アルヒラル遺跡 ⑪ 第二十階層
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◆アルヒラル遺跡 第二十階層
昨日振りのセーフティエリアです。
いくつかプレイヤーパーティーがいますね。
軽く体を動かして、杖を取り出します。
ストレッチは入念にです。なんとなくするとしないとで違う気がしますからね!
兄も体を動かして、槍を握り締めます。
おや?なんか色が濃くなって、装飾が少しだけ豪華になってませんか?
「お兄ちゃんその槍、昨日と見た目が違くない?」
「お、そうなんだよ。転職したら少し豪華になって性能も上がったんだよな」
「……転職されたんですか?」
「もう少しで転職だったから、昨日な」
「すごいですね……」
同じように体を動かしていたソウくんの手元に、銃が出現しました。
………!ライフル銃みたいな銃に、刃がついてます!
な、なるほど……銃と剣のような刃がついてるので、銃剣ってことですか!?
銃として扱いつつ、剣としても在る……
なるほど、近接もいけるっぽいけどというのはそういう事でしたか。
「……うん、かっけえな」
「ありがとうございます」
「射程距離は?」
「アーツを使わない場合の有効射程は100mでしょうか。ハンドガンは30mないくらいかと」
「なるほどな……」
「アーツをつかえば倍以上ですね」
ほほう……銃ですもんね。
戦闘の様子が楽しみです。まあ見ている余裕があるかわかりませんが!
「よし、試せるものは試そうぜ」
「わかった!」
「よろしくお願いします」
パーティーが組まれているのを確認して、扉へと触れます。そして扉の先に、足を踏み入れました。
扉の先は荒野です。夕日が眩しいです。
視界が開けていますし、隠れる場所もありませんね。
「……広くて助かるが……大きいモンスターが出てきそうだな」
「お二人は事前に情報を得ない感じですか?」
「そうだね」
「おー」
「僕もダンジョンの構造は調べましたが、出現モンスターについては調べてきませんでした。その方が戦い甲斐があるので」
「同感だわー」
わたしは単純に調べるのを忘れたのもありますが……
対策して挑むのも必要な時がありますが、事前情報無しで挑むのもスリルがあります。
周囲を見渡して、気配を探ります。
っ、上!
恐らく同じタイミングで皆が上を見上げると、一体のモンスターが降下してきます。
それはワイバーンのようなフォルムですが………
「「グルアアアアアアアッ!」」
頭部が、二つあります!
えっ見間違えじゃなければ、頭部が二つあります!
ツイン・ワイバーン Lv.62
アクティブ
【爪撃】【ブレス】【飛翔】
【風魔法】【噛み付き】【狂化】
【風耐性】【硬化】【多頭】
【???】【???】
うえっしかも見えない所があります!
しかし空中にいるなら、まずは地上に落としましょう!
「ラクリマ!落とすよ!」
『おっけー!』
(【重力操作】!)
重力を受けたツイン・ワイバーンが、空中でバランスを崩し墜落します。
墜落する前に、ツイン・ワイバーンの翼に、発砲音と共に無数の穴が空いたのが見えました……!
おおお……銃撃だあ……
初めて見る武器は面白いですね!
後でちょっと見せてもらいましょう。
今は、この、ツイン・ワイバーンを……!
うぐ、押さえつけるのに対する反発が……!
