共同生活のススメ 17 期日までにお支払いください。
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冒険者ギルドのサービスは多種多様だ。
一般的に馴染みがあるのは冒険者の登録と管理だろう。個人や他職ギルドからの依頼を管理し、発注から報告精算まで一手に引き受けている。冒険者らにより持ち込まれた食用肉、あらゆる素材、魔石を査定して買取り、求めに応じて商人や職人、他職ギルドへ卸している。
冒険者の持ち込む情報を精査し公開・蓄積するのも重要な役目だ。冒険者達は自身の稼ぎのために有益な情報は秘匿する傾向にあるが、必要のないものはギルドに提供して情報料と言う臨時収入を得ている者も多い。
また冒険者の安全と便宜を図るため、ギルドでは様々な商品を販売している。ギルドで最も売り上げているのはやはり錬金製の回復薬と治療薬だ。この二つは何処のギルドでも在庫を切らさないよう管理されており、医薬師ギルドにも籍を置く薬魔術師が製薬を引き受けている。
他にも狩猟や魔物討伐に使用する消耗品や野営用の品々を取り扱っているだけでなく、販売の難しい大型設備や不動産の賃貸管理も行っていた。
「ギルドは馬車のレンタルまでやってるのか」
「馬つきと、馬なしとありますよ」
「半分くらいは貸し出し中なんですね」
「需要はあるってことか」
昼過ぎで早めに狩りを終わらせギルドに戻ったコズエたちは、販売所に掲げられているお品書きを読んで驚いた。これまで何度も治療薬を買いに来ていたのに、壁に張り出されていた販売・貸出し品目は目に入っていなかったのだ。
「箱台車の貸し出しもここでやってたんだろ?」
「査定の方から貸し出しの話を回してもらって、エドナさんのところで契約したので」
「受取りと返却も査定カウンターで済ませてました」
利用していて知らなかったのかと不思議がるコウメイに、全てエドナを通じて便宜を図ってもらっていたとコズエたちは答えた。
「コズエちゃんたちってかなりギルドから優遇されてるんだな」
おかげで俺達も恩恵に預かれて助かっているとしみじみ呟いたコウメイの言葉で、自分達がギルドに優遇されているのだと初めて自覚したコズエたちだった。
「へー、箱台車は販売もしてるんだ」
「狩りの獲物をたくさん運ぶのに便利でしたからね。レンタルも回数が多ければ買うのと同じくらいの金額になりますし」
馬車もレンタルだけでなく販売もしているようだが、流石に購入となると金額が大きい。
「二頭立ての中古四輪馬車が、幌付きので一万九千ダル……買えない事はないが」
「レンタル料はかなり安いですよ。保証金が千八百ダルで返却時に千二百六十ダルが返って来ます。あ、でも壊したら弁償ですって」
先ほど確認したのだが、ギルドにプールしているパーティー資金は九万ダル近くもあった。幌付きの馬車を余裕で買えるだけの資産があるが、二週間程度の移動のためだけに買うのは躊躇われる金額だ。
それに馬車台だけ買っても意味はない。
「馬は別料金なんだな」
「一頭五千ダルの保証金、飼葉代は別料金」
「馬の方が値段高いんだ?」
「下手な御者でも扱えるように、よく訓練されてる馬らしいですよ」
「街の貸し馬屋と提携しているんだな。ギルド経由で借りると料金は一割ほど安いらしい」
「返却時に戻ってくるとしても、二頭借りると四千ダルか」
「馬って一日にどれくらいの量を食うのか、想像つかねぇわ」
飼葉を持って移動するしかないのか、途中の町や村で購入できるのか。その辺りの情報はエドナに聞いてみるしかなさそうだ。
「今日は値段をチェックするだけでいいんじゃないでしょうか?」
今日明日のうちに街を出るわけじゃない。天候が安定するまでは街を出られないのだし、荷物の取捨選択もできていない。
「前にも思ったけど、旅行ってお金かかるんだね」
コズエたちの場合は引越しとほとんど変わらないので余計に費用はかかってくる。
