共同生活のススメ 12 脅迫と交渉
共同生活のススメ 12 脅迫と交渉
重心を落とし槍を構えたコズエ、短刀を構え間合いをはかっていつでも飛び込めるように位置を取るヒロ、サツキは半泣きでアキラの手から矢を抜き治療薬をふりかけていた。
「おや、すまんな。ホブゴブリンに手こずってるのを援護したつもりだったんだが」
リーダーらしい長剣使いの赤毛男が、自動弓を構えた仲間の肩を叩きながら惚けたことを言った。
「お前達が不用意に動くから当たってしまったか。運が悪かったな」
ホブゴブリンによって呼び戻されたゴブリンたちは、彼らの足元に死体となって転がっていた。
「ふざけんな! とっくに倒し終わってただろうがっ」
「そうだったか? ゴブリンの返り血が目に入ってよく見えなかったようだ」
ニヤニヤと揶揄するような男の不快な笑みに憎悪がわいた。キリキリと軋むほど歯を食いしばって睨みつけたまま、コウメイはアキラの治療が終わるのを待った。
「女連れでゴブリン退治とは優雅だねぇ」
「優男ばかり揃いやがって」
「女に助けられなきゃゴブリンも屠れねぇなんて男じゃねぇな」
「だから俺らの討伐を邪魔しやがったのか、冒険者の風上にも置けねぇガキどもだな」
男たちは口々にコウメイらを貶し嘲う。
怒りに真っ赤になったコズエが飛び出そうとしたのをヒロが止めた。その彼もコズエの肩を掴む手が怒りに震えている。
挑発されていると分かっていても冷静になるのは難しかった。
「割り込んだのそっちだろう。先に戦っていたのは俺達だ」
「何言ってんだ、ホブゴブリンを倒したのは俺の矢だぜ? 見ろよ、急所にきっちり刺さってとどめ刺してるだろうが。巣の殲滅は俺たちが達成したんだよ」
「……俺らを始末して報酬を横取りするつもりか」
「横取り? 人聞き悪いぜ。俺らは正当な仕事の報酬を受け取るだけだ」
「何が正当だ。仲間の血のついた矢は証拠品としてギルドに提出する。せいぜい懲罰を覚悟しておけよ」
討伐の正当性を裏付けるため、冒険者の使う矢には個別マークを入れるのが普通だ。アキラを射た矢にも所有者の印が刻まれている。
「クソガキどもが」
男達からの怒気がピリピリと痛い。負けるものかとコウメイも殺気を放った。
この連中は報酬の横取りに慣れすぎている。対人戦闘の経験も豊富そうだ。女子二人は気丈に立ち構えているが、対人戦闘は無理だろう。ヒロには二人を守るという気迫があるが、果たして人を殺める事ができるのか分からない。
怒りのこもったコウメイの肩にアキラの肩が触れた。布を巻いて傷口を保護し、利き手には脇差を握って立ち上がったアキラはコウメイの耳元で囁いた。
「弓の男の呼吸を止める。あとは任せた」
応とコウメイが頷いたのと同時に、自動弓を構えた男の顔が強張った。
「ぐ、ぐぁ」
パクパクと口が開き、苦しげに喉を引っかいて蹲る。
弓を取り落とし、両手で喉や口を掻き毟りながら、見開いた目で何かを探している。
「どうした?!」
突然苦しみはじめた仲間に気が逸れた瞬間に、コウメイがリーダーの長剣を弾き飛ばした。
「くそっ」
「動くなよ!」
コウメイは剣刃を男の首筋に押し当てた。
リーダーを抑えられ、仲間の一人がヒューヒューと喉を鳴らしながら悶絶する姿を見て、武器を構えていた男達は二歩、三歩と後ずさった。
「ヒロは腕の傷に薬を使っておけ。回復薬もだ」
ひそめた声で早口にアキラが指示した。
「コウメイが押さえている間に、討伐部位と魔石を回収するんだ」
「でも」
「俺たちが注目を集めておく間にだ。終わったら逃げろ」
「そんな!」
「お兄ちゃんも」
「頼んだぞヒロ」
サツキの手から自動弓を奪い、振り返りざまに男達に照準を定めて構えた。
「そ、その手で当てられるものか」
「試してみるか?」
包帯に包まれ血で汚れたアキラの指が自動弓の引き金に置かれた。
倒れて悶絶する男に近づこうとしていた黒髭に照準を合わせる。黒髭の眉がピクリと跳ね、その場で足を止めた。
ゆっくりと歩み寄ったアキラは弓の照準をそのままに、呼吸に苦しむ男を足蹴にして刃先を突きつけた。
「さて、話し合おうじゃないか」
