日が沈む前に
ご覧いただきありがとうございます!
おはようございます!
目覚めはすっきりです。何というか、目覚めた瞬間に眠気は何処かへ飛んでいきました。
今日は大切な戦いがありますから、だからこそいつも通りをこなさなければです。
ランニングをして、ログインしましょう!
そのためにジャージに着替えて、スマホを手に取ります。いつも通りユアストの通知を開きます。
Your Story -ミツキ-
89ページ目
縁を結んだ存在は、貴方の事を見守っています。
それらは貴方の力と、支えとなるでしょう。
人も、概念も、人の姿を持たぬ者も……貴方と共に歩んできました。貴方の歩んだ道が、貴方の物語になります。
師や友へ会いに行きました。
師から授かった言の葉、友と紡いできた絆は素晴らしいものです。
困難を乗り越え、頁を刻みましょう。
お疲れ様でした。
「……わたしの物語、か」
ユアストの大事な所だと思います。
わたしの物語は、わたしが紡ぐのです。
後悔のないよう、やりたいことはやれるうちにやらねばです。
あの時ああすればよかったと思うことは簡単ですが、その時には戻れませんからね。
ちゃんと考えて、進まねばなりません。
……それは良い教訓になります。今のわたしのことをちゃんと考えようと、改めて思いました。これから終夜満月が歩む人生、何をしたいのか……どう進みたいのか。
ユアストは、いろいろと考えさせてくれます。
だからこそ本気で、ゲームのことを考えられます!
よし、ランニング行ってきます!
「おは」
「おはよう」
「一緒に行くわ」
玄関で靴紐を結んでいた兄がそう言うので、頷き返しました。よし、準備完了です。
兄とともに、見慣れた道を自分のペースで走ります。
「朝は涼しくて良いよなぁ」
「日差しは結構あったかいけどね」
「せやな」
ポンポンと短い会話をしながら、近場にある神社までやってきました。兄と一緒に、静かに手を合わせます。
……後悔のない選択ができますように。
勝てますように、とは祈りません。
勝ちますからね!
「……めっちゃニヤけてるぞ」
「えっはずかし」
無意識に笑みを浮かべていたようです。
頬を軽く揉んで表情筋をマッサージします。
そしてまた走り出しました。
「ただいまー。腹減ったわ」
「ただいま。お腹すいたね」
帰宅しました。いい運動でした!
一息つくと、空腹感を自覚しました。
「おかえりなさい。母さんはもう行くから後はよろしくね」
「宙、これ」
「あら、ありがとう」
「二人の分の朝食は並べてあるから」
「お父さんありがとう。お母さんは、いってらっしゃい」
リビングから支度を終えた母が迎えてくれました。その後を追ってエプロンを着けた父が弁当箱を片手に顔を覗かせました。母は仕事がありますからね。母を見送って兄と一緒に朝食をとります。
ニュースを見ながら口を動かしていると、スマホの通知の音が鳴り響きました。
行儀が良くないですが……ちらっと確認すると、花ちゃんからおはようのスタンプと、もうすぐログインするというメッセージでした。
同じようにスタンプを返して、わたしももうすぐログインする事を伝えて、最後の一口を口に運びます。
「ごちそうさまでした!」
「お粗末さま」
「お昼はわたしとお兄ちゃんで作るからね」
「おう、父さんはゆっくり待っててくれよな」
「おや、ありがとう」
食器を洗って部屋へ戻ります。
よし、ログインして準備するとしましょう。
ログインしました!