腕?翼?を地面について上体を起こしたツイン・ワイバーンの頭部から、火球が放たれました。
「ウォーターウォール!」
「【紫雷】!」
火球が蒸発し霧散しました。
そして紫色の雷を纏った槍を握り締めた兄が、突進しました。
「「ガァァァッ!」」
「【ライトニング・ドライブ】ッ!」
ツイン・ワイバーンの胴体に兄の突進攻撃が直撃し、ツイン・ワイバーンが吹き飛ばされました。
その瞬間重力操作の範囲から抜けたので、手に感じていた圧が消えました。
ツイン・ワイバーンのHPは……七割ですね。
ここからは攻めるとしましょう。
「【アマルティア・A】」
耳馴染みのない言葉に、思わず振り返ります。
ソウくんの構える銃剣が淡く光ると、銃声が響きました。
「……」
「命中を確認。一定時間攻撃を下げました」
「……何か、アーツの名前の系統も違うんだな」
「初めて見るプレイヤーには驚かれますね。【アマルティア・D】」
そしてまた一発、銃声が響くと、上体を起こしたツイン・ワイバーンに命中しました。
「命中を確認。防御を下げました」
「……めっちゃ助かるわ!」
「「グルアアアアアアアッ!!!」」
ツイン・ワイバーンの口から、炎のブレスが放たれました。
炎のブレスなら問題ないですね。一歩前に出て、真空空間を展開します。
炎がわたしを起点に左右に割れて、消えました。
ツイン・ワイバーンと目が合いました。
「ストーン・ピラー!」
「ガアッ!」
小さく吠えたツイン・ワイバーンの翼が瞬時に再生し、再び空中へと飛び上がるツイン・ワイバーン。
「「ガアアアアアアアッ!!」」
雄叫びを上げたツイン・ワイバーンの背後に魔法陣が出現し、そこから無数の風の弾が発射されました。
うわああああ!?
「【真空空間】!」
真空空間に風の弾がぶつかる音が響きます。
こわ!こわ!?集中的に狙われてます!兄が避けながら退避してきました。
「おお、荒ぶってる」
「この空間すごいですね……」
「わたしのMPを継続消費してるからね!?」
「おー、じゃあ攻撃するかあ」
兄が空間から飛び出しました。
その瞬間にソウくんも兄と反対方向へと駆け出しました。
攻撃の狙いが左右に散ったので、真空空間を解除してわたしも動きます。
何かあればアストラエアさんが弾いてくれますから!現にわたしに並走しながら、相殺できなかった当たりそうなものは弾いてくれてますし!
飛んでくる風の弾を魔法で相殺しながら、一定の距離を取ります。
「【二重詠唱】ファイアーアロー!」
「ガアッ!」
「【二重詠唱】ファイアーボム!」
炎の矢が風のブレスで弾かれたので、体を狙って爆発させます。
むむ、モンスターのレベルが上がると何というか、知能が上がっているというか……
魔法は攻撃で相殺しますし、体の表面も何やらうっすらと緑のオーラを纏っているので、ダメージが軽減されているようです。
そして自らが有利な空中からの攻撃。
兄の飛ぶ斬撃は軽く避け、ソウくんの銃撃も命中していますが、何回かは弾かれてますね。
「フレイムピラー!」
「【アマルティア・MD】」
「チッ当たらねえか!……【紫雷月狼召喚(分身)】来い、トニトルス!」
空中のツイン・ワイバーンに炎の柱はひらりと躱されました。さすがに当たりませんか……!
そして離れた場所にいる兄の足元の影から、トニトルスが現れました。
やはりダンジョンでも来れるんですね!
「無理だわ!お前空飛べる!?」
『……飛べはしないが、駆ける事はできる』
「オーケー!任せた!」
そう言ってトニトルスに跨った兄とトニトルスが、空へと駆け上がりました。
わ、ペガスス座みたいに空を駆けてます。
兄に気付いたツイン・ワイバーンが空中で体を捻り尾を振り回しますが、トニトルスは空中で軽く避けます。
「【魔弾装填】【汝の罪は裁かれる】」
そして二つの頭部を兄へと向け、口を開けたツイン・ワイバーンの片方の頭部が、ソウくんによって撃ち抜かれました。
「ギャァァアッ!?」
「墜ちろォ!」
槍先を下に向けた兄と口を開けたトニトルスが、紫色の電撃を迸らせながら流星のような軌跡を描いてツイン・ワイバーンへと衝突しました。
落雷のような轟音な響き、ツイン・ワイバーンが地面へと激突しました。
「サンキュートニトルス!」
『全く……この程度のモンスター片付けてみせよ』
「空中は不利ですぅ!」
「【二重詠唱】フレイムピラー!」
『木よ!伸びろ!』
言い合いしている二人を横目にツイン・ワイバーンを燃やします。
ラクリマが地面に縫い付けてくれてるので、好機です。
そして集中的にツイン・ワイバーンのHPが消える前に、兄が「やべっ【解析】ッ!キタコレ!【可視化】!」と叫びました。
HPが消える前だったのでアーツが効果あったんですね。
終わったと思い小さくため息をついた瞬間、尽きたHPが三割まで回復しました。な、なんですと!?
