お師匠様との顔合わせ
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浮島へと戻りました。
また森の入り口に来ましたね。
レンさんは桟橋に立って空を見ていました。
ミカゲさんも、地面に腹這いになって崖の下を覗いています。
……危ないですよ!?
「……ミカゲさんもレンさんも、高いところは平気です?」
「平気だな」
「おかえりなさいミツキ氏。ボクも平気ですよ」
「わたしはちょっと下を覗くのは怖いですね……」
高いところは好きですが、下を見るのは苦手です。
落ちないってわかる室内でも、落ちたらどうしようって思います。
「……お師匠様がですね、お二人を連れてくるようにと」
「……わお」
「………」
「……わたしの事情に巻き込むには、覚悟が必要なのです。巻き込んだら、逃すことはできないと。……それでも、レンさんと、ミカゲさんは、わたしと共に来てくれますか」
少し離れた所から、二人に問いかけます。
まあ断られたら、ショックで寝込む自信はありますけどね……
……ここまで大きなお話になるとは、本当に思いませんでした。
わたしの物語に、他の人を巻き込んでいいのかまだ悩んでいます。
それは、レンさんとミカゲさんの物語の邪魔にしかならないからです。
スカートを握り締めます。
視線も、地面から上げられません。
……傍目からみたらすごい重い女ですね!?
「……今更、愚問だろ」
「急にしんみりするから驚きましたぞ」
「………」
「嫌ならここまで来ねェし、離れてる」
「ボクもそこまで優しい人間じゃないですからね。断る時は断ります」
「……レンさん、ミカゲさん」
「全然頼りにしてくれていいんですぞー。ミツキ氏に呼ばれたらびゅーんと飛んできます」
「俺は戦えればそれでいい。強敵と戦えるなら巻き込ンでいい」
「ボクも現実では味わえない非日常を楽しむためにゲームやってますから。むしろじゃんじゃん巻き込んで下さい」
………本当にいい出会いが出来ました。
二人の優しさに感謝です。
「タダの女なら近寄らねェし」
「ミツキ氏の行動見守るの楽しいですしね」
「そ、その辺で」
「見てて面白い」
「むしろ何かしらやらかして欲しいです」
「……それは褒めてます?」
「褒めてる」
「褒めてます」
……褒めてるかどうかはアレですが、そう言われるのは嬉しいです。
「じゃあお師匠様の所へ向かいましょうか」
「…気ィ引き締めるか」
「ミツキ氏のお師匠さんに、認めてもらわないと……」
「……ではまたわたしに掴まってください」
二人がポンチョを掴むのを確認し、懐中時計に魔力を込めます。
慣れた浮遊感を感じて、目を開ければ森の入り口でした。
「では行きましょうか」
レンさんとミカゲさんがコクリと頷きます。
わあ、緊張が伝わってきます。
森の中を歩きます。
いつもお師匠様の家の前に飛ぶので、歩くのは久しぶりです。
森の中では、お師匠様が喚び出した星座達が武器を持ちながら会話していました。
その中の1人と目が合います。
「おや、貴女はエトワールの弟子ですね」
「ミツキです。お師匠様のサジタリウスさんは、……えっと、警備ですか?」
「おや、ここの浮島の仕組みに気付かれたのですか?」
お師匠様のサジタリウスさんが小さく笑います。
おっと答えが出てしまいましたね。
モンスター、わたしが見かける前にお師匠様の星座達が倒していたと言う事、ですね!
浮島、やはりモンスターに襲われるみたいです………
「私達も身体を動かしたい時がありますからね。そう多くはありませんが、この高度までやってくるモンスターはいますから」
「そうなのですね」
「友人を連れているようですし、早めに家へ行くと良いでしょう」
サジタリウスさんがチラリとレンさんとミカゲさんを見ます。
二人の気配が、ちょっと警戒気味になったのを感じました。
サジタリウスさんはそれを見て小さく微笑むと、わたし達が来た方向へと歩いていきました。
「…………やっべぇですわ」
「…強いな」
「サジタリウスさんはお強いですよ。知識もあります」
「……察した」
ミカゲさんがスンとした顔になりました。
ミカゲさんも割と星座の事知っているみたいです。
嬉しいですね!
