表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新しい人生のはじめ方~無特典で異世界転移させられました~  作者: HAL
第3部 幸せは自分次第

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/197

魔術都市アレ・テタル スライム・パニック後編


「思っていたより少ないな」


 占拠と言うからには、足の踏み場もないほどのスライムを想像していたのだが、都市壁の上から見えるスライムたちの集団は都市中に広がってはいるものの、せいぜい都市面積の二割程度というところだ。


「えー、スライムは魔力に反応して集まってきます。彼の魔力は火属性なので、この周辺には赤スライムが集まってくるそうです。近寄ってきたところを融合前に捕獲してくださいね~」


 魔力が大きく属性の強い魔術師を捕獲班のリーダーに出したのは、囮役という意味だったのか。

 都市壁の内側にある階段を下り、コウメイたちは地面に降りた。さっそく魔力に引かれて集まってきたスライムを、捕獲道具ですくっては隔離箱に詰め込んでいく。


「お、重い~」


 スライムは弾力のある身体を伸ばしながら移動してくる。動きが緩慢なので捕獲は難しくはないが、一体の大きさが両腕で輪を作ったよりも大きく、体重も重い。しかもすくいあげるとプルプルと動いて、バランスが取れない。コズエやサツキはスライムを持ち上げるのに苦労していた。


「紫がいたぞ」

「青がいる」

「赤だけじゃないぞ、どうする?」


 続々と集まってくるスライムたちをすくい別けながら、第四班の冒険者達は対処に困っていた。青と緑のスライムは赤よりも多い。選別して捕獲するよりも片っ端からすくって隔離箱に詰め込んだほうが早そうだが、隔離箱は赤スライム用の小さなものばかりだ。魔術師は新たな捕獲箱の調達に壁の向こうに一度戻っていった。

 囮の魔術師が姿を消しても集まり続ける大量のスライム。捕獲というよりも溝掃除をしているみたいだとコウメイが呟く。


「なあ……スライムは魔力に集まる性質があるんだろ。この大集合って、アキ目指してきてんじゃないか?」

「あー、ありえますね」

「お兄ちゃんの周り、紫スライム多いし」

「そういえばアキラさんは全属性でしたね」

「…………っ!」


 擦り寄るほどに近くにいた紫スライムをすくい上げたアキラは、そのままコウメイに向かって投げつけた。


「あっぶねぇだろ、紫は毒だぞ、毒!」

「うるさいっ」


 スライムが集まってくる自分の魔力も全てはコウメイが原因だと、今さらながらの八つ当たりだった。


「みなさーん。大型の捕獲箱が届きましたよ~。赤以外のスライムもどんどん捕獲しちゃってください。青と緑は一緒に捕獲箱に詰め込んでも大丈夫ですけど、紫と黄は一緒にしないでくださいねー。黄スライムが紫スライムの毒を吸収して変質しちゃうそうです」


 新たに運び込まれた特大サイズの捕獲箱に、色別にスライムがどんどんと投げ入れられてゆく。

 スライムをすくい上げては投げ捨てる要領で捕獲箱に入れていたヒロがぽそりと呟いた。


「注文が多いな」

「なんだかワケわからなくなりそうだよ~」


 青スライムをすくい上げたまま、コズエが投げ入れ先を探してキョロキョロと辺りを見回していた。冒険者達はすくい上げたスライムを勢いのまま捕獲箱に投げ入れているのだが、箱には目印になるものはない。自分の捕獲したスライムが何色で、どの箱に入れなければならないのか、瞬時に判断するのがだんだんと難しくなっていた。


「赤色の箱はどれだ?」

「誰だ、黄箱に紫入れやがったのは!」

「変色した奴を取り出してくださいっ、こっちの新しい隔離箱に入れて!」


 班ごとに単一スライムだけを捕獲しようとした理由がよくわかる。取り扱い注意、混ぜるな危険、そんな注意書きのあるスライムを、瞬時の判断で正確に分類するにはこの場は混乱しすぎていた。