「「ギャァァアッ!」」
「チッ!ソウくん!HP全損させる前に、頭部を撃ち抜け!」
「ッ了解!」
「頭部二つあるから、残機も二つだ!頭部が無事ならば復活するぞ!」
復活!?厄介すぎでは!?
これは早々に方を付ける必要があります!
体を這う木の枝を千切りながら、ツイン・ワイバーンが雄叫びをあげました。
そして体を覆う竜巻が出現し、竜巻のせいで、フィールドにあった細かい石や土が舞ってます!
大きいものは、アストラエアさんが爪で弾きました。
『押さえつけるっ!』
「【チャージ】【ライトニング・シュート】ォ!」
「【宇宙線】っ!」
「【デッド・エンド・ショット】ッ!」
兄のアーツとわたしの天体魔法でギリギリまでHPが削られたツイン・ワイバーンのそれぞれの頭部が、同時に撃ち抜かれました。
−第二十階層 ボスモンスター ツイン・ワイバーンを討伐しました−
ツイン・ワイバーンの皮、爪、瞳を入手しました
ツイン・ワイバーンの召喚石を入手しました
響くアナウンスに、息を吐きます。
び、びっくりしました……!
え、二十階層でこの強さだと、先に進むの恐ろしいのですが!?それにまた召喚石です。ドロップ率、世界樹の祝福のおかげで上がっているんですかね?
「……お疲れ様でした」
「お疲れ……ボスのギミックは面倒だなマジで……ってかソウくん俺が指示したのもあるけど、どうやって同時に撃ち抜いたの」
兄とソウくんがこちらへと戻ってきました。
それはわたしも気になります。聞いてもいい感じですかね?
「銃身がブレるのでそう使わないんですが、元々僕の銃剣は一対の武器なんです」
そう言ったソウくんが、片手それぞれに銃剣を握りしめました。い、一対??色違いの銃剣ですね……
「なるほどな……教えてくれてありがとうよ」
「いえ」
さすがに詳細な事までは聞けませんが、使おうと思えばソウくんは銃剣両手持ちで戦えるのですね。
……それはすごいですね。
「で、お兄ちゃん、何が見えたの?」
「あー、ステータスは今までのモンスターより軒並み上がってるのと、【超速再生】と【復活(制約)】だな。撃たれた翼や傷の再生、んで頭部が無事なら、HP30%で復活するっぽいな」
「えげつない能力だ……」
「随分と面倒なモンスターですね……」
あまりにも厄介ですね……
HP減らしても、頭を攻撃しないと倒せないのは……
『宝箱出たよ』
「他に怪しいものは無かったよ」
ラクリマとアストラエアさんが、周囲を見渡しながら歩いてきました。
よし、何が貰えるのか……
三人で宝箱を覗き込みます。
ツイン・ワイバーンの血結晶
ツイン・ワイバーンの魔力と血が込められた結晶
武器、もしくはアクセサリーへ使用すると、一度だけダメージを肩代わりする
わあ!こういうのもあるのですね……
血が込められているのはホラーなのですが!?
二つ入っていたので、一つをソウくんに、一つはわたし達で貰うとしましょう。
「二個あればソウくんが一つ、わたし達で一つで良いよね」
「良いだろ。宝箱の中身が一つだけなら使えそうな人が持っていけばいいし」
「……物欲とか無いんですか?」
「「……今の所?」」
わたし達の返答を聞いたソウくんが小さくため息をつきました。
いやぁ何を貰っても嬉しいですが、使えるか使えないか問題はありますからね……
知らない人に渡すのは嫌ですが、仲間内なら使える人が使った方が良いです。武器でも、装備でも。
「……何事も公平に、ですからね」
「はい」
「真面目だなソウくんは」
「パーティープレイをするなら鉄則でしょう……?」
ひとまずセーフティエリアへ向かいました。
次の階層からレベルが跳ね上がりますからね……
セーフティエリアで一息ついて、次の階層へと向かいます。
すんなり倒せるモンスターばかりであると良いのですが!
ダンジョンの話はあと10話以内には終わる予定です。
あともう少しダンジョン攻略しますー!
これからもミツキの物語をよろしくお願いします!