森の様子を見ながら歩くと、お師匠様の家に着きました。
いつも通り、シリウスさんが番犬しているようです。
「シリウスさん、戻りました」
「おう、おかえり」
「……喋った……」
「……ん?渡り人か」
ミカゲさんの呟きに、お師匠様のシリウスさんが視線を向けます。
わたしが喚び出すシリウスは話さないですからね。
「そら、ばあさんが待ってるぜ。入りな」
「はい」
「お前さんらも、歓迎するぜ」
シリウスさんは尻尾をひと振りすると、また寝る姿勢になりました。
お師匠様のシリウスさんはいつも寝そべっています。
ですが強いのはわかります。文字通り、シリウスさんが門番なのでしょう。
わたしもレベルを上げないとです。
わたしのレベルに合わせた強さで召喚されるので、わたしのレベルが上がれば皆さんの出せる力の出力も上がりますからね。
ミカゲさんがおっかなびっくり、シリウスさんの前を通り抜けます。
大丈夫ですよ、噛み付かないですからねシリウスさんは。
「……お師匠様、戻りました」
「来たね。座るといい」
足を組んでソファに座り、本に目を落としていたお師匠様がこちらへ顔を向けました。
「……!……!?」
「……ミカゲさん、わかりますよ。この家は、見た目と中身が違うんです」
ミカゲさんが扉と中の様子を何度も振り返っています。
レンさんも落ち着いているように見えますが、目線は忙しなく動いています。
-エトワール視点-
「ミツキは隣に座りな。お前さん達は、そちらに座るといい」
「はい」
「…失礼します」
「……」
ミツキは素直に隣に座り、白衣を着た少女は緊張しながら、黒ずくめの男は小さく頭を下げてソファに座る。
「スピカ」
「はーい」
世話好きの女神を呼べば、その手でカートを押しながらキッチンから出てくる。
「紅茶は飲めるかしら?」
「は、はい。大丈夫です」
「……はい」
「じゃあ紅茶にするわね」
それぞれの前に紅茶と、パウンドケーキを用意すると、
「野菜のパウンドケーキよ。食べられなかったらそのままでいいわ」
「ありがとうございます!」
「あ、ありがとうございます」
「…ありがとうございます」
目の前の男と少女、ミツキにウインクすると、キッチンへと戻っていった。
………弟子が友人連れてきたから浮かれているね。
「さて、名前を聞かせてくれるかい」
そう問えば、少女は男と目を合わせる。
「ミカゲです。渡り人です」
「…レン。渡り人です」
ふむ、年上に敬語を使う礼節は持っているみたいだね。
感心。
「ワタシはエトワール、この子の師匠さ。さて、早速だけど話をしようか」
ワタシがそう言うと、目の前の二人と隣のミツキの雰囲気が堅くなる。
取って食いやしないがね……まだまだ若いね。
「ここに来た、と言う事は巻き込まれてもいい。と言う事で良いんだね?」
「はい」
「はい」
「そうかい。じゃあひとまず魔法契約だね」
空中に出現させた黒い渦に手を入れて、契約書を取り出す。
三人共、目を丸くしていた。
ミツキには見せたこと無かったかね……まあいいか。
「重要機密だからね」
二人は受け取り、目を通してからサインをする。
二人の身体を淡い光が包んだことを確認し、契約書を回収してまた黒い渦へと仕舞う。
「さて、………お前さん達武器は何使ってるんだい」
「へ?」
「は」
「戦闘に使う武器だよ」
「えっあっ、大鎌です」
「…ガントレットです」
へえ、こりゃ珍しい武器を使う。
ちとステータスを覗くとするかね。
レン Lv.43
ヒューマン
メインジョブ:狂戦士 Lv.14/サブ:探索者 Lv.12
ステータス
攻撃 125 (+50)
防御 52 (+20)
魔攻 20
魔防 48 (+20)
敏捷 85 (+30)
幸運 25
なるほど、典型的なパワーファイターだね。
サブが探索者か……一人で戦って一人探索するタイプだね。
近接に弱いミツキとはいい相性だね。
ミカゲ Lv.38
ヒューマン
メインジョブ:暗殺者 Lv.9/サブ:錬金術師 Lv.15
ステータス
攻撃 70 (+20)
防御 56 (+30)
魔攻 50 (+10)
魔防 52 (+30)
敏捷 75 (+30)
幸運 37 (+10)
ふむ、この子はバランス型だね。
暗殺者か……大鎌使いの暗殺者とは珍しい。遠近両用型かね。
それに錬金術師か。黄玉が気に入りそうな子だね。
チラリと横目でミツキを見る。
あぁ、黒玉のイヤリングをしているね。
でもまあ、ワタシは視えるからいいか。
そのイヤリングに黒玉の術式刻んだのワタシだからね。
ミツキ Lv.35
ヒューマン
メインジョブ:アストラルハイウィザード Lv.6/サブ:薬師 Lv.6
ステータス
攻撃 45 (+5)
防御 58 (+35)
魔攻 98 (+10)
魔防 55 (+35)
敏捷 41 (+15)
幸運 51
完全に魔法型だねこの子は。
ふむ、中々いいバランスじゃないかこの子達は。
この子達なら、あの遺跡に放り込んでも生き残りそうだね。
「ふむ、採用!」
-ミツキ視点-
「ふむ、採用!」
お師匠様のその言葉に、二人はちょっとビクッとしました。
わたしも驚きました。
また謎の採用試験が始まっていたようです。
「渡り人同士でしか助け合えない事もあるだろう。覚悟が出来ているなら、十分巻き込もうじゃないか」
「お師匠様……」
「さて、少しばかり長い話になる。ちゃんと飲んで食べな。食べなかったらスピカがうるさいからね」
「聞こえてるわよエトワール!」
「おおこわい」
お師匠様の雰囲気が柔らかくなったからか、二人の緊張も少しだけとけたようです。
いただきますと小さく呟いて、紅茶に手を伸ばします。
わたしもスピカさん特製の野菜のパウンドケーキ、いただきましょう!
