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新しい人生のはじめ方~無特典で異世界転移させられました~  作者: HAL
第2部 冒険者生活の楽しみ方

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共同生活のススメ 5 はじめての指名依頼

共同生活のススメ 5 はじめての指名依頼


 ナモルタタルを拠点にする冒険者は、定住者が多い。

 交通の要所である点、徒歩数時間の距離に農村が多くあること、上級者にしか討伐できないような強い魔物が少ないこと、そういった条件から、生活のために狩りをし討伐をする冒険者にとって、ナモルタタルは都合の良い街だった。

 夕方の冒険者ギルドは納品や換金で賑やかだ。査定窓口の列の最後尾に並ぶと、前にいたクセのある赤毛を三つ編みにした少女が振り返り、ぱぁっと笑顔になった。


「コズエ、今日も無事に終わったね、お疲れ!」

「お疲れ~。ケイトも怪我しなかった?」

「大丈夫だよ、私が狙ってるのは角ウサギだもん」

「いやいや、角ウサギも結構怖いよ、角痛いし、痺れるし」


 ナモルタタルには女性冒険者も多い。そのほとんどは街の住民や近隣農家出身だ。コズエと親しく話す彼女も街の肉屋の跡取り娘だ。コズエたちが配達仕事をしていた頃に、何度か荷物を運んでいるうちに知り合い親しくなった。


 ケイトの箱台車には角ウサギの皮と角が入っている。肉は実家の肉屋で販売するためギルドには卸さないのだそうだ。彼女はコズエの箱台車をのぞき込んで感嘆の声をあげた。


「相変わらずコズエたちは凄いわね、銀狼じゃない! 今日は何頭?」

「銀狼は三頭ね」

「魔猪はないの?」

「一頭はしとめたわよ。でも私達で食べる分だから、ギルドに卸すのは皮だけね」

「私も魔猪を狩りたいけど、一人じゃ無理なのよね」


 ケイトはソロの冒険者だ。女の子でソロというもの珍しいが、獲物の可食部位を実家へ卸す関係もあり、パーティーで活動する場合の報酬配分が面倒だとソロを貫き通していた。十二歳の頃から冒険者として七年間活動している中堅の彼女だが、ソロで魔猪を狩るのはかなり無理をしなくてはならない。年に数回、運よく魔猪を屠ることはあったが、たいていは治療薬の必要なレベルの怪我と引き換えだった。命あっての冒険者だし、ケイトは実家の肉屋が本業だ。魔猪一頭を屠るたびに命をかけることはできない。


「ギルドから仕入れようとすると、購入量に制限がかかって希望の量を仕入れられないのよ」


 街の肉屋で売られている食肉は、豚肉と牛肉とウサギ肉に鶏肉、そして魔獣肉の暴牛と魔猪と角ウサギだ。動物肉は農家や狩人から仕入れるが、魔獣の肉はギルドから仕入れるか、直接冒険者から買い取るしかない。


「ギルドは冒険者の料理店に優先的に卸すんだもの、ウチみたいな小売り専門の肉屋にはなかなか割り当て増やしてもらえないのよね」

「だから自分で狩りに行ってるのね」

「そう。普通のお肉よりも魔獣のお肉の方が美味しいし、売れるんだもの」


 ギルドが冒険者から買い取った魔獣肉は、宿や元冒険者の経営する店に優先的に卸されている。宿に泊まる冒険者に魔獣肉の美味さを覚えさせ、危険を冒してでも狩りたいと思わせるためらしい。


「私は普通のお肉を食べたことないけど、魔獣のお肉の方が美味しいって本当?」

「野ウサギの肉と角ウサギの肉を食べ比べてみれば分かるわよ。魔獣の肉は焼いても硬くならないし、うまみも残りやすいし」


 コズエたちは家畜動物の肉を食べたことはない。冒険者になった当初は肉を買う金がなく、自給自足のために必死で狩りをした。資金的に余裕のある今も、肉は買うよりも狩って手に入れる。野生動物よりも魔獣の方が高く売れるので、当然のように角ウサギや魔猪を狩っていた。

