表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第二章 夢とお菓子と快楽のパレットアイズ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/230

安息の湯

 ダンジョンが崩壊する前に脱出、サリオスたちを確認することなく、ロイはトラビア王国に戻って来た。

 夕飯の時間が過ぎ、寮はすでに扉が閉まっているだろう。

 日付が変わる時間帯ではないが、城下町はすっかり仕事終わりの職人たちが、酒場で飲み会を始めている時間帯だ。

 ロイは、汗びっしょりで城下町を歩いていた。


「あー……もう本当に、こういうの勘弁してくれ」

『ダンジョンは四つ消えた。残りは一つ……辛抱しろ』

「へいへい。あー……寮のシャワー室、もう閉まってるよなあ」


 ロイの学生寮には、シャワー室しかついていない。

 女子の寮には浴槽がある。女子たちが結束し、寮に浴場を備えるよう嘆願書を出して実現したと、エレノアが言っていた。


「風呂、いいなあ」

『なら、そこはどうだ?』

「ん?」


 すると、デスゲイズが教えてくれた先に、『湯屋』と書かれたボロッちい看板があった。

 細い路地の先にあるようで、なんとも怪しい。

 

「湯屋って、風呂だよな……確か、大きな浴槽がある店で、金取って入ることができるとか」

『うってつけではないか』

「いやでも、見ろよあの看板……あんなボロい看板だぞ? あ、しかもあっち見ろよ。あっちにデカい湯屋あるぞ」


 ボロい湯屋の看板の向かい側に、立派な異国風建築の湯屋があった。

 しかも、綺麗で立派だ。入るならこちらだろう。

 だが、デスゲイズは言う。


『大馬鹿め。こういう怪しい看板の店こそ、隠れた名店なのだ』

「それ何の知識だよ……」

『うるさい。とにかく、行くならこっちにしろ、いいな!』

「わ、わかったよ……ったく、行くかどうかも決めてないのに」


 仕方なく、ロイはボロい看板のある方向へ。

 薄暗い路地を進むと、意外にも大きな『湯屋』があった。

 木造りでボロボロの入口。引き戸を開けると、受付に座っていた老婆がジロっとロイを見る。


「あ、あの」

「……いらっしゃい」

「えっと」

「銅貨三枚。手拭い付きなら五枚だよ」

「あ、はい……」

「三年ぶりのお客だね。ゆっくりしていきな」

「さ、三年……」


 老婆に気おされ、思わず支払いをする。

 しかも、三年ぶりの客らしい。ロイは帰りたかったが、支払いを済ませ、手拭いを受け取ってしまった以上、帰るに帰れない。

 奥へ続く廊下……なぜか地下へ続いている階段を降り、脱衣所へ。

 脱衣所は意外にも広い。


「あれ……?」


 おかしい。

 湯屋には『男湯』と『女湯』があるのだが、ここにはない。

 

「まさか、男女共用……」

『三年ぶりの客と言っていた。誰も来ないだろうし気にするな』

「あ、ああ……」


 服を脱いで籠に入れ、浴場へのドアを開ける。

 

「おおお……い、いいじゃん!!」


 浴場は、なかなか素晴らしかった。

 浴場の真ん中に大きな円形の浴槽がある。石造りで、二十人以上入っても余裕がありそうだ。そして、洗い場も二十以上あり、なんとも開放感がある。

 ロイは身体を洗い、湯船へ。


「うぁぁ……いいな」


 不思議な香りのする湯だった。

 湯屋の湯は、魔法で沸かしたお湯が循環しているらしいのだが、この湯は不思議な香り……どこか、塩辛そうな匂いがする。

 ちょっと舐めてみると、やはりしょっぱい。だが、不思議と心地いい。


「はぁ~「ロイ」……んん?」


 ふと、名前を呼ばれた。

 振り返るとそこにいたのは、裸のユノだった。


「…………………………………………?????」


 思考停止。

 ユノ。手拭いを持っている。腰に巻いており上は隠していない。

 しゃがみ、ロイの隣で湯を手で掬う。なぜここに? 意味不明。幻覚。

 肌。胸。異性。どうして? 胸が見えている。

 ロイは混乱した。なぜ、ユノがいるのか。


「王城に用事あって、その帰り。ロイがここに入るの見たから来たの。こんなところに湯屋あったんだね」

「……………………うん」

「ここ、ヒトこないみたい。受付のおばあちゃん、三年ぶりだって」


 ユノは、手拭いを外して当たり前のようにロイの隣へ。

 いろいろ見えていたが、全く気にしていない。羞恥心がないのだろうか?

