表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新しい人生のはじめ方~無特典で異世界転移させられました~  作者: HAL
第1部 created my life

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/197

サガストの町 6

サガストの町 6


 魔法は理の力であり魔力そのもの。

 魔術は魔力と式を組み合わせた技術。

 似ているようで全く違うものだと、ギルド資料室にあったわずかな魔術関係の資料に書かれていた。


「えーと、つまり魔法は生まれ持った魔力だけに頼ってて、魔術は魔力と呪文が必要、ってことか?」

「ざっくり云えばそういうことらしい」


 いつもの狩場で魔猪を屠り、コウメイは通いなれた水場で解体を終えて昼食を作り、アキラはその脇で薬草を分類して束ねていた。


「魔法は魔力のみに頼るので負担が大きい。魔術は魔力を効率よく使うための術式(呪文)のおかげで少ない魔力でもそれなりの事が行える、だそうだ」


 魔術は学問でもあり、師について学ぶ必要がある。魔術を学ぶには魔法使いギルドの運営する学校に通う方法もあるが、魔法使いギルドの置かれた都市は少なく、大陸でも数えるほどしかないらしい。この国にはアレ・テタルとダッタザートいう大都市だけだそうだ。


「どうするんだ、魔術学校に通うか?」

「十歳の子供に交じってか?」

「流石にキツいよな」

「今のところ魔法でも困っていないんだ、魔術については魔力量の上限に達してから考えても良さそうだと思う」


 肉を刺した串の焼き加減を見ながら、コウメイはスパイスと塩をパラパラと振り掛ける。町の食料品店で購入した塩と、アキラが採取したハーブを乾燥させてブレンドしたコウメイこだわりのスパイスだ。これのおかげで塩だけの焼肉よりもずっと風味が増している。


「アキは魔力の節約したいか?」

「現状は困ってない」


 コウメイに差し出された肉の串を受け取りひと口かじったアキラは、魔力を糧に生み出した火の玉を目標の岩に向けて撃ち放った。

 石が炎に包まれる。

 平然と魔法を使うアキラにコウメイは苦笑いするしかない。


「俺の何倍もあるもんなぁ、魔力」


 魔力との親和性が高い種族だけあって、エルフであるアキラの魔力量は相当量あるらしい。狩りで魔法を使う機会も増えたが、アキラの魔力が枯渇することは滅多になかった。


「魔力には方向性があり、反する色の魔力は同時に備わることは無い」


 コウメイは二本目の串肉にかぶりつきながらアキラの魔法講座に付き合っていた。


「簡単に言えば、水と火の両属性魔力を持つ人間はいませんよ、だな?」

「そうだ。人間は、な」


 アキラは眼前に小さな水球を生み出し、焼けた石に向けて放つ。ジュウという音とともに水蒸気の雲が立ち、石を包む炎は消えた。


「幸か不幸か、エルフの魔力は属性に縛られないらしい」


 農村から帰ってきた二人は、ギルドにあるわずかな魔術に関する資料を読みあさり、実証実験を兼ねて森で狩りを繰り返した。


 神殿で洗礼を受けなくても魔力が備わっていれば属性の魔法は使える。魔法は自らの力を燃料に生み出すもので、イメージすることが重要なのだと理解してからはの二人は、片っ端から魔法を使う実験を繰り返した。

 その結果分かったのは、コウメイは水属性の魔法が使えるということと、エルフであるアキラは属性には縛られること無く魔法を使うことができる、という事だ。


「ただ、属性に縛られないとはいっても、向き不向きというか、そういうものはあるんだ」


 今度は宙で風の渦を作り、そこから風刃を焼け焦げた石に向け振り下ろした。カン、カン、カンと風刃が連続して石を叩き、六つ目にして見事に砕いた。


「アキとしては何が苦手なんだ?」

「水と土だな」


 砕けた石の散らばる地面の周囲がポコリ、ポコリと湧くように動いた。


「魔力の消費が一番激しくて、コントロールが難しい」


 一つ、また一つと、盛り上がった地面が石を飲み込んでゆく。焦げ目のついた石の欠片が全て地面に埋まって終わった。


「苦手なようには見えねぇけどなぁ」


 コウメイに比べればとても自然に、余裕で魔法を使っているように見える。


「イメージしにくくて、その分魔力の消費が激しいんだ」


 アキラの場合、火の魔法は魔力を燃料に例えればイメージするのは容易かった。風も呼吸と魔力を混ぜ合わせ、それを吹くイメージで自在に操れる。だが水は魔力の調節ができずちょうどいい水を作り出すことはできなかったし、土も耕したり固めたりといった凡庸なものしか想像できず、戦闘に役に立てることが出来ていない。


「イメージしにくいって、たとえば?」

「そうだな……土の場合だが、俺にとっての土は畑のイメージが強いんだ。だから土を柔らかくしたり穴を掘るのは抵抗なくイメージできる。だけど硬い壁のようなものは”違う”っていう既成概念が崩せなくて作れないんだ」

