アルヒラル遺跡 ⑦ 第十二〜第十三階層
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◆アルヒラル遺跡 第十二階層
そして階段を下りてもまた森です。
それから、何か群れで動くような気配を感じます。
森で、群れ……?
先程のフォレストモンキーよりは……小柄でしょうか。
気配を探りつつ森を進みます。
「ミツキ、足元気を付けな。その蔓を踏むと吊り上げられるよ」
「ひょええ」
アストラエアさんの言う蔓は、足元の草に紛れて普通に蔓に見えます。
こ、こわ……森を歩くのにこんなにスリルが……?
「木に蔓が巻きついてるだろう?明らかに、意図的に枝まで伸びているから、これは罠だね」
アストラエアさんの言うように木に巻き付く蔓は、幹から枝まで伸びています。ほああ……そういう所を見るんですね……!
「……戦闘中に踏んだら、集中攻撃待ったなしだぜ」
「怖いこと言わないでよ……」
「ボッコボコにされるが……モンスターが吊り上げられれば問題ないぜ?」
……なるほど!モンスターを罠に嵌めるのもアリ、ですね!
……いやでもわたしはあまり見分けつかないので、難しいですね。下手すれば自分が罠にかかります。
「アストラエアさん……!よろしくお願いしますぅ!」
「はいはい任せな。なんならあたしの腕に乗るかい?」
「……い、いえ!自分で歩きます!」
アストラエアさんのもふもふは素晴らしいですが!
やはり自分の足で進まないとです。
そうして歩いていると、振動する音が聞こえました。
こ、これは………!急いで木陰に身を潜めます。
フォレストハニー・ビー Lv.55
パッシブ
【麻痺針】【誘引】【毒針】
【木魔法】【風魔法】【統率】
【警戒音】【招集】
ッ!黒と緑の縞模様の、蜂!
なんか見た事の無い柄してますが!
………蜂蜜とか貰えます?
近くに巣とか、ありますかね。
(【ブースト】【ハイブースト】)
強化をかけて、そっと覗いた瞬間。
目が、合いました。
(っ!【宇宙線】!)
四本の光線がフォレストハニー・ビーの体に突き刺さり、爆発しました。
それは一撃でフォレストハニー・ビーのHPを全て飛ばしました。
「ごめん、目が合って」
「いや、しょうがねえなこれは。ここまで来たら絶対クイーンとかいるだろうし、叩くか」
「羽音はあっちの方向から聞こえるね」
アストラエアさんが小さく耳を動かすと、左側を指差しました。
……戦った事のないモンスターとの経験です。
レベル上げにもなりますからね。
なるべく気配を抑えるよう意識して森を進むと、小さく開けた広場のような空間が見えました。
そこに、フォレストハニー・ビーよりも一回り大きい個体がいます。背後に大きなハチの巣も見えます。
蜂の中であんなに個性があるのは、女王蜂のはず……
よし、行きましょう!炎魔法は森の中なので使いにくいので、危なくなったら容赦なく天体魔法は使います。
兄と視線を合わせて頷くと、兄が駆け出しました。
わたしも景気付けに流星群流れさせましょう。
(【流星群】!)
フォレストハニー・ビーの群れに流星群が激突し爆発を起こしました。
それに憤慨した他のフォレストハニー・ビー達が、活発に動き始めました。
うう、この羽音……ちょっと苦手です。
蜂とか普通に怖いですからね!?
「【二重詠唱】、ストームピラー!」
『くらえ!』
風の柱と、ラクリマの放つ光と闇の魔法がフォレストハニー・ビーを蹂躙します。
フォレストハニー・クイーンビー Lv.56
アクティブ 激昂状態
【麻痺針】【誘引】【毒針】
【木魔法】【風魔法】【統率】
【警戒音】【招集】【絶対命令】
えっ、レベル高いですね!?
55が最高だと思っていました!
まあ考えられるのは、群れのボス、ということでしょう!
………あっ思い付きました。
ちょっとフォレストハニー・ビーで試しましょう。
「ウォーターウォール!ファイヤーボム!」
木々とフォレストハニー・ビーの間に水の壁を用意して、ファイヤー!です!
