黒ウサギの侵入者
ご覧いただきありがとうございます!
……最近みた覚えのある黒ウサギがぶら下がっています。……吊り下げられている……?
「……あー、見覚えあんなあ」
「なんか助けを求めてませんか?」
「ミツキ氏達から聞いた特徴のあるヤツだなーと思っていましたが、ドンピシャです?」
「ドンピシャですね……」
世界樹へ視線を向けると、吊り下げられているムーンバニーごと枝葉が揺れました。
「ヒョワアアア!」
プレアデスの《枝》
世界樹から浮島プレアデスへと伸びる枝
《枝》:侵入者だと思って捕まえたんだけど、知り合い?
「う、うーん、知り合いだけど、侵入者にも間違いないと言うか」
「ヒドいではぁぁないですかぁぁーー!確かに勝手に島に入ったのは悪いですがぁぁーー!」
「侵入するのは悪いわよね」
「そりゃ捕まるっす」
ジアちゃんとリーフくんの言葉に頷きます。
ムーンバニーが、何故ここに……
「なんでここにいるんですかー!」
「おろしては貰えませんかぁぁぁ!」
「侵入者には違いないのでー!」
「うおおおおん!手助けに来たんですよぉぉ!」
「「「手助け?」」」
わたしたちの言葉が重なりました。
助けてもらうこと、ありましたかね?
「ルーナ様をッ!祀るための祭壇の材料、出来上がりましたでしょうぅぅ?」
「あ、ソファと絨毯」
「それらをご覧になったルーナ様がぁぁ落ち着かれずぅぅ!」
「……世界樹、揺らすのやめてあげて」
プレアデスの《枝》
世界樹から浮島プレアデスへと伸びる枝
《枝》:はーいしょうがないなあ
先程から話すたびに世界樹が揺らしていたので、止めます。会話がしづらいので!でも気持ちはわかります。
「はひぃ……視界が揺れるう……」
「ルーナ様のご様子が落ち着かれないとは?」
「そりゃ遠足前の子供みたいなのですよ。ワクワクされてらっしゃるのです」
「ワクワク」
「なので早急にルーナ様の祭壇を用意させないと、今宵の月が必要以上に明るくなってしまいます。そのため、手伝いに来ました。ルーナ様の好みとか知ってますよ私」
……ムーンバニーの話を整理すると、ルーナ様は祭壇をとても楽しみにお待ちいただいていて、ワクワクされて夜月が明るくなってしまう可能性が高いので、ムーンバニーが祭壇やお迎えの準備を手伝いにきた。ということ、ですね?
「…………」
「眷属が手伝っていいんか……?」
「……この状況も見られているのでは?」
「今ルーナ様は笑っておられますよ……」
「随分と愉快なウサギですな?」
「うーん、危害が無いなら私達は特に反対とかはないわね」
「…………一体何が起こってンだ」
その声に振り向くと、眉間にシワを寄せたレンさんと、苦笑する両親がいました。
「ルーナ様のお迎えの準備を、その眷属が手伝いに来ましたが……不法侵入者なので世界樹が捕らえました」
「まあ……」
「世界樹はさすがだねぇ」
「……」
「……とりあえず、世界樹、下ろしてあげて」
わたしの言葉に渋々とムーンバニーを地面へと下ろしてくれました。少し高いところから地面へ落としましたね……
世界樹にクッキーを供えつつ、立ち上がったムーンバニーを見つめます。
「エライ目にあった……手伝いにきただけですのに」
「せめて一言」
「言えませんよ……プライド高いんですからぁッ!?」
ムーンバニーの頭にレモンがすっ飛んできて直撃しました。……ルーナ様、どこからレモンを。
「コントロールはいいんですから、我が主は……」
「と、とりあえず手伝いに来たなら手伝ってもらうけど、いいの?」
「良いんですよ。さっと祭壇を作って差し上げてください」
「なんかドライなウサギだな」
「眷属なんですよね??」
「然り!私はルーナ様の眷属であるムーンバニーでございます!」
短い手を腰に当てて胸を張ったムーンバニー。
本当にゆるキャラのような、マスコットですね。
まあレベルが見えませんけれども!
