昼休憩/運営の呟き
ご覧いただきありがとうございます!
ログアウトしてキッチンへと向かいます。
そこでは母がテキパキと動いていました。
「何か手伝うことある?」
「もうすぐ出来上がるから、座ってていいわよ」
テーブルには既にサラダとオニオンスープが並んでいました。うーん、いい匂いです。
じゃあ座って待ちましょう。
スマホを眺めると、ユアストの通知がありました。
……ふむふむ、3日後にシステムアップデートと、小規模な追加アップデートがあるみたいです。
新たな住民依頼や様々なアイテムの追加、詳細は控えるがジョブも増えるとのこと。
……そのジョブの詳細は無いので、どんなジョブかわかりませんけどね。
小さく追加マップもあるようです。
これは……砂漠の端に、ダンジョンが追加されたようですね。
ふむふむ、生産職向けのダンジョンだとか。
ドロップするのは糸や毛皮、木の枝やらはちみつやら……薬草やハーブなどもあるようです。
なるほど、一部の生産職の方々に嬉しいダンジョンですね。薬草とかハーブとか欲しいので、今度行きたいと思います。
「満月、麦茶でいい?」
「わ、ありがとう」
兄が麦茶を置いて、隣に座りました。
そこに母が皿を置きました。
「ミートソースだ!」
「ミートソースの素をこの間多く買ってきたでしょう?消費しないと」
「いただきます」
「いただきますー!」
「グラタンにしようかと思ったけどやっぱりパスタよね」
んー、ミートソース美味しいです!
少しの甘みと、ひき肉がごろごろしていて!
合間にサラダやオニオンスープを挟みながら、ぺろりと食べちゃいました。
幸せですね……
「そういえばお父さんは出かけてるの?」
「お父さんは確か、お父さんの幼馴染の道場に行ってるわよ」
「え、まじか俺も行きたかったな」
確か……父の幼馴染さんは居合の、剣術道場の方でしたか。昔日本刀の扱いを〜の流れで、この間教えてもらったのです。
こ、これ以上に剣を修めると……?
「ついでにユアスト勧めてくるって言ってたわね」
「化物をユアストに……?」
「ふふふ、彼は既にやってるんじゃないかしらねぇ」
……ま、まあ何かあれば父の紹介があるかもです。
わたしは会ったこと無いですし、父の話を待ちましょう。
「それより、二人はダンジョン攻略中なんでしょう?」
「おー。あと五階層だし、頑張ろうぜ」
「土産話を待っててね」
皿を洗って拭いて、少し食休みをしてからログインしました。
ログインすると、壁際に背を預けてソウくんが座っていました。
ラクリマとアストラエアさんを喚び出します。
「ごめんね、待たせちゃったかな」
「いえ、僕もさっきログインしたので」
「本当はご飯炊きたいけど……時間かかるからパンにしようかな」
パンに合うスープでも作りましょう。
スープはほっと落ち着けますからね。
「ソウくんキャベツとささみ肉は食べれる?卵とかコンソメスープも大丈夫?」
「問題ないです」
アレルギーとかあったら大変ですからね。
話しながらウォーターボールでキャベツを洗います。
ファイヤーバードは辛いですからね。コッコのささみを使います。
本当は鶏がらスープを使いたいですが……コンソメスープで代用です。多分美味しいでしょう!
下ごしらえして、投入して鍋をかき混ぜていると、隣のコンロで兄が肉を焼き始めました。
「やっぱり肉も食いてえよな」
「何にするの?」
「普通にステーキだな」
テキパキと料理をするわたし達を、ソウくんが目を丸くして見つめています。
料理は魔法です!
「そういえばソウくんのサブジョブとかって、聞いてもいい?」
スープに溶き卵を混ぜつつ、ソウくんに話しかけます。
鍋を見つめていたソウくんが、顔を上げました。
「ちなみにわたしは薬師」
「俺はまあ……観測者ってやつ」
ちらりと見渡して、プレイヤーが近くにいない事を確認した兄が小さな声で言いました。
いや本当に兄の観測者、興味深いです。
「……僕は、茶道家ですね」
「……茶道家もあるんだユアスト」
「マジ?茶バフとかある??」
「茶バフ……まあ、ありますね」
あるんですね!?茶バフの言い方もアレですが……
茶道のバフってなんでしょうね……?