頭の痛い問題だった。
+++
購入になるのかレンタルで済ますのかの結論は出なかったが、馬車を使うことだけは全員一致で決まった。いくら馬車でもナモルタタルの生活で増えてしまった荷物の全てを持ってゆくことは無理だ。
「個人の荷物はそれぞれ箱一つまでだ」
この世界で標準的な荷箱のサイズはおよそ五十センチ四方とさして大きくはない。これに入るだけの物しか残さないと決めたが、何を残し何を処分するのかがなかなか決まらない。
「服が容量を圧迫してるな」
とりあえずどれだけの荷物が箱に詰められるかと試したヒロは、思っていた以上に普段着や部屋着が多くて驚いていた。冬物衣料はかさばるのだ。
「春になったら冬服は着ないんだ、処分していくことも考えたほうがいい」
「コズエの作ってくれた服を捨てるのはちょっと……」
アキラの現実的なアドバイスを受け入れがたく感じるのは仕方ないだろう。趣味と実益を兼ね楽しんでいたとはいえ、コズエがかなりの時間を割いて作ってくれた服だ。自分の身体に合わせて作られたものを「処分」するのは躊躇いがある。
「私の作った服をヒロくんが大切にしてくれてて凄く嬉しい」
手放せないが箱にも入らないと謝ったヒロに、気にしなくていいのにとコズエは笑顔で応えた。
「服は消耗品だからそんな気を使わなくても大丈夫だよ。私もサツキも縫いぐるみとかクッションをどうするか悩んでたの」
共同生活を始めてから初めて女の子の寝室に入ったヒロは、尻の辺りがむずむずするのを感じた。床に敷かれているのはコズエの手作りのキルトマット、その上に柔らかい色合いのパッチワークのクッション。窓際に置かれている小さなハイテーブルはサツキに頼まれてヒロが作ったものだが、そこには所狭しと縫いぐるみが並べられているし、天井からは可愛らしいオーナメントがぶら下げられている。
「これは……どうするんだ?」
「ほとんどは持って行けないのは分かってます。コズエちゃんとも話してたんだけど、ガレージセールをしようかなって思ってるんです」
女の子二人が思いついた有益な方法にヒロは感心するしかなかった。処分といわれて捨てることしか考え付かなかった自分とは違い、発想が柔らかい。
「友達とかお世話になった人たちに声をかけて、欲しい物があったら引き取ってもらえば無駄にならないでしょ」
「コズエちゃんが頑張って作ったものだから、ちゃんとお値段つけないとダメだと思うんですけど」
「不用品を引き取ってもらうのに、お金なんて貰えないよ」
「材料費もかかってるし、手間隙かかってるでしょ」
どうやら二人はガレージセールの販売方法で揉めているらしかった。こういったものに詳しくないヒロでも、コズエが作ったカバーや縫いぐるみの出来は良く、サツキが値段をつけるべきだと言うのも納得だった。
「タダでというのは流石にもったいないと思うぞ」
「でも中古だよ。私達のお古なんだもの」
「それは気にする必要ないと思うのよ。街の人たちって普段は古着屋さんで服を買ってるでしょ。縫いぐるみやクッションカバーが中古だからって問題になるとは思えないわ」
もちろん汚れが酷かったり破れているようなものに値段はつけないけど、洗って問題ないものは値段をつけたほうがいいとサツキは強く主張した。
「それなら俺の服もガレージセールに出せないか? コズエの作ってくれた服だから捨てたくなかったんだ。古着屋に売ってもいいけど、コズエが値段をつけて売ってくれるならその方がいい」
「じゃあお兄ちゃん達にも聞いてみるわね。ヒロさんの服が箱に入りきらないなら、二人も同じだと思うから」
夕食の席でサツキからガレージセールの案を聞いたコウメイとアキラも即座に賛成した。
「服以外にもさ、コズエちゃんの作ってくれたベッドカバーとか、ヒロの作った棚とか、とにかく持っていけないものは丸ごとガレージセールに出そうぜ」