 街の人々は肉屋で肉を買う。美味しい魔獣の肉は品薄で値段も高い。普段は動物の肉を食べ、少しばかり贅沢をしたいときに魔獣の肉を買い求めるのだそうだ。


「冒険者って、実は美味しいものを食べてたのね」


 食に関してはかなり贅沢しているらしいと初めて気がついたコズエだった。


「ねぇコズエ、今度魔猪を狩ったらウチの店に卸してくれないかなぁ?」

「買取金額にもよるかな。そんなにたくさん狩れるものじゃないし、自分達で食べる分は確保したいし。あ、ケイトの順番だよ」


 箱台車から角ウサギの皮と角を取り出したケイトの査定はあっという間に終わった。肉屋の娘なだけあって解体の腕はよく、皮の査定価格は高めのようだった。


「買取価格のことは父さんに相談しておくわ。じゃあまたね」


 コズエも報酬を受け取って家に戻った。

 その日の夕食の席で、街の食肉事情についての雑談をして、肉屋への卸しについても条件がよければ考えようと話し合った。しかし冬に向けた薪集めや冬支度が忙しくなり、ケイトともすれ違いが続き、魔獣肉買取の事はすっかり忘れてしまったのだった。


   +++


「指名依頼?」


 いつものように報酬を受け取って帰ろうとしたコズエとコウメイは、エドナに引き止められて一枚の依頼票を差し出された。


「パーティーを指名した狩猟依頼です。依頼内容と報酬はこちらに記載されています。どうされますか?」

「どうするも、指名依頼ってのは、絶対に受けなきゃいけないものなのか?」


 険しい顔のコウメイは依頼票を見ようともしない。コウメイの認識では、指名依頼というのは、権力者が面倒な仕事を冒険者に押し付ける厄介な案件でしかない。これから名を上げたいパーティーや冒険者なら、指名されれば喜んで引き受けるのだろうが、目立たずひっそりと冒険者を続けたいコウメイらにとって、指名依頼はありがた迷惑でしかなかった。


「断ることは可能ですが、ギルドとしては街の住民からの依頼は極力引き受けていただければ助かります」


 街との協力関係が崩れると、ギルドとしても色々と支障があるのだろう。


「コウメイさん、この依頼を受けましょう」


 依頼内容を読んだコズエがきっぱりと言った。


「これ、条件的にも悪くないと思うし、依頼主がケイトたちなんです」

「ケイト? コズエちゃんの友達の?」

「はい。多分、前に言ってた魔獣肉の買取のヤツなんじゃないかと思うんですよ」


 すっかり忘れてましたけど、と前置きしてコズエは依頼票をコウメイに渡した。


 指名パーティー N629

 依頼内容 魔猪肉の納品 最低七頭

 報酬 魔猪肉一頭につき百二十ダルを支払う。討伐報酬、皮と魔石はN629の取り分とする。

 依頼主 ナモルタタル食肉店三店合同依頼(窓口ケイト)


「これ、前に話してたお肉屋さんが魔猪肉を買いたいって話だと思います」

「ああ、あれか。なんで合同依頼になったんだ?」

「さぁ? ケイトに聞いてみます?」


 依頼主に話を聞くということは引き受けたと判断される。


「お引き受けいただけるということでよろしいですか?」

「いや、返事は全員の意見を聞いてからだ」


 保留を告げたが、この依頼は受けても問題ないとコウメイは思っていた。依頼主が金持ちや貴族だったらお断りだが、街の肉屋さんが合同でというなら問題はない。それにコウメイは肉屋のツテで入手したい物があった。

 報酬を受け取って家に戻り皆に意見を聞くと、コズエだけでなくサツキも友人を助けたいと手をあげた。サツキが賛成すればアキラの意見は聞くまでもないし、ヒロも知らない相手ではないので引き受けたいと頷いた。


