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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第三章 青白の嘆きトリステッツァと白銀世界

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一方その頃②

「さ……寒いっ」

「ふふ、寒いわねぇ」

「さみーな。熱~いエールが飲みたいぜ。なぁ?」


 サリオス、ロセ、スヴァルトの三人は、トラビア王国から魔法高速艇に乗り、アイスウエストの街を経由して、コールドイーストの街へやってきた。

 コールドイーストの街。

 有名なのはやはり、ホットエールの醸造所だろう。

 ここは、『雪麦』という、雪原でしか栽培できない麦を作り、それをお酒にしたホットエールが有名な町だ。町ぐるみで酒造りをして、観光客の喉を潤している。

 魔法高速艇乗り場から降りて町に入ると、すでに甘いエールの香りがしてきた。


「くぅぅ~! おいロセ、一杯付き合え」

「駄目に決まっているでしょう? 私はともかく、サリオスくんは未成年なんだから」

「じゃあ夜ならいいだろ? くくくっ、朝まででもいいぜ」

「あ、あの!! スヴァルト先輩、これからどうするんですか!?」


 ロセとスヴァルトの間にサリオスが割り込み、スヴァルトはキョトンとしてすぐに「ああ、なるほどなぁ」とニヤニヤ笑いになった。

 そして、サリオスの肩を組む。


「おめー、ロセのこと好きなのか?」

「!?」

「はっ……あの乳に惚れたか? くくっ、若いねぇ」

「や……止めてください!!」


 サリオスは、スヴァルトを引き剥がす。

 スヴァルトはニヤニヤしながら、サリオスの背中をバシバシ叩いた。


「若いってのはいいねぇ。なぁ、ロセ?」

「何の話かわからないけど……とりあえず宿に行きましょう。スヴァルト、あなたの持つ情報、そろそろ教えてくれないかしら?」

「ああ、わかったぜ」


 三人はさっそく宿へ。

 部屋が二つしか空いていなかったので、ロセ、サリオスとスヴァルトという組み合わせで部屋を取り、ロセの部屋に集まった。

 スヴァルトは、ソファに座り、テーブルにあったアプルの果実を手に取った。


「あったけぇなぁ……このまま蒸し風呂で汗流して、ホットエール飲みたいぜ」

「スヴァルト。そろそろ話して? 私もサリオスくんも、公務を後回しにしてるんだから」

「ありがたいぜ。愛するオレの手伝いをしてくれるなんてなぁ? 持つべきものは愛しい同期だ」

「まったくもう……」


 ロセはため息を吐く。

 スヴァルトはアプルの果実をシャクッと齧り、話し始めた。


「オレが得た情報は、魔界貴族がレイピアーゼ王国に疫病をばら撒くって話だけだ」

「……それだけ?」

「ああ。昔、オレんとこに『嘆きの魔王』が来たからな。あいつらのやり方はマニュアルで残ってる」


 大昔、夜の国ナハトを標的に、嘆きの魔王トリステッツァによる『疫病』がばら撒かれた。

 当時の七星剣士たちは互いに結束が強く、それぞれの国の危機には総じて揃い、魔界貴族と戦ったという。

 そして、ナハト王国を襲ったトリステッツァに大ダメージを与えたのも、昔の『闇聖剣』の持ち主だったという。


「昔の研究者が残したマニュアルに、当時の病気についての研究成果や、解毒法なんかも載っていた」


 と、スヴァルトは収納から古い羊皮紙の束を取り出す。

 それを見て、ロセは訝しんだ。


「それ、どうしたの?」

「城からガメて来たんだよ。こっちで役立つと思ってな」

「……それ、処罰モノよ」

「知らないね」

「……あなたは、もう」

「あの、スヴァルト先輩。どうしてこのコールドイーストの街に?」


 スヴァルトは、収納に羊皮紙をしまいながら言う。


「レイピアーゼ王国は、王都が一つにデカい町が二つだけの国だ。疫病が発生したら、狙われるのはわかってる……本国には氷聖剣と炎聖剣がいるし、アイスウエストの街から王都までは近く援軍や支援もすぐに届く。だが、ここコールドイーストの街は、王都からやや遠い……魔界貴族が疫病をばら撒いた直後に、魔界貴族を倒せる手があった方がいい」

