吹雪の国へ
ロイが人知れず魔界貴族を倒した翌日。
ロイたちは町を観光し、美味しい物を食べ、オアシスを眺め……楽しい三日間は終わりを告げた。
最終日の夜。ロイは荷物を整理し、ユノから教わった『収納』へと入れる。
「あーあ。今日で終わりか……三日間って早いぜ」
オルカがベッドに寝転がり、ロイの背中を見ながら言う。
ロイはカバンを収納に入れ、オルカの方を向いた。
「またみんなで遊ぼうぜ。ラグーン、まだまだ見どころいっぱいあるし」
「だな。でも、秋季休暇は短いし、オアシスよりも紅葉が綺麗なエルフリア王国とかのが楽しそうだよな。知ってるか? エルフリア王国の秋ってすっげえ綺麗だし、メシも美味いらしいぜ」
「エルフリア王国……ララベル先輩の故郷か」
ロイもベッドに寝転がり、オルカの方を向く。
「お前、明日から仕事だっけ」
「まあな。宿の手伝いだ。さっきチラッと見て来たけど……やっぱ忙しいわ」
「給金も出るんだろ?」
「ああ。とりあえず、遊んだ分しっかり働くさ……ふぁぁ」
「ふぁぁ……」
オルカの欠伸に、ロイもつられてしまう。
夜も更け、そろそろ寝る時間だ。
明日には、レイピアーゼ王国行きの高速魔法艇が出る。朝食を近くのカフェで食べ、エレノアとユノの三人で高速艇乗り場へ行く予定だ。
「オルカ。ありがとな」
「ん……?」
「この三日間、人生で一番楽しい時間だった。お前が誘ってくれたおかげだよ」
「おう……」
それだけ言い、オルカは寝てしまった。
ロイも明かりを消し、もう一度欠伸をしてベッドへ。
「……レイピアーゼ王国かぁ」
ラグーンとは違う、極寒の国。
収納には、ユノに言われて買った分厚いコートや防寒具が入っている。
どんなところなのかワクワクしつつ、ロイは目を閉じた。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
近場のカフェで朝食を食べ、ロイとエレノアとユノは離れの前にいた。
ユイカ、オルカとはここでお別れだ。
「じゃ、学園でな」
「ああ。オルカ、しっかり働けよ」
「うるせっ」
オルカとハイタッチするロイ。
ユイカは、ユノに抱きついていた。
「あ~ん。もっと一緒に遊びたかったぁ~」
「わたしも。ごめんね、今度はいっぱい遊ぼ」
「ユイカ、いろいろありがとね。すっごく楽しかった!」
「エレノアぁ~……」
「ふふ、オルカと仲良くね?」
「え? ああうん」
最後は素っ気ない返事だったが、エレノアは「わかってるわかってる」と言いながらユイカの肩をポンポン叩いていた。
ユイカ、オルカと別れ、エレノアたちはレイピアーゼ王国行きの魔法高速艇乗り場へ。事前に、ユノの義姉であるマリアがチケットを用意していたらしく、そのまま乗ることができた。
しかも、個室である。広くはないが、向かい合わせのソファと二段ベッドがある。
レイピアーゼ王国まで一日なのだが。
「い、一緒の部屋ね……子供の時以来ね、ロイ」
「あ、ああ」
「わたし、ロイと一緒のベッドでいいよ」
「いやいや、俺はソファで寝るから、ベッドは二人で」
魔法高速艇が離陸し、レイピアーゼ王国に向かって飛行開始。
ロイはさっそくユノに聞く。
「これから向かうのは、レイピアーゼ王国の街? なんだよな」
「うん。アイスウエストの街。そこから飛行船乗り換えていく」
「乗り換え? この船で行けないの?」
「無理。この船、寒冷地仕様じゃない。飛んでると凍っちゃう」
「「……こ、こわっ」」
ユノ曰く。
レイピアーゼ王国領地は、広大な領地だが大きな町が三つしかない。
一つは、他国からの玄関口となるウエストの街。ここから寒冷地仕様の魔法高速艇に乗り換え、レイピアーゼ王国か、二番目に大きな町であるコールドイーストの街まで行ける。
「なんで三つしか街がないの?」
「凍っちゃうから。集落や村だと、大雪で沈んじゃう。だから、防壁と融雪設備のしっかりした街じゃないとダメなの。昔は小さな集落や町がいっぱいあったけど、一晩で雪に埋もれたり、吹雪でみんな凍ったりして、毎日どこかの集落が消えてたって。それを、ずっと昔の王様が嘆いて、いろんな集落をまとめて二つに分けたんだって」
「「へえ……」」
知らなかった話に感心する二人。
そして、エレノアが聞いた。
「当初の予定だけど、アイスウエストの街で一泊して、次の日にマリアさんと合流。レイピアーゼ王国聖剣騎士団の魔法高速艇でレイピアーゼ王国王都に行くんだよね?」
「うん。アイスウエストの街、観光地だけど見てる時間そんなにないかも。おいしいご飯だけ食べて、あったかい宿でゆっくりしよ」
「だな。それにしても、レイピアーゼ王国か……」
窓から外を見るが、まだフレム王国の上空だ。
魔法高速艇に乗るのも初めてなのに、最近はいろいろありすぎると思うロイ。
これも全て、デスゲイズに会ってからだ。
『なんだ』
(……お前のこと、ユノに言っちゃダメか?)