 翌日、エドナに正式に引き受けることを伝えに行くと、エドナに呼ばれていたのだろう、その場にはケイトがいた。


「ありがとうございますっ」


 ケイトは満面の笑みでコウメイに依頼の詳細を説明はじめた。


「街の肉屋三店から一人ずつ解体と荷運びに人を出します。コウメイさんたちは魔猪を狩って私達のところまで運んでくれれば、解体作業は私たちがやります。最低七頭は狩って欲しいんです。その内一頭はコウメイさんたちの取り分です。それと魔石や皮も」

「それじゃあケイトたちは赤字にならないか?」

「大丈夫ですよ。ギルドへの仲介料はそんなに高くありませんし、それぞれのお店に最低二頭分の肉が入手できれば採算は取れます。できれば三頭分あると助かりますけど、十頭狩るのは難しいですよね?」

「出来なくはないと思うよ。俺達が三頭までしか狩らないのは、解体の手間と運搬の都合だからね」


 アキラが本気になって魔猪を探せば、一日に十頭くらいは余裕で発見できる。今の自分達の戦力ならそれらを屠ることも難しくはない。


「わぁ、すっごく助かります! 早速ですが明日でいいですか? 私達の準備はできてるんです」

「いいぜ。俺の方にも頼みたいことがあるんだ」


 コウメイが手に入れたいものを言うと、ケイトは職人にツテがあるので加工処理を頼むことは可能だと約束した。


「動物の腸を塩漬けにして、何に使うんですか?」

「肉の加工食だ」


 こちらの世界では腸詰め肉、いわゆるソーセージは存在していないようだった。冷蔵庫的な道具が一般的でないので、肉の長期保存は乾し肉か塩漬け肉になる。コウメイは何とかしてソーセージを作ってみたいと思っていたが、腸膜の入手が難点だった。狩りをすれば臓腑はいくらでも手に入るが、腸詰用に処理する技術はコウメイには無い。


「腸膜に肉をつめる……その発想は無かったです」


 肉屋の跡取り娘の目がキラリと光った。


「その腸詰めの作り方について、教えてもらえますか?」

「腸膜が手に入ったらね」


 とりあえずは指名依頼を終わらせることだ。明日の朝三の鐘に南門の前で待ち合わせることに決め、コウメイはギルドを出た。


   +


 コウメイが家に戻ると、既に夕食の準備は終わっていた。


「お疲れさまでした。簡単なものですけど夕食を作っておきました」


 台所ではサツキとヒロが肉団子と野菜の煮込みの仕上げをしていた。トマトに似た赤い野菜を煮崩れるように小さく刻んで入れてあるので、見た目はトマト煮込みのように見えるシチューだ。


「この肉団子、ヒロが作ったのか?」

「アキラさんに教わった風魔法で、ひき肉を作ってみました。加減が難しくてちょっと粗い出来なんですが」


 サツキの水魔法をきっかけに、コズエやヒロも魔法についてのレクチャーを受け、コズエは土魔法、ヒロは風魔法の資質があることが分かった。現在は日常生活で魔法を使うことで少しずつ魔力量を増やし、コントロールを学んでいる最中だ。


「粗挽き具合がいいと思うぜ。今度のソーセージ作りはヒロにも手伝ってもらえそうだな」

「ソーセージ、作れるんですか?」


 コズエが嬉しそうに声をあげた。ソーセージがあればお弁当作りも、朝食の準備も時間短縮できるし、何より懐かしい食べ物を食べられるかもしれないという期待が強い。


「肉屋のケイトに指名依頼を引き受ける条件に腸膜の入手を頼んだんだ。ソーセージの作り方も教えなきゃならなくなりそうだが、問題はないよな?」

「ひき肉の作り方をどう説明するんだ?」


 アキラが硬い表情でコウメイを見た。五人の生活においてアキラたちの魔法は、食事下ごしらえや洗濯に掃除と便利に活用されている。ひき肉は固まり肉を風の刃物で細切れにする魔法フードプロセッサーによって作られていた。魔法を秘匿するつもりなら、そこらあたりを誤魔化す方法を考える必要がある。