 ロイは、温かい湯に浸かっているのに、身体が冷えていくのを感じた。


「ロイ、どうしたの?」

「え、あ、いや」


 目を反らすべきなのだが、反らせない。

 ユノはロイの隣で、気持ちよさそうに頭を反らしている。


「あ、あの」

「ん~」

「こ、ここ、男湯……なのか?」

「ここ、男女いっしょ。一緒に入れるね」

「いや、おま……は、恥ずかしくないのか?」

「わたし、レイピアーゼ王国出身だから。レイピアーゼ王国、極寒の地……お湯を沸かすのも苦労する。入浴するときは家族一緒で、公衆浴場も男女一緒だよ」

「……そうなのか」


 レイピアーゼ王国は雪国とロイは聞いたことがある。

 さらに、湯船はほとんどない。蒸し風呂が多いと聞いたこともあった。

 ユノは、ロイの肩にそっと頭を乗せてくる。


「きもちいい~……」

「お、おお、おう!!」

「ね、ロイ。ここに通おう。ここ、わたし好き」

「お、おれも好きかも」

「うん。みんなには内緒。エレノアにも」

「あ、ああ」


 チラッとユノを見ると、にっこり笑った。

 その笑顔が眩しく、首から下の肌がチラチラ見えるのも眩しく、直視できない。

 だが、ユノは気にしていない。


「ロイ、身体洗おっか」

「おお、お先にどうぞ!!」

「えー? 一緒がいい」


 ユノが立ち上がった。見えてはいけないモノまで見えてしまい、ロイは鼻血が噴き出した。


「すすす、すまん!! 鼻血出た!! あがる!!」

「あ」


 ロイは慌てて湯船から飛び出し、脱衣所へ飛び込んだ。


 ◇◇◇◇◇◇


「うっぶ……や、やっべぇ」

『クックック。お楽しみだったようで』


 デスゲイズの柄を思いきりブン殴る。

 着替えようとすると、ユノが手拭い片手に脱衣所のドアを開けた。


「む、ロイ。わたしが来たからって上がるのダメ」

「なぁ!? おま、こっち来るなっての!?」


 羞恥心が薄い、というか全くないユノ。裸身を晒しながらロイの元へ。

 そして、まだ着替えていないロイの腕をグイグイ引く。


「お風呂、まだダメ」

「ちょぉぉぉっ!? あ、あのな? お前、女の子、俺、男の子。一緒、ダメ!!」

「わたしはいいよ?」

「俺がダメなんだ!!」

「むぅ……」


 ユノがムスッとしている。だがロイは引かない。

 手拭いしかないので身体を隠せない。ユノは腰に手拭いを巻き、胸は手で隠す。


「ロイ、わたしは本当に気にしない。それと……ロイと、お話したいの」

「え」

「おねがい。ちょっとでいいから……」

『ククク。これを拒否すればお前が悪人のようだなぁ?』

「くっ……わ、わかったよ」


 ロイは仕方なく湯船に戻る。ただし、条件としてロイから少し距離を取ると言うと、ユノは渋々従った。

 湯船では、ロイとユノの距離は二メートルほど離れている。だが、裸の女の子が近くにいるというだけで、二メートルという距離はあまり意味がないとロイは感じた。


「ね、ロイ」

「あ、ああ?」

「わたし……ロイに、お願いがあるの」

「な、なんだ?」

「あのね、わたし───……


 ユノがロイを見て何かを言おうとした瞬間だった。


「「───……!?」」


 地震が起きた。

 しかも、かなりの揺れ。


「ユノ!!」

「ろ、ロイ!!」


 ロイはユノを引き寄せる。

 そして、無意識にユノに覆いかぶさるように抱きしめた。もし天井が崩落したら───……せめて、ユノだけでも。そんな思いからの行動だ。

 地震は、二分ほど続いた。


「と、止まった……ユノ、大丈夫か?」

「う、うん。ロイ、ありがとう」

「ああ、気にすん───……」


 ロイとユノは、いろんな意味でマズいくらい抱き合っていた。

 ユノも気付き、顔を赤くする。

 そして、受付にいた老婆が浴場のドアを開けた。


「お客さん、だいじょう……ああ、大丈夫そうだね。悪いけど、ここはそういう店じゃないんだ。さ、上がった上がった」

「「…………」」

 

 二人は無言で上がり、無言で着替えをして、無言で湯屋を出た。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 湯屋から出て、大通りに戻ると───騒ぎの原因がようやくわかった。


「ロイ、あれ……」

「…………あれは」


 見えたのは、空で輝く光。

 それは、ダンジョン出現時、ロイの目の前に現れた巨大な『城』が、眩いくらいに輝いている光だった。

 

「きっと、四つのダンジョンが攻略されたからだ……最後のダンジョン、五つ目のダンジョンが、動きだした」

「…………え?」


 ロイは、輝く城を見て『狩人』の顔になっていた。

 その横顔を、ユノはジーっと見ていることに、ロイは気付いていなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 つい、先程だった。

 ユノ、エレノアが城に呼び出され、『四つのダンジョンが攻略された』と聞いたのは。

 その帰りに、ロイを見つけて湯屋へ向かった。

 そして、湯屋から出て、五つめの……最後のダンジョンが動き出した。

 

「きっと、四つのダンジョンが攻略されたからだ……最後のダンジョン、五つ目のダンジョンが、動きだした」


 ロイのセリフに、違和感を感じた。

 なぜ、そのことをロイが知っているのか?

 七聖剣士であるユノですら、つい先ほどしった情報なのに。

 そして、同時に聞いた『八咫烏(ヤタガラス)』の話。


「…………ロイ」


 妙な胸騒ぎがしたユノは、ロイから目が離せなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〇聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~
原作:さとう
漫画: 貞清カズヒコ
【コミカライズはこちらから↓】
gbxhl0f6gx3vh373c00w9dfqacmr_v9i_l4_9d_2xq3.jpg

web原作はこちらから!
聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

ニコニコ静画さんでも連載中。こちら↓から飛べます!
聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~


お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

― 新着の感想 ―
[一言] あぁ〜^いいっすねこういうの 今後のロイくんの展開が気になります
[一言] バレ掛けてんがな!w でも個人的には好き♪ これからも頑張ってください!(・∀・)
[一言] ロイの危機管理がガバガバガバナンスになってしまった瞬間 『狩人の顔』キリッ じゃないんよwwwww バレないようにってめっちゃ慎重だったじゃん!ロイくーーーん!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