「「…………」」

「この羊皮紙は、信用できるやつにオレが直接渡すために持って来た。疫病の種類は違うだろうが、ゼロから始めるのと過去のデータがあるのでは違うだろうしな」

「「…………」」

「とりあえず、しばらく待機だ。魔界貴族を感じたら出るぞ。戦いの準備だけはしておけ……って、なんだよその眼は」


 ロセはニコニコしながら、サリオスは唖然としていた。


「ふふ、スヴァルトってばやっぱり変わってないわねぇ」

「あぁ?」

「…………」


 本当に、優しい。

 ロセはそう言わず微笑み、サリオスはスヴァルトが誰よりも他人思いなことに驚いていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 吹雪の中、コールドイーストの街に向かって歩く二人の影があった。

 一人は、真っ青な顔、痩せ細った体躯、ものすごい猫背で、頭に角が生えた青年。

 もう一人は、雪を豪快に掻き分けながら進む、ぽっちゃり体型の中年女性。


「ネルガル、そろそろ終わったかな」


 しわがれた声で喋る猫背の青年。

 魔界貴族侯爵『猫背』のジガートが言うと、中年女性がキンキン声で言う。


「そうかもねぇ!! さてさて、アタシらの出番も近いよ。ジガート、ワクチンサンプルは持ってるかい!?」

「持ってるよ。あいててて……寒いせいか、お腹の調子悪いや」

「虚弱だねぇ。もっとメシ食って体力付けな!!」

「はいはい……ママレード、やり方は同じ?」


 ジガートに呼ばれた魔界貴族侯爵『拳骨』のマーマレードが頷いた。


「そうさね!! ネルガルの疫病をばら撒いたら姿を見せて、追手の聖剣士をブチのめして、その後はとんずらさね!! アタシらの姿を見せて、ワクチンサンプルをチラつかせる。あとは、聖剣士が追って来たら相手をすればいいさね!!」

「めんどくさいなぁ……ネルガルのやりかた。なんでトリステッツァ様は、こんな回りくどいやり方を」

「そりゃあ、ネルガルはトリステッツァ様のお気に入りだからねぇ。それに……病気をばら撒いて全滅させるのは容易い。でもね、それじゃあ面白くない。だから、ワクチンサンプルをアタシらに持たせて希望をチラつかせ、聖剣士たちを本気にさせるのさ」

「それがめんどくさい……まぁ、魔王様たちの『ゲーム』だから仕方ないけども」


 ジガートは猫背をさらに丸め、お腹を器用にさする。


「とりあえず、始めますか」


 ジガートの視線の先には、雪に包まれたコールドイーストの街があった。

 

「ぐっぶぅ………………ぅ、ゲぇっ」


 ジガートが腹を擦ると、お腹が一気に膨張し、胸を、喉を通過し、口が一気に膨れ、そのまま『何か』を吐き出した。

 それは、体毛のない四足歩行の何か。

 吐き出されると同時に、プルプルと震えて立ち上がる。

 まるで、毛のないネコのような、ブタのような何か。


『みゅ、アァァァ』

「よしよし。じゃ、マーマレード」

「はいよっ」


 マーマレードが懐から取り出したのは、試験管に入った真っ黒な『血』だ。

 ネルガルの、『疫病』が封じ込められた血を、ジガートが生み出した奇妙な生物の口の中へ、試験管ごと押し込む。

 すると、奇妙な生物がガタガタ震えだし、ピンク色の表皮が漆黒に変わった。


「じゃ、いってらっしゃい」

『ギュピィィィィィィッ!!』


 奇妙な生物はボコボコと膨張、一気に四メートル以上の大きさになり、コールドイーストの街に向かって駆け出した。

 それを見送り、マーマレードが呟いた。


「じゃ、アタシらも行こうかね。ああジガート、アンタの『天鮮猫猫(テンセンニャンニャン)』だけど」

「ほっといてもいいよ。あれ、ネルガルよりは弱いけど、パレットアイズ様のところにいた公爵級よりは強いから」

「人間、喰っちまわないかい?」

「とりあえず喰わないように命令したけど、まあ大丈夫でしょ」


 ジガートの能力は『魔猫』

 魔界に住む凶悪魔獣『魔猫種』を無限に吐き出すことができる。

 作り出せる魔猫は、ジガートの想像力によって、様々な能力を付与することが可能だ。今回は『狂暴性』を付与し、人間を喰わないようには命じてある。

 強さも、パレットアイズの側近であるクリスベノワ以上。今の聖剣士では太刀打ちできない強さであり、疫病の散布を邪魔されることはない。


「さ、始めようか」

「ふっふっふん。楽しい宴の時間だねぇ!!」


 ジガートとマーマレードは、コールドイーストの街に向かって歩き出した。

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