「石垣とかブロック塀とか分かりやすくねぇか?」


 石を積み上げれば壁になる、それでよくないのかとコウメイが問うのにアキラは首を振った。


「土属性の魔法でも、土と石では違う感じだ。俺の場合は石を動かすのは風で持ち上げるほうが簡単だな。石を魔力で作り出すのも難しくないが、積み重ねるのは……硬い壁を一瞬で作れたら、突進してくる魔猪にぶつけてやれるんだけど」

「ああ、それいいな。あの勢いでぶつかったら自滅してくれそうだ」

「俺が作った土壁じゃ穴を開けられて突破されるな」

「何でアキの『土』ってそんなに軟らかいんだよ?」

「田舎の祖父の畑の土が、ふかふかで軟らかかったんだ」


 中学生の頃、夏休みに過ごした祖父の畑の印象がアキラに強く残っていた。

 操っていた魔力を一旦閉じたアキラは昼食を再開した。少し冷めてしまった肉の串にかじりつく。もう魔法の訓練は終わったと言うので、今度はコウメイが自分の魔法の訓練をはじめた。


 コウメイは水筒の蓋を開け水を捨てる。最後の一滴が落ちたのを確認してから「湧き水」と呟く。すると確かに空だった水筒の口から、細い水の筋が流れて落ち始めた。


「……う、キツイぜ」


 水が流れ出るのと比例するように、内に存在する魔力が減っていくのが分かった。

 魔法がイメージの具現化であると確信したアキラの勧めで様々に試した結果、コウメイの魔力は水の魔法に適性があった。魔力を糧に水を生み出す力。最初は数滴の水で精一杯だったが、訓練を重ねる間に生み出す水の量は大幅に増えている。


「あー、魔力切れだ」


 自分の中にあった魔力を使い切ったと感じた瞬間に、水筒から流れ出る水はぴたりと止まった。肉体的な疲労感とは異なる種類の重怠さに、身体の動きが鈍る。魔力が完全に尽きると、ケガや病気をしていなくても思うように動けなくなるらしかった。


「あたりに魔獣の気配は無いから、安心して倒れていいぞ」


 アキラがそう言うとコウメイはありがたく全身の力を抜いて仰向けに寝転がった。


「魔力を増やすのには、使い切って空っぽにするのが効率いいって分かってるけど、これキツすぎ。まともに動けなくなるし、回復に時間かかるし。実戦で魔力使い切ったら身も守れねぇぞコレ」


 枯渇するまで魔力を使うことで魔力量が増える。それに気づいてからの二人は、交代で魔力を増やす訓練をしてきた。訓練の成果は、数滴の水を生み出すことしかできなかったコウメイの魔力量が、数分間も水を流しっぱなしにできるほどに増えている。


「何リットルの水ができたんだろう。タライかなにかに溜めて水量測ってみたいな」

「宿の洗い場で試したらどうだ? 井戸水を運んでくる手間が省けるんじゃないか?」

「全裸で魔力切れは嫌すぎるっ」

「そこはギリギリのところで止めればいいだろう」

「簡単そうに言うけど、それすげぇ難しいんだぞ」

「コウメイの課題はコントロールか」


 肉を食べ終わったアキラは先日購入したばかりの自動弓に手を伸ばした。今のところ付近に魔物の気配はないが、何かあればすぐに射れるように持っておきたい。


「魔力を使い切るギリギリで止めるのにも慣れは必要だし、水を上手く攻撃に使えるようになってくれると助かるんだが」

「攻撃かぁ。なんかイメージしにくいんだよな、水の攻撃って」


 深夜の通販番組で高水圧洗浄器を見たことはある。あれをイメージして挑戦しているのだが上手く行かない。高水圧洗浄機は汚れを落としはしても、コンクリートは削れない。ましてや動物の毛皮を切り裂くイメージが掴めなかった。結局コウメイの水魔法は、何時でも何処でも水の補給ができる便利な蛇口でとどまっている。


「魔法攻撃はアキに頼りっぱなしだなぁ」


 エルフボーナスの為か魔力量は多く、さらに訓練の成果もあってアキラの魔力量は初期量の数倍にまで増えている。

 動物も魔動物も火を警戒するのは同じだ。最初に覚えた火の魔法を使ってアキが魔動物を威嚇し、隙ができたところをコウメイが屠る作戦で魔猪を効率よく狩り続けた。おかげでアキラの武器も購入できたし、そろそろ二人分の防具を買いそろえるだけの額も貯まる。


「アキの魔法の威力はすげぇんだけど、魔力消費も激しいんじゃないのか?」

「そうでもない。火と風だけなら、それぞれ三発分くらいかな」

「火の壁って、もしかして魔力消費は少ないのか?」


 逃げ出す魔猪を火の壁で囲んで足止めしたり、銀狼の群れから一頭だけを反らせ孤立させるために多用しているアキラの得意な魔法だ。かなりの広範囲に結構な時間の火を燃やしていたから、魔力消費も大きいと思っていたのだが。