『ダメだ。これから向かうのはトリステッツァのいる国だ。ユノから我輩の情報が漏れないとも限らん』
(むぅ……)
何も言えないロイ。
すると、ユノがベッドに寝転がる。
「眠い……少し寝るね」
「ふぁ……やることないし、あたしも寝ようかな。ロイは?」
「俺、少し歩いてくるよ」
ロイは部屋を出て、魔法高速艇を探検した。
通路は細く、休憩スペースもあるが狭い。外の景色が見える展望スペースもあったが、雲を眺めてもすぐに飽きてしまった。
部屋に戻ると、ユノとエレノアがスヤスヤ寝ている。
ロイもソファに横になり、大きく欠伸をした。
「寝る……」
『呑気なものだ。まぁ、今のうちに休んでおけ』
「ん……」
そして、数時間後。
ロイが起きると、外はすでに薄暗い。
ユノとエレノアも起きていた。
「もうレイピアーゼ王国の上空だよ」
「外、真っ暗で何も見えないけどね。あと数時間で着くって」
二人はお茶を飲んでいた。
エレノアが、寝起きのロイの分も淹れてくれたので、遠慮なく飲む。
それから数時間後───魔法高速艇は、レイピアーゼ王国、アイスウエストの街に到着した。
◇◇◇◇◇◇
「「さ、さっむ!?」」
魔法高速艇から降りたロイとエレノアは、分厚いコートや帽子を装備しているのにも関わらず、あまりの寒さに同時に叫んでいた。
だが、ユノは平然と言う。
「わたし、全然平気」
ユノは普通に歩き出す。
ロイは、エレノアと顔を見合わせ、ガタガタ震えながらユノを追った。
「ゆ、ユノ。早く、早く宿行こうぜ」
「ささ、寒い。凍っちゃう」
「ん。宿、蒸し風呂あるからあったまろうね」
ユノに案内されて到着した宿は、コテージ型の宿だった。
防寒処理の施されたコテージがいくつも並び、そのうちの一つを借りる。
いちばん高いコテージを借りた。このコテージには蒸し風呂が付いている。
部屋に入ると、すでに暖房が入っており温かい。暖炉には赤い『魔石』と呼ばれる石が大量にあり、それぞれ燃えている。
ロイとエレノアは、コテージに入るなり暖炉の傍へ。
「「はぁ~……」」
『お前ら、そんなに寒いのか?』
「当たり前だ。お前、感じないのかよ」
「そうよそうよ。うわわ、前髪凍ってるし!」
デスゲイズを暖炉傍へ置き、エレノアはお茶の支度を、ロイはコテージの中を見た。
部屋は二つ、リビングルームが一つ、洗面所にお手洗い、そして蒸し風呂だ。
蒸し風呂は、火属性の魔石に水をかけて蒸気を出し、室内を温めている。ユノはさっそく蒸し風呂の支度をする。
準備を終え、三人でお茶を飲んでいると、ユノが言う。
「蒸し風呂、みんなで入ろうね」
「いや、俺はあとで」
「駄目。レイピアーゼ王国では、蒸し風呂はみんな一緒」
「いや、でも……おいエレノア、何か言ってくれよ」
「はいはい。あのねユノ、女の子は簡単に、異性に素肌を見せちゃダメなの」
「わたし、ロイならいいのに」
「駄目。ほら、ロイは後で入るから」
「やだ。みんなで入るの」
ユノが頑なに抵抗するので、エレノアとロイが折れた。
ロイは念のため持って来た湯着を履き、蒸し風呂へ。
エレノアも湯着を着ており、ユノもエレノアに湯着を着せられていた。
「むう……これ、邪魔」
「脱いじゃダメ。ほらロイ、あんまり見ないでよ」
「わかってるよ。ってか、暑いな……」
しばらく三人は無言に。
すると、ユノが言う。
「あったまったら、ご飯食べに行こ。近くにおいしいお肉のお店、あるの」
「いいね……あぁ~、気持ちいい」
「お肉……あたし、いっぱい食べたいかもぉ」
ボンヤリする二人。
たまには蒸し風呂も悪くない。ロイはそう思い、顔中に流れている汗を拭った。