場が整ったと判断したコウメイは、リーダーの赤毛に向かって淡々と言葉を放った。
「話し合いだと?」
「そうだ、話し合いだよ」
男達の顔を順番にねめつけるように見て、最後に赤毛を見据えた。
「討伐部位と魔石は、自分達が屠った分だけ回収する」
「ホブゴブリンはどうする」
「アレは俺たちが殺った、俺達のものだ」
「とどめを刺したのはハリーの矢だ」
赤毛が主張し続ける嘘をコウメイは鼻で笑った。
ホブゴブリンの硬い皮膚の表面に傷をつけた程度の矢傷で、なにがトドメだ。
「こっちの仲間を間違って射たことは水に流してやるぜ」
「偉そうに言うなクソガキが」
「じゃあ巣の殲滅報酬はそっちにやるよ。パーティータグを打ち込んでおけば、ギルドが確認してくれるんだろ?」
「その代わりホブゴブリンはてめぇらが取るってのか」
「悪くはないだろ。ホブゴブリンの報酬はせいぜい六百だ。巣の殲滅は交渉しだいでギルドからいくらでも引き出せるんじゃないか?」
赤毛はコウメイの出した条件を素早く計算しているようだった。
「早く決断しねぇと、そこで寝転がってるおっさんが苦しみ続けるだけだぜ」
「おまえ、ハリーに何をした?」
「手の内をバラすわきゃねぇだろ」
コズエたちがヒロに促されて森に逃げ込むのを確認して、アキラはコウメイに目で合図を送った。
「それぞれの倒したゴブリンと、巣の殲滅達成の権利はこっち、だな?」
ギリギリと、歯軋りが聞こえてきそうなほどに噛みしめて赤毛が繰り返す。
「成立だ」
顎を上げ、男達を挑発するように目を細めて笑い、コウメイは赤毛の首から剣を引いた。
「俺たちがここを出るまでは動くなよ」
アキラが離れても弓使いは息も絶え絶えに苦しみ続けている。
矢の照準は男達に向けたまま、二歩、三歩と後じさり、コウメイの合図で森へ向かって駆け出した。
茂みに飛び込み、傾斜を滑って降りた。
「アキ?」
後に続いてこない気配に振り返った。
足を止めたアキラは、意識を集中させ、二つの魔力を高め構えていた。
「走れ、コウメイっ」
投げつけられた二つの力は、傾斜の頂上でぶつかり、爆発した。
+++
コズエたちはゴブリンの巣までに辿ってきた道を走り続け、森の出口を目指していた。傾斜を滑り降り、細い道で足を滑らせ、自分達の屠ったゴブリンが転がる脇を抜けたとき、遠くで爆発音が聞こえた。
「なに? 何の音?」
「コズエ、足を止めるな」
「でも凄い音だよ」
「行きましょうコズエちゃん」
獣道のように踏み固められた細い道にもゴブリンの死体が転がっている。それらを跨ぎ、避け、蹴り動かしながら三人は先へと進んだ。
「きゃっ」
「サツキ、大丈夫? さっきから何度も転んでるよ」
「木の根に引っかかったの、枯葉で滑りやすいし。大丈夫よ」
木々に遮られ薄暗い森の中は足元の石や木根が何処にあるのか判別しづらかった。ここへ戻ってくる間にもサツキは何度も転んでいる。
「出口は近い、急ごう」
ヒロに促されて、コズエはサツキと手をつないだ。
ゴブリンの死体を越えて進むと、すぐにまたゴブリンの死体にぶつかる。だがそこを越えれば草原だ。
木々の間から垣間見える草原を目にした三人は歓声をあげた。そのまま駆けて森を抜ける。出てすぐの草むらに腰を降ろし、荒い呼吸と激しく打つ心臓を沈める。汗を拭き、水を飲んでようやく呼吸が楽になってきた。
「コウメイさんたちを待つのよね?」
「ああ、だがもう少し村よりに移動した方がいいかもしれないな」
そう言ってヒロは座り込んでいるサツキの腕を掴んで引き上げた。
「痛……っ」
立ち上がったサツキはすぐに草地に崩れ落ちた。
「おい、どうしたんだ?」
球のような汗をかきながら右足を押さえ、唇を噛みしめていた。
「怪我してたのか?」
「巣のところから滑り降りたときに、捻ったみたいで……」
コズエがサツキの足から靴を脱がそうと靴紐をナイフで切った。ぱんぱんに腫れあがった足を皮のブーツが絞めあげていた。
「何回も転んでたのはコレが原因ね。早く言いなさいよ、治療する時間くらいあったわよ!」
「はやく治療薬を使え」
痛みを堪えながらサツキは首を振った。