コズエ作のベッドカバーは刺繍が入っていたり、一部がパッチワークでデザインされていたりと見栄えのするものばかりだ。リビングで使っている座布団のカバーもおそろいで数種類の替えがある。
「座布団は持っていったほうがいい。馬車の旅は尻にくるからな」
「ああ……そうですね」
ヒロは一度だけ経験した荷馬車の乗り心地を思い出していた。荷馬車にはスプリングの利いたシートなどなく、板の上に直に腰をかけていたので馬車が跳ねるたびに尻が痛かった。
「街道はアスファルトの道じゃないんだ、ある程度の揺れは覚悟しておかないとな」
「座布団は絶対に必要だ」
ヒロよりも長い時間を馬車の荷台で過ごしているコウメイとアキラはうんざりとした様子で忠告するのだった。
ガレージセールをするのはいいが、こちらの世界では玄関先に店を開いて不用品を売るという慣習はあるのだろうか。近所の人に不審に思われても困るし、勝手な商売は違反だとギルドにとがめられても困る。
「その辺りは友達に相談してみます。売れやすい物とかのアドバイスももらいたいし。アリエルっていう商会の娘なんですけど、今度ここに呼んでもいいですか?」
売り方、値段のつけ方、様々な事を教えてもらうためにアリエルを招待したのだが、そこから思わぬ方向に話が転がっていったのだった。
+++
「街を出るの?!」
自分ひとりがパーティーの住まいに招かれた理由を聞いて、アリエルは驚きを隠さなかった。
「いつ頃? 何処に行くの?」
「具体的にはまだ決まってないけど、春くらいには」
「最終目的地は王都だよ」
コウメイから友人を訪ねていくのだと聞かされ、アリエルは諦めたように息を吐いた。
「寂しくなるわね。ケイトたちが荒れそうだわ」
コウメイ狙いの女友達にどう知らせたものかと首を傾げるアリエルに、その辺りはうまくやって欲しいとお願いするしかないコウメイだ。
「ここでの生活は長かったから色々と物が増えてね。コズエちゃんから君なら上手い売り方なんかを教えてもらえると聞いたんだ」
「そうですね、家財道具なら道具屋が買取りもしていますけど、大した値段にはなりませんもの」
「俺たちが困っているのはコズエちゃんが作った作品なんだよ」
実際に見てもらったほうが早いとコズエたちの部屋に通したところ、部屋を見回したアリエルは絶句してプルプルと震えだした。
ベッドカバーのパッチワークのデザインを凝視し、縫いぐるみを手にとって稼動する手足の細工に唸り、床に敷かれたキルトマットの手触りを確かめて振り返ったアリエルの顔は、商人の顔だった。
「これを、売りたいのね?」
「う、うん」
「ベッドカバーは予備もあるの」
「俺達の服も少しあるよ」
「それは冒険者用の服の方ですか?」
「室内着とか私服だな」
「見せていただいても?」
「まだどれを残すか決まってないのもあるんだけど」
そう言いながらコウメイがいくつかの私服を持ってきて見せると、アリエルの瞳がきらりと輝いた。
「分かりましたわ。コズエの作品販売会はわたくしが責任を持って取りまとめますわ」
「販売会?」
「まずはコズエに商業ギルドと職人ギルドへの登録が最優先ですわね」
「あの、アリエル?」
「販売会までにもっと商品を増やす必要があるわ。ベッドカバーはデザインを変えてあと十枚は最低でも欲しいし、クッションカバーはデザインをそろえて複数枚あるといいわね。コズエたちが普段腰につけているその小さなカバンも増産して欲しいの。それとこの人形の手足の稼動技術はギルドで特許登録しましょう。稼動技術を使った人形の販売は我が商会が責任を持って行いますわ。もちろんコズエにはロイヤリティをお支払いいたします。そのためにもまずはギルドで登録ですわ」
言葉を差し挟む隙がなかった。がっしとコズエの手を掴んだアリエルは、勢いのまま商業ギルドと職人ギルドに駆け込んでコズエの登録を済ませてしまった。