これなら森への飛び火はある程度防げるはず!
そして熟練度も上がる!Win-Winですね!
炎はよく効きますね!!
やはり虫系は炎が弱点属性って事でいいんですかね……!
「ウォーターウォール!フレイムピラー!」
魔法はイメージです!ファイヤー!
「ミツキ!程々にしろよ!燃えるぞ!」
「お兄ちゃんもねー!」
もうそろそろ、水魔法も熟練度が上がりそうな感じがしますので、水魔法を積極的に使いますかね。
「【二重詠唱】ウォーターボム!【二重詠唱】ウォーターアロー!」
近寄ろうと飛ぶフォレストハニー・ビーの攻撃を避けながら杖を差し向けます。
微妙に!素早い!でもこの針の攻撃は避けないと!
よく見ると針の部分が紫だったり、黄色だったりするので!毒と麻痺かと!
でもクイーンを守るためか、猛攻を仕掛けてきます。
まあわたし達侵入者ですもんね……
アストラエアさんが爪でフォレストハニー・ビーの針を片手で弾きながら、残る片手で胴体を横に薙ぎ払いながら、こちらに近付いてきました。
「数が多いね」
「クイーンを守るためですからね!ウォーターボム!」
「よっと!」
攻撃を弾いて水を爆発させた瞬間に、耳鳴りのような音が響きました。思わず耳を抑えます。
アストラエアさんも顔を顰めて耳を抑えました。
何の音でしょうか!?
「う、るせえんだよオラァ!」
兄がハンマーを振り上げて、フォレストハニー・クイーンビーを攻撃すると、音が止みました。
なるほど、クイーンから発されていたのですね!
クイーンを攻撃され攻撃が単調になり、木の葉や枝を飛ばしてくるフォレストハニー・ビーの攻撃は風魔法で弾きます。
視界の端ではクイーンに攻撃する兄に飛ぶ木の矢をラクリマが糸と重力で弾いていました。
そのため兄は真っ直ぐにクイーンを見つめています。
ならばクイーンは兄に任せて、周りの蜂たちを倒すとします!
-フォレストハニーの巣 を討伐しました-
フォレストハニーの蜜×5、針×2、魔石(小)×3を入手しました
フォレストハニー・クイーンビーの蜜を入手しました
「はちみつだーー!!」
はちみつ、って事ですよね!料理にも、スイーツにも!紅茶にも合います!
「最初に蜂蜜への感想なのがミツキらしいわな」
「お兄ちゃん。お、レベル上がったね」
「やっと56だな。フォレストハニー・ビーめっちゃいたから……20以上はいただろあれ」
確かに。倒しても倒しても出てくるんですよね。
アナウンスで気付きましたが、全体が巣だったんですね。
『……あ、宝箱だ』
「……本当だ」
ハチの巣が木から落ちると、宝箱が出て来ました。
開けると、持ち手の部分が黒と緑の縞模様となった剣が出てきました。
「……なんだか個性的だね」
「フォレストハニーのモチ武器ってやつ?」
森蜜蜂のショートソード
敵を引き寄せ斬った相手にダメージと共に毒か麻痺を付与する森蜜蜂の剣 攻撃+15 敏捷+15
【猛毒】【麻痺】【誘引】
「……なんかすごい剣だね」
「中々使い勝手は良さそうだな」
「後でお父さんに渡そうかな。お父さん剣使うもんね」
「おう。武器は何本持っててもいいだろ」
身内の剣士は父だけですし!