「無いの」
「予備は?」
「さっきお兄ちゃんの矢傷に使ったので最後」
コズエは自分の持ち分とサツキから貰った二本を使っていたし、ヒロも自分の持ち分はアキラに言われて使ったばかりだ。回復薬は一つだけ残っているが、これは怪我の治療には効果がない。
「コズエ、荷物を頼む」
「わかった。大丈夫、軽いものよ」
そろそろ冷凍の魔法が解けかけてきたズタ袋を渡されたコズエは、槍にくくりつけて背負うように持った。
ヒロは渋るサツキを無理矢理背負って歩き始める。耳のそばで小さな謝罪が聞こえて、ヒロは小さく息をついた。
「前にもこんな事があったな」
「私が角ウサギの毒で痺れてたときのことだよね」
「歩けないコズエを背負って走ったな。今回はサツキさんだ」
ちょっと足が痺れただけのコズエと違い、サツキの足は重症だが、謝る必要は無い。
「あの時は折角しとめた獲物も忘れてたのを、サツキさんがしっかり回収してきたんだよな」
「私は自分の荷物も捨てちゃってたよ。でも今回はちゃんとゴブリンの証明部位も魔石も落としてないからね」
皆が痛い思いをし、汚れながら戦い、同士討ちから守りきった大切な成果だ。
「まずは街道を目指そう。コウメイさんたちもすぐに追いついてくるはずだ」
草を掻き分けて北に進み、村が見える位置から東に方向を変えて街道を進んだ。
いつも暴牛を狩っている辺りまで来た頃に、遠くから三人を呼ぶ声が聞こえた。
合流を果たし互いの無事を喜び合う。背負われているサツキの捻挫を見てアキラが治療薬を取り出した。
「それはお兄ちゃんが使わなきゃ」
血に染まった左手の包帯を指差し、そちらに使うべきだとサツキは主張する。
「これは返り血だ。ほら」
包帯を取り外してアキラは手の甲を見せた。矢の刺さっていたあたりに薄ピンクの新しい皮膚ができており出血もない。それを見て納得したサツキはようやく治療薬を受け取った。
「追っ手の心配はないんですか?」
「多分、大丈夫。妨害工作をしてきたから、街に戻るのはかなり時間がかかると思うよ」
コウメイはゴブリンの耳を詰め込んだズタ袋を受け取った。ぽたりぽたりと落ちている血の滴を見て、アキラが冷凍の魔法をかけなおす。
あの男達が追ってくる事はないだろう、そう言われても皆の足は自然に早足になっていた。
早く街に戻り、家に帰りたかった。
「明日は休養日にしようか」
コウメイの提案に誰も反対しないのは当然だった。
「帰ったらまずお風呂にはいりたいです」
「腹が減ったな。昼飯食ってないし」
「洗濯が大変そうだ」
「あー、いっぱい破れてるし、修繕もしなきゃ」
「寝たい」
五人が街にたどり着いたのは、四の鐘が鳴り終わって少しした頃だった。
+++
「その袋、いらねぇから捨ててくれ」
血の滴るズタ袋を査定カウンターに乗せると、当番職員が呼吸を止めて顔を歪めた。
「この悪臭は、ゴブリンですか?」
血の臭いは感じるが、ゴブリン独特の悪臭はほとんど感じない。こりゃ鼻がバカになってんな、とコウメイは苦笑した。家に戻ったら全身を洗わなければ食事作りもできそうにない。
「数ははっきり覚えてないから、数えてくれ。あ、それとこっちも買取で頼む」
追加で魔石の入った袋を出した。ゴツンとカウンターにぶつかって音を立てるほどの量に職員の唇が引きつった。
盗伐明細、ゴブリン四十九体、ホブゴブリン一体。小魔石四十八個、中魔石一個。
査定明細によれば、ゴブリンの魔石を一つ回収し損ねているようだ。あれだけ大量のゴブリンがいたのだ、こういうこともあるだろうとコウメイは報酬受け取り窓口へと向かった。
ロビーに戻ると、コウメイの姿を見た職員らが悪臭をかいで青ざめた。露骨に息を止めて顔を背ける者もいれば、作り笑いを引きつらせて体裁を保っている者もいる。風呂に入って出直すのも面倒だし、今日だけは我慢してもらおうとコウメイはエドナのカウンターに向かった。
「これ、頼むな」
コウメイの差し出した査定明細を見たエドナは、メガネのブリッジを指で押し上げた。他の職員のように顔をしかめたり息を止めるような素振りは見られない。
「巣の殲滅報酬はいかほどをご希望ですか?」