割とゴロゴロ人参やトマトの形が残っています!
………美味しいです!野菜の味と甘さ控えめのパウンドケーキの相性抜群です!ご飯としてもいけます。
「さてワタシ達は、アストラルウィザードと呼ばれるウィザードの派生ジョブさね。【天体魔法】、【星魔法】、【神秘】と言う特殊な魔法を使う」
「【天体魔法】と【星魔法】は、何度かお見せしましたね」
「……あの流星の攻撃か」
「ミツキ氏が喚び出していたあの動物達も……」
「そうですね」
「ワタシの祖先はその多様さ故に狙われ滅ぼされたのさ。今はワタシとこの子とこの子の兄弟子しかいないのさ」
……やはりお師匠様とヴァイスさん、そしてわたししかいないのですね。
「ワタシ達はいずれの国にも属さずフリーな存在さ。………ワタシ達の力は使い方を間違えれば取り返しのつかない状況になる。国も、街も滅ぼせる力だからね」
「…………」
「まぁ、そんな面倒な事はしないさ。今は星詠みをしながら各国からの依頼の遂行、支援など様々な事をしている」
「……お師匠様、その星詠みもどういったものなんですか?」
「勿論普通に星を詠んで未来の流れを詠む事もできる。ワタシはこっちのが多いが、【神秘】の【21:世界】を使って世界の事象を読み解くのが確実だね」
「はわぁ…」
「む、難しいですな」
「慣れれば問題ないさね」
【神秘】の熟練度がMAXになれば教えていただける【21:世界】………中々ヤバそうです。
星を詠むも中々解釈難しいのですが!?
「……もう少しアストラルウィザードとして成長したら指導してやるさ」
「…はい!」
「まあ簡単に言えばワタシ達の戦い方は【星魔法】の召喚による戦闘補助、【天体魔法】による攻撃、【神秘】によるバフ・デバフが主な戦闘に関する能力さね。あとは普通のウィザードと変わらないよ」
「……十分、お強いと思われますぞ……」
「ハハ、ありがとよ」
ミカゲさんの言葉にニヤリとするお師匠様。
やはりお師匠様はすごいですね……先導者感をヒシヒシと感じます。
レンさんは何かを考えるように顎に手を当てています。
「……レンさん?」
「…?どうした」
「何か考えてるみたいなので、何かあったかなと」
「いや、戦術組み立ててただけだ」
「…戦術」
「その能力があれば、もっと格上と戦ってもいけンだろ」
「………お手柔らかにお願いします」
レンさんの言う格上がどれくらいなのか……
ちょっと震えます。
「ミツキ氏ミツキ氏、今度ボクと一緒に依頼やりましょ。連携確認です」
「はい!あと瓶の事も相談したいです!」
「そうですな!その辺りも要相談しましょ」
お師匠様は、その様子を優しく見ていました。
……柱の影から、スピカさんも満面の笑みでこちらをみていました。……深緑の柔らかなロングヘアをなびかせてこちらを眺める美しい女性と共に。
………その隣の女性は誰ですか?
ここまで来てまだクリスティア王国内にしかいない、だと………(想定外)
これからもこの作品をよろしくお願いしますれ