「何か、紫スライムの数が増えてるような気がしないか?」

「街中を移動してるときに黄が紫に接触して毒を吸収したんじゃねぇの?」

「それって、ほっとくと黄スライムは全部紫に変わるってことか?」

「他の性質も吸収してる場合は、紫スライムより厄介な黒スライムに進化するらしいですよ~」


 通訳ギルド職員のお気楽な声が降ってきた。黒スライムは触れたものを腐敗させる。土や植物や木材に石、衣服も武器も、人の身体すら触れた部分から腐ってゆくらしい。


「これも一種のパンデミックかね」

「スライムに広がる腐敗感染……怖っ」


 パニックになりながらも捕獲作業は進み、囮の魔力に集まってくるスライムの数も減ってきた。ギルド職員が都市壁の上に立ち、スライムの光を見つけては冒険者に指示を出してゆく。


「一体も見逃さないようにしてくださいねっ。スライムは光と養分で分裂して増えるんです。今夜中に全部回収してしまわないと、朝になってまた増えたらもう……」


 都市封鎖をこれ以上続けるわけにはゆかないし、スライムが増えすぎたら収容する施設が足りなくなってしまう。


「ああ、そこの人、そこから移動しないでくださいっ」


 高い位置からスライムの動きを見ようと屋根に上っていたアキラに、ギルド職員が目をつけた。


「スライムが集まってきています。皆さん、捕獲頼みますよーっ」


 お前は囮だ、そこから動くなと命じられ、アキラはフードを深く被りなおして深々と息をついた。目立ちたくないのに、魔術師よりも囮としてふさわしいと言われてしまったのだ。この仕事が終わった後、面倒事に巻き込まれなければいいのだが。

 アキラの魔力に吸い寄せられるようにして集まったスライムを、冒険者達が次々と捕獲してゆく。第四班だけでなく他の班でも順調にスライムの捕獲は進み、夜明け前には魔法使いギルド長から捕獲完了の宣言が出され、強制依頼は終了したのだった。


   +++


 徹夜でのスライム捕獲を終え、やっと開いた東門から魔術都市アレ・テタルに入ったコウメイたちは、冒険者ギルドに紹介された宿に個室を確保した。馬車と馬の返却の精算や、強制参加になった捕獲依頼の報酬受取などは全て後回しだ。


「五の鐘が鳴ったらロビーに集合、いいな?」

「ふぁい」

「わかりました……ふぁ」


 半分眠った状態でも何とか返事をして、それぞれが部屋に入っていった。


「ちゃんと起きろよ、アキ?」

「……分かってる」


 アキラの寝起きの悪さを知るコウメイは、返事をしただけでも上等だと思ったのだが、アキラは約束の時間に遅れずに集合場所に現れた。


「飯食ってからギルドで清算手続きでいいな?」

「お腹すきました~」

「昨夜はスープしか飲んでなかったものね」


 宿の一階は食堂も兼ねていた。ロビーの一角にテーブルが並んでおり、そこで昼の定食を注文する。薄切りのオーク肉と葉野菜を炒めた料理とパン、これにビールがつくのだが酒は断って水を頼んだ。


「お兄ちゃん、マント被ってて暑くない?」


 サツキはフードを深く被り俯きがちに座っている兄を心配そうに覗き込んだ。


「……少し蒸すが、これくらいなら」

「真冬用のコートとフードって、悪目立ちしてますよ?」

「素性を詮索されるよりはマシだ」


 投げやりなアキラの声が気になって、コウメイはフード端を持ち上げて覗き込んだ。顔色は悪いし、目が据わっている。


「寝てないだろ。そんなにピリピリして、昨夜のアレが心配か?」

「スライム捕獲の、集まってきたアレですか?」

「あれは……確かに目立ってましたよね」


 囮役は魔力の豊富な魔術師が選抜されていたらしいが、その彼よりも多くのスライムを引き寄せてしまったのだ。


「でもここは魔術都市でしょ。魔術師が沢山居るんだから、アキラさんが魔法を使ってもそんなに目立たないと思いますけど」

「俺が人族だったら、な」


 横目でコウメイを睨んで、アキラは諦めの息を吐いた。


「そういえば、アキをウサギ獣人ってことにしてたんだったな」

「獣人族は魔力を一切持たないんでしたっけ?」

「矛盾しますね」

「かといってエルフだってのが知れ渡るのも都合が悪い」


 一生に一度遭遇するかしないかの希少な種族が魔術師だらけの街に現れたのだ、悪意を持って接触してくる輩がいないとは限らない。そうコウメイが説明すると、コズエが胸を張って宣言した。


「分かりました。アキラさんは今日一日だけ我慢しててください。フードつきのパーカーみたいな服、大至急作ります」

「それなら俺の分も頼めるか? いくら薄手の生地でもアキだけがフード被ってたら目立つのは変わりないだろ。俺も同じの着てたらそういうファッションだってことで誤魔化せると思うし」

