イベント前日③
ご覧いただきありがとうございます!
帝都レガリアの冒険者ギルドへと駆け込みました。
素材集めて満足しちゃってました……!
危ないところでした。依頼の列に並び、ギルドカードを出します。
よし、しっかり依頼達成できました。
カマル草、魔力神草、ヤドリギの種の採集依頼を達成できましたので、採集依頼はランクアップまであと七つになりました。
素材を集めたら自動で依頼完了になる、という感じはあったら便利ですが、きっと報告するまでの行動が大切なのでしょう。
「ミツキ様、この後少々お時間ございますか?」
「は、はい」
「ミーティアより、報告のためのお時間いただきたいとの伝言がありまして……」
「ミーティアさんが」
渡りに船ですね。了承の意を伝えると、相談室へと案内されました。
少し待つと、ノックの音が響いてミーティアさんが入ってきました。心なしかお疲れのように見えますね。
「ミツキ様、お時間いただきありがとうございます」
「いえ、こちらこそです」
「渡り人側の近況も聞いておきたかったですからね……」
「もしわたしがレガリアのギルドに来なかったらどうしていたんですか?」
「そこはルクレシアのラディアナ、クリスティアのアレンに共有していましたからね。そこから伝わったでしょう」
なるほどです。
わたしがよく出入りするギルドはクリスティアかルクレシアですからね。
アデラさんから聞いた情報を簡単にミーティアさんと共有します。
ミーティアさんからも、冒険者側の動きや配置を教えていただきました。
「……ありがとうございます。しっかりと準備をされているようですね」
「わたし達もどうにか力になりたいですから」
「助かります、ありがとうございます。当日は帝都の守りにエトワール様の助力が得られるので、より細部に冒険者や帝国兵を配置することができます。なのでミツキ様たちは背後を気にせず、悪魔を倒してくださるようお願い申し上げますね」
「はい。お任せください」
「戦場には伝令用の冒険者を立たせる予定ですので、それは明日紹介させてもらいます。本日はゆっくりと休まれるよう」
「明日に備えて、ですね」
わたしの言葉にミーティアさんが頷きます。
万全の体制で臨めることがベストですからね。
「共に脅威に立ち向かいましょう」
「はい、守りたいものを……守るために」
お互いにしっかりと頷き合って、わたしはギルドを後にしました。
帝都を歩きながら考えます。
明日の夕方まで時間はたくさんありますが、それまで何をして過ごしましょう。
……今日はマレフィックさん用の料理でも作りましょうかね。喚び出した時にまず腹ごしらえできるよう、食べやすく美味しいものを。
よし、そうと決まれば帝都で買い物をして戻りましょう。前回はお肉料理でしたし、今回は味付けを変えましょうか。まだアイテムボックスにマーレで買った海鮮もありますし……
今あるものと覚えているレシピを思い浮かべながら、必要なものを買ってホームへ戻りました。
空は夕焼け色に染まっています。
一旦ログアウトして、夜に作りましょう。
「テストお疲れっしたー」
「うおう」
夕食を食べ終えて、お茶を飲んで一息ついていたわたしの前に、兄が小皿を置きました。
そこにはマカロンが数個置かれていました。
「え、食べていいの?」
「いいほ。むぐ、うま」
「食べてる……」
「帰り道に買ってきたやつだから。久しぶりに食べるとこんなに小さかったかと思うけど美味いわ」
口に運んだマカロンから、ベリーの風味が広がりました。可愛らしくて美味しい。素晴らしいです。
「……ま、安心したわ」
「もしかして緊張してると思った?」
「おう」
「してたけど……お師匠様とヴァイスさんから有り難い言葉をもらったし、ミカゲさんと花ちゃんからも色々聞けたから。どうにかやるだけだよ」
「……いいじゃん。俺も明日はトニトルスと戦場かき乱してやるから安心しろよ」
「注目集めちゃうね」