「……じゃあ、料理チームと、ガーデンの神殿ガゼボのお掃除チームに別れましょう。アルフレッドさん達を喚びます」
「ソウくんの歓迎会も兼ねたいからなー。ミツキは総監督で、サラッとソウくんの案内をして来たら料理とガゼボの様子を見に来いよ」
「料理は私とサクヤ、リューとアルフレッドさんがメインで頑張るわ」
「レン氏とリーフ氏は力仕事担当、ハイドレンジア氏とボクはとりあえずガゼボの掃除をやってみましょうか」
「ええ、そうしましょう」
「ソウくん、歓迎される側だけど、もしよかったらお供え用で和菓子とか作れる?」
「はい。材料はありますので、お任せください」
よし、役割分担は完了です。
アルフレッドさん達を喚び出して、料理や庭の手入れ、力仕事をお願いしました。
「ムーンバニーは料理の手伝いで、ルーナ様の好みを教えて欲しい」
「勿論、私にお任せあれ」
華麗に礼をしたムーンバニーは、母達の後を付いて行きました。
ミカゲさん達も、ウィローさんとガーデンの方向へと向かいました。
「……ソウくん、言うのが大変遅くなったけどね。この島は空に浮いている浮島で、島の名前はプレアデス。そしてこちらが世界樹の《枝》」
「…………浮島、ですか?それに、立派な大木ですが枝なんですか?」
「ふふ、浮いているんだよ……後で崖の方気を付けて見てみてほしい。そしてこの世界樹なんだけど、枝なんだよね」
プレアデスの《枝》
世界樹から浮島プレアデスへと伸びる枝
《枝》:世界樹から伸びる枝だからね!
「世界樹から伸びる枝だからね!って言ってるね」
「……ミツキさん、植物との対話スキルでもお持ちなんですか?」
「対話じゃないけど、植物の様子がわかるパッシブスキルを、初期にランダムで手に入れたんだ」
「……そう、ですか。すごいですね」
「たまに、好きな食べ物とかあげてほしいな。喜ぶよ」
「何でもいいんですか?」
「何でもいいみたいだよ?」
わたしの言葉に世界樹はわさわさと揺れました。
供えたものはなんでも喜んでくれますからね。
世界樹からガーデンへと移動しました。
ウィローさんの助言を受けながら、ミカゲさんとジアちゃんが草花の手入れをしています。
「ここは、ガーデンだね。母とスピカさんの趣味だけど……あそこにガゼボがあるんだけど、そこに概念的存在を祀るわたしなりの祭壇があるんだ。ソウくんもお供えしつつ、お祈りしてね」
「神殿、神社みたいなものですよね?」
「そうそう。たまにお供えしたものを食べに来られたりするから、出会えたら運が良いかも?」
「……それは、幸運ですね」
「ね」
手を振っていたミカゲさんとジアちゃんに手を振り返して、ホームへと戻ってきました。
「隣の畑はスピカさんとウィローさんが手入れしていて、育つ野菜はなんだか凄いことになっているから、後で見てみてね……」
「……畑も普通じゃないんですか……?」
「こ、この島では普通なんだけどね!?」
立派に野菜が実っています。その大きさと質が凄いだけで!