「別に。普通に包丁で切って叩いて細かくしてもらえばいいだろ。俺が教えるのはあくまでも基本のソーセージの作りかただし」


 ひき肉の作り方ではない。肉挽き機を作るつもりはないし、作れといわれても構造を知らない。根気よく肉を細かくしてもらうだけだ。


「ひき肉作りで躓いてソーセージ製作が頓挫しても、俺らは別に困らないだろ」


 ケイトは目新しい加工肉の製法を知って肉屋で独占販売を目論んでいるようだが、コウメイはこの世界に食改革を広めたいわけではない。自分達が美味しいものを食べたいだけだ。


「だったら指名依頼の方について詰めておこう。俺達は魔猪を狩るだけでいいんだな?」

「依頼主の肉屋からそれぞれ一人同行するらしい。解体作業はそいつらに任せればいいらしい」

「ということは、魔法は使えないな」


 狩りの手順をどうするかとアキラは思案顔だ。


「攻撃に使うのは避けたほうがいい。補助的に使うにしても、同行者の目を避けてなんて器用なことは難しいだろ? 魔法は全面禁止のつもりでいたほうがいいぜ」

「明日の依頼主側の動きを見てから決めたらいいと思います」

「今の私達なら、魔法を使わなくても魔猪に苦労することはないと思うけど」

「いつも通りに確実に一頭ずつ狩ればいいだろ。臨機応変にやるって事で」


 指名依頼なんて初めてのことだし、肉屋の仕入れ手伝い仕事だ、そこまで神経質になることはないだろうという結論で話し合いは終わった。


   +++


 予定時刻より前に全員が南門に集まった。


「おはようございます。今日は一日よろしくお願いします」


 ケイトに紹介された共同依頼主、一人は二十代の黒髪の男性だった。


「あれ、あんた見たことあるような」

「ギルドだと思うぜ。俺も冒険者登録してるから」


 北町の肉屋の次男坊のキースは、本業の空き時間に魔獣肉を狩るために冒険者ギルドにも出入りしているらしい。

 もう一人のビリーも肉屋の跡取りで、現在は冒険者証は返却しているが、若い頃は自分で森に魔獣肉を仕入れに行っていたという三十代前半の男性だった。


 普段コウメイたちが狩場にしている森に入り、細い川の側をキャンプ地に決めて依頼主たちが箱台車を止めた。


「俺達はここの水場であんた達が魔猪を狩ってくるのを待っているから、遠慮なく暴れてきてくれ」


 護衛の必要は無いと三人は断言した。


「これでも現役の冒険者と元冒険者だ、身を守るくらいのことはできるさ」

「私達は解体に専念するから、どんどん魔猪を運んできてね」


 頼りになる同行人である。

 それでは遠慮なく狩りをしよう、と五人は早速カルカリの木に向かった。最初の木の下には二頭の魔猪がいた。番いなのだろう、身体の大きな雄と一回り小さな雌が仲良くカルカリの実を食べている。


「俺とアキはでかいほうをやる、三人は小さいほうを頼む」


 アキラとサツキが弓を構え、いつもの狩りが始まった。


   +


 まず二頭。その解体が終わる頃に一頭、解体を終えてナイフの血脂を落としているところにまた一頭と、肉屋の娘息子跡取りが休憩を取る間もなく、次々と魔猪が持ち込まれてきた。


「ねえコズエ、あなたたちどうやって魔猪を見つけてるの?」


 午前中だけで既に五頭の魔猪をしとめている。ケイトらの感覚では午前中に三頭でも多いくらいなのだ。


「あ、狩りの秘訣は冒険者の当然の権利だから、無理に教えてくれなくてもいいよ。けど、こんなに効率よく狩りができるのに、なんで魔物討伐の方に移らないのかなって不思議で」