「茶を点てる所から始めるので、時間がある時……ログインした時など、余裕がある時に点ててます」
「そ、そうなんだ」
「後はお菓子も作ります。初めてゲームで、和菓子を作りました」
「和菓子も!?」
「茶を点てる、主菓子を用意する。そうして出来上がれば、バフとして完成します。そして主菓子によって上昇するステータスも選べるんです」
「す、すげえ細かいな……茶道でもやってんの?」
「茶道部に所属しています。サブジョブはこれといって惹かれるものが無かったので、相談の上茶道家になりました」
茶道家というサブジョブもあるなんて……ユアスト、拘りましたね。
色々と聞きたいところですが、スープが出来上がりましたので食べましょう。
バゲットを消費しなくては!切り分けて並べます。
よし、スープとお肉とバゲットは用意できました。
本当はサラダもあればいいと思いますが……バランス良く食べても現実のわたし自身の栄養にはならないので!省略!
「バフは乗らないですけど、デザートとしてどうぞ。本職の人に比べたら、見栄えは良くありませんけど」
ソウくんがアイテムボックスから和菓子を取り出しました。薄桃色の桜の形をした練りきりです。
「か、かわいい……!」
「めっちゃ桜に見える!」
「あ、ありがとうございます。お二人も、良かったらどうぞ」
確かに言われると、少し歪な所はありますが……
本職でないソウくんがここまで作れるとは……凄すぎです。
わたし達を見守りながら壁際で休んでいたラクリマとアストラエアさんにも、ソウくんが皿を差し出しました。
「おや、ありがとうね」
『ありがと!』
「食べるのもったいないね……」
「わかる……練りきりってマジで食べるのもったいないんだよな」
「うぐぬぬぬでも、いただきます!」
キャベツとササミと溶き卵のコンソメスープを口に運びます。うーん、ほっと一息です。
コンソメスープでも代用できますね。いけます。
兄が焼いた肉を貰いつつ、バゲットと一緒に食べます。シンプルに塩胡椒ですが……こ、これはハニーピグ!ほんのり甘みがあります!
「……とても美味しいです」
「落ち着く……」
「やっぱり食事は心を落ち着かせるぜ……」
「いいねえ、あったまるね!」
『おいしー!』
五人でゆっくりと食事休憩としました。
デザートに、ソウくんの和菓子をいただきます。
「……こしあんって、流通してるの?」
滑らかな口溶けと、まろやかなこしあんを味わいつつ、気になった事をソウくんに聞きます。
こしあん派つぶあん派ありますからね……今回の練りきりはこしあんのようです。美味しい……
「これは茶道家プレイヤーへの、運営からの手助けらしいのですが……日輪の国の人が開いている、茶道家のプレイヤーのみが訪れる事が出来る店があります。そこで抹茶や材料を買っています」
「なるほど……じゃあわたし達が手に入れるなら、日輪の国に行くしかないね」
「どうにか行きてえな」
「……はい。僕も、日輪の国で茶道を学びたいと思っていますから」
「今度、お抹茶を点ててほしいな。ちゃんと対価を用意するから!」
「茶会しようぜ茶会」
兄が茶会と言うと違和感ありますが……
茶会は大歓迎です。アルフレッドさんとお菓子作りしたいです!
「……わかりました。腕を磨いておきますね」
「やったー!お菓子用意するね」
「じゃあ俺は簡単につまめるしょっぱいものでも……」
色々と片付けて、軽くストレッチをします。
十分休めましたね!
よし、下りる前にちらっとガーディアン・ゴーレムのドロップ品を確認しないとです。
えっと……何処に……これですね!
スクロールしてやっと見つけました。
ガーディアン・ゴーレムの右核
ガーディアン・ゴーレムの右肩の核
魔法ダメージを無効にする力を持つ
武器や防具に使用すれば、一定時間だけ発動する【魔法無効】を付与できる
「へあ」
魔法無効が!!
えっ一定時間だけでも、魔法ダメージを無効に!?