「火の壁は熱量をかなり下げているから消費も少ないよ。もちろん触ったら火傷する程度には熱いけど」


 アキラの説明を聞きながらコウメイなりに消費魔力を計算して疑問がわいた。


「いつもの火の壁を三回使ったくらいで尽きる魔力量じゃねぇだろ?」


 どれくらい温存しているのだと尋ねると、三分の一と答えが返ってきた。


「結構余裕なんだな」

「そうでもない。町に帰りつくまでに不意打ちされた時に、確実に敵を仕留められる程度の魔力は残しておきたいから」


 そう言ったアキラの目が一瞬だけ険しくなった。あれを思い出しているのだなとコウメイにもすぐにわかった。

 何事においても余力を残す。あれ以来二人が心がけている事だ。常に警戒は怠らず、あらゆる初見は疑う。


「そろそろ休憩も終わりにしようぜ」


 寝転がって話している間にアキラがいう所の三分の一ほどは魔力が回復した。感じていた身体の重さも消えている。コウメイは起き上がり焚き火を踏んで火を消した。


「残ってる二回分の魔法で銀狼を狩ろう。あれは魔猪肉ほど重くねぇから持ち帰りやすい」

「その前に、これ食べておけ」


 アキラが午前中に採取した薬草の束から、一枚の葉を取り出してコウメイに渡した。魔力回復薬の材料の薬草だ。


「葉だけでも少しは回復効果がある」

「これ不味いんだよなぁ」


 舌に残る青臭い苦みと、鼻の奥に残るツンとした刺激が苦手だ。コウメイは諦めて薬草を口の中に放り込んだ。


「丸飲みは回復が遅いぞ」

「苦いの嫌なんだよ」

「俺だって好きじゃない」


 そう言いながらアキラも薬草を口に入れた。噛み砕いてから水で苦みを流すようにして飲み込む。すぐに内臓に熱を感じはじめると、じわりと魔力が回復するのが実感できる。

 一枚の薬草で回復できる魔力の量はほんのわずかだ。だがその微量の魔力の有無で生死を分ける可能性はゼロではないことを二人は知っていた。


   +++


 銀狼を求めて森を進むが、欲しいときには出会わないものである。森の出口に向かっているところで角ウサギの巣を見つけ、弓の練習に丁度いいと狩ることにした。


「アキが連射して、逃げるのを俺が仕留める」

「連射は命中率が悪いんだけど」

「練習だからいいんだよ。とにかくアキは魔法使わずに弓でどれだけ仕留められるかやってみろって」

「矢は消耗品だってのに……」


 ぶつぶつ言いながらもアキラは矢をセットして狙いを定めた。

 およそ十メートルの距離をあけたところで角ウサギの群れが草を食んでいる。

 コウメイが気配を消しながら回り込むために離れた。


 連射できるのは三射まで。どのウサギをどの順に狙うかを見極めてからアキラは引き金を引いた。

 一射目は狙った頭に命中、二射目は狙いを逸れたが矢が貫いて絶命、三射目はウサギの尻をかすって地面に刺さった。

 一斉に逃げ出す角ウサギをコウメイが追い狩って行く。

 アキラも手早く弓をセットし逃げる角ウサギを射た。


「動く的は難しいな」

「まあまあの命中率だと思うぜ」


 八羽の角ウサギを手早く解体してゆく。矢の当たった場所によっては毛皮としての価値は下がる。アキラはできるだけ頭部を狙ったのだが、動く角ウサギに命中させるのは難しすぎた。

 小さな個体の角ウサギだが、流石に八羽分ともなると結構な荷物になる。先に仕留めた魔猪の肉と皮もあるのだ。二人がかりでも全部持ちきれるかどうか。


「どうする? 肉は捨てる?」

「もったいないけど担げないから仕方ないな」


 異世界でのサバイバル生活も一ヶ月近く立つ。日々の狩りで脚力も腕力も日本にいた頃とは比べ物にならない程に鍛えられているが、それでも限界はある。


「やっぱりマジックバッグが欲しいなぁ」

「前に言ってた魔法のカバンか?」

「そう。ここには存在しないと諦めてたけど、アキが魔法を使えるんだからマジックバッグも存在すると思うんだよ」


 魔法があるなら魔法のバッグだって存在するに違いない。問題は何処で入手できるのか、だ。


「ギルドで入手方法を聞いてみれば分かるかもしれないけど、あんまり気が進まねぇんだよな」


 町にはマジックバッグを所有していそうな冒険者は見当たらない。稀少な魔法のカバンだから所有を隠している可能性は高いだろう。コウメイが思いついた理論を根拠にギルド職員に尋ねるのも危険だ。


 二人は自分たちが魔法を使えることを大っぴらにしていない。サガストを拠点に活動している冒険者の中に、魔法使いやそれに準じた力を持つ冒険者がいないからだ。薪に火をつけたり、器に水を溜めたり、薬草を引き抜きやすくしたり、音を離れた場所まで響かせるといった生活を便利にする程度の魔法を使える者はチラホラといるようだが、魔物にダメージを与えられるレベルの魔法を使える冒険者は皆無だ。もしも二人が攻撃手段として有効な魔法が使えることが知られてしまえば、エルフであるアキラの存在も含め、色々と面倒なことになるとしか思えなかった。


「仕方ねぇ、頑張って担いで帰るか」



試行錯誤して魔法を習得しました。

魔術を習得するのはまだまだ先の話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