「だとしても一瞬だろ。モンスターに集中するだろうからな。見せておくなら戦場のがプレイヤーに埋もれて紛れやすい」
木の葉を隠すならってヤツ。と笑う兄を見つめます。
ふむむ、天体魔法は発動時上空に魔法陣が展開されますからね……目立つのは目立ちます。
ずっとではないですし、成長した今は数秒間だけ表示される程度ですけども。
「……わたしはこっそりと後ろの方から魔法使おっと」
「こっそりとは無理だろ。マレフィックさんに連れられてド真ん中にいるに一票」
「私も叫びながら戦場を走る満月が見えるわねぇ」
「否定できないね……」
マカロンを持った両親が反対側に座りました。
両親はきっと二人でモンスターをボコボコにしてそうなので、心配してないです。
「マレフィックさんに守ってもらわないと……」
「結構強くなったでしょう満月。強気よ強気」
「強気ではどうにもならない時があるでしょ……お母さんがモンスター減らしてくれてもいいんだよ……」
「……あら、なら言葉に甘えて伸び伸びとやらせてもらうわね」
笑みを浮かべる母に鳥肌が立ちました。
あっこれはモンスターご愁傷さまというやつです。
兄が視界の端で手を合わせました。
「……お父さん、ストッパーよろしくね」
「止まるかなぁ……まあ離れたところで戦うよ」
「守るより倒す方が早いわよね」
「んーー、まあソウダネ」
兄が頬杖つきながら返事をしてマカロンを口に運びました。母は大丈夫そうです。
わたしもマカロンを食べます。おいし……
「そういえば、昼間ログインした時ホームでアルフレッドさんが何か作ってたけど」
「ああ、プラムのタルトをお願いしたんだ」
「……噂のタルト……ドーピングするんか……」
「蘇生!蘇生バフ!」
立派なバフです!美味しくてすごい!
盛れるものは盛りましょう!
「まあ何にせよ、明日は大切な戦いがあるんだものね。今日はゆっくりと休むのよ」
「休むのは良いパフォーマンスに繋がるからね」
「はーい」
「ういっす」
両親の言葉に頷いて、部屋に戻ります。
それからお風呂をすませて、ユアストにログインしました。
「あ、ミツキさんどもです」
「こんばんは」
「こんばんは二人とも」
「もしよかったら武器の手入れさせてもらいたいっす」
ソファでは眉間にシワを寄せながらリーフくんがソウくんの銃剣の剣の部分を磨いており、それをソウくんが苦笑しながら見つめていました。
ジアちゃんが言っていましたもんね。アイテムボックスからアストラル・ワンドと瑠璃の短剣を取り出して、テーブルの上に布を敷いて並べます。
「……僕もみていいですか?」
「いいよ。わたしはキッチンにいるからね」
なかなか他の人の武器を見る機会もありませんからね。見られて困るものではありませんし、むしろすごい武器なので見てもらいたいですね。
ポンチョを外して腕まくりをしながら冷蔵庫を見つめます。ふむむ……キラーフィッシュの塩焼き、香草焼き、バシルで味付け……?
お肉はスパイスを使ってほんのりカレーっぽい風味でカリッと焼き上げたり……?
スープはあっさり系がバランス良いかもです。んんんコンソメスープ、美味しいんですよね。
よしポトフなら野菜も取れますし、ポトフにしましょう。
……全然食べやすくないですね!
すぐに食べられるようにクロックムッシュも作りましょう。クロックムッシュ、作ってみたかったのです!
バターも牛乳もありますし、ホワイトソースは頑張って作れるはずです。
クロックムッシュをマダムにしても良いですよね。
ホワイトソースを作るためにバターを溶かしていると、ソファから視線を感じました。
ちらっと見上げると、バッと視線が逸らされました。
……わかりますよ。キッチンで何かを作っているのを見ると、つい見ちゃいますよね。
クロックムッシュの作り方を調べた時に、モンテクリストサンドイッチの作り方も出てきたんでした。
あれはフレンチトーストでハムとチーズを挟むタイプのクロックムッシュ亜種……!