 冒険者は薬草採取から始め、野生動物の狩り、魔獣の狩り、魔物の討伐へと仕事の単価と危険度を上げて行くのが普通だ。


「魔物を一体討伐すれば、魔猪三頭分の報酬くらい簡単に稼げるでしょ」


 ビリーも頷きながら同意した。


「俺も冒険者をしていたから思うが、これだけの腕があるなら魔物討伐で名前をあげるチャンスだってあるのに、もったいないと思うぞ」

「そうよ、魔物討伐専門になってギルドからお墨付きもらえばいいのに」


 そうすれば色々な優遇も受けられるし、支援者も紹介してもらえるとケイトたちはすすめる。昼飯を食べながらの会話に五人は何と答えたものかと顔を見合わせた。


「名前をあげて有名になりたいとか思ってないのよね」


 コズエはあっさりと拒否した。

 この世界にも竜殺しの称号を得た有名な剣士や、稀なる探求者なんて二つ名のついた冒険者は存在するが、自分達がそんな冒険者になりたいとも、なれるとも思っていない。


「それに私の槍術は魔猪に力負けしてるよ。そんな腕で魔物なんてとても無理だよ」


 ゲームならレベルが上がればか弱い女の子でも一撃で魔物を倒せるようになる。しかしファンタジーでありながら妙に現実的なこの世界は、コズエやサツキを普通の女子高校生より強く鍛え上げてはくれたが、人間離れした腕力や体力は与えてくれなかった。多少力こぶができる程度に筋肉は育ったが、あくまでも女の子の筋力、腕力の範囲内におさまっている。


「一対一で魔猪をしとめようなんて考えることが凄いんだけどなぁ」


 ケイトは苦笑ぎみだ。


「どうやら今日中に依頼は達成しそうだね」


 二日がかりのつもりで予定を組んでいたのにとキースは呆れている。


「俺が現役の頃でも一日に二頭がせいぜいだったんだぜ? 魔猪ってのは群れで行動するし、気性が荒いから一頭を襲ったら仲間も一斉に突進してくるだろ。単独行動の魔猪を見つけるのは相当難しいんだぜ。群れを襲うにしてもコウメイたちは怪我もしてないし、本当にどうやってるのか知りたくなっても当然だろう?」


 ビリーの熱弁を聞き、外部からの自分達はそんな風に見えているのかと納得したコウメイだ。


「どうもこうも、俺達にはウサギ獣人がいるからな」


 隣に座っているアキラの耳を示して見せる。


「アキの耳は獣の足音とかを俺達よりもずっと良く聞き分けられる。単独行動の魔猪を探すのに役に立つんだぜ」


 肉屋達の視線が一斉にアキラに向けられた。ナモルタタルにいる唯一の獣人冒険者のことは噂に聞いていた。アキラの耳が人族と少し違う形をしているので、おそらく獣人の血を引いているとは思っていた。だが見た目は人族とほとんど変わらないので半信半疑だったのだ。


「ウサギ獣人の能力は耳なのか」

「力はなさそうだけど、その耳があれば確かに狩りがしやすくなるな」

「尻尾はあるんですか?」


 ぶはっ!

 ケイトの興味津々の瞳と問いに、コウメイは飲みかけのミント水を噴き出した。


「尻尾……ど、どうだろうね?」

「あると思うか?」


 ゆっくりと隣を覗うコウメイに、冷たい笑顔が返ってきた。

 アキラ=ウサギ獣人説が受け入れられている現状は、甚だ不本意であった。エルフと知れ渡るよりはましだが、無遠慮な冒険者らに「尻尾を見せろよ」と揶揄われることにはうんざりしているのだ。

