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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第三章 青白の嘆きトリステッツァと白銀世界

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ユノの父親

 カラスがレイピアーゼ王国に落下する少し前、ユノはマリアと共に、エレノアとは反対方向の外壁から、迫りくる黒い『病魔』を魔法で迎撃していた。

 マリアは、聖剣士たちに向かって叫ぶ。


「いいか、あの『病魔』に近づくなよ!! 触れただけで病に侵されるぞ!!」

「……びょうま?」


 ユノが首を傾げると、マリアは言う。


「あれは、『嘆きの魔王』の眷属による疫病攻撃だ。あの黒い生物が国内に侵入すると爆発し、疫病を撒き散らす……それだけは、絶対に阻止しなければ」

「じゃあ、魔法」

「ああ。ユノ、使える魔法をありったけ出せ」

「うん」


 ユノは氷聖剣フリズスキャルヴを抜き、城壁の上に立つ。

 

「第一階梯魔法、『アイスランス』」


 剣を振ると、氷の槍が出現し、飛んで行く。

 迫るのは漆黒の蛇、クマ、兎などの動物から、さまざまな魔獣たち。

 魔獣は、動物を餌として捕食するケースが多いが、目的が同じなのか、魔獣と動物が並んでレイピアーゼ王国に向かって走って来る。

 すでに門は硬く閉ざされ、城壁から魔法による攻撃が始まっていた。


「魔力が尽きた者は下がれ!! 回復薬は十分に用意してある。魔力を回復させ、再び攻撃に参加しろ!!」


 魔力回復薬。

 聖剣士の魔力を回復させることができる、特殊な薬。

 過去に、治療に特化した聖剣士が開発した薬品だ。ちなみに、回復薬発祥の地は、このレイピアーゼ王国である。

 ユノも魔法を撃ち続け、魔力が尽き始めてきた。冷や汗を流しているのをマリアが見ると。


「ユノ、下がれ。回復薬を飲んで休憩だ」

「でも」

「いいから。っと……回復薬の在庫がなくなったな。ユノ、向こうの倉庫で回復薬をもらってくれ」

「う、うん」


 マリアに言われ、ユノは下がった。

 そして、言われた場所で回復薬をもらおうと、倉庫へ向かう。

 回復薬の入った木箱をいくつも抱えて運んでいたのは、大きなクマのような男だった。


「お疲れさん、ユノ。さぁ、回復薬を飲め。疲れが取れるぞ」

「お、おとうさん!!」


 そこにいたのは───……ユノの養父であるベアルドだった。

 身長は二メートル近くあり、筋骨隆々。顔は髭モジャで、雪焼けしているのか肌が浅黒い。だが、ニッコリ笑う姿は、どこか愛嬌を感じさせた。

 

「おとうさん、なんでここに?」

「たまたま資材の搬入で来ててな。聖剣士たちが重そうに木箱を運んでいたから、ちょっと手伝ってやったのよ」

「おとうさん……」


 ムキッ!! と、ギチギチに詰まった腕の筋肉を見せつける。片手で木箱を軽々と担ぐ姿は、まるでクマのようにしか見えない。

 そして、その大きな手でユノの頭をそっと撫でた。


「頑張ってるなぁ、ユノ」

「……うん」

「終わったら、うまい飯でも食いに行こう。さっき聞いたが、友達もいるんだろう? 一緒に連れて来い」

「うん。あとおとうさん、わたしも言いたいことあるから」

「お、おう」


 ちょっとだけユノがムスッとしているのを、ベアルドはすぐに気づいた。

 すると───……上空から、一羽のカラスが落下。

 レイピアーゼ王国のど真ん中に落ち、国中に『疫病』が広がり始めた。


 ◇◇◇◇◇◇


 『疫病』が始まった数日後。

 ロイは一人、宿のソファでだらりとしていた。


「…………」

『ロイ、何を腑抜けている』

「……倒せなかった」

『仕方あるまい。まぁ……今のお前では、ネルガルの核を破壊することはできないとは思っていたしな』

「なっ」


 ロイは、テーブルに置いてあったデスゲイズ(木刀)を掴んで顔を寄せる。


「お前、知ってたなら」

『いい経験にはなった。倒すことはできなくても、負けることはないと思っていたからな。いいかロイ、パレットアイズの部下である魔界貴族のことは全て忘れろ。ここからが本当の、魔族との戦いだ』

「…………」


 ロイはデスゲイズをテーブルに置く。


「くそっ……どうする。『魔喰矢(グロトネリア)』が通じないと、他の『暴食』の矢も通じない。近づいて『色欲』の矢を打ち込もうとすれば全部叩き落される……」

『お前では無理、ということだな。忘れたか? お前は、聖剣士の援護をするために弓を選んだのだろう? 戦いはエレノア、ユノに任せ、援護に徹しろ。恐らくだが……エレノアの攻撃なら、ネルガルの核を破壊できるかもしれん』

