past talk 差し伸べられた手
母親が交通事故に巻き込まれて呆気なく他界したのは、遠矢一夜が小学6年生のときだった。
由緒ある旧家にして事業家の愛人として公然と囲われていた母を嫌う親族も多かったが、それでもかたちばかりのつき合いがあったものが集まり、葬儀は淡々と行われた。
ひと通りのことが終わり――遠矢親子に与えられたマンションの一室。
そのリビングでこれからどうするのか――主に残された子ども、つまりは一夜の扱いについて、が親戚一同で話し合われていた。
一夜は当時から賢い子だった。母がどういう立場だったかをある程度理解していたし、涙も枯れて部屋の隅でぼんやりとうずくまりながらも、耳に入ってくる話の中に時々金の話題が混じっていることも理解できていた。
曰く、保険金はどれくらい下りるのか。曰く、例の金持ちから何かの名目で取れないものか。
――どうでもいい……。
そう投げやりに思っていたとき、その男はこの場に飛び込んできた。
高価なビジネススーツに身を包んだ男は、一夜の父だった。
父とは今まで数えるほどしか会ったことがない。母は何度も会う機会を設けてくれていたが、対して一夜があまり積極的ではなかったので、次第に会わないことが当たり前になっていったのだ。
別に父が嫌いというわけではない。かと言って好きでもなく、ただ単に自分の人生に関係のない、別世界の人間に見えていただけのことだった。
父は一夜の親戚には目もくれず、一直線に遺影と祭壇の置かれた和室に向かった。
声が聞こえた。「なんということだ。私が日本を離れている間に」。そして、しきりに謝っていた。おそらく今まで外国に行っていて、帰国するなり訃報を聞き、取るものもとりあえずここに飛んできたのだろう。
と、そのとき一夜のそばに誰かが寄ってきた。
「貴方が一夜さん?」
名を呼ばれ顔を上げると、そこに長い黒髪の日本人形のような少女がいた。中学生なのだろう、セーラー服姿だった。
そして、
「ひとりで偉かったわね。うちにいらっしゃい」
彼女は一夜の手を取り、優しく微笑んだ。