 そろそろ狩りを再開しましょう、と空気を読んだサツキが腰を上げコズエとヒロもそれに続いた。


   +


 午後からも順調に魔猪を狩り、十五頭目を狩って戻ってきた段階でケイトから待ったがかかった。


「もう十分です!」


 解体に疲れたのもあるが、これ以上は街まで持ち帰れない。


「これ以上の肉は店で保管できなくなるからね」

「保管庫のスペースにも限界がある」


 肉は生ものだ。保管できる環境が整わなくては腐らせてしまう。


「もうちょっと狩りたかったけどなぁ」


 解体と運搬を考えなくていいのだ、狩れる時に狩って稼いでおきたい五人は物足りなさを持て余していた。


「あなた達は魔物狩りにシフトチェンジした方がいいわよ。魔物は討伐部位さえあれば報酬は受け取れるし、人を襲う魔物は討伐し放題なんだからさ」


 肉屋の三人は呆れ気味にそう言った。


「それぞれに四頭は確実として、残り二頭はどう分けようか?」


 森の中で肉の配分方法についての論議が始まりそうだったのを止めて、五人と肉屋三人は大型箱台車を押しながら街に戻ることになった。予定より早い時間だが、これ以上狩る必要はないと依頼主たちが言うのだから問題は無い。

 ヒロの引く箱台車にも一頭分の肉と十五頭分の魔猪の皮が乗せられている。皮は単純計算しても三千ダル位にはなりそうだ。


「予想以上に簡単に魔猪を狩るんだもの、呆れちゃったわ」


 コズエに箱台車押しを手伝ってもらいながらケイトが言った。


「これから先も指名依頼出していいかしら?」

「うちも頼みたいな」

「俺の店も頼みたい」

「あんまり頻繁じゃなきゃいいですよ。それと条件も今回と同じでなら」

「解体と運搬を担当してもらえるなら、私達も助かりますから」


 魔猪の皮は靴やカバンなどの消耗品に使用されるため、過剰に供給されても値が下がりにくい。納品すればするだけ利益になるのだ、肉を運ぶ人手が確保できるならコウメイたちとしてもありがたかった。


「コズエたちは暴牛は狩らないの?」

「暴牛?」


 そういえば森で野生の牛や魔獣の牛を見たことは無かったなとコズエは疑問に思った。


「俺達は森を採取場所にしているだろ。暴牛は東の平原に生息しているから、見たこと無くても当たり前だな」


 魔物図鑑を持っているコウメイは魔獣の主な生息地も把握していた。ナモルタタル周辺なら、暴牛の大半は東の平原に、それと南西の荒地に少しばかり生息している。


「暴牛も群れで行動しているし、平原は身を隠したり逃げ込んだりできる安全地帯は無いだろ。俺らじゃとても手は出せないと思ったから狩る対象には入れてない」


 平原で一頭を狩っても、残る暴牛に追われたら逃げる場所はない。暴牛は魔猪の三倍ほどの大きさだし、一度怒ると大きな角を突き立てて突進してくるのだ。魔猪以上に回避するのは難しい。


「そうなのよ、冒険者がなかなか狩ってくれないから、暴牛の肉はほとんど出回らないの。魔猪よりもずっと美味しいのにね」


 魔猪よりも美味いという言葉と、その味を思い出すようなケイトの表情を見逃すコウメイではなかった。


「魔猪よりも美味いのか?」

「ええ、赤身肉に脂が程よく散っていて、焼くととろけるようだと言うわ」

「……霜降り牛、か」


 コズエとコウメイの顔には「食べたい」と書いてあった。それを見たサツキは仕方なさそうに肩をすくめ、ヒロはこの二人がやる気になったら止められませんよとアキラを見、アキラは目を閉じて眉間を揉んだ。


「ねえ、もしも暴牛を狩ったら教えてね。すぐにギルドに注文入れるから!」


 ケイトはコズエに念を押し、ビリーとキースも俺達にもよろしくなとコウメイの肩を叩いた。



 指名依頼 達成報告

 指名パーティー N629

 報酬 十四頭分の肉代(一万六千八百ダル)

    猪肉一頭分は現物受け取り

    十五頭分の皮はギルドにて買取り(三千ダル)

    クズ魔石は売却せずに現物受け取り

 承認 ナモルタタル冒険者ギルド 副ギルド長 エドナ 



冒険者ギルドのエドナさん。

幹部だと思ってたら、実は副ギルド長でした。

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