「エレノアが?」

『ああ。奴はまだ未熟だが、炎聖剣フェニキアを徐々に使いこなし始めている』

「…………」


 ロイはソファに深く座り、軽く伸びをした。


「……なぁ、疫病」

『広がっている。エレノアの報告では、日に十人ちょうどの感染となっているな』

「十人……明日は自分と怯える毎日、か」

『今のところ、聖剣士に被害は出ていない。おそらく、聖剣士が感染するのは最後……まずは住人から、徐々に徐々に感染者を広げていくのだろうな』

「ふざけた真似しやがって……なぁ、どうすればいい?」

『ワクチンを作るしかない。トリステッツァの配下が持つワクチンサンプルを全て集め、完全なワクチンを作るしか解毒する方法はないな』

「……つまり、トリステッツァの配下である魔界貴族を倒せばいいのか」

『何度も言うが、パレットアイズの配下とはケタ違いの強さだぞ』

「わかってる」


 覚悟は決めた。が……ロイは言う。


「手が足りない。俺とエレノアとユノだけじゃ、厳しい……ロセ先輩、ララベル先輩、殿下の三人がいたらなあ」

『ないものねだりしても仕方ない。それより、ネルガル以外の敵も動く。魔界貴族侯爵がな』

「また侯爵級か……」

『ふん。そいつらからワクチンサンプルを奪い、始末しろ。恐らくだが、エレノアたちも同じような方針を城で聴いているはずだ』

「あ、そっか」


 ロイはポンと手を叩き、窓の外を眺めた。

 外は、雪が深々と降っていた。


 ◇◇◇◇◇◇


「───というわけで、ユノ、エレノア君を筆頭に、魔界貴族からワクチンサンプルを奪います」


 レイピアーゼ王城、会議室にて。

 マリアがそう発言すると、反対意見は出なかった。

 会議に参加しているのはユノ、エレノア。そしてマリアと、マリア率いるレイピアーゼ聖剣騎士団の部隊長たち。グレン、ケイモン、国王インヴェルノだ。

 マリアは、エレノアに確認する。


「エレノア君。最後に確認する……本当に、手を貸してくれるのかね?」

「もちろんです!! 魔界貴族なんて、あたしがブッた斬りますから!!」

「ふ……」


 マリアは微笑んだ。

 そして、インヴェルノが口を開く。


「レイピアーゼ王国の特性が幸いしたのか、魔界貴族の狙いは二つ。東のコールドイーストの街か、西のアイスウエストの街だな。ここに疫病をばら撒く可能性が高い───……いや、確定していると考えていい。まだ報告は来ていないが、恐らく……」


 インヴェルノが顔を伏せると同時に、伝令が入って来た。

 伝令はケイモンに耳打ちする。


「……父上の読み通り、でしたね。コールドイーストとアイスウエストが、侯爵級の襲撃を受けたようです。被害は……ゼロ。疫病をばら撒き、去ったようです」

「くっ……」

「ですが、朗報もあります。二つの街に魔界貴族が留まっています。どうやら、ワクチンサンプルをぶら下げ、常駐の聖剣士をからかっているようで……」

「おのれ……ッ」


 インヴェルノが怒りを露わにする。

 と──ユノが挙手。


「わたし、行く。魔界貴族を倒す」

「あたしも。時間ないならすぐに動かないとね」


 二人がそう言うと、グレンが「はっはっは!! 勇気ある少女たちだ!!」と笑う。マリアがグレンを軽く小突き、ユノに言った。


「わかった。ユノ、エレノア君をアイスウエストの街に派遣する。その間、治療系聖剣士たちは、全力で解毒の方法を探らせよう……ワクチン以外の解毒法を探さねばな」

「それは、ボクが指揮を取ろう。マリア、お前はユノたちに同行するんだ。グレン、悪いが……」

「帰らんぞ」

「……本気で言っているのか?」


 ケイモンが呆れたように言うが、グレンは笑った。


「婚約者様が命を賭けるんだ。我も男を見せねばな」

「だが、お前は次期国王だ。今なら疫病に侵されることなく国を出ることができる。そもそも、お前は無関係だからな」


 不思議なことに、この『病』はレイピアーゼ王国の住人しか発病しない、という特徴があった。

 だが、グレンは笑う。


「なぁに、剣術はからっきしだが、それ以外では役に立つ。本国に連絡し、我が国の治療系聖剣士を派遣させよう」

「グレン……」

「マリア。お前はお前の戦いを。我も、お前に恥じぬ男として、すべきことをする」

「……ああ、感謝する」


 エレノアは「か、カッコいい」と呟いていた。

 こうして、エレノアとユノ、マリアとその部下たちが、魔界貴族から『ワクチンを奪う』ためにアイスウエストの街へ向かうことになった。

 が、マリアは心配なのか、ポツリと言う。


「だが……魔界貴族が相手か。我々だけでは、かなり厳しいな」

「あ、それなら問題ないです」

「え?」


 エレノアは、自信満々に言った。


「あたしたちには、最強の『援護』が付いてますから!!」

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