ディアデムを喚び出して、ラクリマやアルフレッドさん、アストラエアさん、ウィローさんを喚び出します。
「おはようございます、みなさん」
『おはよ!』
「おはようございます、ミツキ様」
「ラクリマとアストラエアさんはわたしと共に戦ってもらうので、アルフレッドさんとウィローさんはホームをよろしくお願いします」
「承知しました」
「まずは食事にしましょう!」
わたしの言葉を聞いて、アルフレッドさんが姿を消しました。ウィローさんはゆっくりと頷き、アストラエアさんは強気な笑みを浮かべました。
「あたしに任せな」
『ラクリマも頑張るね』
「頼りにしてます」
皆を連れて部屋を出ると、ソファにミカゲさんとジアちゃん、リーフくん、ソウくんがいました。
レンさんはソファ近くの壁際で背を預けて立っています。みなさん早いですねぇ。
「おはようございます」
「おはようですわ!」
「おはようミツキ」
「おはようございます」
「おはようございますっす」
各々から返ってきた返事に挨拶を返しつつ、ソファに座ります。あ、クロックムッシュがあるのでアイテムボックスから出します。
アルフレッドさんがキッチンで動く気配がありますが、先に小腹を満たしておきましょう。
「もし満腹度に余裕があればどうぞ」
「わはー!ありがとうございます!」
アイテムボックスの中は時間が止まっていますからね。まるで出来たてのような温かさです。
美味しい……クロックムッシュを味わっていると、アルフレッドさんが小鉢のような小さな皿でお肉やサラダなどを持ってきました。わ、食べやすい量ですね。
「タルトは今お召し上がりになりますか」
「ふむむ……そうですね。いただいても良いですか」
「お待ちくださいませ」
今のうちに食べておきましょうか。
なかなか人前に出せるタルトではありませんし、食べたら戦闘不能になることだけ避けてもらって……
「まじうま……」
「チーズとハムも組み合わせ最強よね」
「ウマー」
ログインしてきたのか、父がソファに座り兄はクロックムッシュを上からさらっていきました。
まあ数ありますからいいですけどね。マレフィックさんにはまた別で用意しましたから。
「まあクエスト始まる前にもう少し腹に入れておきたいけどな」
「それはちゃんと料理人クランの人たちが作っていると思うよ」
「拠点のオアシスで準備始めたって連絡ありましたぞ。一度顔を出して、声かけしておきたいですな」
ミカゲさんの言葉に頷きます。
メンバーとして顔出さねばなりませんね。
「わたし行ってきますので、みんなは好きに過ごしていてください。何かあれば連絡入れますので」
「ボクはついていきますわ!」
「あんま大人数で行ってもアレだしな……ミカゲちゃんに任せておくわ」
「何があるかわからないから、僕が一緒に行くよ」
「サクヤさんが一緒なら安心ね」
父がついてきてくれるようです。
安心だと頷いたジアちゃんの言葉にリーフくんやソウくんも頷きました。
そしてアルフレッドさんがわたし達の前にそれぞれプラムのタルトを置きます。
「ありがとうございます」
「シナモンを使用しておりますので、苦手な方はシナモンを使用していないタルトをご用意しておりますが……」
アルフレッドさんの問いかけに皆が首を横に振りました。大丈夫そうですね。アルフレッドさんは笑みを浮かべて下がりました。
つやつやのプラム、サクサクのタルト。
甘さ控えめのクリームが良いアクセントです。
「んんんん美味しい!」
「うっま」
「美味しすぎますわ……」
美味しくて、蘇生バフもついて、一石二鳥です。大満足です!
「美味しいタルトですね……」
「そのタルト一つ……ごにょごにょ」
「!?」
リーフくんから何かを聞いたソウくんがタルトを二度見したあと、恐ろしいものをみたような表情を浮かべてこちらを向きました。
そ、そんな表情で見られても……そっと視線を逸らします。
母の分は父に持ってもらうとして、マレフィックさんにもタルトをお渡ししましょう。
マレフィックさんには蘇生のバフはつかなそうですけどね。ラクリマや星座たち、わたしが召喚した存在はわたしが倒れたら還されてしまいますからね。
「……とりあえずクエスト開始までは、戦闘不能に気を付けつつ自由に過ごしましょう。近い時間になったら拠点で合流しましょう」
わたしの言葉に、タルトを手に皆が頷きました。
タルト片手なのが少しシュールで面白かったですね。
みんな食べ終えたようなので、祭壇と世界樹の元へ向かいます。
アルフレッドさんが盆に食前酒のような小さなグラスとタルトを、祭壇の数用意していました。それらを皆で祭壇へ供えます。
行ってまいります。
どうか、お見守りください。
手を合わせて、心の中で呟きます。
わたしが持つ力を使って、クエストに臨みます。
顔を上げると、爽やかな風が頬を撫でました。
きっと見ていてくださってるはずです。
たくさん言葉をいただきましたから、わたしはもう一度礼をして、祭壇に背を向けました。
◆◆◆
愛し子とその仲間達が世界樹の元へ移動したのを見て、宇宙は祭壇へと降り立った。
本音を言うとずっと祭壇の元へ陣取っていたいが、システムに怒られるため自重している。
『……とはいえ、供物の礼くらいはしても良いじゃろ』
『……ちょっと、何考えてるの宇宙』
『ふん、供物に対する返礼じゃ。それくらいなら許されるであろ』
『ふうん』
タルトを口に運びながら胡乱な目を向けてくる破壊に倣って、宇宙もタルトへと齧り付く。一口一口、味わうようにゆっくりと。
『我の全てを持って、愛し子を支援するのじゃ』
唇を舐めて妖艶な笑みを浮かべる宇宙に、破壊は溜息をついた。太陽も月も、死も海も……そして自身も彼女たちに目を掛けているから何も言わないが。
自身も、あの執行者と星詠みの娘を気にかけていて、その動向を見守っている。
とは言え……自信満々な宇宙の言動は少々癪に障る。誰もが表立って、民や渡り人に肩入れは出来ないのだから。
『……ねえ、唇の端にクリームついてるよ』
『なんと!?』
◆◆◆
世界樹の元へ向かうと、皆で来たからかいつもよりわさわさ大きく動いてます。
『祝福をくれるって』
世界樹を見る前にラクリマが呟きました。
その言葉のあと、世界樹の枝が頭上を素通りしました。
-世界樹の祝福を獲得しました-
プレアデスの《枝》
世界樹から浮島プレアデスへと伸びる枝
《枝》:きみたちに祝福を いってらっしゃい!