「じゃあ全員の分を作ります。みんなで着てたら、パーティーの目印だからって主張できますよね」


 二週間の馬車の旅で何も製作できなかったコズエの我慢は限界だったらしい。アキラのためのフードつきシャツ製作は大歓迎だ。


「睡眠時間は削るなよ」

「わかってるわよ」


 空返事を返したコズエに、ヒロはブレーキが欲しいと首を振った。


「ところでこの街にはどれくらい滞在する予定だ?」


 目的地は王都だ。アレ・テタルは通過点の街のつもりだったのだが、アキラがわざわざ確認するなら、何か目的ができたのかとコウメイが問うた。


「アレ・テタルで何かやりたいことでもあるのか?」

「これを修理できないかと思って」


 そう言ってアキラは壊れた銀板を取り出した。


「魔道具の扱いは魔法使いギルドが専門だと聞いているし、もしも直せるなら直したい」


 コズエたちも今はほとんど使うことの無くなった元スマホだが、何かのきっかけで離れ離れになってしまったとき、合流するための唯一の手がかりはこの銀板だ。アキラの銀板の修理が可能かどうかは調べておきたかった。


「ついでに魔術に関する本があれば読みたいが」

「この街には特殊な素材とかも売ってそうなので、色々見て回りたいです」

「武器とか防具とかも、良いのがあったら新調したいですね」

「ナモルタタルよりは大きな街だ、珍しい調味料や食材も売ってるかもしれねぇしな」


 今まで田舎町しか見てこなかった五人には、アレ・テタルの都会は観光するだけで十分に楽しそうだ。とりあえず一週間ほど滞在することを決めた。


   +++


 コウメイたちは冒険者ギルドの通常カウンターで馬車と馬のレンタル費用の精算を終わらせてから、昨夜のスライム捕獲依頼専用の臨時カウンターに移動した。

 強制依頼だったが日当として一人百五十ダルが支払われ、魔法使いギルドからは魔石の割増買取の資格証書が発行された。


「魔石の買取りか……手持ちのをここで換金しとくか」


 旅の途中で討伐した魔物の討伐報酬は立ち寄った町で精算済みだが、魔石だけは換金せずに手元に残してあった。全てを売り払えばいい金額になりそうだった。

 商人ギルドでの優遇については、対象商店のリストが渡された。リストの店舗で販売されているスライム製品を三点まで四割引で購入できるらしい。


「防水シートはどの店で売ってるのかな」

「雑貨店、武具店もあるのか……防具にも使われてたりするのか?」

「全部の店をチェックした方がいいですね」


 冒険者ギルドの支援は、現在滞在している宿の料金割引だった。アレ・テタルの物価はナモルタタルに比べて一割ほど高い。個室の一泊料金が百二十ダルもするので割引はありがたかった。

 ギルドを出ようとしたところで、昨夜知り合った女冒険者のリザが扉を開けて入って来た。


「おはよう、リザ」

「ふふ、もう昼過ぎなんだけど、眠いわよね」

「これから狩り?」

「いいえ、報酬を受け取ったら今日はもうゆっくりするつもり」


 徹夜で働いた翌日に狩りに出る気にはなれないのは誰も同じだ。


「じゃあこの街のこと教えてもらえないかな? せっかくもらった割引も何処で使えばいいのか分からなくて」

「いいわよ、昨日の精算を済ませてくるから、二階で待っててちょうだい」


 アレ・テタルの冒険者ギルドの建物は四階建てで、吹き抜けの一階ロビーは各種受付と依頼や情報の張り出しなのは他のギルドと変わらない。

 二階は冒険者達が飲食する店が入っていた。簡単な軽食と飲み物を出す店で、メニューにアルコール類が一切ないせいか、冒険者が集う店にしては雰囲気も明るく健全だ。壁に沿ったカウンター席に座れば、小窓から一階のロビーの様子が見渡せる造りになっている。

 メニューを見あげた五人はそれぞれ興味を引かれた品を注文した。


「果実のジュースがありますよ」

「コーヒーのような香りがしないか?」

「冷たいお茶もあるのね」


 注文した飲み物をカウンターで受け取ってテーブルに移った。コズエとサツキは果実のジュースだが、それぞれ色が違っている。ヒロは香茶をアイスで頼んだ。店員に魔術の心得があるらしく、煎れた香茶があっという間に冷やされて渡された。コウメイとアキラは店内に漂っている香りの飲み物をと指定したところ、コーヒーが出された。メニューではコレ豆茶と書かれていたが、味も香りも間違いなくコーヒーだった。