……もしや左の核もありますねこれは。
左であれば物理ダメージを無効、とかでしょうか。
二つ揃えたら一定時間無敵に……!
お、恐ろしいアイテムです。
「お、恐ろしい……」
「なになにどうしたん」
兄とソウくんにガーディアン・ゴーレムからドロップした品について、小声で教えます。
「……やっべー代物じゃん。俺はハンマーを貰ったわ」
「僕は篭手でしたね。装備すると、【怪力】というアクティブスキルが使用可能になるようです」
「ソウくんが壊したのに、わたしが貰っちゃったね……」
二人のドロップしたアイテムも中々癖が強いですね!?兄に至っては武器ですし。
謎ですね……何をすれば手に入れられるのか……積極的に、壊せそうな部位は壊した方が良いんですかね?
宝箱は逃さないようにしましょう。
よし、そろそろ向かいましょう。
はてさて、次の階層はどんな感じなのか……
再度パーティーを組んで、杖を取り出します。
よし、次の階層もがんばりましょう!
皆で頷いて、階段を下りました。
◆◆◆
千歳カンパニー
とある会議室
そこには、スーツを着た数人の男女が机を囲んでいた。
数十枚の資料を捲りつつ、ホワイトボードへと目を向ける。
「まあ、中々いいペースなんじゃないかしら」
各国の依頼、イベントの完了率、プレイヤーの滞在率……様々なデータを眺めながら、彼らは意見を交わす。
「まあまだリリースしてから約八ヶ月、三国が実装されているから、まだ新しい国を解放する必要性もない」
「まだ日輪の国に辿り着けてないけどね」
「最初に各国へ埋め込んだ住民依頼は……四割は完遂されているようだな」
「うん。良いペースだけど、受注するのに手順が必要な依頼は達成率少なめだね」
「それにアプデの度に増えてくし」
「世界的には、解放されている住民依頼は二、三割という所か」
「………依頼、作りすぎた?」
その場にいる全員がため息をついた。
住民依頼はギルドで受注するもの、各町の住民から受注するもの、そして手順を踏んで出現させるものがある。
故に、考えつくものを、お使いから討伐、採取、捕物やら色々と依頼として詰め込んだのだが……
「……まあ、無いよりはマシだろう」
「そうだねぇ……もうすぐレダンでは襲撃イベント始まりそうだし、海にちょっかいだそうとしてるプレイヤーもいるでしょ?色々と動きそうだよねー」
「レダンの襲撃までに、レダンの地下水脈の異変に気付くプレイヤーはいるのだろうか……」
「んー、地下水脈についての起点は水質について調べる事と、レダンの世界樹から情報を得る事だっけか」
「レダンの世界樹なら……一人得られそうなプレイヤーはいるようだな」
「あー、第三室長さんの推しね」
「それに、レダンも海のイベントも終われば、日輪の国がやっと日の目を見る事ができる……」
「やっぱり自国モチーフには力込めるよねー」
「日輪の巫女が首を長くして待っている。ろくろ首にならない内に、プレイヤーが到達してほしい」
「oh……」
「まあまだクリスティアにもレダンにもプレイヤーが立ち入らないダンジョンがあるし、誰が一番乗りするかだな」
「あー、人の心ない屋敷も残ってるじゃんね」
ため息をついて、各々が背もたれに背を預けた。
メインストーリーがない以上、プレイヤーを飽きさせないために、プレイヤーが望むものはなるべく叶えたいのが理想だ。
技術的な問題ならば、開発に時間を費やすのも厭わない。これはプレイヤーの、物語であるからだ。
「よし、サボタージュ終わりっと」
「会議と言え会議と」
「ただの確認だったからある意味サボタージュだったよ」
「まあ良い息抜きになった」
「第三室長さんの顔でも見に行こっと」
「あ、イベントシナリオの締め切りあるんだよな……書かなければ……」
足取りが軽やかな者もいれば、重い者もいる。
彼らは、プレイヤーの為に色々と策を練るのだった。
よし、休憩挟んだのでボスまで駆け抜けます。
ダンジョンなので戦闘多めで申し訳なく……ダンジョン自体はもうすぐ終わります!
これからもミツキの物語をよろしくお願いします!




