を待たずに部屋に入ったコウメイを見て、サツキが安堵と歓喜の声をあげた。


「コウメイさん!」


 ソファに座っているサツキの衣服は薄汚れていた。側に立つヒロの袖にも赤黒いシミがいくつか見える。


「サツキちゃん、ヒロも、怪我してるのか?」


 面会室には冒険者ギルドの幹部と警備兵数人が待機していた。彼らに守られるようにしてソファに腰掛けているサツキの腕に包帯が巻かれている。


「何があった?」

「行方不明事件の犯人と思われる数人に襲われました。サツキさんが角ウサギの毒にやられて」

「もう大丈夫です。痺れはほとんど残っていないから」


 安心させるように微笑んだサツキの顔色はいつもより白く見えた。無理をしているのがバレバレだ。


「アキとコズエちゃんには?」

「ギルド職員が知らせにいってくれたけど、まだアパートには戻っていないらしくて」

「何があったか、説明できるか?」

「詳しい説明は俺たちからしよう」


 ブレナンが他の警備兵や冒険者らに面会室を出るよう指示を出す。残ったのはコウメイら三人と、ブレナン、中年警備兵と女性ギルド職員の六人だ。ヒロはサツキの隣に座り、コウメイは反対側に立ってブレナンらに向き直った。

 中年の警備兵は行方不明事件に配属された警備兵をまとめている中隊長、女性職員は薬草や魔獣毒に詳しいギルド幹部だと紹介された。


「二人は中央広場から東大通りを歩いていたときに、後方から走ってきた子供の集団にぶつかられた。そこでサツキが倒れ、介抱を装った二人組に襲われ、ヒロが反撃をして気絶させた。サツキを引きずって移動していた一人を蹴り倒してギルドに逃げ込んできた。ここまで訂正はないか?」


 ブレナンの確認に、ヒロとサツキは「ありません」と短く答えた。


「二人の通報で警備兵と専任冒険者が現場に向かったが、襲撃犯には逃げられた後だった。周囲を捜索して道の端に転がっている角ウサギの毒角を発見した。角の先に血が付着していた、これをぶつかりざまに押し当て麻痺させたと思われる」


 サツキの腕の傷は角先で切りつけたような傷が残っていた。治療薬を使い、念のために傷口を保護する包帯を巻いてある。


「サツキを引きずっていた男の背後の地面が発光していたとヒロは言ったな。魔術陣だとヒロは判断したが、先ほど魔法使いギルドの協力者に確認させたよ。何かしらの魔術陣で間違いないそうだ。逃げる際に消し忘れ残っていた一部から、どこかへ転移させる魔術陣だというのが分かった」


 目を伏せ苦々しげに息を吐いたブレナンの後を、警備兵中隊長が続けた。


「これまでの行方不明者も魔術陣でどこかに転移させられた可能性が高いと我々は判断した。魔術師が犯罪に係わっていることは確定だ、魔法使いギルドから信頼できる魔術師が捜査に加わることになった」

「サツキちゃんが狙われた理由は?」


 ことの経過は分かった。だが原因は何だとコウメイが追求した。


「白昼堂々と襲われてさらわれかけるなんて、おかしいだろ」

「それは不明だ」

「俺たちは大金を持って移動していたので、最初は強盗目的だと思ってたんです」


 だが今は違うとヒロは確信していた。あの時、小金貨の袋はヒロが持っていた。サツキを人質に金を要求するかと思えばその素振りはなかった。むしろサツキを魔術陣へと引きずっていった様子から、彼女自身が目的としか思えない。そう言ったヒロにコウメイも同意して頷いた。


「サツキちゃんと今までの行方不明者に共通点はあるのか?」

「全員に共通するものはなかった。だが魔術陣の破片があれば分析が可能だ。犯人グループの魔術師については尻尾を掴んだも同然だ」


 一人を確保できれば、共犯者を捕らえるのは難しくないと警備兵は断言した。


「麻痺毒の後遺症の心配は?」

「それは大丈夫です。角ウサギの角に凝縮された麻痺成分は強力ですが、薬草を精製した麻痺毒と違って持続性はありません。体質にもよりますが、一晩休めば完全に回復するわ」


 サツキの治療をしていた女性職員が安心させるように頷いた。


「サツキちゃん、歩けるか?」

「はい、ゆっくりとなら」

「だったら帰ろうぜ。事情聴取も治療も終わってんだろ」

「ああ、詳細は全て書き取った。容疑者を捕らえたときに面を確かめてもらう必要があるが、それまでは街を離れないでいてくれれば好きにしていてくれ」


 ブレナンに送り出され面会室を出た三人は、ゆっくりとした足取りでギルドを後にした。


   +


 八の鐘が鳴り、都市門が閉められた。

 アパートに戻った三人は、甘めに仕上げた果汁茶を飲んで緊張をほぐした。汚れを落とし部屋着に着替えたサツキに、寝室で休んでいるようにすすめたが、一人になるのが不安なのかサツキはリビングに居たがった。


「サツキちゃんが無事でよかったよ。でなきゃアキに殺られる」

「大げさですよコウメイさん」

「……俺、守りきれてないから、アキラさんに殺されますかね」

「ヒロさんまで」

「その顔色のままアキラさんに会われたら、俺もコウメイさんも刺されるんじゃないですか」

「ブスリ、だな」


 麻痺の影響はほとんど残っていないと言っても、襲撃から事情聴取までの疲れがある。身体が痺れて動かないという恐怖は経験しなければ分からない。コズエが麻痺した時のパニック状態を覚えているヒロは、サツキの背を押して寝室へと押し込んだ。


「アキラさんを心配させたくないのなら、回復して青白い顔を見せないようにする方が正解だ。疲れてるんだし、横になってた方がいい」

「そうそう。アキが帰ってきたら呼んであげるから、サツキちゃんはベッドで休んでなさい」

「お兄ちゃんが戻ったら、ちゃんと起こしてくださいね」


 疲労から来る眠気に負けたサツキはそう念押しをしてベッドに入った。

 五人揃って夕食を食べながら色々なことを話し合わなければならないだろう。そう言ってコウメイは部屋で食事ができるように支度をした。


 九の鐘が鳴り、十の鐘が鳴り。

 翌朝になってもアキラとコズエは戻ってこなかった。



そろそろハードモードに突入します。

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