「コレ豆茶の豆は買えるのか?」


 思わず店員に尋ねて、焙煎した豆を一袋購入したコウメイだ。紙フィルターはないが布フィルターを作って淹れてみようと、宿に戻ってからの楽しみに頬が弛んだ。


「流石に都会だ、嗜好品が充実してる」

「私のジュースはベリージュースみたいな味がするよ。サツキのは?」

「オレンジジュースみたいな感じかな。ちょっとリンゴも入ってるような気がする」


 お互いにカップを交換してひと口ずつ味見した。次はそっちにしよう、と揃って呟くくらいに気に入る美味しさだった。十五ダルと飲み物にしては結構なお値段だがリピートは確実だろう。


「豆を手に入れたから、これでいつでもコーヒーが飲めるぞ。アキが氷を作ってくれたらアイスコーヒーも可能だ」

「いいですね、アイスコーヒー」

「氷くらいならいつでも作るぞ」


 飲み物を挟んで雑談しているうちに二階に上がってきたリザが、濃い緑色のジュースを持ってコズエたちのテーブルに合流した。


「徹夜仕事のわりにシケた報酬だったわよね」


 リザたちのパーティーは家を借りてアレ・テタルを拠点に活動している冒険者だ。冒険者ギルドからの報酬は全く旨味が無かったと愚痴った。


「魔法使いギルドの方は太っ腹だわ。今まで捨ててたようなクズ魔石でも高く買取ってもらえるみたいだし」

「リザのパーティーに魔法職はいるの?」

「いないわ。本当は一人くらい攻撃魔法を使える人が欲しいんだけど、魔術師ってどうしても研究に入りこんじゃって、魔物討伐したがらないのよね。そのくせ魔石は研究に必要だから欲しいってワガママだし」


 リザたちのパーティーはオークやゴブリンを主な標的にして活動している冒険者だという。魔法職が仲間にいれば、翼種の魔物に挑戦したいのだそうだ。


「翼種ってのは、このあたりだとどんな種類の魔物がいるんだ?」

「そうね、北は羽蜥蜴かな。南は凶鳥と竜鳥」

「竜って、ドラゴンなの?」

「ああ、違うわ。竜鳥ってのは翼を持った巨大な蛇のことよ」

「手強い魔物なんだ?」

「空に逃げられると、地上からではなかなかね。矢も当たらないし」


 魔法職のいるパーティーは翼種魔物を討伐して荒稼ぎしているらい。


「魔法職をやるなら、やっぱり魔法使いギルドに登録しなきゃマズイのか?」

「あら、あなた魔力持ちなの?」


 とても見えないわよとコウメイの長剣と身体つきを見てリザが笑った。


「実は水属性の魔力が少しな。ちょっとだけど水を出せるんだぜ。飲み水には苦労しなくて助かってるが、これを攻撃魔法に応用できねぇかと思ったんだ」

「それなら魔法使いギルドで適性試験を受けてみればいいわ。才能があると認められれば、無料で魔術を学べるの。余所からこの街にやってくる冒険者達の半分は魔術学校が目当てって言うしね」


 でも、とリザの表情が曇った。


「あそこ、最近ゴタゴタがあったのよね……」

「ゴタゴタ?」

「うん、すっごい力を持ってた錬金魔術師のギルド長が姿を消したらしくて、冬の間は半分くらい閉じてたわ。最近になってやっと営業が再開したんだけど、副ギルド長だったミシェルさんがギルド長になってたり、受付システムが変わってたりしてしばらく混乱してたの」

「内部で権力闘争でもあったのかな?」

「前のギルド長とミシェルさんは兄妹だから、そういうのじゃないと思うんだけど……冬の間にアレ・テタルで結構大きな事件が立て続けに起きたのよね」


 言葉を選びながらリザはコズエたちに「知っておいた方がいいと思うから」と事件について教えてくれた。


「街の魔術師の何人かが行方不明になって、その後に冒険者の惨殺事件がおきたのよ。ギルドタワーの火事騒ぎもあったりして、だから魔術師が犯人なんじゃないかって、冒険者ギルドの方でも随分ピリピリしていたわ」


