第489話
最後のヴァンリィを倒し、俺は周囲を見渡した。
既に最初に倒したヴァンリィは魔素に還っていて、魔石に加えて肉と毛皮が落ちていた。今度は牛で言えばサーロインにあたる部位のようだ。
〈おおっ、また肉ではないか〉
〈運が良かったようだ〉
俺は別に肉が欲しくて倒しているわけではないので、欲が無い。ダンジョンの中だと「物欲センサー」のようなものが働くのか、俺はミミルと比べて肉を手に入れる機会が多いような気がする。
ミミルはとびきりの笑顔で俺が手に持ったヴァンリィの肉を見つめている。
その視線に、いまにもミミルが噛り付いてきそうな雰囲気を感じ、俺は慌てて空間収納に肉を仕舞った。ヴァンリィの見た目はカンガルーだが、肉質までカンガルーかどうかはわからない。それに、俺自身はカンガルーの肉を取り扱ったことがないので、その特徴をよく知らない。
〈ミミル、この肉は美味いのか?〉
〈脂は少ないが、柔らかくて味が濃いのが特徴だ〉
〈肉に独特の風味などはないのかい?〉
〈魔物の肉は魔素を元に作られている。それぞれに特徴のある味わいがあるが、ヴァンリィの肉はブルンヘスタの肉を濃く、だが柔らかくしたような肉だ〉
〈部位別の違いなどはあるのかな?〉
〈どれがどこの部位かわからん。ヴァンリィの肉、それでは駄目なのか?〉
〈駄目とは言わないが……〉
日本でも焼肉屋でいろいろと部位別に扱うようになったのは最近のこと。元は赤身肉のロースと、脂の多いカルビしか区別がなかったことを考えると、エルムヘイムでも肉の部位別に細分化されていなくても不思議ではない。
などと考えていると、倒した他のヴァンリィも魔素へと還り、その場にドロップ品を残した。
残りの四頭のうち、2頭がまた肉をドロップし、3頭が皮を残した。
ドロップした肉のうち、ひとつは先ほどと同じくサーロインの部分のようで、もうひとつは臀部に近い肉のようだ。
〈また肉だ!! 今夜はそのヴァンリィの肉を食べたい!〉
ミミルが嬉しそうに声を上げた。まるで子供のようだ。
〈ああ、わかったわかった。なんか考えてみるよ〉
〈久しぶりのヴァンリィの肉!〉
ミミルが嬉しそうに俺を中心にして飛び回っている。長らく口にすることがなくて、楽しみなのだろう。
案ずるより産むが易しというが、とにかく食べてみて、部位によってどう使うかを決めるのがいい、と俺は思った。
ダンジョン内は最近やウィルスは存在し得ないので、腹を下すこともないので生食することも可能だ。これからまだヴァンリィを狩ることになるだろうし、集まる部位も違うのがあるだろうから、夜になってから考えることにしよう。
俺が倒したヴァンリィのドロップ品を集め、空間収納に仕舞ったのを確認すると、ミミルが先頭を切って歩きだした。
相当ご機嫌なのだろう。
10分ほど歩いて、再びヴァンリィの群れに出会った。今度は6頭の群れだったが、最初に俺に気が付いたヴァンリィから順に向かってくるので、ほぼV字型になっていた。
先ほどは中央で待ち構えるのに近い形になってしまったが、今回は先頭と、その右隣のヴァンリィにストーンバレットを飛ばした。
銃弾よりも重い石礫が秒速200メートルという速度で飛び出すと、2頭のヴァンリィの頭蓋骨を砕き、頭部を破壊する。俺はそのまま右方向へと走り出し、追いかけて来るヴァンリィから距離を取る。ひと跳びで10メートル以上の距離を飛ぶヴァンリィだから、俺が真横に移動してしまうと、大きく旋回するように向きを変えざるを得ない。
4頭のヴァンリィは20メートルほど進んで減速し、向きを変えた後、また俺の方へと向かって跳躍する。後ろにいたヴァンリィは先頭のヴァンリィが邪魔で前が見えないせいか、自然に横並びになるような位置に移動してきた。
俺は再び先頭で向かってくるヴァンリィにストーンバレットを飛ばし、そのまま右へ移動。右端にいた1頭にまた狙いを定めてストーンバレットを放った。
2発のストーンバレットは最初の2頭と同様、頭部を爆散させて倒れた。
「単純作業だな……」
近接戦になってしまえば、あのボクシングのような動きをするヴァンリィと戦うことになる。相手の数は少ない方が楽なので、数を減らすことに集中した。その結果がこの単純作業だ。
ヴァンリィは近接では様々な攻撃パターンを持っていそうだが、遠くから駆け寄るときに蹴りを入れるか、近づいて蹴ってくるか。その2つは変わらない。
また右へ走って残り2頭の蹴りを躱すと、ヴァンリィとの距離は残り10メートルもなかった。最初の攻撃は速度がついた状態。2回目は距離が20メートルほどしかないので速度が足りずに10メートルになった感じだ。
「――ストーンバレット」
ミミルの拳ほどの大きさの石が2つ指先に生まれると、俺の方へと向きを変えようとしていた2頭のヴァンリィの眉間に一瞬でめり込んだ。
「やっぱり単純作業だ」
魔素へと還っていくヴァンリィの死体を前に、俺は小さく呟いた。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。