「あれ、それってこっちの言い値が通るものなのか?」
「……基本となる報酬額はございますが、今回は村への新たな被害がなかったという点も考慮されますし、まさか情報張り出しの当日に解決するとは思いませんでしたので、正直申しまして、査定が難しいのです」
コウメイの放つ悪臭にも顔色を変えなかったエドナが、支払う報酬の査定には困りきっているようだった。
「ですからご希望をお聞きして、判断基準の参考にしようかと思いまして」
「ふうん、そんな優遇してくれるのか。残念だ」
え? とエドナがコウメイを見直した。
「巣の殲滅をしたのは俺達じゃないんだよ」
「でもこの討伐数は? 上位種も倒していますし」
「ホブゴブリンを倒したのは俺達だけど、巣を殲滅させたのは別のパーティーなんだよ」
「コウメイさん?」
にっこりと笑ったコウメイは懐から布に包んだ矢を取り出した。
「殲滅したのは、この矢の持ち主のいるパーティー」
血のこびりついた矢を受け取ったエドナは、目を細めてその刻印を凝視した。
「その血、ゴブリンのじゃなくて、アキのだ」
「……それは」
ギルドに登録する際に血液登録をしてあるのだ。たとえ余所のギルドで登録された血液情報でも、その血と照合することは可能なはずだとコウメイは指摘した。
「ゴブリンを射らずに同士狙撃はまずくないかな?」
「誤射、では?」
「アキに突き飛ばされなかったら、俺の頭と肩に刺さってたはずの矢だ」
殺意が無かったとは言わせない。
コウメイの怒りを感じ取ったエドナは、矢を布で包みなおしてから背筋を伸ばした。
「……こちらはお預かりいたします。調査までに少しお時間を頂きますがよろしいですか?」
「好きに使ってくれていいよ。けどあっちを処罰するとかペナルティつけるとかは無しで頼む」
「よろしいのですか?」
懲罰を求めてこれをギルドに提出したのではないのかとエドナは問うた。
「現場で話はついてるからな。自分らの倒したゴブリンの分と、ホブゴブリンの報酬は俺らがもらう代わりに、殲滅の報酬はあっちが受け取るって」
信じられないとでも言うように目を見開いたエドナに向けて、コウメイは意地悪く目を細めて言った。
「だからあいつらの殲滅報酬の査定、よろしくな?」
+++
家に戻ったコウメイは玄関からは入らず、脇から裏庭に回りこんだ。井戸でブーツやマントの汚れを落としながら、洗い場の扉に向かって声をかけた。
「おーい、風呂はいってんの、誰だ?」
女の子達だったらマズイが、ヒロかアキラだったら混ぜてもらおうと思った。ゴブリン臭をまとったまま台所にも寝室にも戻りたくない。
「入れよ」
アキラの声が返事をしたので、コウメイは遠慮なく扉を開けた。
湯船に浸かり寛ぐアキラは壁際のタライを指差して。
「マントも服も全部それに入れとけ。明日まとめて洗う」
大きな桶三つに服やマントが山になって積まれている。流石に今日は洗う気にはなれないのも分かる。コウメイはその場で服を脱ぎ、山の上に放り投げた。
「アキラさん、入ります」
湯の入ったバケツを持ってヒロが洗い場に入ってきた。
「あれ? コウメイさん、いつの間に帰ってたんですか?」
「玄関通らなかったんだよ。もうみんな風呂は終わってんのか?」
「コウメイさんが最後です。もっとお湯は必要ですか?」
湯船の横には水のバケツが二つと、たった今運び込んだ熱湯のバケツが並んでいる。
「いやコレだけありゃ十分だよ」
順番が最後だというなら湯船の湯も使えるのだ。
「風呂から上がったらすぐに飯作るから、ちょっと待っててくれ」
「コズエとサツキさんが作りはじめてます。今日は簡単なもので十分だと思いますし、ゆっくりしてください」
そう言ってヒロは洗い場を出て行った。
頭から爪先まで、石鹸を使ってゴシゴシと洗う。特に髪は血やゴブリンの悪臭が染み付いていそうで念入りに洗った。
ざばっと水音がして振り返ると、アキラが湯船を出るところだった。
「もう上がるのか?」
「これ以上はのぼせる」
コウメイは部屋着を身につけ洗い場を出て行こうとするアキラを呼び止めた。
「左手の傷は?」
「大丈夫だ」