 行方不明になった魔術師たちは魔力量も大きく、スタンピードでは攻撃力の主砲として前線に徴用されるような熟練の魔術師たちばかりだった。もしもそんな魔術のスペシャリストを相手に闘わなくてはならないとしたら、冒険者ギルド側の損害はとてつもないものになっただろう。


「惨殺事件って……犯人は捕まったの?」

「一応ね。北の荒れ山を拠点にしていた盗賊団だったらしいわ。ギルドが集めた冒険者達で壊滅させてからは犠牲者も出ていないし」


 惨殺事件ではまだ経験の浅い冒険者が何人も犠牲になった事件らしい。遺体を発見できたものは運が良いほうで、何人かは生死不明のまま見つかっていない。おそらく発見されることは無いだろうということだった。


「行方不明になった魔術師も見つかったという話は聞いてないの。だから魔法使いギルドに行くときは十分に気をつけた方がいいわ」

「都会って物騒なのね」


 不安そうに息を吐いたコズエに、リザは慌ててフォローを入れた。


「怖がらせるつもり無かったのよ。普段は治安も良くて暮らしやすい街なのよ。魔道具のお店はアレ・テタルにしかないからいつもお客さんでいっぱいだしね」


 この街にしかない物で思い出した。


「リザ、スライムの布を何処で買ったのか教えて。せっかく割引してもらえるんだから、私達もあの布を買っておきたいもの」

「それならお勧めのところがあるの。今回の割引も利くし、種類が豊富なの。案内するわ」


 グラスも空になったことだし、さっそく行こうと立ち上がった。コズエに続いてサツキやヒロも席を立ったが、コウメイはテーブルに着いたまま笑顔で手を振った。


「俺達はもう少しゆっくりしていくよ」


 まだ飲み終わってないしね、とコーヒーのカップを持ち上げて見せた。


「荷物持ちはヒロがいれば十分だろ」

「やだなぁ、そんなに沢山お買い物しませんよ」


 移動のことを考えれば荷物を増やせないことは分かっていますとコズエが唇を尖らせた。


   +


 スライム布は商人ギルド直営の店が品揃えも豊富だということだ。報酬の割引も直営店なら全ての商品に適用される。


「私の使ってるのはこの三番の布よ。薄めの布にスライムを塗った物で、かさばらないし重くないから持ち運びしやすいの」


 スライム布は布の種類で十番まで、スライムの塗布量でさらに上中下の三段階に質の異なる布があった。


「この一番厚い布にたっぷりスライムのは硬すぎない? どういう風に使うの?」

「これは幌馬車なんかに使われるらしいわ。革より水に強いの」

「加工すること考えたら、二番布くらいの薄さじゃないとキツイかなぁ。スライムの量は中かな」

「加工って、この布で何を作るの?」

「袋を作ろうと思ってるの。ゴブリンの耳とかの討伐部位をまとめて入れておく袋って、すぐに血と脂で駄目になるでしょ。使い捨てにしてたけど、スライム布ならさっと水洗いすれば何度でも使えそうだから」

「いいわね、それ。私も欲しいわ。職人に頼んでみよう」


 店内には青スライム布の他にも、赤スライムや黄スライムの布も置いてあった。赤スライム布はほのかに熱を発する布で、冬の季節に売れ筋だったらしい。黄スライムの布は柔らかいガーゼのような布ばかりで、ハンカチサイズにカットされた物が売られている。値段も青スライム布よりかなり高い。


「黄スライムって、紫スライムを吸収してた奴だよね?」

「毒を吸収する布ってこと?」

「ああ、その布は傷口に貼り付けて使うのよ。錬金薬を使うほどでもない傷にスライム布をあてておくと、身体に良くないものを吸収してくれるの。応急処置用に少し持っておくと安心よ」


 コズエたちは袋用と肉を包む用の青スライム布と、傷の手当用に黄スライム布を購入した。糸や他の布地なども買える店をギルドで紹介してもらい、そちらでフードつきシャツ用の肌触りのよい布を纏め買いした。

 リザと別れ宿に戻ったコズエたちだったが、コウメイとアキラはまだ戻ってきていなかった。

 二人が宿に戻ってきたのは九の鐘がなって少しした頃、注ぎ口の細い小さなヤカンと大型のランプを抱えて弾むような足取りだった。 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