「ありがとうね、世界樹」
『君たちに祝福を、いってらっしゃい。だって!』
世界樹にタルトを供えると、皆がお礼を言いながら世界樹の幹を撫でました。
幸運値が上がりますからね、今日はいい動きができそうです。
「では拠点に行ってきます」
「行ってきますですわ!」
「すぐ動けるようにはしとくから、何かあれば」
「……すぐに連絡を入れろよ」
「わかりました」
ラクリマとアストラエアさんは一旦還しましょう。人が多いかもしれませんからね。
皆に見送られながら、ミカゲさんと父と共に拠点へと移動しました。
「わあ」
想定通りです。拠点は多くのプレイヤーで賑わっていました。むしろ多すぎて動きづらいですね!
父の腕とミカゲさんの腕を掴みます。
「思っていたより、マジで人が多いですわー」
「結構集まったようだね」
「とりあえず前にアデラさんがいた建物の所に、どうにかして行きましょう」
「あいあい」
人混みを通り抜けながらどうにかアデラさんと話した建物へとたどり着きました。
どっと疲れた気がしますね……
「……お、ステラアークさんね。入っても大丈夫ですよ」
入り口に立っていたプレイヤーが、わたしたちを見て扉を開けました。なるほど、立ち入り制限中なのですね。
会釈をして足を踏み入れると、参加クランのメンバーが数人いました。
「おはようございます」
「おはようございます、ステラアークの皆さん。あ、ミツキさん情報ありがとうございました」
「いえいえ、まとめとか助かりました」
わたしの言葉にアデラさんが振り返りました。
アデラさんと一緒に話していたアヴァロンの嵐スロットさんと、彼岸花のアケミさんが振り返り片手を上げました。
「本日はよろしくお願いしますね」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
「アデラ氏、プレイヤーどれくらい集まりました?」
「大体1100人くらいは集まりましたよ。それらを踏まえて、血の気の多いプレイヤーは前線に、安定した実力を持つプレイヤーは中間に配置しようかと話し合っていました」
壁に貼られた地図には色々と書き込まれています。
おそらく帝国軍が布陣するのは真ん中あたりと仮定して、その左右をプレイヤーが担います。
……アデラさん曰く血の気が多く言う事を聞かないプレイヤーは前線で悪魔たちとの戦闘に専念してもらい、ヒーラーや付与術師たちはグループ分けをして様々な場所へと散ってもらうとのことです。
「彼岸花は前線、アヴァロンは前線と中間で戦線維持を担いましょう。ステラアークの皆さんはどうしましょうか」
嵐スロットさんの言葉に、地図を見上げます。
ふむむ……みんなでまとまる必要性はありませんからね。
「わたしたちは少数ですし、遊撃として個々で動くと思います」
「そうですなー。一人は確実に前線に突っ込みますし……ボクらは個々のが動きやすいですわ」
ちらりと父を見上げると、わたしと目が合った父は小さく頷きました。父は母と行動を共にするでしょうし、二人は二人で戦うと強いですから。
「わたしは広範囲の魔法が使えるので、真ん中あたりにいますかね」
「さすがにフレンドリーファイアはないはずですなー。クエスト参加資格があるプレイヤーやNPCにはまあ、衝撃の余波くらいっすわ」
「余波はあるんだ……」
アケミさんが呟きました。
ほ、他のプレイヤーの攻撃の爆風とか届きますからね……!
わたしもモンスターに落ちた流星や隕石の爆風は感じましたし……プレイヤーには当たらないはず、です!