どうにか腕を酷使してホワイトソースを作り上げたので、グリルを使います。じっと見つめて、焦げる前にどうにか取り出しました。
見た目はクロックムッシュ……バツ印に四等分にして、小さな四つのクロックムッシュが出来上がりました。
「…………リーフくん、ソウくん」
「「ッ!」」
「そんな驚かなくても……味見とかどう?」
クロックムッシュを見せると、二人ともおっかなびっくり近寄ってきました。
とりあえず味見味見……とろりと溶けたチーズと焼いた事で香ばしく香るホワイトソース、ハム……カリッと焼けた食パン……おいしい……
「……うま」
「……美味しい」
「ありがと」
「……!あ、あざした!」
「ありがとうございます」
無意識に漏れ出た美味しいの言葉は、何よりも美味しいを伝えてくれますからね。
味は大丈夫そうなのでクロックムッシュを量産しましょう。慣れれば他の料理も作れそうですし。
「……あの、ミツキさん」
「はーい?」
「どうにか手入れしてみました。ミツキさんの杖は元々世界樹を使っているので修復力は高いみたいっす。短剣は磨きました」
「わ、ありがとうね!」
「いえ……明日、俺も頑張るんで」
「僕も、やります」
真剣に、でもどこか緊張した様子のリーフくんが拳を握りました。続くように、ソウくんもリーフくんから受け取った銃剣を握りしめて頷きました。
……あぁ、なるほど。緊張って目に見えますね。それは心配される訳です。
「……わたしも緊張していたんだけどね、お師匠様たちにやりたいように、好きにやれば良いって言ってもらえたんだよ」
「好きに、ですか?」
「お師匠様たちはいつも、渡り人であるわたしたちが責任を感じすぎないように言葉をくれる。だからわたしはお師匠様たちの力になりたいんだ。……ヴァイスさんがね、前を向けばその隣や後ろには、友がいるだろうって。みんな同じ方向を向いているから」
リーフくんとソウくんが目を丸くしました。
わたしは笑みを浮かべて、頷きます。
「わたしはみんなが思い浮かんだから、緊張なんてどこかへ行ったよ。わたしがピンチになったら助けてほしいけどね」
「……十分強いと思うっすけどね」
「僕も思います」
「魔法が使えないわたしは非力だけどね!近寄られたらアウトだからね!本当に!助けてほしいね!?」
必死に訴えていると、二人が顔を見合わせて笑いました。魔法使いは近寄られたらピンチですからね!?
みんなみたいに動けませんから!!
「……僕のピンチの時にも助けてくださいね」
「俺も助けてほしいっす」
「お互いに助け合えば問題ないってことだね!?」
「……もしミツキさんがピンチの時には銃撃で隙を作るので、どうにか逃げてください」
「俺も斧を投げておきます。当たらなかったらすいません」
「なんか雑だね!?当てて!?」
わたしが必死に訴えれば訴えるほど雑に返ってきます。むむ……でもどうにか力は抜けた気がするので、良しとしましょう。
「明日に備えて、今日はゆっくり休もうね」
「はいっす」
「了解です」
わたしもクロックムッシュを作り終えたら、ゆっくりと休もうと思います。みんなが忙しくどこかへ行っているみたいですからね。
それなりの数のクロックムッシュを作り終え、片付けも済ませて外に出ます。
んー、空気が美味しいです。
見上げた星空は、変わらず美しく輝いています。
いろいろな人に助けられ、見守られ、わたしはここまでやってこれました。
明日は、わたしが……わたしたちが大切な人たちのために力を使うときです。全力で挑みたいと思います。
大きく深呼吸をして、じっと星を見つめると星の瞬きが増えた気がしました。
……コスモス様ですかね?それとも星座たち?
よし、とりあえず休みましょう。
みんなにはまた明日会えますからね。
わたしは部屋に戻ってログアウトしました。
テストを終えたからか安心感もあり睡魔に襲われています。良いパフォーマンスのため、寝るとします。
明日はきっと、忙しく……なるはずです。
……おやすみなさい。
この物語はミツキがプレイヤー、NPCと縁を結び、用意された選択肢が無いからこそどのような物語を紡いでいくのかへ焦点を当ててますので、少々展開が亀です。
主人公が最強ではありませんし、特殊な技能を持っているわけでもないですが、だからこそいろいろな体験を心から楽しみ、悲しみ、乗り越えていけると考えています。
などと語らせていただきましたが何を伝えたいかと申しますと、いつもミツキを応援いただき、物語をご覧いただきありがとうございます!です!
皆様からいただく感想、現在返せておりませんがとても励みになっております。いつもありがとうございます!
これからもミツキの物語をよろしくお願いします!