しれっとしてアキラは手の甲をあげて見せた。
「ひっくり返せ」
「……」
「アキ」
誤魔化されないぞとアキラを睨み続けたコウメイの勝ちだった。手の平の真ん中には、まだ血の滲む生々しい傷があった。あの場で使った治療薬ではアキラの傷を完全に塞ぎきれなかったのだ。
コウメイは自分の腿の傷跡に目を落とした。相当な出血のあった傷は、治療薬によって完全に塞がり、薄い線がかすかに見えるだけになっている。
「アキの薬の効きが良くないっての、何とかならねぇのか?」
「俺に聞くな」
そもそもの発端は誰だとアキラに半目で見据えられた。
「治療薬をもう一本使えばって……残ってないな、サツキちゃんに使ったし」
ギルドに寄ったのに何で錬金薬の補給を忘れてたんだよ俺は、とコウメイは額を押さえた。失態だ。
「ほとんど治りかけだ。薬草液を握ってればすぐ血も止まる」
そのつもりで必要な薬草は戻ってくる途中で採取してあった。
「夕食までに何とかしとけよ。その傷見たらサツキちゃんが泣くぞ」
お前に言われるまでも無い、とアキラは洗い場を出て行った。
+++
その日の夕食は暴牛の骨で取ったスープをベースにした野菜たっぷりスープとマッシュポテトだった。サツキにも簡単な肉料理は作れるのだが、今日ばかりは肉料理を作る気にも食べる気にもならなかった。
「「「「「ごちそうさまでした」」」」」
熱を持ったような身体の疲労、スープに顔を落としそうになるほどの強烈な眠気、すぐにでもベッドに入りたいと全員が思っていた。移動の強行軍と、ゴブリンとの戦闘、その後の緊迫した駆け引きと、逃走。肉体的にも精神的にも疲労困憊だ。
それでも済ませておかなければならない日課がある。
「まずは収支報告な。ゴブリン討伐報酬と魔石の売却で収入は二万百五十ダル」
コウメイの口から出た金額を聞き、コズエの目が覚めた。
「にまん……!」
「一日でその金額は、凄い」
等分すると一人四千ダル程度なのだが、どちらにしろコズエたちには未知の金額だった。
「必要経費が、回復薬四本と治療薬八本で六千ダル。ああ、使った錬金薬は明日買って補充しとくよ」
他にも、とコウメイはコズエを見た。
「俺らの仕事着がかなりダメージ受けてる。手直しとかはコズエちゃんに頼むことになるんだけど、材料や手間賃はちゃんと払うから教えてくれよな」
「そうですね、洗ってから確認してみます」
明日でいいですか?と申し訳なさそうに言うコズエに誰もNOとは言わなかった。
そう言えばとサツキがアキラにたずねた。
「お兄ちゃんがあの男の人の呼吸を妨害したのって、水魔法じゃなかったみたいなんだけど?」
「ああ、風魔法の応用だ。男の周辺の酸素濃度をギリギリまで下げたんだ」
アキラはホブゴブリンも同じ手段で呼吸困難に陥れ動きを阻害していた。
「突然口と鼻に水が詰め込まれたら魔法使ってるってバレるだろうから、死なない程度に呼吸ができないようにしてみた」
おそらくあの男は突然に息が出来なくなったのは何かの発作だと思っている。今まで病気をしたことがなくても、あれが魔法によるものだったとは想像できないだろう。
「魔法ついでにもう一つ、逃げる時にアキが使ったあの爆発はどうやったんだ」
周辺の木々が倒れてゴブリンの道は通れなくなってしまった。
「あれは火魔法と水魔法」
「……もしかして、水蒸気爆発を起こした?」
逃げる時に遠くで聞こえた爆発音はそれだったのかとヒロは納得した。
「今日は後片付けもなし。食器も何もかもこのままにして、寝よう。俺も限界だし」
暖炉の火がゆらゆらと揺れるのを見ていると、瞼が重くなってくるのだ。ほかほかと温かいのも良くない。今すぐ枕に突っ伏したかった。
「賛成れす」
欠伸が噛み殺せていないヒロ。
目を閉じたアキラの身体はゆらゆらと揺れている。
「五の鐘までは起きなくていい、てか多分起きらんねぇだろ。午後からは全員で片付けと洗濯、いいかな?」
「ふぁい」
皆の口から出たのは、欠伸なのか返事なのか分からない声だった。
初のお風呂シーンなのに、ラッキースケベも女の子同士のウフフもありませんでした。
すみません。