これは父に使ってもらいましょうかね。
そこまでダメージは受けませんでしたので、階段目指して進みましょう。
途中木の虚に小さな宝箱をラクリマが探り当てて兄と一緒に叫んだり(中身は石版の欠片)、一回わたしが罠にかかって吊り上げられたり(一瞬でアストラエアさんに救出されました)しましたが、どうにか階段を見つけて、下りました。
◆アルヒラル遺跡 第十三階層
「元気出せって」
罠に吊り下げられ、視界が回った影響と罠を踏んだ悔しさで少しテンションが下がったわたしを、兄が励ましながら歩きます。
「……あの感覚は久しぶりだった……レンさんとダンジョンに落ちた時みたいな感覚……」
「何それ詳しく」
「地面歩いてたら何かのスイッチ押して足元が開いてフリーフォール……」
「聞くだけで恐ろしいな」
「木の蔓燃やしたくなってきた」
「やめとけ」
本気の声音で止められました。
本気じゃないですよ。
「……っと、何かいるな」
兄の言葉を聞きつつ、わたしも気配の方向を見つめます。
……気配は感じますが、姿は見えませんね。
「………気配を探りつつ、移動しよう」
「わかった」
お互いに小さく会話して、気配を探りつつ森を進みます。わ、罠は踏まないように……!
森を歩いていると、風で揺れる葉が重なり合う音、遠くで響く戦闘音、何かモンスターのような鳴き声が聞こえます。
ダンジョンって本当に不思議ですねぇ……
落ち着くような落ち着かないような。
『……捕まえる?』
「んー、敵意は感じないから泳がせる。階段探そうぜ」
何かいる気配はしますが、兄の言うように敵意は感じないので階段を探します。
んー、気配の主はモンスターよりも小さいように感じますね。
ダンジョン内に敵性モンスター以外の、NPCモンスターとかいるんでしょうか?
まあ藪をつついて蛇を出すのは嫌なので、アクションがあるまで様子見様子見っと。
それに、他のモンスターが近付いてくる気配を感じます。大型犬ほどで、軽い足音です。
「ガァッ!」
「はあっ!」
「ストームピラー!」
茂みから飛び出してきたフォレストウルフをアストラエアさんが爪で弾き返し、着地地点を狙って風の柱を出現させます。
フォレストウルフは避ける間もなく風に飲み込まれ、消えました。
「オラァ!」
兄も槍の石突の部分でフォレストウルフの顎下を打ち、蹴り飛ばしました。フォレストウルフは体を木に強く打ち付け、追撃として槍に体を貫かれ、消えました。
「……うん、やっぱり急所への攻撃はダメージ大きいな」
「うん?」
「首とか心臓とか頭とかへの攻撃。俺のレベルでも、一撃で倒せたろ」
兄のレベルは今56です。
確かに、フォレストウルフのレベルは55でしたが、近いレベルのモンスターを一撃で屠れるのはすごいですね。
「人体の急所以外に動物の詳細な急所も調べるかぁ」
「物騒……」
「ミツキは今まで天体魔法とか普通に魔法で攻撃してたろ。当たれば大ダメージみたいなもんだし」
「まあ当たればね」
「短剣の時は急所とか必要だけどな」
……ペルセウスさんに教わりましたね。
んんんでも慣れてないので、直接の攻撃はまだ少し恐怖があります。
魔法が使えるなら魔法が良いですねぇ。
「お、階段発見」
視線の先には階段がありました。
とりあえず迷ったら壁際を探せば大丈夫そうです。
「ラクリマ、宝箱の気配は?」
『ここには無さそう』
「お、じゃあ下りるか」
『…………っ、待って!』
少し大きめの声で兄がそう言い、兄と共に階段へ向かおうと一歩踏み出すと、茂みから何かが飛び出してきました。
『は、母なる大樹の気配を持つヒューマンと、モンスターよ。どうか、どうか話を』
ガタガタと震えながらふらふらと浮いているのは、手の大きさの妖精でした。
「………話は聞こうか」
『ヒッ』
「……え、俺怖い?」
ショックを受けた表情で兄が自分を指差しながらこちらを振り返りました。
え、うーん、圧は感じましたね。
『妖精は雷が苦手だから。あと金属とかね』
「えっ雷駄目なん?」
『トニトルスと何かあったんじゃないかな。で、キミはどうしたいの』
『あ、あの……』
兄を少し下がらせて、ラクリマが妖精に話しかけました。
『よ、澱みを、払ってほしい。木の』
『澱み?』
『モンスターが倒されると発生するマナを、一本の木が浄化している。でも最近、ここにくる冒険者が多いから、マナの澱みが浄化しきれない』
よ、澱み?