そしてホームの扉を開けると、皆で集まる事が多いリビング……共有ルームと、キッチンですね。
母たちとアルフレッドさんが、お互いに指示しつつ手元を動かしています。
「冷蔵庫の物は基本使ってもいいものだよ。使っちゃだめなものは見たことないから。たまに軽食が置かれているし、アルフレッドさんも軽食を置いてくれるから食べてね」
「どうしても空腹の管理が必要ですからね。とても助かります……食材を入れておけば、使ってもらえるんですね」
「好きな食材とか入れておけば、それを使った料理が出来上がるかもね」
タキシードの上からクリーム色のエプロンを装着したムーンバニーが視界に入りました。
……割と普通に馴染んでいますね。
「この先は皆の部屋と、わたしの調合室のような部屋とミカゲさんの錬金術用の部屋とかあるから、茶室も増やせると思うよ。ひとまず部屋も増やしておくね」
クランメニューでさっと増築して、ソウくんの部屋を追加します。並び的に一番奥になりましたね。
「クランメニューが開けるようになっているはずだから、後でゆっくり時間があるときに確認してね」
「……ひとまず部屋の増築費用はミツキさんに渡すでいいですね」
小さく息を吐いたソウくんが、クランメニューを確認してリルを送ってきました。
それを受け取りつつ……これでホームの案内は終わりましたね。
「ホームの案内はそんな所だね」
「ありがとうございます」
「わたしが喚び出した星座達が島にいるけど、敵じゃないし対話できる星座も多いから話しかけても大丈夫だからね」
「話しかけ……わかりました」
「じゃあルーナ様のお迎えの準備しよっか」
「何処か広い場所を借りますね」
その言葉に頷くと、ソウくんはホームから出ていきました。後で見に行きたい所……見ても大丈夫であれば、見学したいですね。
さて、料理組の様子を見に行きましょう。
キッチンでは母とアルフレッドさんがテキパキと動いています。こちらに気付いたムーンバニーが振り返りました。
「ルーナ様の料理の好みって?」
「基本的には何でも食されますが、薄味がお好みですよ」
「薄味か……」
「和食で攻めているわ」
「日輪の国で習いましたから。お任せください」
母とアルフレッドさんから言葉が返ってきました。
今ある食材と調味料で、和食を作っているようです。
おおう……さすがですね。
「和食は薄味でも味がしっかりしているからね。僕は外でバーベキューコンロ使うね」
「はーい」
父を見送って、ポンチョを脱ぎます。
「何か手伝う事ある?」
「そうね……デザート作ってくれる?アルフレッドさんが作ってくれたフルーツの蜂蜜漬けがあるわ」
冷蔵庫を覗くとカットフルーツが詰め込まれた瓶が数個入っていました。
ふむ……フルーツ……
「ムーンバニー」
「なんでしょう?」
「太陽島のフルーツ、使ったら怒られるかな?」
「…………………価値はご存じです。大切なのは、想いです」
「想い」
「ルーナ様のために作られた。その過程を尊重してくださる方です」
ふむ、なら……小さなグラスを使ってフルーツポンチにしましょうかね。ソーダ水か炭酸水が欲しいですが……
「この世界に炭酸水ってあるのかな……」
見たことないような……でもユアストならありそうです。でも何処に売ってるかは知りませんね。
「ちょっと炭酸水を探しにいってきます!」
「気を付けて」
ひとまずルクレシアに移動してみましょう。
リジアさんならご存じかもです。フルーツジュースを作る方ですし!
そう思って大地の煌めきのリジアさんの店を訪ねました。リジアさんが小さく手を上げました。
炭酸水の事を尋ねると、一瞬考える素振りを見せたあとバックヤードから箱を持ってきました。
「仕入れ元は知り合いだけど、五本くらいならお譲りしてもいいわぁ。ちゃんと代金はいただくけどぉ」
「あ、ありがとうございます!」
「もし今後も使うなら、ミゼリアに専門店があるわ」
代金を支払いつつ、広げた紙のマップの一部を指差すリジアさんの指先を見つめます。
ふむ、噴水広場からそう遠くは無さそうです。
……炭酸水の専門店って気になりますね。
「あ、さくらんぼも買います」
「はぁい」
リジアさんにお礼を伝えて、店を出ました。
よし、戻りましょう!
焼き魚の匂いに惹かれつつ、ホームに入ります。
おお、いい匂い……これはお出汁の香り!鰹出汁……?
気になりますがフルーツポンチを作ってしまいましょう。
どなたかの趣味かわかりませんが、カクテルグラスがありましたのでそれを借ります。あの逆三角タイプのやつです。
そこにフルーツを入れて、炭酸水を注ぐだけですが……!わたしも食べたいですし、皆の分も作りましょう。最後にさくらんぼを飾って、と。
よし、見た目可愛らしく美味しいフルーツポンチの出来上がりです。
真横から視線を感じますが、スルーして冷蔵庫へとしまいます。
「……食べるときは皆で、ね」
「ぎくっ」
「口に出した……」
視線の主、ムーンバニーに釘を刺したら手伝いに戻りました。ちゃんとムーンバニーの分も用意しましたからね!