「まあマレフィックくんにちゃんと守ってもらうんだよ」
「そうですわー。こき使ってほしいですわー」
「はは……マレフィックさんは前線まで行くんじゃないですかね」
「それだとミツキ氏も前線に連れて行かれそうですな……」
「!」
……た、確かに!その可能性はあります!
マレフィックさん、悪魔と戦うのを楽しみにしてらっしゃるので……!
「モンスターの出現具合で変化はあると思いますので、適宜対応ですね」
「そうですね……なるべく、帝国の兵士さん達を気にかけたいので、そこもよろしくお願いします」
「敗北条件にあるからね。僕も気に掛けるよ」
「辻ヒールされたくないプレイヤーはあらかじめ把握しているので、片腕に赤い布を巻かせています」
「そこまでしてヒール受けたくないの、本当に笑いますわ」
なるほどそういうプレイヤーがいるんですね……
HPが減ると攻撃が上がるとか、そういうタイプですかね??
「……ただ恐らく、クエストのカウントダウンが無さそうなので、日の入り前には戦場にいなければなりません。帝国軍が布陣したら、アナウンスをします」
「今の時期だと大体日が沈むのは十九時近くになりますよね」
「リアルでも割と明るいですからなー。夜の戦闘に備えないとです」
「……乱戦必須だわ」
「悪魔達は、夜間の戦闘は十八番みたいなものだろうね」
父の言葉に皆頷きました。
モンスターは夜活発になりますよね……
【夜目】や【暗視】がないと夜間の戦闘は難しそうです。月明かりもほぼないですから、明るさには期待できません。
「なので、そのあたりの時間までには拠点付近に集合するよう、クラメンにお伝えください」
「わかりました」
「アーサーは午後にはログインするようなので、また午後に」
「ウチもマスターはその内ログインすると思うけど、声かけとか大変だから戦闘前に会えたらでいいと思うよ」
嵐スロットさんとアケミさんの言葉に頷き返しました。みなさんいろいろとありますもんね。
では午後に、ですね。
お師匠様や帝王様とはいろいろとお話できましたし、大事な戦いの前に時間を取ってもらうのも悪いので……戦闘が始まる前にご挨拶が出来たらお伺いしましょう。
「何かやることがあれば言ってくださいね」
「その時には連絡を入れます」
「ではまた午後に」
アデラさんたちに別れを告げて建物から出ます。
相変わらず人で溢れているので、一旦ホームへと戻りました。
「ひとまず解散しましょう。午後まで時間を有意義に使いたいですが……MPを減らすのもな……という感情もあります」
「わかりますわ……」
島に配置している星座を還して、島の護衛を任せられる星座を思い浮かべます。
何もないとは思いますが、念の為、です。
ふむむ、ケンタウルス座、おとめ座、うお座、うみへび座、くじら座を配置しましょう。
「……コーディネーショントレーニングでもしようかな」
「ふむ、いいね。僕も体を動かそうか」
「ボクも一緒に良いですか?入念に体を動かしておきたいですね!」
ぽつりと呟いた言葉に、二人が反応しました。
クランのメッセージチャットに日の入り前には拠点に集合すること、島で体を動かしている事を書き込むと、みんなホームに集まりました。
ラクリマとアストラエアさんも喚び出します。一緒に体を動かしたいと思いまして。
「お、なら俺が相手してやるよ」
「「ぼくらも手伝うよー?」」
ケンタウルスさんとアルフェルグが体を動かすのを手伝ってくれるとのことで、開けた場所で体を動かしているとそれなりに時間が経過していきました。
合間にリアルで昼食を済ませ、スピカさんが育てた野菜を使って作られた軽食をいただきつつ、空の色が淡くオレンジに染まり始めたのでそれぞれ体を動かすのをやめました。
途中からアルファルドやケートスも攻撃担当として混ざってきたので、必死に攻撃を避けましたけどね!
いい感じに体を動かせました。
「でも一旦ログアウトしておかないとな。戦闘中だとログアウト出来ないし」
「そうですな。現実のボクのお腹に少し食べ物入れてきますわー」
兄の言葉にミカゲさんが続きました。
そうですね、このあと戦闘が始まると容易にログアウトできませんから、長時間のログインにならないように少し休憩しましょう。
「三十分程度休憩をして、拠点に向かいましょうか」
みんなが頷き、次々と姿を消しました。余裕を持ってクエストに臨まなければです。
わたしも一旦ログアウトしました。
よし、次の話からタイトルが『レダン帝国防衛戦』になりますからね!
……アーツお披露目大合戦とかになりそうな気もしますけどね。がんばります!
これからもミツキの物語をよろしくお願いします!




