第499話
食事を終えたあと、俺は1人で追加のバーベキュー串をつくって焼いた。
昼にサッと食べられるので非常に便利だし、ミミルに長時間ダンジョン内で過ごすために必要な食事を作るよう頼まれていたからだ。
今回はバリエーションを持たせるため、キュリクスとファル以外に、ヴィースやブルンヘスタ、ヴァンリィなどの肉も使って作っている。残念ながら挟む野菜はリュークとグレスカくらいしかなかった。
グレスカを焼くのは初めてだったので、少し味見をしてみた。カボチャに似た野菜だが、サツマイモとカボチャを足して2で割ったような感じの食感で、甘味もしっかりして美味しい野菜だった。他に厚めに切ったヴァンリィやキュリクスのステーキなどを焼いて、それらもミミルに渡しておいた。焼けたしりからミミルが食べようとするので、止めるのに苦労した。
追加の調理を終えた俺が後片付けをしている間、ミミルは空間収納からいくつかの樽を取り出して、中に入った毛皮の様子を確認していた。おそらく、樽の中に入っている液体は樹皮などで作った鞣し液なんだと思う。
〈ミミル、その鞣しに使っている液体はどこで手に入れるんだ?〉
〈第5層で手に入るアーカシの木の樹皮を使っている。それがどうかしたか?〉
〈いや、どんな木なんだろうと思ってね〉
〈生殖機能はないが、白い花のようなものが生える木だ〉
〈へえ……〉
多少は革細工も教わったが、実際に皮を鞣すところは経験したことがないので、あくまでも興味本位でたずねたのだが、これもダンジョン素材ということになるらしい。
皮の鞣しを途中で放置しているとミミルは言っていたので、再開するにあたってどのていどまで済ませているか確認しているのだろう。
ミミルの邪魔をしないよう、俺は折り畳みの椅子を取り出し、焚火の前で本を広げて読み始めた。北欧神話の本だ。
先日はロキの話から、最終戦争まで話を読んで終っていた。最終戦争ではフレイ――ユングヴィは自分の武器であるレーヴァテインをスキルニルに与えてしまっていたので、鹿の角を使って戦うしかなく、最後はスルトというヨツンヘイムから来た巨人と戦って敗れたと書かれていた。
ミミルの話では、エルムヘイムを作ったユングヴィは、神々の戦いに敗れて死んだ。ユングヴィの召使いだったビュグウィルとペイラがユングヴィの亡骸を宇宙樹の洞の中に運び込んだ後、ユングヴィの妻のゲーズ、息子のフィヨーニルの蘇生魔法でユングヴィは蘇った――ということになっている。
地球の神話には、ユングヴィが死んだ後のことは書かれていないが、死ぬまでの間の話はエルムヘイム側の神話とも整合性がほぼとれている。
主に神々の話はここまでで、そこから先は英雄譚が続いた。
まだ全部を読んではいないが、基本的に現存する国の王族や英雄たちの物語であって、エルムヘイムが関係しそうな話はなかった。神話世界に関係するのは、アースガルズにあったとされるヴァルハラにいた戦乙女たちが登場したりするていどだった。
翌朝、田中君がつくったプティ・バタールに、残ったポルケッタを挟んだもので朝食にし、朝のルーティンを済ませた俺とミミルは更に南に向かって進んだ。
安全地帯と魔物の領域の間にある萱のような草むらを超えると、また今までとは違った魔物の領域だ。
これまでの草原と同じように、俺の腰丈ほどある草が生えていて、疎らに枝ぶりの良い木が生えているのが見えた。ヴァンリィのいた領域、グロービヨンのいた領域と、入口から離れるに従って木の数が増えていたが、この領域は更に木の数が増えている。だが、まだ森や林という表現をするには量が少ない。
〈……あれは?〉
遠くにツタのようなもので覆われた、人工的な石造りの建造物が見える。
俺はその建造物を指さしてミミルにたずねた。
〈あそこに第3層の守護者がいる〉
〈また闘技場のような形をした場所なのか?〉
俺が続けてたずねると、ミミルは一瞬だけ眉を顰めた。すぐに元に戻して返事をする。
〈まあ、そういうことになる〉
第1層は闘技場のようなところだったが、第2層はどちらかというと闘牛場という感じの場所だった。だが、第3層の守護者がいる場所はツタのせいで全体像が俺には良く見えない。
ミミルが一瞬だけ眉を顰めたのはたぶん、闘技場に対するイメージの違いのせいだろう。正確には闘技場じゃないけれど、戦う場所という意味でいえば間違いではない、という表情をしていたように思う。
〈さて、ここの魔物はシバンゼという。二足歩行で活動する魔物だ。木の上や、草の陰に隠れて襲ってくるから注意するように。とはいえ、しょーへいには『オンパタンチ』があるから、索敵できるので問題ないだろう。あとは数が多いので、注意するように〉
〈え、おいっ〉
魔物の説明を受けて、いくつか質問したいことがあるというのにミミルは羽を生やして宙へと舞い上がった。
『数が多いって、どれくらいなんだよ』
『ひとつの群れで20から30といったところだ』
おいおい、20から30匹というのはさすがに1人では厳しいんじゃないか?
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。