ではガーデンの様子を見に行きます。
ソファとテーブルも配置したいです。
ガーデンは太陽光を反射して煌めいていました。
水をあげたようですね。枯れ葉や雑草もきれいになっています。
ミカゲさんたちは、ガゼボを拭いていました。
「料理組は順調そうでした?」
「母とアルフレッドさんが和食を作っていましたね」
会話をしながら、ソル様の祭壇から離れた場所にルーナ様の祭壇の準備をします。
ソファを絨毯の上に絶妙にずらすのを、歩いてきたレンさんとリーフくんが手伝ってくれました。
「ありがとうございます」
「ン」
「引きずって傷付けるのはアウトっすもんね」
「大理石だから……」
本当に助かりました!
テーブルはここで、あとは鏡を設置するだけですね。
それはお迎えの時にしましょう。
空を見上げると、オレンジ色に染まってきています。
「……ルーナ様のお迎えは、夜が良いかもです」
「結構時間が経っていましたなー」
「庭の手入れ、結構楽しかったわ」
ミカゲさんとジアちゃんと話しつつ、ソウくんの姿を探します。ホームの周りにはいないようですね。
「ソウ氏なら、世界樹の方向へと歩いて行ったような……?」
「和菓子の作り方が気になりまして」
「「確かに」」
邪魔しないよう、静かに見に行きましょう。
そうしてたどり着いた世界樹の元では、地面に茣蓙を敷いた上に正座をするソウくんがいました。
しかも着物を着てます!
「ソウくん、近付いても……?」
「構いませんよ。そう見て楽しいものかはわかりませんが……」
離れた場所から話しかけると、手元を動かしながらも返答がありました。
なるべく土埃を立てないよう、そっと近付くと梅の花の練り切りがたくさん並べられていました。
「わあ!可愛い!」
「うおおお和菓子ですな!」
「とても綺麗ね」
「ありがとうございます。ですがまだまだです。これも、線が曲がってしまいました」
ソウくんは苦笑しながら手元の餡を生地で包んで、真剣な表情でヘラを使い線を入れます。
和菓子職人のようですね!
「着物は、何か茶道家としてバフがある感じです?」
「そうですね。茶道家としての、戦闘服と言いますか」
「察しましたわ。ボクにとっての白衣みたいなものですな!」
な、なるほど……茶道家の戦闘服!
コック服のような扱いですかね。
あともう少しだけ作るとのことなので、邪魔しないようホームへと戻ります。
今度またじっくりと眺めたいですね。
ホームではそれなりの数の料理が出来ていました。
「品数と質を重視したから、皆に振る舞える量は無いわね」
「少量で、多くの味が楽しめるようにね」
「御膳イメージだな」
なるほど、既視感はお膳でしたか。
食器は洋風ですが、小さな皿で多くの料理が並んでいます。
「お疲れ様」
「皆もお疲れ様ね」
「ムーンバニー、手伝いありがとう」
「いえ、私は口を出しただけに近いので。ルーナ様も喜ばれるでしょう」
ムーンバニーは料理を眺めて満足そうに頷きました。
「ルーナ様は夜にお迎えしても問題はない?」
「本体ではなく分身が降りるでしょうが、分身は本体に吸収されますし、問題はないかと」
「……では、今夜、ルーナ様をお迎えしたいと思います。夜八時頃でいかがでしょう?」
そのくらいなら、余裕を持ってお迎えできるかもと提案すると、皆頷きました。
「では私は一旦ルーナ様の元へと戻ります」
「一旦なんですな」
「一旦でございます」
流れるような動作で一礼したあと、ムーンバニーはドロンとその姿を消しました。
わたしたちも、食事などを済ませるためにログアウトしましょう。
果たして月の反応は如何に!
これからもミツキの物語をよろしくお願いします!
応援してくださる皆様のためにも、ミツキの物語をお届けするためにより一層励みます。ありがとうございます。