モンスターを倒すと、マナの澱みが発生するんですか!?
『ミツキ、世界の理だよ。モンスターはマナで構築されているから、倒すとマナになる。それはいずれまたマナで構築されて、モンスターとなる。その際に出てくる不純物というか、澱みが一部に留まると、スタンピードの元となる』
「…………」
『前に世界樹の枝が言ってた。世界のマナは世界樹と枝が浄化するけど、ダンジョンだと各階に一本、浄化を行う聖樹があるみたい』
兄と一緒に口を開けます。
兄を見つめると、兄が勢い良く首を横に振りました。
『その木が、澱みを溜め込んだの?』
『そ、そう。浄化出来そうな冒険者を探してたけど、こわくて』
兄とアストラエアさんをちらりとみて、顔をそらしました。
「ありゃ、あたしもかい」
「俺こわいのか……」
『そうしたら、母なる大樹の気配がしたから、様子を見てて……』
『……ミツキ、少し木の様子を見てもいい?』
「う、うん。わたしも気になるから」
-特殊イベント 浄化の木の浄化 を開始します-
わたしとラクリマの言葉に表情を明るくした妖精は、たまに振り返りながらその聖樹?とやらの場所へと案内してくれました。
……アナウンスも流れましたね。
階段の場所から見ると左端というか、本当に端に、一本の木がポツンと生えてました。
所々幹が黒く染まり、枝も葉も元気が無さそうです。
浄化の木
聖樹より分かたれた浄化を司る木
澱みを吸収しているが、吸収過多で弱体化している
澱みの侵食率:52%
「……澱みの吸収過多!?」
『澱みを処理できないみたいだね』
『少し前に、この階層で大規模な戦闘があったから、そのせいかもしれないけど……』
「大規模な戦闘?」
『木も、地面も消し飛ぶような一撃を遠くからみたんだ』
……ダンジョン内で広範囲まで影響するアーツは、危険かもしれないということでしょうか。
いや、ダンジョンをボロボロにするのが駄目なのかもしれませんね。いやそんな大きな技、周りを巻き込むからやすやすとは使えませんけどね!?
『……ふむふむ、ミツキ、星のキュアポーションある?』
「あるよ。……それで治せる?」
『澱みを浄化するなら、ミツキのが適任かなぁ。その後ラクリマが澱みを適度に浄化できるように軽いおまじないしておく』
「わかった」
アイテムボックスから星のキュアポーションを取り出して、浄化の木の根本に振りかけます。
すると木は淡く光って、黒い部分が消えました。
ラクリマがそっと幹に留まり瞳を閉じて、ふわりと離れました。
『……少し休めば、元通りになるはずだよ』
『!あり、がとう!お礼に、一枚葉を持って行って』
-特殊イベント 浄化の木の浄化 をクリアしました-
妖精から葉を受け取るとアナウンスが流れました。
ふむ、すんなり終わりましたね。
ダンジョン限定なのか、この階層限定なのか……?
『浄化の葉の、使い方は、君ならわかるよね』
『うん、大丈夫』
『本当に、ありがとう!』
妖精に手を振って階段の元まで戻ってきました。
「ダンジョン限定だと思う?」
「んー、わからんな。ダンジョンで起きたからダンジョン限定かもしれねえけど、今回は世界樹の気配に引かれて妖精近付いてきたろ?他のプレイヤーはほぼ無理だろうからなあ」
「……後で皆に言ってみようか」
「おう」
「ちなみにラクリマ、この葉は?」
『浄化の葉だよ。使うと、穢れた小さな池とか、小さな空間を浄化できる』
ひえっすごい葉ですね!?
大切にしまっておきます。今後使うかもしれません。
『今回は効果なかったみたいだからね。使えて小規模な穢れかな』
「そうなんだ……ありがとうね、ラクリマ」
『いいえー!』
まだまだ階層の途中です。
……色々ありますが、下りてしまいましょう。
蜂蜜があれば、料理にもスイーツにも……!
ひとまずフレンチトーストにかけましょう。
これからもミツキの物語をよろしくお願いします!