「販売会は二月の最終日にしましょう。終わりの日とはじまりの日のお祭りで人も多いですし、街中に臨時の屋台もたくさん出ます。コズエたちにはせっかくのお祭りを楽しんでから旅立って欲しいの。ケイトやレベッカやシャロンも思い出作りをしたいと思うから、せめてお祭りまでは街にいてちょうだい」
そう熱心に言われてはNOとは言い切れず、コズエたちは旅立ちをはじまりの日に決めた。
「まあ、区切りという意味では丁度いいのかもな」
アリエルの去った後、コズエたちはやっと温かなお茶で一息ついていた。全員の手が疲労回復効果を求めてジャムクッキーに伸びている。
女子会でも沈着冷静さを崩すことのなかったお嬢様のアリエルにあんな行動力とバイタリティがあったなんてと驚かされていた。
「それにしても大事になったな」
いらない物を処分するだけのつもりが、本格的な販売会になってしまった。
「アリエルさんの言っていたものは作れそうか?」
「材料は沢山残ってるし作るのは嫌じゃないけど……」
自分の楽しみのために作った物が評価され、商売のプロが「売る」と言ってくれるのは嬉しいが、戸惑いも大きかった。
「売ることを考えたら、怖くなっちゃって」
自己満足のために物を作る事と、売るために商品になる物を作るのでは心構えが全く違うのだなとコズエは初めて感じていた。
「お金を出して買ってもらうんだから、手抜きとか絶対にできないし、妥協もしたくない」
買ってくれた人がガッカリしないようなものを作れるだろうかと手が震えた。
「コズエちゃんなら大丈夫よ。私達に作ってくれた服も小物も凄く気に入ってるの。前にハンクラ作家になりたいって言ってたでしょ。こちらの世界でもコズエちゃんの作った物が受け入れられたんだから、自信を持って!」
アリエルの決めた販売会まで一月ちょっとしか製作日は残っていない。コズエは居住まいを正して仲間を見た。
「引越しの準備で忙しいのに迷惑をかけるけど、製作に専念させてください。お願いします」
深々と頭を下げた。
コウメイの旅に同行すると最初に主張したのは自分だ。なのに引越しの準備を始めたら言いだしっぺが仕事もせずに自分勝手に別行動をするなんて勝手すぎる。でも日本でもこちらでも初めてのチャンスを逃したくなかった。
「大変だろうけど、頑張れよ」
「引越しの準備は私達に任せてもらって大丈夫よ」
「気負わないで、楽しんで今まで通りに作ればいい」
「根を詰めすぎるなよ?」
コウメイたちの温かい言葉に、コズエの胸は熱くなった。
+++
販売会に向けてコズエは狩りを休んで製作に没頭した。アリエルに求められた品の他にも、実用的な鍋敷きや鍋つかみ、こちらの世界では財布として使われているサイズの巾着袋なども沢山作った。
「お手伝いしにきました」
針子のシャロンは勤め先が休みの日にコズエを訪ねてきて、デザインに関わらない部分の作業を手伝ってくれた。ありがとう、でも休みの日まで針仕事させてゴメンね、と申し訳なさに頭を下げるコズエに対し、シャロンは穏やかに微笑んで手を動かし続けた。
「コズエさんにはたくさんのことを教えてもらってるのに、これくらいのお手伝いじゃお礼にもならないんですよ」
これまでのシャロンにとって、端切れを縫うのは好ましい作業ではなかった。衣服の破れを隠すために似た色の端切れを接ぎあてるという、貧しさや粗末さを隠せない作業は楽しくもないし時に陰鬱になる。ところがコズエは端切れを集めて色のバランスを考え、配置して縫い合わせることで美しい模様と飾りを作り上げるのだ。
コズエに習ったパッチワークで、シャロンは丈の短くなった安い無地のスカートに、色合いを考えて縫った端切れを継ぎ足してみた。履いてみると姉からの古着が、新しく誂えたスカートのように生まれ変わって見えたのだ。その時の感動は忘れられない。
「私はコズエさんのデザインを先に盗み見して吸収しにきてるんです、だから遠慮なんてしないでください」
ベッドカバーの端を縫い合わせるシャロンが楽しそうにしているので、コズエも納得してその好意と技術に甘えたのだった。
コウメイらが街を出るという話はあっという間に広まった。ギルド職員は顔を合わせるたびに引きとめようとするし、恋敵が去ると知った男達は満面の笑顔で顔を合わせるたびに門出を祝い、まだ旅立たないのか、明日は行くのか、とうるさかった。
「街を出る前に、納税をお願いいたします」
コズエに代わってギルドでの雑務を一手に引き受けていたコウメイは、エドナに引き止められた。税金、そういえばパーティー登録をしたときにそんな話を聞いていたな。
「パーティーでの収入は非課税範囲で収まっておりますが、コウメイさんとアキラさんの個人所得分の納税は街を出る前に済ませてください」
エドナは二枚の羊皮紙を差し出した。
「……申告納税明細書」
「収入額はギルドが証明書を発行いたします。ナモルタタル以前の狩りや討伐での必要経費は別途取りまとめ、合計額をこちらに記入してください。必要経費として申告された支出でも、内容によっては経費と認められない場合もございますのでご注意ください。申告書提出後五日以内に納税額をお知らせいたしますので、期限内にお支払いをお願いいたします」
冒険者ギルドのサービスは多種多様だ。
ギルドは冒険者の生活を支援するため、必要な物を確実に手に入れられるよう薬や道具の販売からレンタルまで多くのサービスを提供している。
だがギルドという組織は国の徴税官吏の役目も持っている。
納税意識のない冒険者から確実に税を徴収するために、ギルドは冒険者達の収支を記録し申告の手助けをする。
「消費税以外の初めての税金が、まさかの異世界とか……」
必要経費として認められるのは、狩りや討伐で使用した医薬品と武器防具、破損した衣服の買い替え費用に目的地までの旅費である。食費や宿代は経費にはならない。
「収入から経費を差し引いて出た額が課税対象となります。個人の場合は一割が税金となりますのでよろしくお願いいたします」
買った武器は中古、防具も革製品の籠手や胸当て。こんなことなら新品の高い武器でも買っておくんだったとコウメイは悔しがった。大して経費を使っていなかった二人の納税額は、結構な金額になった。ゴブリン討伐の報酬はほとんど使っていないので税金支払いに問題はなかったが。
「参考までに聞くけど、税金払うだけの現金を持ってなかったらどうなるんだ?」
知人に収入を酒と女につぎ込んでいる冒険者がいたが、あいつは税金が支払えるのだろうか。
尋ねたコウメイに向かって、エドナはうっすらと意味深に微笑んだ。
「当ギルドに登録の冒険者にもそのような方がいらっしゃいますわね」
「いるのか」
「両手の指で足りないほどには」
一人二人じゃなかった。予想以上に多い。
「納税義務が生じたにもかかわらず期日までにお支払いいただけなかった場合は、腕輪をつけていただきますわ。税金分を稼ぎ終わるまでは、奴隷冒険者として労役に従事していただくことになっております」
実質ただ働きだ。最安の宿代と食費程度しか手元に残らないので、花街にも通えないし酒も飲めなくなる。
「あいつ、大丈夫なのかな」
エドにしてみれば余計な心配だろう。
+++
馬車はギルドで借りることになった。立ち寄った町や村で宿を借りる予定ではあるが、野宿の可能性もゼロではないことを考えると、テントを張る手間を考えれば幌付きの馬車ならその必要はなくなる。
急ぐ旅ではないので、二頭立ての幌付き四輪馬車に決めた。馬は重種といわれる農耕や運搬に適した骨太でがっしりと肉のついた馬だった。荷物と五人を余裕で運んでくれそうな力強さだ。
「この馬たちなら街道の行き来も慣れているので、ほとんど馭する必要はないですよ」
という職員のおすすめに素直に従い、進め、止まれの合図だけを教わった。
「馬と馬車は目的地のギルドで返却手続きをしてください。その際にこちらの貸出し証明書を必ず提出してくださいね。紛失しますと保証金は一ダルたりとも返ってきませんのでご注意ください」
旅立ちの準備は着々と進んでいた。




